プロ論。

なぜ、あの人はいい仕事ができるのか。 第一線で活躍する人物の「こだわりの仕事術」を紹介します。

自分は未完成。だから使ってもらえる。そういう考え方もあると思うんです。

佐々木蔵之介さん(俳優)
ささき・くらのすけ●1968年、京都府生まれ。神戸大学卒。在学中、劇団「惑星ピスタチオ」の旗揚げに参加。以後、98年に退団するまで全公演に出演する。大学卒業後、大手広告代理店に入社。同時に芝居を続けていたが、芝居に専念するため、退職。98年から活動拠点を東京に移す。2000年、NHK連続テレビ小説『オードリー』に出演し脚光を浴びる。その後も『白い巨塔』『離婚弁護士』『医龍』『斉藤さん』など話題のドラマ、映画に多数出演。2008年5月24日公開の映画『アフタースクール』への出演も大きな話題となった。
2008年5月12日

大学卒業後に広告代理店に就職。
いずれは実家の造り酒屋を継ぐつもりだった。
だが、最終的に彼が選んだのは、
大学で出会った役者の道だった。

芝居に興味があったわけではない

大学に入ってすぐ、サークルのオリエンテーションがありました。そのとき、偶然にも高校の同級生に会って、「学生会館で芝居をやっているから一緒に見に行かないか」と誘われたんです。新入生を勧誘するために演劇サークルが劇を上演していたんですね。見終わると、すぐに勧誘があった。学生会館のベランダに連れて行かれて、「どうする? 入る?」と演劇サークルの先輩から言われて。「急いで決めなくてもいいんだよ」とも言ってくれたんですが、どういうわけだか入ることにしてしまったんですよね。

舞台に興味があったわけでもないし、すごく入りたかったわけでもない。もともと僕には趣味みたいなものがなかったんです。ただ、演劇サークルが大学生っぽいものに思えた、ということはありますね。実は、高校のときに大学の図書館で勉強していて、外から演劇サークルの練習の声がよく聞こえていたんです。「ああ、大学に入ったら、ああやって遊べるんだな」と(笑)。思えば、これがひとつのきっかけだったんでしょうね。

演劇ってみんなで作るでしょ。だから、自分だけ辞めようとしても、辞めるわけにはいかないんです。一人でやるものだったら、続かなかったかもしれないですね。あとは、やっぱりみんなで一生懸命に遊んでいる感覚が楽しかった。舞台は何もかも手作りで、こんなことまで自分たちでできちゃうんだと感心もして。

だからといって、職業としては全く考えませんでした。就職して何年かすれば家業を継ぐつもりでしたし。それで、まず広告代理店に入ったんです。このときに東京勤務にでもなっていれば、演劇を続けることはできなかったんですが、偶然にも大阪勤務。せっかくだから演劇も続けておこうかと思って。

お金のことを考えたら、いい芝居はできない

仕事は営業。定時で終わるはずがなく、夜の6時や7時から始まる稽古にはよく遅れていました。仕事のカバンに稽古用の靴やジャージを入れて直行するんですが、「ちょっと一杯」の誘いも多くて。ちゃんと行ってたんですよ、飲みにも。稽古のことを知っていてかばってくれる上司もいて、さりげなく抜けさせてもらったりしてね。でも、稽古場に行くと顔が赤かったりする(笑)。早く抜ける会社にも遅れて行く稽古場にも、「すいません」ばかり言っていた時代でした。

会社も劇団も双方とも事情を理解してくれていたことは、本当にありがたかった。でも、1年前から決まっている公演日に、プレゼンやらイベントやらの仕事が重ならない保証はない。いつもヒヤヒヤでした。重ならなかったのは、本当に幸運でしたね。

会社のほうを2年で辞めてしまったのは、ひとえに冷静な判断ができなかったからでしょう(笑)。将来の展望なんてなかった。ただ、芝居をもうちょっと続けたいなと思うだけだったんですよね。不安もあったんでしょうけど、覚えていないんです。それよりも芝居を存分にやりたかったという思いが強かったんでしょうね。

最初、少しだけアルバイトをしましたが、後は劇団からの給料で過ごすことにしました。アルバイトで労力を使うなら、劇団に使おうというみんなの方針もあって、お金のことは考えませんでしたね。それを考えたらいい芝居なんてできないと思っていましたし。

ただし、お金のことを全く考えないのもダメだとは思っていました。身内にチケットを売って終わらせるのではなくて、ちゃんとビジネスとしても成立するようにしていこうと。そうなると、稽古も厳しくなるし、芝居のレベルも上がっていく。そうやって、自分たちの給料も少しでも上げていこう、と。


所属した「劇団ピスタチオ」は、
人気劇団として、関西から全国へと
知名度を上げていった。
だが、佐々木氏は30歳のとき、退団。
活動拠点を東京に移す。

あったのは「なんとかしよう」という思いだけ

劇団だと役者である前に劇団員なんです。だから、仕事は基本、劇団公演。でも、だんだんと、もっといろんなことがやってみたくなった。一人の役者として。何かアテがあったわけでもないし、うまくいくという確約があったわけでもない。そのとき持っていたのは、「なんとかしよう」という思いだけ(笑)。その意味では、僕の場合、転機みたいなものはないんです。ひとつひとつ、いただいた仕事を確実にこなしてきただけです。

そもそも自分に大して華があるとは思えなかった。だから、与えられた役をまっとうしようと。こういう方向でやっていこう、みたいな考えもない。とにかく何でもやる。そう決めていました。そして、役に思い切り乗っかるんです。とにかく役に徹する。これ、意外に気楽なんですよね(笑)。自分を出さずにすみますから。むしろ、役を離れてこうやって取材でしゃべっているほうが、キツイんですよ、ホント(笑)。

結果的にたくさんのチャンスをいただくことができたわけですが、それは僕がどの役も完璧にできなかったからだと思っています。もちろん、仕事をいただくことは本当にありがたいし、その都度、一生懸命にやっています。でも、使う側から見れば、僕は未完成なんじゃないかと思うんです。もっとイジれる。こうすればもっとよくなる。そう思いながら使ってもらえたからよかったのかなと。もし完璧にできていたなら、コイツを使ってみようと思ってもらえなかったかもしれません。未完成だから、やらせてみようと思ってもらえる。そういう考え方もあっていいと思うんです。

最近出演した映画『アフタースクール』で、僕は、世の中も仕事もつまんないと思って生きている探偵の役。「こんな世の中、くだらねえ、オレは、なんでこんなことやってんだ」って思ってる。うまくいかないのを、誰かの、何かのせいにしている。でも、バシッと言われるんです。ハッとさせられるようなことを。どんなセリフかは映画を見てほしいのだけど、人ってね、周りの人から、結構いいことを言われてたりするものなんですよ。

役者になったのは、偶然でした。しかも、役者そのものよりも、実はみんなで何かを一緒に作っていくことに強い関心を持ったんですよね。これは今も同じ。役者でいられるのは、一緒に何かを作りたいと情熱を持って接してくれる周りの人たちのおかげだと思っているんです。

自分がどうの、ではなくて、みんなでいいものを作る。僕はその責任の一端を担う。だからここまで続けることができたのではないかと。そしてこれからも、きっとそうだと思っています。

information
『アフタースクール』

母校の中学校で働く、人の良い教師・神野(大泉洋)のもとに、かつての同級生だと名乗る怪しい探偵(佐々木蔵之介)が訪ねてくる。探偵は一流企業に勤める同級生の行方を追っているという。しぶしぶ一緒に同級生を探し出すことになった神野だが…。事件は「よくある話」が一転、想像できない展開に。結末が全く予測できないエンターテインメントムービーだ。

出演:大泉洋、佐々木蔵之介、堺雅人、常盤貴子、田畑智子ほか 監督:内田けんじ 配給:クロックワークス 2008年5月24日より、シネクイントほかで全国ロードショー。
©2008「アフタースクール」製作委員会

EDIT
高嶋千帆子
WRITING
上阪徹
DESIGN
ITコア
PHOTO
栗原克己

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