プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。

何でもいい。まずは、やってみることが大切なんです

有馬頼底さん(臨済宗相國寺派七代管長)
ありま・らいてい●1933年、東京都生まれ。8歳で大分県日田市臨済宗岳林寺に入門。その後、1955年に京都府にある臨済宗相國寺僧堂に入門、大津櫪堂老師に師事。1968年には相國寺塔頭大光明寺住職に就任する。1984年には相國寺承天閣美術館が設立され、事務局長となる。1995年同館長、臨済宗相國寺派七代管長(相國寺一三二世)に就任。同時に鹿苑寺(金閣寺)、慈照寺(銀閣寺)住職を兼ねる。京都仏教会理事長でもある。著書に『禅僧が往く』(日本経済新聞社)、『禅の心 茶の心』(共著、朝日新聞社)、『禅と茶の湯』(春秋社)、『茶席の禅語』(里文出版)、『自在力 見えない道を歩く』(講談社)など。
2009年1月7日

家庭の事情により、8歳で仏門に入った。
波乱に満ちた人生を経て、
現在では大本山相國寺、鹿苑寺金閣寺、
慈照寺銀閣寺の住職を務める。
悩める若者にどんなメッセージを送るのか。

体験から会得したことだけが、自分のものになる

今は、ものや情報があふれている時代です。そのために、自分で何かを探すというハングリーさが欠けてしまっている人が多い。自分で探さなければ見つからないことがほとんどなのに、探すことを忘れてしまっている。

生きる意味なんていうのもそうですよ。「生きていてもつまらない」と言う人がいますね。それは、世の中の本当の素晴らしさを見ていないから言うんです。そんなもの、どこにあるのか。そう言いたい人も多いでしょう。誰も教えられないんですね。自分で見つけ出さないとならないことなんです。自分から何かをつかもうとしなければ、決して見つかることはない。自ら行動を起こす。これが大切なんですよ。

とはいえ、何から始めればいいのかわからない人もいるかもしれません。何でもいいんです。これをしなくてはいけない、なんてことはありません。自由に選択すればいい。アルバイトだっていいし、路上生活者でもいい。いろんなことをやっているうちに、何かしら光明が見えてくる。「これだ!」と思うものに必ず出会うんです。そしたらそれを見逃さず、パッとその世界に入っていき、そのまま突き進んでいけばいい。チャンスを見逃さない。これが重要なんです。

仏教の教えに「冷暖自知」という言葉があります。冷たいことも暖かいことも自分で体験して感じてみなければわからない。体験から得たことだけが正真正銘、自分のものになるのだということです。そして、体験が積み重なってできたものを知恵といいます。

知恵があると、本物を見極めることができるんですね。つまり、いろんなことを体験しますとね、「これは違うぞ、本物だ」と自然にわかってくるんです。

例えば、AとBとCがあったとします。どれが本物か見極めたかったら、全部自分で体験してみて、どれがよかったか自分で決めるんです。そして自分がいいと思ったもの、それが本物だということです。

情報があふれていると、他人の意見に惑わされがちになる。でも、本物っていうのは、自分で決めるしかないんですね。そして、「これだ!」と思うところに、パッといく。転換することが大切なんです。

そのためには、転換する力が必要ですね。例えば、道を歩いていると、右を行くか左を行くか決断しなくてはならないときがありますよね。そのときに「よし、右へ行くぞ」と決意する。それが転換する力なんです。「あれ、左に行ったほうがよかったかなあ」なんて思ってはいけません。「右に行くぞ」と思った自分の決断を信じること。突き進むこと。それで、もし失敗したら、次は左に行けばいい。それだけのことです。

誰だって、失敗したくない。私だって失敗したくないけど、毎日のように失敗します。でも、失敗は成功のもと。失敗がないところには、成功は生まれません。失敗があるからこそ、学ぶことがある。謙虚にもなれるんです。ですから失敗を恐れてはいけないんですね。


若い人たちには命の価値を
もっと知ってほしいと言う。
自分は立派な独立した人格である。
まず、そのことをかみしめてほしいと

尊厳を知ると、どんな相手にも向かっていける

私は両親の離婚をきっかけに、8歳でお寺に預けられましてね。東京から大分の田舎の寺に住むことになったわけですが、みんなと違う境遇だからでしょう、同級生からずいぶんいじめられました。いきなりボカスカ殴りかかってくるんです。最初はそれにじっと耐えていた。でも、そうすると心がいじけてくるんですね。すると、ますますいじめが激しくなる。

ある日、ふっと、気づいたんです。これは、私が無抵抗で耐えているからいけないんだと。

私はそのとき思いました。いくら罵声を浴びせられようが、私の人間としての尊厳は決して損なわれることはない。殴られようが、蹴られようが尊厳は決して汚されることはない。やるならやってみろと。そう思うと力が湧いてきた。顔を上げられるようになった。自分をいじめる相手に正面から向かっていくようになったんです。それから、いじめはなくなりました。

お釈迦さまは生まれてすぐに「天上天下唯我独尊」とおっしゃったと言われています。もちろん、生まれてすぐの子どもがそんなこと言うわけありませんよ。これはどういう意味かと申しますと、生まれてすぐの子どもは「おぎゃあ」と大きな声で泣くわけです。何のために泣くかというと、一人の人間として、この世に存在したということを高らかに叫んでいるんですね。それが「天上天下唯我独尊」という意味なんです。自分はかけがえのない存在なんだ、素晴らしい人間としてこの世に存在したんだ、ということです。赤ちゃんは、その喜びで泣くんです。泣き声は、生命の尊厳を高らかに歌い上げた人間宣言なんですね。

私たちはみな生まれたときは立派な人格だった。まずこれを自覚すること。それがわかれば人を粗末にはできませんね。嫌な相手でも、「ああ、この人も生きているんだ」と、こうなる。お互いに尊重し合えるんです。ですから若い人たちには命の価値をもっと知ってほしいんです。

目的を定めて辞めないから、虚無感に襲われるんです

辛い環境に置かれて苦しんでいる人もいるでしょう。会社にむちゃくちゃなことをされて、上司にボロクソ言われて、辛くて辞める。それはいい。辞めること自体は悪いことではありません。だけど、目的を定めてから辞めるべきです。とりあえず辞めてやる、これはダメです。目的が定まらないまま辞めるから、虚無感に襲われる。世の中面白くない、になるんです。

仕事は何のためにするのか。それがわからない人は、「われわれは地球に生かされている」ということを、まず感じないといけないですね。人は自分だけで生きているのではない。地球に生かされているのです。自分だけが救われればいいのではありません。自分も周囲の人も救われなくてはなりません。みんな同時に平和にならなくてはいけないんです。そのためにお互いが協力し合う。そこに働く意義があるんです。自分のために働くんじゃない。皆さんのために働こう。それで社会は成り立っているんです。

生きていて寂しい人、孤独を感じている人は、「人は自分のために生きているのではない。みんなのために生きているんだ」ということに早く気づくといいですね。「自分は一人ではない。みんなと一緒に生きているんだ」。そう考えることで、孤独ではなくなるんですよ。

information
『無の道を生きる―禅の辻説法』
有馬頼底著

有馬伯爵一族に生まれ、物心ついたときから「人の上に立つ者」としての教えを受けてきた。しかし、両親の離婚により8歳で臨済宗岳林寺に入門。厳しい師匠の指導の下、禅の心と仏教を学び、京都仏教会を束ねるまでになった。本書は、その数奇な人生から体得した人生訓「正味の生きかた」を、若者にもわかるようなやさしい言葉でつづっている。「乗り越える醍醐味は、一度知るとやみつきになる」「こらえた先に、何かが見える」「これと思うものに出会ったら前進あるのみ」など人生の教えから、「チャンスのつかみ方」「部下のまとめ方」「人を動かす秘策」といったビジネスの世界で役に立つ話まで、内容は幅広い。生きることが辛いとき、仕事に悩んだときにぜひ手にとってほしい一冊だ。集英社新書。

EDIT/WRITING
高嶋千帆子
DESIGN
マグスター
PHOTO
太田未来子

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