プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。

生き残りたかったら、バブルを起こせばいいんです

茂木健一郎さん(脳科学者)
もぎ・けんいちろう●1962年、東京都生まれ。東京大学理学部・法学部卒業後、同大学理学系大学院物理学専攻修士課程修了。理化学研究所、英国ケンブリッジ大学などに勤務。現在はソニー・コンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、東京工業大学大学院連携教授、東京芸術大学非常勤講師。2005年には『脳と仮想』で小林秀雄賞を受賞。NHK総合『プロフェッショナル仕事の流儀』のパーソナリティとしても活躍。著書多数。
2008年11月17日

「脳と心の関係」を軸に、
美術、文芸、教育など多様な分野で活躍。
気鋭の脳科学者は、
若手ビジネスパーソンに
どんなメッセージを送るのだろうか。

最古のバブルは「チューリップ」で起きた

世の中の常識から反するようですが、私の最近の主張は「バブルを起こせ」なんです。今回の金融破綻はアメリカの経済バブルが原因。それでみんな困っている。しかし、実はバブルというのは、脳を活性化させるメカニズムとそっくりなんです。

1637年のオランダで「チューリップ・バブル」というのがありました。記録された「世界最古のバブル」と言われているものです。

当時オランダでは、オスマン帝国からチューリップの球根を輸入していて、珍しい品種には非常に高い値がつきました。チューリップというのは、一つの母球から年に2、3個の球根しか作られない。つまり人気のある品種は、品薄になりやすく希少価値も出やすい。投機対象としてはもってこいの商品だったのです。

そこで、投資家はもとより貧しい庶民もチューリップ市場に私財を投じました。最終的には球根1個の値段が、熟年労働者の20年分の給料になったといわれています。今のお金で換算すると球根1個の値段が2000万円くらいでしょうか。それほど価格が高騰したんです。当然ながら、そのバブルは1年ほどで崩壊しました。

僕はこのチューリップ・バブルの話がすごく好きなんです。だって、たかがチューリップですよ。家や土地ならともかく、たかがチューリップ。かわいらしいじゃないですか。僕はこういう愚かともとれる熱狂に、若さの象徴を感じます。

恋愛だってそうでしょう。「この人と付き合ったら、とてつもなく幸せになれるんじゃないか」と、付き合い始めのころはいろいろと夢を見る。でも、バブルと一緒で絶対に崩壊するんですよね(笑)。

脳を活性化させるために必要なのは、この一瞬の盛り上がりなんです。みんな勉強って、淡々とやるものだと思っているけど、そうじゃない。英語に興味を持っているなら、自分の中で「英語バブル」を起こさないとならないし、コンピュータに興味を持っているなら、「コンピュータ・バブル」を起こさないと長続きしないんです。

大事なのはメリハリなんですよ。最初に強い情熱を持てるかどうか。対象に向かってドーンと一気に情熱を高めていく。情熱がおさまった後も、興味は静かに続いていきます。これが何かをやり続ける原動力になるんです。何かを成し遂げたいなら、自分の中でバブルを起こさないとダメということなんですよ。

ひらめきもバブルと同じメカニズム

私は最近『ひらめきの導火線』という本を上梓しましたが、ひらめきも、脳の仕組みからいうとまさにバブルなんです。どういうことかというと、0.1秒くらいの間、神経細胞の活動が一気に上がるんです。そして下がる。ちょうどバブルにおける株価の上昇のようなもの。同じメカニズムなんですね。瞬間的な盛り上がりを何度も繰り返すことによって、われわれは気づきの階段を登っていくというわけです。

僕自身の人生のなかでも、「クオリア(私たちの感覚を構成する独特の質感のこと)」の概念に気づいたときには、脳の中にひらめきのバブルが起きました。僕は当時、32歳でしたが、このときの盛り上がりはすごかった。「ついにやった。こいつはすごい。これがわかったら、今までの科学なんて目じゃないぞ」と、それはもう、とてつもない高揚だったわけです。そして14年経った今でも、このときの情熱は残っている。ひらめいた瞬間の情熱は下がり水平飛行になっても、ずっと残像は自分の中にある。だからこそ、今でも研究を続けられるんです。

バブルを起こすことには、もうひとつメリットがあります。それは、「次に行ける」ということです。日本の経済バブルもそうでしたが、バブル崩壊の前と後では価値観がガラっと変わりましたよね。高度成長期のモーレツ社会の残像が払しょくされ、人々はエコロジーに関心を持つようになった。やさしい社会になったように感じます。

もとの世界に戻ることはできませんが、次に行くことができる。つまりは「変わっていける」ということです。現代のように流動化した時代を生きる上で、これはすごく大切なことなんですね。

ですから僕は「1日1バブルを起こせ」と言っています。無理やりにでもバブルを起こすんです。昔の言葉でいうと「エンスージアスト」(熱狂者)。わかりづらかったら「感動」でも「感激」でもいい。何かを見て「おお、これはいいぞ、すごいぞ」と飛び上がる。そのテンションをずっと保て、と言っているのではありませんよ。一瞬でもいいからぐっと上げろ、と言っているのです。慣れてきたら日に何度起こしてもいい。金融バブルは困るけど、脳の中のバブルは誰も困りませんからね。


この脳内バブルを最大限に生かすのが
「タイガー・ジェット・シン仕事術」だという。
新著『脳を活かす仕事術』のなかでも、
茂木自身が積極的に実践している方法として、
紹介されている。

いきなり確信をつく。できる人はやっています

タイガー・ジェット・シンというのは、僕が子どものころに活躍した悪役レスラーです。トレード・マークは頭に巻いたターバンとサーベルで、会場に現れるなり、いきなりサーベルを振り下ろし暴れ出します。レフリーの紹介を待たずに、対戦相手に襲いかかるわけです。予告なしの乱闘によって、場内は大いに盛り上がります。

今、ビジネスの世界で求められている手法はこれなんです。天気の話など、仕事とは関係ない話をダラダラしてから本題に入るのは、もう古い。いきなり核心をついていかないと、これだけのスピード社会、流動化の時代に、チャンスをつかむことはできないんです。自分の中に起きたバブルを一瞬のうちにすばやく察知し、行動に移していかないとダメだということですね。

私も『プロフェッショナル 仕事の流儀』のキャスターの話をもらったときはそうでした。もちろんキャスターの経験なんかありませんよ。でも、プロデューサーから話をもらって、2秒で決めました。直感です。

いわゆる「できる人」は、大抵こうやっているんです。例えば、ユーチューブを買収したグーグルのCEOエリック・シュミットは、ユーチューブが抱えていた著作権の問題よりも、このサービスを面白いと思った自分のひらめきを優先しました。「まず買収して、それから手段を考える」ことにしたのです。

若い人には、瞬時で判断できる人になって欲しい。そのために必要なのが、「自分自身の基準」を持つことです。それはどうやって身につけるか。最も有効な方法が「メタ認知」です。

簡単に言うと、女性がデートに誘われたとき、「果たして私は行くべきかしら」と自分に問いますよね。これが「メタ認知」なんです。デートに行くか行かないか、自分の心を見つめないとわからないでしょう。それが、内なる心に耳を傾けるということです。他人の意見ではなく、自分がどうしたいのかを知るということ。これができることが、一流になる条件なのです。

これはもう、普段から常に実践するしかないんですね。何か新しいことを思いついたとき、自分がそのアイディアに対してどう感じているのか。これを瞬時に察知する。面白くないと思ったらやめればいいし、いけると思ったら、突き進めばいい。これを繰り返すことで、自分の価値基準が出来上がっていくんです。

若い人は安定を求めたがるけど、今の時代、変われる事が安定なんです。そのためには軸となるものが必要となります。それが自分の価値基準なんですね。自分にとって大切なものが守れるならば、ほかは妥協しても構わない。

歴史上の人物を見てもそうでしょう。大人物と言われる人ほど、自分の軸をしっかり持っている。それでいて移り行く時代に適応性がある。自分の価値基準さえしっかり持っていれば、どこにいってもこわいものはない。それこそ、いつの時代でも生き残っていけるんですよ。

information
『脳を活かす仕事術』
『ひらめきの導火線』(茂木健一郎著)

「鶴の恩返し勉強法」など脳に効果的な学習方法を説き、76万部のベストセラーとなった『脳を活かす勉強法』。その第2弾が『脳を活かす仕事術』だ。多様な分野で活躍する茂木氏ならではのオリジナリティあふれる仕事術が公開されている。「やりたいことがあっても時間がなくてできない」と嘆いている人はぜひご一読を。また、新書『ひらめきの導火線』では、「日本人には創造性がない」という俗説を独自の視点で一刀両断。新しい時代に向けてビジネスパーソンが持つべき心構えを説いている(どちらもPHP刊)

EDIT/WRITING
高嶋千帆子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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