プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。

不器用な人のほうがいいものを作る。真剣に取り組むから魂がこもるんですよ

宗次郎さん(オカリナ奏者)
そうじろう●1954年、群馬県生まれ。21歳のとき、オカリナの演奏と製作を始める。10年間で1万個を超えるオカリナを作り、31歳でレコードデビュー。32歳のとき、NHK『大黄河』で注目を集める。その後、東大寺や比叡山などさまざまな場所でコンサートを開き、CD制作も精力的に行う。93年自然三部作『木道』『風人』『水心』で第35回日本レコード大賞企画賞受賞。映画『良寛』『THE WINDS OF GOD』など、楽曲を提供した映像作品も多い。
2009年6月10日

オカリナ奏者の第一人者である。
演奏を聞いた多くの人が癒やされ、
生きる勇気をもらうという。
どうしたらそんな音が出せるのか。

初めて聴いたオカリナの音に、ガツンときた

私は自給自足の生活をするのが夢だったんです。高校のときから、土地を買うためにアルバイトをしてお金を貯めてましてね。卒業後は、理想の土地を求めて日本国中を旅しました。途中、北海道の農家や山奥の温泉場で、住み込みで働かせてもらったこともある。今でいうフリーターかなあ。当時はそんな言葉もありませんでしたけど。

そんな生活を3年ほどしていたら、「面白い人がいるから、会いに行ってみないか」と兄から誘われて。それがオカリナ奏者の火山久先生だったんです。当時、火山先生は、オカリナを制作するために栃木県の山奥に工房を作って、弟子2人と暮らしていました。

訪ねていったら、先生はすぐさまオカリナを演奏してくれましてね。聴いた途端、ガツンときました。オカリナの音を聴いたのは初めてだったんですが、世の中にこんなきれいな音があるんだと、衝撃を受けたんです。

そんな僕に、先生はオカリナをひとつくれました。当時、僕はギターの弾き語りをしていて。小さなコンサートを開いてはフォークソングを歌っていたんです。そのことを先生に話すと、「じゃあ、歌ってみろ」と。恥ずかしながら先生の前で歌を披露しました。それを気に入ってくれたのかどうかはわかりませんが、帰り際に「吹いてみたらどうだ」とオカリナを渡してくれたんです。

先生は人がらもよくてね。非常にユニークな方でした。今でも心に残っている言葉が、「人生は、死ぬまで美しく生きることが大切なんだ」というもの。とにかく一途で妥協しない人でしたね。

10年間で制作したオカリナは、1万個

それからは、先生の工房に週に一度、遊びに行くようになりました。家ではもらったオカリナを朝から晩まで肌身離さず、ずっと持っていた。音を出さなくとも、指で穴を押さえるだけで練習になりますから。それこそテレビを見ているときでも、指だけは動かしていましたね。

それから1カ月ほどして、先生から「レッスンしてあげるから、吹いてみなさい」と言われて、恐る恐る1曲吹いてみたんです。そしたら先生がびっくりされて。「何にも教えてないのに、すごいな」と。自己流でしたが、片時もオカリナを離さず練習していたので、結構うまくなっていたと思います。それで、「一緒にアンサンブルをやってみないか」と、メンバーに誘われたんです。

でも、僕は不器用なんですよ。とてもオカリナ作りなんてできない。そう先生に言うと、「不器用な人のほうがいいものを作る」って。真剣にやるからでしょうね。土は嘘をつかないんです。真摯に向き合って作ると、魂を込めたものができる。僕はほかの人が1年でできるところを、2年、3年かけて覚えていった。時間はかかったけど、人の何倍もかけて覚えたことは絶対に忘れないんです。不器用のほうがいいこともあるんですね。結局、レコードデビューするまでの10年間で、約1万個のオカリナを作りました。そのうち納得できるオカリナは十数個かな。それを今でも使っています。

廃校に住んでいる変わった人がいる

先生のもとにいたのは、3年間です。当時オカリナは全く知られてなくて、オカリナを作っても全然売れなかった。経済的に厳しくて、弟子まで食べていけるような状況ではなかったんですね。そこで、これ以上先生にご迷惑をかけるわけにもいかず、工房を閉鎖することにしたんです。

25歳になっていた僕は、兄弟子2人と共同で窯を買って、再び工房を始めました。でも、全然ダメ。すぐに解散しました。兄弟子2人は別の仕事に就くといって去って行ったんですが、僕はまだ、満足できるオカリナを作れないでいた。何にもできないまま、オカリナから離れることにどうしても納得できなくて、生活は厳しかったけど、もう一回、一人でやってみようと奮起したんです。

風光明媚な場所を探していたら、栃木県の茂木町にわらぶき屋根の空き家があったので、そこでオカリナ製作を始めました。でも、そこは川の近くで湿気が多くてね。陶芸には向いていなかった。それに冬場はとても寒くて。困っていたら、ちょうど近くの小学校が廃校になるというので、そこをお借りすることにしたんです。

廃校の中にレンガで窯を作って、一人で黙々とオカリナを製作していたら、徐々に地元の雑誌や新聞で取り上げられるようになりましてね。「学校に住んでいる変わった人がいる」って(笑)。「この人は何をやっている人でしょう」って、クイズ番組の題材になったこともあります。僕はそれでもよかったんですよ。どんな形であってもメディアに出演すれば、オカリナの音をみんなに聴いてもらえるでしょう。そのうちに、全国ネットのワイドショーでも取り上げられるようになって、31歳のとき、レコードデビューが決まったんです。


デビューの翌年、
NHK『大黄河』のテーマソングを
担当し、一躍脚光を浴びた。
たちまち人気ミュージシャンと
なったのである。

リハーサルが終わっても、一人で練習を続けていた

ちょうどデビューの翌年でしたね。NHK『大黄河』のテーマソングの話がきて。それから生活は一変しました。急に仕事が増えて、毎日のようにコンサートをするようになった。レコーディングも毎月していましたね。

たくさんの人に聴いてもらいたいと思って、10年間やってきたわけですから、本当にありがたいことなんです。でも、忙しくて廃校に戻れなくなってしまってからは、「ああ、オカリナ作りたいなあ」なんて思うこともありましたね。「吹かされているんじゃないか」と疑問に感じることもあって。あんなに多くの人に聴いてもらいたいと心から願っていたのに、忙しいとそんなことを思うんですね。人はぜいたくなものです。

ただ、コンサートに来てくれるお客さんを見たときは別。いつも気合いが入りましたね。全国コンサートでは、ものすごく小さな町にも行くんです。昼間は誰もいないような静かな町。そういう町に行くと、「ああ、一生のうちで、ここに来られるのは今日が最後かもしれない」と思ってね。この日を大切にしようと肝に銘じるんです。来てくれるお客さんも、一生に一度しか僕のコンサートを聴かないわけでしょう。頭の中にずっと残っていてくれるような音を聴いていただきたいと思うんですよ。

そのプレッシャーからか、コンサートの前には必ずひどい頭痛がする、なんて時期もありました。でもね、僕が先生のオカリナを聴いて衝撃を受けたような感動をお客さんにも味わってほしくて。体調がよくないときでも気持ちを奮い立たせていましたね。

その日の一番いい音を聴いてもらいたい。そのためにコンサートの前にはいろいろと準備をするんです。リハーサルが終わっても、開場するまでステージに残って、一人で練習を続けたりね。その後は開演まで楽屋で横になって集中します。ぎりぎりまで力をためて、コンサートで思いっきり発散する。そういった気持ちの統一というか、自分のできることを最大限やるかやらないかで、その日の出来が違ってくるんですよ。

感動できる心がないと、人を感動させるものは作れない

自分で言うのもなんですが、僕のコンサートに来てオカリナの音を聞いたら、「昨日までとは違う自分」になっていると思います。僕はコンサートの感想を読むのが好きなんですが、そのなかに「もう少し生きてみようと思いました」というものがありました。実はそういう感想を書かれる方、多いんです。「死ななくてよかった」とかね。オカリナの音にはそういう力がある。前向きになれるエネルギーがあるんですよ。

なんでそういう音を出せるのかというと、オカリナを作る段階で僕のエネルギーをいっぱい詰めているからでしょう。そのオカリナを用いて、さらに魂を込めて息を吹き入れる。そういうものは、人に通じるんですね。

好きなことで食べていくのは、経済的に大変な場合が多い。でも、あんまり計算しないほうがいい。問題は、そのことに集中できるかどうかだと思うんです。

それから、常に感動できる心がこちら側にないと、人を感動させるものは作れません。今は、いろんなことに感動する力が弱くなってしまっている人も多いのかもしれない。そういう人は自然の中に行くといいですよ。最初は静かすぎてこわいと思うかもしれないけど、そのうちにいろんな音が聞こえてくる。鳥の声とか、風の音とか。感性が少しずつ戻ってくるんです。

僕も作曲していて、どうしてもいいアイディアが浮かばないことがあります。そんなときは、外に出ます。畑仕事なんかしていると、ふとメロディが浮かぶんです。行き詰ったときには、体を動かすといい。机の上で構えていても、いい考えなんか浮かばないですよ。何をやってもうまくいかないときは、自然の中を散歩してみてください。きっと新しい自分を発見できますよ。

information
『オカリーナの森から』

昨年、茨城県内に建設された『Sojiro オカリーナの森』。2ヘクタールの敷地内には、交流館や野外ステージが整備されている。「室内コンサートもいいけど、野外には別なよさがあります。オカリナの音を聞いて森から鳥がやってきたり、風の音が聞こえたりね。皆さんにも一度味わってもらいたいなあと思って、野外音楽堂を造ったんです」と宗次郎氏。 2009年7月22日には森をイメージしたアルバム『オカリーナの森から』を発表する。「森のエネルギーをいっぱい吸収して、命あるものへの愛しさ、やさしさ、美しいものを美しいと思える心を育んでほしい」とさまざまな願いが込められたCDだ。心が折れそうになったとき、仕事に行き詰ったとき、ぜひ聴いてほしい1枚。10月からは全国コンサートも予定されている。コンサートの詳細は
http://sojiro.net/

EDIT/WRITING
高嶋千帆子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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