




85年に設立して以来、
全国に約80店舗、年商98億円の企業へと
成長を遂げた「アッシュ・ペー・フランス」。
業界の風雲児といわれる社長の村松氏だが
前職は編集者。アパレルとは無縁の仕事に、
就いていた。

腹をくくってやらないと、ものにはならない
ミニコミ誌を発行する小さな出版社で編集者をやっていました。最初は独り身だし、やりたいことをやっていればよかったんだけど、そのうち結婚して子どももできて食べていけなくなった。それで出版社を辞めたんです。
その後は魚河岸で働き出したんだけど、それだけではお金が足りなくて、早朝から築地市場で働いた後、ホテルで深夜まで皿洗い。寝る時間以外は働くという生活が、2年間ほど続きました。
そんなとき、たまたま妻が働いていた婦人服店のオーナーが店の譲渡先を探しているという話を聞いて。それでアパレル業界に入ったんです。全くの素人でしたが、魚河岸よりは稼げるかなと思ったから。目の前に選択肢はほとんどなかったんですよ。
僕は子どもができてから頑張り始めたわけですけど、やっぱり自分からやる気にならないとだめですね。どんな仕事でもそうだけど、やるときはやる。腹をくくってかからないとものにはならない。
自分は何者なのか。悩み続けることが大事
向いている仕事がわからないと若い人はよくいうけれど、僕は職種にこだわらなくてもいいと思う。「パイロットになるんだ」とか、小さいころからなりたい仕事が決まっていて、迷いなく就く人もいます。それはそれで素晴らしいことだと思うんだけど、そうじゃない生き方もある。少なくとも自分の場合は違っていましたからね。
学生のころから、どんな仕事に就くのがいいのか考えていたけど、なかなか浮かばなかった。学校を卒業して仕事をしながらも「この仕事でいいのか。違うんじゃないか」ってずっと考えていて。そしたら、ある日、気づいたんです。結局、職種は何でもいいんじゃないかと。大事なのは、自分の可能性を探り続けることなんだ、と。
仕事は何のためにするのかというと、「自分は何者なのか」を知るためなんです。すぐには浮かばないかもしれないけど、悩み続けることが大切。そうやって、自分はどんな人間なのかを追い求めること、その行為そのものが生きているってことなんじゃないかと思うんですよ。



チャンスには必ず、
人との出会いがあったという村松氏。
「才能を伸ばす達人」として知られるが、
どうやって人を見抜き、
経営に活かしていくのか。

自分の才能がわかったのは、40歳を過ぎてから
僕は人の才能を伸ばすのが好きなんです。才能が好きって言ってもいいかもしれない。社員と話すときも、いつも「この人の才能は何だろう」と考えている。見つけたらそこを何とか伸ばしてあげようと、協力を惜しまない。実際にうちの会社には、入社してきた職種とは全く違う職種に就いて伸びていく人がとても多いんですよ。
僕は誰にでも才能があると思っています。若いうちは、なかなか見つけられないけどね。それこそ、僕の才能は、「人の才能を見つけ、伸ばしていくこと」だけど、これがわかったのは40歳を過ぎたころですから。
ちょうど、国内の商売が軌道に乗って、その資金を元手に、パリで買いつけを始めるようになった時期なんだけど、最初は買いつけた商品が全然売れなくてね。まだ店舗数もそんなになかったころだから、在庫をたくさん抱えて本当に苦しかった。
そんなとき、知人のフランス人女性から「あなたはセンスが悪いから、いいバイヤーを紹介してあげる」と言われたんです。それがドミニク・ロンド。喫茶店で会って、20分くらい話したかな。彼女にはものすごいクリエイションを感じたんです。物を作る人だけじゃなくてバイヤーにもクリエイションは必要なんですが、彼女にはそれがあった。これはすごいぞと。直感です。それでその場で、彼女の名前で原宿に店を出すことに決めました。当時はデザイナーの名前で店を出すことはあっても、バイヤーの名前ではなかったので、彼女自身もビックリしたと思います。
彼女は、ダイヤなどの素材ではなく、デザインやクリエイションを重視したアクセサリー選びをした。それまでの日本にはない発想でしてね。彼女のおかげで、新しいマーケットを開拓していくことができたのです。
愛情を持って話していると、その人の中に入っていける
計画を立てて事業を進めていくのではなくて、人との出会いをきっかけとして、仕事を発展させていくのが僕のやり方。僕はバイヤーとしてはヘボだったけど(笑)、人を発掘すること、人と話していく中で何かを生み出すことには自信があるんです。人間の本質は変わらないから、これはもともと自分の中にあったものだと思います。
例えば僕は、人を嫌いになることがないんです。聖人君子みたいに思われると困るけど、基本的に自分と接しようとしてくれる人には愛情を持つ。そうやって愛情を持って話していると、すっとその人の中に入っていける。自分がミクロの姿になって、口の中から相手の中に入っていき、すみずみまで探検するような感覚です。そうするとその人の本質がわかってくるのね。それを引き出してあげればいい。
問題は直視する。そして逃げない
人はいろんなチャンスと気付きをくれます。人と会うってすごく大事なんですよ。うまくいかない時期は行動を起こして、とにかく人と会ってみるのがいいんじゃないかな。怖がってたってしょうがないですからね。
もうひとつ大事なのは、問題を直視すること。経営って苦しいんですよ。これまでを振り返ってみても、ずっと壁ばっかりで苦しかったけど、僕はいつも問題を直視して逃げなかった。毎日毎日、どうやって戦おうかと考えていた。でも、それがよかったのかな。どうにか生き残ってこられたから(笑)。
僕もそうだけど、最初から精神が強い人なんていませんよ。体の筋肉と一緒で、何度も何度も繰り返すことで、心の筋肉も徐々に鍛えられていくんです。だから、逃げずに戦うこと。これが大切なんだと思うんですよ。

- EDIT/WRITING
- 高嶋千帆子
- DESIGN
- マグスター
- PHOTO
- サギサワケン


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