プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。

自信のかけらが集まったもの。それを「個性」というんです

西谷昇二さん(代々木ゼミナール英語講師)
にしたに・しょうじ●1956年、高知県生まれ。国際基督教大学人文学部卒業。大学卒業後から英語の塾講師を始め、29歳のとき大手進学塾、研数学館で教え始める。31歳で予備校の最大手、代々木ゼミナールに引き抜かれ、たちまち人気講師となった。英語だけでなく人生を熱く語るその授業スタイルは、「夢を実現する英語」として、生徒から絶大な支持を得ている。週20コマの授業以外に、全国の高校へもサテライトで授業を提供するなど、名実ともに代々木ゼミナールのトップ講師であり、収入は億単位と言われている。
2008年10月13日

予備校の最大手、代々木ゼミナールの
カリスマ英語講師である。
授業には「信者」といわれる生徒が殺到し、
いつも満席。サテライト授業も含めると、
これまで講義を受けた人数は、20万人を超える。

自称「詩人」だった20代

僕の場合は、就職活動もしませんでした。大学卒業と同時にフリーターになったんです。まあ、当時はフリーターなんてかっこいい言葉はなかったけどね。単にフラフラしていただけ(笑)。吉祥寺の小さい塾で講師のアルバイトをしていてね。一日に5、6時間そこで働いていました。ほかの時間は詩を書いたり、本を読んだりしてて。自称「詩人」だったから(笑)。

夏目漱石の造語に「高等遊民」というのがあるんです。あくせく働くんじゃなくて、趣味の世界で好きなことをやって過ごすのが高等なんだという考え方。当時はそういうのがかっこいいと思っていた。だから、詩人になって、それで食べていこうというのではなくて、気が向いたときだけ詩を投稿したり、友人と読書会をしたりして過ごしていたんです。

好きなことをする時間はたくさんあった。でも、毎日が充実していたかというとそうではない。気持ちが満たされていたのは、一部分だけ。社会から置いていかれるという不安やあせりみたいなものが、ずっと心にありました。

転機は29歳のとき。幼いころからの親友が急死してね。彼は、裕福な家庭に育ったんだけど、それを捨ててブルースのギタリストを目指していた。あえて貧乏しながら、住み込みで働いて音楽を続けていたんです。でも、なかなか芽が出なくてね。

その彼と故郷で再会したんです。飲みながら「オレも文学の世界で頑張るよ」なんて、口先だけで彼に言っちゃって。その1カ月後に彼は亡くなった。棺の中の彼の顔を見たとき、衝撃が走りました。彼の生きざまを突きつけられたみたいだった。「オレもこうなっちゃうのか」って、怖くなったんです。夢を追っかけてる自分は、彼と一緒に死んだ。東京に戻っても現実を受け入れられなくてね。しばらく酒ばっかり飲んで自分をごまかしていました。

今思えばすごく運命的なんだけど、そのとき飲んだくれてた居酒屋で、後に結婚することになる女性と出会うんです。隣に座ったときに「この女性と結婚するな」という直感があった。それから半年後、実際に僕たちは結婚することになったんです。

とはいえ、僕はフリーターでしょ。金が全然なかったわけ。それでも僕は小さいながらもダイヤの婚約指輪を贈ろうとした。そしたら彼女からあっさりと言われました。「私、小さいのはしないと思うの。だからいらないわ」って。

その言葉で火がついたんです。言われたことが悔しくて、いつか大きいダイヤを買えるようになってやると決意した。それで、知り合いのつてを頼って、大手進学塾の研数学館で講師を始めることにしたんです。

遊びを入れた途端に、仕事が面白くなった

正直いうと、最初は仕事がつまらなかった。仕事が面白くなったのは、入ってしばらくしてからです。あることをやり始めたのがきっかけでした。

それは授業に「遊び」を取り入れたこと。予備校に就職した動機は、大きなダイヤを買うためでしょ。金が欲しくて働いていたんだけど、どうも気持ちが弾まなかった。教える方がそんなだと、当然、生徒の気持ちも弾まない。

そんなとき、テキストに中原中也の詩を入れてみることを思いついたんです。授業中にその詩を読むと、まず私自身が楽しくなる。生徒からもやる気が出ると評判がよかった。おかげで人気がどんどん出てね。ついに、最大手の代ゼミから声がかかったんです。31歳のときでした。

それからは、詩だけじゃなく、自分の青春時代の話、最近見た映画や旅行の話などを授業中にするようになった。好きな世界で仕事をしていたわけじゃないのに、いつの間にか、好きな世界とつながっていたんです。こうなるとね、仕事はぐっと面白くなるんですよ。

自分のなかで「好き」と「得意」を分けてみる。そして、まず「得意」の技術を磨き、そこに「好き」である遊びをプラスする。

仕事が面白くない人は、なんでもいいから、好きなことを仕事に取り入れてみるといい。できれば生活全部を仕事に絡められるよう、工夫してみるといい。それができたら、どんなにキツい仕事でも、辞められなくなりますよ。


授業では、
自身の辛い過去やトラウマもさらけ出す。
そんな西谷氏の話に、力づけられ、
人生相談に訪れる生徒も多い。

自分の負は、抱え込むとどんどん大きくなる

僕には母親が3人いたりして、出生が複雑でね。そのことでトラウマがあったり、ひねくれていたりする。そんな僕のくだらない人生でもね、今は修正されてきたってことを授業で話すと、生徒の役に立つのね。

実はそれで癒されているのは、自分自身なんです。辛い過去をさらけ出し、それが少しでも人の役に立つと救われる。自分の負の部分が肯定されるからです。

自分の負の部分はね、抱え込んでいると、どんどん大きくなるんです。コンプレックスを抱えて悩んでいる人は、一度、自分の負を認めてみるといい。自分はうじうじしたどうしようもない奴だと開き直って、すべてをオープンにする。そしてそれを仕事に活かしてみる。誰かから「役に立った」と言われたとき、救われている自分に気づくはずです。

なんだか暗いけどね(笑)。でもさ、人はネガティブな部分を持っていてもいいと思う。それは、コンプレックスや失敗を受け止めてるってことだから。その上で、ポジティブな考えを受け入れて、ポジティブを勝たせていく。いわば49%のネガティブと51%のポジティブ。これが大事なんですよ。

例えばスポーツでいうと、一流の選手は、大事な試合に使ってもらえなくても、監督が悪いとは思わない。自分の力がなかったと思うんです。悔しいけど、そう自分に言い聞かせて、必死で練習するんです。悔しい思いを「次こそは」というポジティブな考えに転化していく。

ポジティブっていうのは、他人のせいにして楽になることとは違う。自分を客観的に見て、負の部分を受け入れ、それを努力や工夫で成長に変えていくこと。不運なことが起きたら、運が悪いんじゃなくて、成長する機会を与えられたと思えるか。一流の人は皆、これができているんですよ。

大きな壁を乗り越えたいなら、「壁貯金」をするといい。小さな目標を立て、それを達成してみる。小さな達成感が積み重なって、「自信のかけら」がいくつか集まったとき、大きな壁を突破できるようになる。

自信のかけらは、何だっていい。そのかけらを積み重ねると、モザイクができるでしょ。その模様が個性なんです。自分のスタイルと言ってもいい。それができると、生きるのが少しラクになりますよ。

information
『壁を超える技術』
西谷昇二著

人生は壁の連続。しかし、乗り越える方法は、必ずある。「何でもいいからやり遂げたことを思い出せ。それが壁越えの基本」「コンプレックスを書き出すと、必ずプラス面がある」など、代々木ゼミナールのカリスマ講師である西谷氏が、苦難を乗り越え、強く生きる術を書き記した人生の指南書。複雑な出生、登校拒否になった高校時代、離婚など、これまで西谷氏が抱えてきた過去も赤裸々に語られている。辛い境遇で苦しんでいる人、仕事や人生がつまらないと感じている人、必見の書だ。
※2008年10月23日には、『何があっても、生きてろよ。』が発売(ともにサンマーク出版刊)

EDIT/WRITING
高嶋千帆子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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