プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。

面白いものは、メインストリートではなく、裏通りにあるんです

広瀬隆さん(作家)
ひろせ・たかし●1943年、東京都生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、メーカーに技術者として勤務。その後、医学書、技術書の翻訳者を経て、執筆活動に入る。代表作に、原子力の危険性を説いた『東京に原発を!』『危険な話』、ロスチャイルド財閥を通じて世界の権力構造をひも解いた『赤い楯』など。近年は『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』など、アメリカ合衆国の権力構造を政財界の人脈から分析した著書も多い。
2009年6月24日

今年4月に上梓された新書
『資本主義崩壊の首謀者たち』は、
たちまちベストセラーとなった。
今後、われわれはどう動けばいいのか。
著者の広瀬氏に聞いた。

アメリカの動向を注視しないと、大変なことになる

1989年、ベルリンの壁が崩壊し、ソ連で共産主義が崩壊しましたね。同じように2008年、アメリカで資本主義が崩壊しました。こういったら驚く人も多いでしょう。しかし、これが本当のことなんです。

低所得者向けの住宅ローン「サブプライムローン」が引き起こしたスーパーバブルは、アメリカの金融業界に大打撃を与えました。

世界最大の保険会社AIGには、15兆円が投入され、事実上の国有化。全米一の商業銀行シティグループにも30兆円の保証をし、見返りとして政府が優先株を購入。さらに、大手証券投資会社のゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーもアメリカの中央銀行である「連邦準備制度理事会(FRB)」の規制監督下に入り、GMも国有化。この状況は「アメリカ資本主義制度の崩壊」と言っても過言ではない。

ではなぜ、このような事態に陥ったのか。「サブプライムローン」とは、担保のない低所得者でも、一戸建てを買えるように優遇した制度です。このため、通常は借金ができないような状態の人までも、こぞってローンを組みました。一方で、不動産金融会社はこの住宅ローンを債券化。投資家に売却され、住宅の価格はどんどん上昇していきました。

しかし、もともと実態のないお金ですから、住宅の供給が飽和状態になると、住宅の価格は下落します。今回状況を深刻にしたのは、借金が住宅ローンだけに留まらなかったことです。サブプライムローンで住宅を得た人たちは、価格が上昇した住宅を担保に、今度は自動車や生活用品をローンで買いました。その結果、住宅の価格が急落すると、住宅だけでなく自動車販売会社や小売店に対するローンまでもが払えなくなり、尋常ではない数の債務不履行が発生した、というわけなんです。

アメリカ政府が今回、救済のために市場に投じる額は約700兆円。巨額です。「アメリカって、余裕がある国なんだなあ」なんてぼやっと見ている場合ではありません。すでに日本は不況の波に巻き込まれていますが、この先の動きを注意深く観察していないと、日本がアメリカから金をごっそり持っていかれる可能性があるということなんです。

苦境になれば、貧乏人から犠牲になる

アメリカ政府が国内に投じる約700兆円は、おもに金融およびGMなど自動車産業の救済に充てられます。低所得者への救済もありますが、十分とは言えません。「苦境になれば、貧乏人から犠牲になる」という鉄則がありますが、今のアメリカの状況は、まさにその言葉通りなのです。

「深く考えずにバブルに浮かれ、ぜいたくをしたアメリカ国民が悪い」という考え方もできますが、もっと悪いのは、「無知な国民を動かした人間たち」です。私たちは、その存在に怒らなければなりません。

今回の騒動で、世界中の投資家たちが大損しました。「全世界の証券市場から3000兆円が消えた」といわれています。でも、お金が消えるわけはありませんよね。損をした人間がいる一方で、市場を操作し、私腹を肥やした人間がいるということです。彼らは次の機会を狙っている。当然、日本もターゲットに入っています。われわれはこの危険性を理解した上で、自らの進むべき方向性を決めていかねばならないのです。

「自給自足」に、日本復活のヒントがある

エコノミストのなかには、景気が底をついたと言う人もいます。しかし、ガタガタになった日本経済を立て直す根本的な解決策が、政財界から聞こえてきません。皆で、活き活きした国をつくりましょうよ。

私は「自給自足」に解決の糸口があると思っています。日本人の得意とする「勤勉さ」「ものづくり」の精神を今こそ活かすのです。もちろんすべてを自給自足するわけにはいきません。しかし、なるべくその方向に進めるよう指針を定めればいい。

その一つが農業です。今、地方は過疎化が急激に進んでいます。郵政民営化により、ますます加速するでしょう。働き口がないことを理由に、若い人たちはどんどん都心部に出ていきました。しかし、都会に満足する仕事があるのか。生きがいを持てる仕事があるのか。今は、全員にそんないい仕事がいきわたる状況ではありませんよね。

一方で、地方には素晴らしい土地がたくさん残っている。若い人が戻ってきて農業を軸に町や村を復活させれば、運搬や流通などそのほかの仕事もたくさん生まれる。地方が活性化することで、日本全体の就業率も上がってくるんです。

もちろん若い人が頑張るだけではダメ。政府や地方自治体の支援が必要です。今、日本は農業を復活させ、食料自給率を上げるいい機会なのですから、道路や下水道ばかりに税金を使うのではなく、農業に携わる若者を支援していく政策を打ち出すべきだと思います。

農業はいいですよ。土いじりをしていると、気づくことがたくさんある。特に若い人に強く勧めたい。早い時分に農業に携わると、いろんなことがわかるようになるからです。


広瀬氏自身、農業に
携わった時期があったという。
7年間勤めたメーカーを
辞めてすぐのことだ。

自分のやっていることが恐ろしくなった

物書きになる前は、大企業のメーカーの技術者でした。7年ほど勤めていたのですが、ある日、自分のやっていることが恐ろしくなりましてね。ちょうど水俣病や光化学スモッグなど、公害が問題視されるようになった時期でした。「自分も環境を汚染している一人なのではないか」と思うようになったんです。ベトナム戦争の時代でしたから、自分の作った製品が米軍の兵器に応用される危険もあった。そのことがとってもこわくなったんです。それで農業に転向しようと、会社を辞めてしまいました。子どもを2人抱えていたのですが、無計画に飛び出してしまったんです。

辞めた後は畑仕事をしながら、自給自足で生きていこうと考え、英語が得意だったので、とりあえず医学と技術系の翻訳をしながら金をためようとしました。タイプライターの経験はなかったけれど、「できます」と言って引き受け、猛烈な特訓をして一週間でマスターできました。一度受けた仕事には、責任があるでしょう。必死で取り組むから、どんどん頭と腕が磨かれていくんです。

何かを身につけようと思ったら、お金を払って学んでもたいして役に立ちません。逆にお金をもらって必死に体得したもののほうが、ずっと身につくんです。

その後、信用もできていろんな企業の技術書や社会問題の翻訳を手掛けるようになりました。なかには機密事項が書かれたものも多かった。いろんな企業の内部事情を知るにつれ、このままでは日本はダメになると思った。そこで、小説を書きながら、社会問題についての執筆に費やす日々を送りました。

苦しいことは人生の糧になる

私が会社を辞めたのは、ちょうどオイルショックの時代でした。それでも平気で生きました。今の若い人はもっと大胆に生きていいと思いますよ。大企業にいたって、人生は他人の命令を受けるためにあるのじゃない。メインストリートばかり歩かなくともいいんです。人生は裏道が面白いんですから。

今はそういう考えの人が、生きづらい時代なのかな。孤独に苛まれ、苦しむこともあるかと思います。でも、苦しいことは人生の糧になります。苦労を重ねると、自然に哲学が深まっていく。いろんなことに疑問を持ち、自分の頭で考えるようになるからです。苦労していない人の話は、ちっとも面白くないですよ。

お金を貯めるより、知恵を貯めたほうがいい。人生哲学を持って生きている人ほど、強いものはありません。孤独にならないんです。そうやって知恵を豊かにして生き延びていれば、きっといつか花開く時がくる。すぐにはこないですよ。でも、きっとくる。そう思って生きていくのが、人生の醍醐味ですよ。

information
『資本主義崩壊の首謀者たち』
広瀬隆著

サブプライムローンの破綻をきっかけに、アメリカの資本主義は崩壊した。今回の不況は、「金融危機」ではなく「金融腐敗」だと広瀬氏は語る。弱者から利益を搾取し私腹を肥やしている人間たちが存在するのだと。本書では、そのからくりを徹底したデータ収集、文献調査により暴いている。普段、経済書を読まない人にもわかりやすく書かれた本なので、アメリカの権力構造や国際金融に対する入門書にもなる。集英社新書。

EDIT/WRITING
高嶋千帆子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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