プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。

転職はリスクではない。人生の目的が定まってないから、不安になるんです

松田公太さん(タリーズコーヒー インターナショナル会長、クイズノス アジアパシフィック社長)
まつだ・こうた●1968年宮城県生まれ。父親の転勤でセネガル、アメリカ・マサチューセッツ州で少年時代を過ごす。1986年に帰国後、筑波大学に入学。卒業後、三和銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行。1995年、ボストンでスペシャリティコーヒーに出会い、起業を決意。1997年銀座にタリーズコーヒー1号店をオープン。翌年、タリーズコーヒージャパン株式会社設立。2001年株式上場。2007年タリーズコーヒージャパン社長を辞任。2008年タリーズコーヒーインターナショナル設立。アジアにタリーズコーヒーを広めるべく尽力している。現在は米国のサンドイッチチェーン「クイズノス」のアジアパシフィック地域の社長も兼任。
2008年7月21日

28歳でタリーズコーヒーの
日本での経営権を取得。
300店舗を超える一大チェーンに育て上げた。
食の分野で起業したいと思ったのは、
高校生のときだったという。

きっかけは、アメリカ人から刺身をバカにされたこと

当時、私は父の仕事の関係でアメリカにいたんです。今のように日本食がポピュラーじゃなくて、刺身や寿司を食べていると、「気持ちが悪い」「魚の調理法を知らないんじゃないか」とアメリカ人から野蛮人扱いをされました。自分が好きなものを否定されて、本当に悲しかったのを覚えています。

そのとき私は、アメリカで回転寿司を広められないかと考えました。敷居が低くエンタテインメント性のある回転寿司は、日本文化になじみのないアメリカ人にも受け入れられるのではないかと思ったのです。これが後にタリーズコーヒーの起業につながっていくのですが、実は当時、考えていたことがもうひとつありました。それは、日本のアニメや漫画を世界に広げたいということでした。

僕自身はそれほどアニメに興味がなかったのですが、日本の友人が送ってくれた『機動戦士ガンダム』などのビデオをアメリカ人のガールフレンドに見せたら、すごく興味を持ってくれて。彼女はかなりのめりこんで、高校でアニメサークルを作ってしまったほどでした。好きな人が自国の文化を認めてくれた。そのことがすごく嬉しくて、もっといろんな人に日本のアニメや漫画を知ってもらえたらと思ったんですね。

人生の目的は、「喜怒哀楽」から探すといい

大学入学と同時に日本に帰ってくるのですが、食とアニメ、迷った末に、食の分野で起業することにしました。私はよく、「どんなことで起業したらいいのかわからない」という人に、過去の「喜怒哀楽」にヒントがあると言っています。私の場合、生の魚をアメリカ人に馬鹿にされたことは「哀」。アニメを認められたことは「喜」です。どちらもやりたかったことなのですが、僕は「哀」の方を選びました。結果として、これが正解でした。悔しかったり悲しかったりした思い出は、すごいパワーを生み出すからです。

これは転職でも同じだと思いますよ。何をしたらいいのかわからない人は、悲しい思い出や経験から人生の目的を探してみるといい。難しく考える必要はありません。同じような屈辱を他の人が味わわなくてもいいような仕組み作りを考えればいい。それが、人生の目的になるんです。

日本では転職にリスクがあるように言われますが、僕はそうは思いません。リスクがあるように思うのは、目的を持っていないからでしょう。人生の目的を持っている人は、転職を単なる手段としてとらえることができるんです。

よく、目的と目標を一緒にしてしまっている人がいますが、この2つは大きく違う。目標は、目的を達成するための道標のこと。転職や起業は、あくまで目的を達成するための手段なんですよ。そう考えれば、どんな会社に就職すればいいか、おのずと決まってくるはずです。

就職先には、いちばん向いていない会社を選んだ

僕は新卒のとき、就職先に銀行を選びました。友人は皆驚いていましたよ。どう見ても向いていなかったから(笑)。これは自分でも自覚していました。でも、だからこそ、学ぶことが多いのではないかと考えたんです。僕はすでに、「世界中の人々が食を通じて互いを理解し、一つになってほしい」という人生の目的を持っていましたから、それを達成するために自分に足りないものを補えるところに就職したかった。会社の知名度や、ブランド、給与なんて、全く考えもしませんでした。

財務を学べるし、会社の責任者と直接話すことができる。銀行は起業を目指すものにとって、非常に勉強になる場所でした。私は恩返しの意味も込めて、給料の5倍稼ぐことを目標にしました。そのためにがむしゃらに働いたし、実際、そのくらい成果も出しました。

しかし銀行というものは、成果を上げるだけではダメ。人と同じことをしないと非難されるんです。私は自由奔放な性格でしたから、上司や同僚から理不尽な非難や中傷を受けることも多かった。そんな辛い状況でも耐えられたのは、自分の中に確固とした目的があったからです。皆さんの中にも、社内の待遇や人間関係に悩んでいる人がいると思いますが、人生の目的を持つといいですよ。そんじょそこらのことは気にならなくなりますからね(笑)。


銀行は最初から
5年で辞めるつもりだった。
27歳のときに、
スペシャリティコーヒーと
運命的な出会いをする

1年以上メールを出し続け、社長に直談判

27歳のときでした。たまたま友人の結婚式でボストンに訪れた際に、スペシャリティコーヒーを飲んだんです。帰国後もその味が忘れられなくてね。スペシャリティコーヒーの本場、シアトルへ飛びました。50店以上店を回り、その中でいちばんおいしかったのが、タリーズコーヒーだったんです。それからは、タリーズの社長あてに日本の出店計画書を記したメールを出し続けました。

そんな状態が1年以上続いたある日、偶然、社長が日本にきていることを知るんです。すぐに滞在先のホテルに向かい直談判。その後も何度か交渉を続け、日本での経営権を得ることができました。

開業資金は7000万円。金融公庫から3500万円借り入れ、残りは友人や親戚からかき集めて。もちろん、不安はありましたよ。そんな大金を借りるのは初めての経験でしたしね。

不安を少なくするため、私は、最悪の状況をとことんシュミレーションしました。つまり、経営が立ち行かなくなって、借金だけが残った場合のことです。私は、自宅近くのコンビニエンスストアに、アルバイト募集の張り紙を見に行きました。そのとき、アルバイトの時給を見て、こう思いました。「ここで一日15時間働けば、30年で借金完済できるじゃないか」と。そして、自分が店員となって、弁当を温めている姿を想像したんですね。そこには、「この弁当を世界に広めるには、どうしたらいいだろう」と考えている自分がいた。事業に失敗して、ここでアルバイトをすることになっても、自分は目的に向かって楽しく仕事ができると確信することができたんです。

結局、失敗なんて、気の持ちようなんです。失敗してもあきらめなかったら、それは失敗じゃない。それどころか、成功の種になるんですよ。

毎月100万円の赤字でも、コスト削減はしない

タリーズ一号店を出したとき、それこそ店に何日も泊り込んで、必死に働きました。しかし思うように売り上げが伸びず、毎月100万円の赤字を出してしまいました。そのとき赤字に耐え切れず、辞めてしまっていたら、現在のタリーズもないし、それこそ「失敗」になっていたでしょう。

私は赤字が続いたとき、あきらめもしなかったし、コスト削減もしなかった。現在以上に投資する道を選んだんです。材料を吟味し、サービスの向上を図った。お客様から喜んでもらうのはどうしたらいいか、徹底的に考え、できることはなんでも実行しました。それからしばらくして、一号店は黒字になりました。負のスパイラルから抜け出すためには、より丁寧に、心を込めて仕事に打ち込むしかないんです。このときの赤字は、私に大切なことを教えてくれました。

若いときの苦労は買ってでもしろとは、よくいったものです。逆境の中でもがいて必死にやったことは、自分の身になるんですね。後に必ず活きてくる。若いうちにたくさん失敗した方がいいですよ。私は、あえて苦労を選んできましたが、それは苦しむためじゃない。その方が面白いからなんですよ。

information
『仕事は5年でやめなさい。』
松田公太著

「銀行は5年で辞めようと思っていた」と語る松田氏。その後も5年を区切りにして仕事に打ち込み、数々の伝説を作り上げてきた。「辞めると決めれば成長は加速する」「未来自分史で人生の残り時間を目に焼き付けろ」「コンプレックスを掘って宝を探せ」「金のワラは、おぼれながらつかめ」「これでいいと思った瞬間からが下り坂」など、これまでの経験をもとに、仕事術を伝授。納得できる人生を送りたい人、必読の書だ。サンマーク出版刊。

EDIT/WRITING
高嶋千帆子
DESIGN
マグスター
PHOTO
栗原克己

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