大ベストセラーとなった『女性の品格』の著者、
坂東氏が新著『女性の幸福 仕事編』を
上梓した。
女性は仕事に対して意識を変えねばならない。
同時に、ともに働く男性も意識を変えるべき、
と説く。
誰もが一生働くことが当たり前になろうとしている
20世紀と21世紀の社会は、女性にとって大きく違います。20世紀、長く働き続ける女性は、珍しい、特別な存在だった、といえました。特殊な能力を持っていたり、専門性を身につけていたり、あるいは理解のある夫、サポートしてくれる親など、家庭環境に恵まれていたりと条件が整ってやっと、働き続けることができたからです。
しかし、21世紀はそうではありません。普通の人が、当たり前に一生、仕事をしていく時代です。もちろん結婚という選択肢もあります。出産もするかもしれない。でも、産休を利用したり、一時的なバッテリーチャージのお休みを取ったとしても、いろいろな形で仕事に就くことになる。一生を通じて仕事をするのだ、という前提で人生を考えないといけないということです。
日本はちょうどアメリカと似た道を歩んでいます。アメリカも第二次世界大戦後は、夫が稼いで妻が家事と育児をして、芝生付きの家に住んで…というのが、社会の常識でした。しかし、ベトナム戦争後くらいから状況は変わります。経済大国化した日本やドイツに追いつかれ、夫たちの収入は上がらなくなってしまった。一人の収入では中流の生活ができなくなってしまったわけです。そこで、妻が仕事を持つことが当たり前になっていきました。
日本は今、まさに中国や台湾、韓国に追いつかれています。給料も上がらなくなっている。もしかしたら勤めている会社の倒産や、リストラに直面するかもしれない。そういうことを前提にしなければいけない時代が来ている。結婚しても、夫婦が二人で働き続けることは、当たり前になろうとしているんです。
ところが、女性の仕事に対する考え方は、昔の特別な女性たちだけが働いていたころとあまり変わっていないんですね。地味な仕事や、地道な仕事が軽視されている。やりがいがあって、自己実現ができて、能力が発揮できる。つまらない仕事なら長く働かないと考えている。でも、そうではありません。地味な仕事や地道な仕事の先に、面白い仕事はあるんです。
これは男性にも言えることですが、最初から理想的な仕事ができるわけではありません。待っているのは長い長い下積みです。つまらない仕事でも我慢することが大切なんです。若い時分から「こんなはずじゃなかった」「私を認めてくれない」「能力がちゃんと評価されていない」などと考えてはいけない。報酬をもらう仕事というのは、そういうものなんです。こうした「仕事の基礎」ともいうべき考え方が、今は全く抜け落ちてしまっている。
企画力やらプレゼンテーション力やらを磨く前に、もっと磨かないといけないことがあります。それは周りに対する「ちょっとした心遣い」です。気の合わない人ともケンカせず、仲良くしていくこと。組織を支えていくという役割に気づき、それをどう自分なりにやっていくかを考えること。新人や後輩に積極的にアドバイスをし、上司のマネジメントを手伝うこと。上司に育ててもらうだけではなく、上司を育てること…。
実はこういうことは、昔は赤ちょうちんで一杯やって、クダを巻かれながら上司や先輩から教わったものですが、今はそういう職場は少なくなっている。ちょっとした心遣いがあれば、頼りにされ、評価される存在になれるのに。非常にもったいないと思います。
みんな若いときには、自分がどんな人間でありたいか、執拗にこだわりますよね。でも、力がなければこうしたいと思っていても、できないのが現実なんです。だから、まず「力」をつける。そのためにはつまらないと思う仕事も受け入れる。こんな仕事は自分の能力に見合わないと思ってもやってみる。すべてはそこから始まるんです。与えられた場でベストを尽くすこと。そんな愚直さこそ、私は最高の成長戦略だと思っています。
女性が働くことが当たり前になろうとしている
にもかかわらず、不況の影響で、
今は真反対の現象が起きているという。
苦しい状態というのは、神様からのギフト
不況のため職場環境はどんどん厳しくなっています。特に女性はこんなに仕事が大変ならば、結婚退職して家庭に入ってしまいたいと思う人が急増しているように思います。
でも今は、相手の男性が簡単にはイエスと言わない時代です。自分ひとりでも大変なのに、女性から頼られたら一緒に沈んでしまう、なんて考える男性も少なくありません。
これは女性に限ったことではないですが、逃げ出したら、きっとまた次のところで同じような困難が待ち構えていると思っています。今の仕事が嫌で転職しても、次の仕事の大変さに嫌気がさすだけ。同じです。仕事でも結婚でも、逃げ出す戦略は絶対にうまくいきません。
私自身、何度も苦しい時期がありました。逃げ出したい、と思ったこともありました。辛くて夜、ふとんをかぶってボロボロ泣いたこともあります。でも、つらい状況や逆境の時、苦しみながらも取り組んでいると、不思議と気持ちが晴れていくんですね。これは、知らないうちに自分の力がついたということです。逃げ出さずに踏みとどまったからこそ、成長することができたんです。
だから、逃げ出したり、嫌だ、辛い、と愚痴を言うのではなく、今できることをひとつひとつ愚直に取り組んでいくといい。自分自身で困難を乗り越えることができれば、大きな自信につながります。一度、大変なことを切り抜ければ、次に何かあったときも、なんとかなるだろうと思えるようになります。反対にこれがない人、いわゆる成功体験ばかりの人というのは、意外に自信が持てないものなんです。だから私は苦しい状態というのは、神様からのギフトだと思っています。苦しみによって、人は強くなれるんです。
評価してもらえない、やりたいことができない、自分は巡り合わせが悪いんじゃないか、と思っている人もいるでしょう。でも、「これがやりたい」と言って、できることのほうが珍しいのだということに気づいておく必要があります。それこそ、「仕事をいただいている」くらいに考えたほうがいい。素直に受け入れ、頑張ってみる。ふてくされ、ダダをこねるのではなく、今を積極的に受け入れてみる。120%の準備で挑んでみる。そうすることで始めて、「お、こいつはやるじゃないか」と次の仕事を任されるようになるんです。
やってみたい仕事があっても、その仕事が面白いかどうかはやってみないとわかりません。そのことに気づいてほしい。先入観を持たずに、いろんなことをポジティブに受け止めて欲しいんです。そうすれば、自然と力がつくし、回りまわって、いつの間にか自分を活かせるような仕事と出会える。いつの間にか、仕事が楽しくて楽しくて、辞めるのなんてもったいないようになりますよ。
坂東眞理子著
雇用機会均等法から25年。しかし、働き続ける女性はまだまだ多くはない。一方で、時代は「2人で働く」ことが当たり前になろうとしている。働く女性が少数派だった時代から仕事を続けてきた坂東氏が、「先輩女性」として、自身の経験、失敗と成功から若い世代に伝えたいこと、身につけておいてほしいマナー、さらには考え方を具体的に紹介する。
PHP研究所刊
- EDIT
- 高嶋ちほ子
- WRITING
- 上阪徹
- DESIGN
- マグスター
- PHOTO
- 栗原克己
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