プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。

行き詰まったら、海抜ゼロから考えるといい

倉本聰さん(脚本家)
くらもと・そう●1935年、東京生まれ。東京大学文学部美学科卒。59年、ニッポン放送入社。在職中から脚本を書き始め、63年退職後、脚本家として独立。『北の国から』『前略おふくろ様』『昨日、悲別で』『冬の華』『駅-STATION』など、テレビドラマや映画など作品本数は1000本を超える。77年から北海道・富良野に移住。役者やシナリオライターを養成する富良野塾を開設(2010年3月末閉塾)した。05年からは「富良野自然塾」を開始、環境教育にも力を入れている。
2010年7月14日

大学卒業後、ニッポン放送に入社。
4年後に脚本家として独立した。
『北の国から』『風のガーデン』など、
テレビドラマ、舞台で多くの名作を
生み出してきた。

睡眠時間2時間で、二足のわらじをはいていた

何か人より優れたものを持ちたいと思ったら、やっぱりどこかで無理しないといけないと思います。相応の努力が必要になるということ。例えばスポーツの世界でもそう、努力しないで一流選手になるのは難しいでしょう。

自分のことを自慢するわけではありませんが、僕の場合は会社員時代に二足のわらじをはいたことが大きいと思っています。内職でシナリオの仕事を始めたんです。夜10時まで会社で仕事をして、それから家に帰ってから明け方までシナリオを書いて、2時間くらい眠ってまた会社に行く。これが2年間続きました。

今思い出しても、このときが一番辛かった。フラフラになりました。でも20代というのは、体力があるんです。同じことを「今やれ」と言われてもとても無理ですが、20代ならできた。そこでかなりの無理をしたから、他の人よりも少し前に進めたんだと思うんです。

「富士山を登った」人は、本当に3776m登ったのか

作品を作るとき、僕にはひとつ鉄則があります。それは、「海抜ゼロから考える」ということです。富士山に登ったことのある人は多いでしょう。でも、それは3776mを本当に登ったんでしょうか。多くの人は、5合目までバスで行って、そこから登っている。でも、それは違うんですよ。本当に海抜ゼロから登るには、1合目からでもダメなんです。駿河湾から登らないといけないんです。

なぜこんなことにこだわるのかというと、海抜ゼロから登るとルートの選択肢が広くなるからなんです。それに対して5合目から登ったのでは、選択肢はかなり限られてしまいます。なるべく下から登ったほうが、いろんなルートが見つかるんです。

これをものを考えることに置き換えると、「海抜ゼロ」からスタートしないと考えているうちに行き詰ってしまう可能性が高いということ。

原点に立ち戻ると言い換えてもいいかもしれません。例えば「北の国から」を書いているとき、行き詰まるたびに常に僕は考えていました。「『北』って何なんだろう」「『国』って、どういうことだろう」。そうやって目線を下げ、原点に立ち戻って常に方向を改めていったんです。

お金というものは、自然についてくるもの

脚本を書いていると、考え過ぎて途中でわからなくなってしまうことがよくあります。多くの日本人が置かれている状況もそれに近いのではないでしょうか。自分のしていることが何なのか、考え過ぎてよくわからなくなってしまっている。

社会が進歩して、便利になって、誰でもバスで5合目まで簡単に行けるようになってしまった。5合目が常識なんですね。だから今、必要なのは、海抜ゼロから登ることを常識とすること。便利を手に入れることではなくて、もっと原点に立ち返って考える必要があるということです。

こうした考え方を持つようになったきっかけのひとつは、30年ほど前に北島三郎さんの地方ツアーに1週間ほど同行させてもらったことでした。それを見て、自分がいかに海抜の高いところで仕事をしていたか、気づいたんですね。演歌の世界というのは、本当に海抜を下げたところで観客と勝負していた。だから、多くの人から高い支持を得ていたんです。それを思い知らされました。

僕自身は、かさにかけていたつもりはなかったけれど、どこかで大学出であることや、いろんな知識を持っていることが海抜を上げていたんだと思う。それが自分の足を引っ張っていたことに気づいたんです。

では、原点とは何か。問うべきは、「自分は何のために、何を目的にして生きていくのか」をはっきりさせることです。僕は、人を感動させたかった。びっくりさせたかった。それが、僕の人生の目的なんです。目的がはっきりしている人は、しっかりした生き方ができます。お金が欲しいという人もいますが、「そのお金で何をするか」こそが問題です。それがあれば、お金というのは、自然に付いてくるものだと僕は思っています。


7年ぶりの新作舞台が話題となっている。
第二次世界大戦で散った若き英霊が
60余年ぶりに日本を訪れる物語。
テレビドラマ化も決まり、ビートたけし、
長渕剛ら大物俳優の出演が決まっている。

人は一人では生きていけない

当時の兵隊たちは、国のため、という大義もありながら、実際には家族を守ろうとして死んでいったんだと思うんです。愛する家族のために、自分の命を捧げた。ところが、その遺族にあたるわれわれ日本人は、そんなことはさっぱり忘れているんじゃないでしょうか。

当時の兵隊たちには、どう考えてもおかしいと思える今の日本の状況を見れば、自分たちは何のために死んだのか、と怒りとむなしさと呆れが沸き上がってくるのではないか。愕然とするんじゃないか。そんな思いから、僕はこの作品を描きました。

今の時代というものが見失っているものは何かが、こうした設定を作ることによって、はっきり見えてくると思ったんです。そもそも愛する家族のために死んだのに、今や日本では家族のきずながバラバラになってしまっている現実があるわけでしょう。

背景のひとつは、社会が豊かになったことです。例えば、テレビは一家団らんをもたらしました。人間が他の動物と違うのは、感動を共有できることです。馬は子別れするときに涙を流しますが、感動を共有したりはしない。しかし人間は、映画で芝居でスポーツで、見ず知らずの人なのにもかかわらず、一緒に感動を共有できる。サッカーを観て「勝った」と高揚感を分かち合える。テレビは家族に新たな感動の共有の場を作ったんです。

ところがやがて、テレビは一人一台の時代になっていく。別々で楽しむようになる。こうなると、もう感動を共有できません。やがて家族間のコミュニケーションも減り、いろいろなものがますます共有できなくなっていく中、相手への思いがどんどん希薄になっていった。

洗濯だって、昔は大変な仕事だったから、家族は感謝をしたものです。ところが、今は機械のスイッチを入れるだけですんでしまうから、感謝の思いはなかなか出てこない。

便利になっていく中で、家族みんなが想像力を持たなくなってしまった。便利になることだけが、いいことだと思うようになってしまった。便利にラクすること以外から、みんなどんどん逃げていくようになってしまったんです。

今は叱ってくれる人が減ったでしょう。僕は富良野塾でよく怒鳴っていた。怒られたほうも傷つくかもしれませんが、怒る僕も傷つくんです。心の痛みは、むしろ怒るほうがずっと強い。だから、それが嫌で、みんなが怒らなくなってしまったんです。

昔は隣の子どもも平気で叱ったものですが、今や誤った形の自由主義も加わって、うちの子に口出ししないで、という話になる。逆なんですよ。嫌な思いをしながら叱ってもらったことには、親はむしろ感謝しないといけない。叱ることは愛情なんだから。それがわからない社会は、本当におかしくなっていると思わざるを得ません。

10年ほど前に、塾生に「生活必需品を10挙げよ」というアンケートを取ったことがあります。1位は水、2位は火、3位はナイフ、4位は食べ物でした。興味深かったのは、「人」という答えがあったことです。人は必需品か?と思いつつも、たしかに人間には「人」が必要だと思いました。人間は一人では生きられないからです。

テレビの企画で同じ質問を渋谷の若者たちにしたら、1位はカネ、2位がケータイ、3位がテレビでした。生きていくには何が本当に必要なのか。改めて、ぜひ考えてみてほしいと思います。

information
富良野GROUP東京公演
『歸國(きこく)』
作・演出 倉本聰

60余年前の戦争中、南の海で玉砕し、そのまま海に沈んだ英霊たちが、8月15日の終戦記念日の深夜に東京駅に立ち降りた。彼らの目的は、平和になった故国を見ること。そして、海にまだ漂う数多くの魂にその現状を伝えること。永年夢見た帰国の時、故国のために死んだ彼らは、今の日本に何を見たのか……。
ただ「忘れた」ではすまされない大切な事実を、日本人は忘れようとしている。それは何か。この舞台は観る者の心に「生きることの原点」を深く問いかける。何のために生きているのかわからない人、毎日がつまらない人、必見。

8月12日(木)〜8月15日(日)赤坂ACTシアター
問い合わせ:サンライズプロモーション東京 ☎0570-00-3337

EDIT
高嶋ちほ子
WRITING
上阪徹
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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