泣くに泣けない事態に陥らないために
仕事とお金のトラブル法律相談室
働くうえでの金銭トラブルを他人事だと思っていませんか?この手のトラブルは、ある日、突然、予期せぬ形でやってくるもの。無用な争いに巻き込まれないように、最低限の法的知識を得て、上手に回避しましょう。
どうする?こんなトラブル-対処法と回避方-
1 給料が面接時に聞いた額よりも少ない。
2 「店長は残業代なし」は、のまなければならないか?
3 会社が労災保険に入っていなかったら、労災認定はどうなる?
4 同業他社に行くなら、賠償金?
5 退職の申し出が遅れたら、規則違反で退職金なし?
6 コアタイムに遅刻や早退したら、賃金カットされた。
7 タイムカードを押し忘れたら、欠勤扱いにされてしまった。
8 年俸制の場合、残業代はまったく支払われないのか?
9 研修終了後に退職を申し出たら、「研修費を返せ」と言われた。
10 「辞めてほしい」と言われて辞める場合、給料や退職金はどうなる?
トラブル相談員
冨塚祥子氏 社会保険労務士
冨塚祥子氏

トミヅカ社会保険労務士事務所所長。東京社会保険労務士会会員。主な著書に、『マトリックス表から組み立てる就業規則の作り方』など。
林 美華氏 NPO法人 労働サポートセンター 理事
林 美華氏

小売業界に勤務していたとき、残業代未払いを会社と交渉した経験から、「困っている人のための案内窓口になろう」とNPO法人を設立。現在、弁護士や社会保険労務士など有志の協力を得て、労働トラブルの相談にあたっている。
トラブル1
面接時に聞いていた額よりも、振り込まれた給料が少ないが…。
転職して初めての給料が面接で聞いていた額より3万円も少なかったので、上司に聞くと、「君自身が、面接時に話していたスキルと随分違ったからだ。頑張ってスキルアップしたら、給料は上がるから心配するな」と言われました。会社がどれだけの私のスキルを期待していたのかわかりませんが、面接で飾り立てて自己アピールしたつもりもないのに、承知しないといけないのでしょうか?
(システム開発・29歳)
面接時に聞いていた額よりも、振り込まれた給料が少ないが…。
トラブル対処法
冨塚氏 冨塚氏
法律違反なので、労基署に相談を
入社時、労働者と使用者(会社)との間で労働契約を結びますが、このとき、労働基準法では使用者に対し、労働条件(労働契約期間、仕事内容、就業場所、始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制、時間外労働の有無、賃金額や支払いのルール、退職および解雇に関することなど※)を労働者に書面で明示せよと義務付けています。このケースは、そもそもその書類が作成されていない点からして労働基準法違反。労働基準監督署(以下労基署)に相談してください。
※短時間労働者の場合には、「昇給の有無」「賞与の有無」「退職手当の有無」も明示
林氏 林氏
契約と違うことをすぐ主張する
有する資格など、具体的なスキルの虚偽があったわけではないので、契約時の給料から一方的に減額するのは不利益変更に当たると考えられます。
もらった直後に、「契約と違う」と主張すること(異議を唱えないでいると、暗黙の同意があったとみなされる可能性があります)。社内で解決できないときは、労基署や労働組合などに相談を。
トラブル回避術 仕事を始める前に、
書面で労働契約を結ぼう
労働条件を口約束で済ませてしまうと、あとで「言った、言わない」のトラブルになることもある。労働基準法で定められた条件を必ず書面にしてもらおう。
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トラブル2
「店長は残業代なし」は、のまなければならないか?
店長のポジションで採用されたのですが、連日残業があるのに、残業代が出ないのです。会社に改善を申し入れると、「マネージャー職には一切出ません」と突っぱねられました。しかし、店長といっても名ばかりで、僕のほかはパートとアルバイトだけ。面接で「多少、残業はあります」と聞いていましたが、残業代が出ないという説明は聞いていません。入社した以上、従わなければならないのでしょうか?(店長・33歳) 「店長は残業代なし」は、のまなければならないか?
トラブル対処法
冨塚氏 冨塚氏
管理監督者に当たるか、専門家の判断を仰ぐ
この場合、「店長」というポストが、労働基準法上の管理監督者に当たるかという点が重要なポイント。というのも、労働基準法では、時間外労働には割増賃金を支払わなければならないと規定されていますが、管理監督者は例外で、労働時間などの制限を受けないことになっているのです。管理監督者に当てはまるかどうかは、権限や実態などから判断され、これまでにもたくさんの判例があります。専門家に相談してみてください。
林氏 林氏
深夜割増賃金はもらう権利がある
世間では「管理職には残業手当が必要ない」と誤解している人が多いようです。管理監督者とは役職名ではなく、労働条件の決定や労務管理などにおいて経営者と一体的な立場にある人。そうでなければ、いくら社内で管理職とされていても、会社は残業手当や休日出勤手当を支払わなければなりません。なお、たとえ管理監督者であっても、深夜割増賃金(22時〜翌日5時)や有給休暇は、一般社員と同様にもらう権利があります。
トラブル回避術 面接時に賃金体系を確認して、
不安を解消する
納得のいかない場合は入社を避けるぐらいの心構えで、入社前に役職内容や賃金体系を十分確認すること。残業の有無は、入社時の労働契約締結の際に書面で明示することになっているので、記載内容の確認を。
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トラブル3
会社が労災保険に入っていなかったら、労災認定はどうなる?
工場での研修期間中、誤って左手中指を第一関節から切断してしまいました。その時まで知らなかったのですが、会社は労災保険に加入しておらず、支払われたのは通院費だけでした。本来、労災で支払われた分のお金は、会社に請求できないのでしょうか?
(生産管理・27歳)
会社が労災保険に入っていなかったら、労災認定はどうなる?
トラブル対処法
冨塚氏 冨塚氏
未加入でも、補償は受けられる
労働基準法では、労働者が業務上負傷した場合、使用者は療養に関する補償責任を負わなければならないと規定しています。また、労災保険は、原則として一人でも従業員を雇えば、会社は強制適用事業所となり、保険料を全額会社負担で加入しなければならないと法律で定めてあります。このケースは業務上の事故であることが明白。たとえ会社が労災保険に加入していなくても、労働者は労災保険の加入者と同等の補償を受けることができます。
林氏 林氏
労基署に相談し、労災申請する
労災保険に加入するのは使用者の義務。労災の申請は労働者が行うもの。
すぐに労基署に相談しましょう。労災未加入の場合には、労基署が遡及加入や保険料の強制徴収など、会社を指導します。健康保険で処理している場合は、市役所など管轄行政機関にもあわせて相談しましょう。
トラブル回避術 応募する際、求人広告で
「社会保障完備」の確認を
会社が各種社会保険に加入しているかどうかを知るには、応募する際、求人広告内の「社会保障完備」という記述を確認するのが一番。職業安定法で、適用される社会保険について記載しなければならないとされている。
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トラブル4
同業他社に行くなら、賠償金?
研究開発職としてバイオ関連のベンチャー企業に入りました。4年後、転職しようとしたところ、どこに行くのか執拗に聞かれ、同業他社だとわかると、契約書を盾に、「規則に反したので退職金なし。賠償請求したいぐらいだ」と告げられました。会社がいう契約書とは、入社時にサインさせられた「退職しても2年間は同業他社に入社しません」という書類のこと。すっかり忘れていたのですが、そもそもそんな契約は有効なのでしょうか?(研究開発職・30歳) 同業他社に行くなら、賠償金?
トラブル対処法
林氏 林氏
契約書の有効性を弁護士に相談する
職業選択の自由という権利は守られるべき重要なこと。こういった契約は法的に無効だと思いがちですが、一方、企業にも財産保持の権利や危機管理面から情報漏えい防止策などをとる必要があります。従って、競業避止義務を労働者に課すのも違法と言いきれないのです。最近、こういった相談が増えましたが、サインする前に契約内容をよく確認することが大切です。契約書が有効かどうかの条件として、競業避止の期間、地域、職種の限定が記載されているか、競業避止という不利益を労働者に与えるに釣り合うだけの優遇措置(手当などの賃金を手厚くする)はあったか、退職に至った経緯が純粋な自己都合か、追い込まれた退職かなどが判断材料となります。また、功労報償金的な性質が強い退職金については、今のところ判例を見てもケースバイケース。ただ、減額や不支給という判決が出るのは、同僚を引き抜いたり、顧客情報を持ち出したりといった背信性が高い場合に多いようです。このケースは弁護士に相談するのが一番です。
トラブル回避術 サインするなら、
契約書のコピーをとる
こういった契約書には安易にサインしないこと。それが無理なら、しっかり契約内容を確認し、コピーをとっておくこと。もちろん、退職後、前社の機密漏えいはご法度だ。
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トラブル5
退職の申し出が遅れたら、規則違反で退職金なし?
田舎の母が倒れて入院したのですが、介護する家族がいないので、私が10年勤務した会社を退職してUターンすることになりました。突然の退職で申し訳ないと思いながらも、理由が理由なだけに理解してもらえると考えていたのです。ところが、人事課長から、「退職願は1カ月前までに申し出しなければならず、それより短い場合には退職金は支給しないという就業規則の内容になっている」と言われたのですが、あきらめなければならないのでしょうか?
(経理・32歳)
退職の申し出が遅れたら、規則違反で退職金なし?
トラブル対処法
冨塚氏 冨塚氏
就業規則に定めがあれば受給困難
多くの労働者は会社を辞めれば退職金が出るものと思い込んでいるようですが、退職金は法律で支払いが会社に義務付けられているわけではありません。ですから、退職金制度を設けたい企業は、就業規則(退職金規程)で支給対象者や支給基準、支給額などを自由に決められます。このケースは、退職願を1カ月前までに申し出なければ退職金を支給しない旨を就業規則にきちんと定めているので、受け取るのは極めて難しいといえます。
トラブル回避術 退職を考え始めたら、
就業規則で確認を
退職金は、場合によっては支給されないケースもある。 退職を考え始めたら、就業規則で申し出る期間や、退職金支給に関する項目を必ず確認をしよう。
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トラブル6
フレックスタイム制の会社で、コアタイムに遅刻や早退したら、賃金カットされた。
対処法と回避法
コアタイムの扱いを就業規則で確認すること
そもそもフレックスタイム制度とは、始業や終業の時刻を労働者の裁量に委ねた制度。ですから、清算期間中の総労働時間を満たしていれば、会社は賃金カットすることはできません。ただし、コアタイムは、必ず出勤していなければならない時間帯として会社が設けているものなので、この間に遅刻、早退、欠勤をした場合は、ペナルティを課されることも。コアタイムの遅刻などが就業規則および労使協定書にどのように記載されているか、確認してみてください。(冨塚氏)

※「清算期間中の総労働時間」とは、いわゆる所定労働時間のことで、1カ月の労働時間が法定労働時間内になるようにする必要があります。
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トラブル7
タイムカードを押し忘れたら、欠勤扱いにされてしまった。
対処法と回避法
押し忘れても、実際に出勤していたのなら大丈夫
労働基準法では、使用者は賃金台帳を作成し、労働日数、労働時間数、時間外労働時間の時間数、休日労働時間数、深夜労働時間数を記入しなければならないと定めています。つまり使用者は、労働者一人ひとりの労働時間や時間外労働などを確実に把握し、法律に従って適正に管理する必要があるのです。ですから、たとえタイムカードを押し忘れても、あなたがその日きちんと出勤して仕事をしていたのなら、会社は欠勤扱いにすることはできません。担当部署とよく話し合ってみてください。(冨塚氏)
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トラブル8
年俸制の場合、残業代はまったく支払われないのか?
対処法と回避法
内訳明記の労働契約以外は、割増賃金をもらう権利あり
年俸制によって1年間の総賃金が決まっていても、原則、残業代は年俸制に含まれません。というのも、年俸額とは年間所定労働時間だけ働いたときの賃金を想定したものですから、会社が時間外労働や休日労働を命じたときは、別途割増賃金(時間外労働と深夜業の割増率は2割5分以上、休日労働は3割5分以上)を支払う必要があります。ただし、「年俸○○万円、うち割増賃金分△△万円」という具合に内訳を明記した労働契約を結んでいる場合は、この限りではありません(この場合でも、実際の残業時間が想定した時間を上回ったときには、会社は不足分の割増賃金を支払う義務があります)。(林氏)
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トラブル9
転職して研修を受けた後、退職を申し出たところ、「研修費を返せ」と言われた。
対処法と回避法
業務に必要不可欠なものなら会社負担になる
ポイントは、その研修が会社の業務を行う上で必要不可欠なものであり、会社の指示であなたがそれを受けたかどうかという点です。もしその通りなら、会社は「使用者として当然その研修を行わなければならない」わけですから、研修の対価を労働者に求めることは不当といえます。あなたの退職の自由を制限する手段として、会社が研修費返還を主張しているだけなら、従う必要はありません。(林氏)
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トラブル10
「辞めてほしい」と言われて辞める場合、給料や退職金はどうなる?
対処法と回避法
「解雇」か「退職勧奨」か、まずはその確認から
まず、「辞めてほしい」という言葉が、「解雇」なのか「退職勧奨」なのかをきちんと確認してください。いわゆる肩たたきのような退職の勧め(退職勧奨)なら、提示された条件を勘案して労働者が自由に意思決定できます。解雇なら、会社都合で労働者を辞めさせるわけですから、合理的な理由が必要で、そうでない場合は解雇権の乱用になり無効。たとえ理由が妥当でも、会社は30日前に解雇予告をするか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。就業規則の規定内容にもよりますが、多くの場合、退職金の額も増えるところが多いようです。(冨塚氏)
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法律は強い味方。最低限の法的知識を持って、トラブルを回避しよう
 ここ数年、企業組織の再編や人事労務管理の個別化など、ビジネスパーソンを取り巻く労働環境も著しく変化し、事業主との紛争も増えています。しかし、裁判になると、多くの時間と費用がかかり、一般のビジネスパーソンには大きな負担になります。

 そんな状況を改善しようと、2001年、「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」が施行され、都道府県労働局長の「助言・指導」や、労働局紛争調整委員会による「あっせん」という制度が新設され、さらには2006年4月から、「労働審判制度」という新しい解決制度が実施されました。なお、「あっせん」を利用するには無料で受けられ、「労働審判制度」は申立手数料がかかります。

 法的トラブルは、巻き込まれてから解決策を探しても、手遅れになりがち。ふだんから最低限の知識を身につけて上手に回避していくのが、後悔しないための最良の策といえるでしょう。

●紛争調停委員会による「あっせん」とは?
 紛争当事者の間に第三者のあっせん委員(学識経験者)が入り、双方の主張を確かめながら、
  当事者間の調整をはかり、話し合いを促進して円満な解決を図る制度 。
●「労働審判制度」とは?
 労働者あるいは事業主が地方裁判所に申し立てると、原則として3回以内に迅速な解決を目指すもので、
 調停(和解)が成立すれば、決定を出さずに終了となる。調停成立が難しいときには、
 実情に即した解決策が審判される。
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労働問題で困ったときは… (2006年10月13日現在)
労働局
個別労働紛争(解雇や一方的な労働条件の変更など)に関して、助言・指導やあっせんを行う
http://www.mhlw.go.jp/general/sosiki/chihou/
労働基準監督署
労働条件や労働時間など労働基準法に違反していないかを監督し、指導する
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/location.html
都道府県の労働相談所
突然の解雇や賃金未払い、セクハラ被害などの相談
(※URLは東京都の場合で、名称は「労働相談情報センター」)。
http://www.hataraku.metro.tokyo.jp/soudan-c/center/
全国労働基準関係団体連合会
賃金、解雇、有休などの相談
http://www.zenkiren.com/center/top.html
社会保険事務所
社会保険、厚生年金などの相談
http://www.sia.go.jp/sodan/madoguchi/shaho/index.htm
ハローワーク(公共職業安定所)
失業手当や傷病手当、派遣のトラブルなどの相談
http://www.mhlw.go.jp/kyujin/hwmap.html
日本弁護士連合会(日弁連)
法律相談全般
http://www.nichibenren.or.jp/
日本司法書士連合会
少額訴訟などの簡素な紛争について相談
http://www.shiho-shoshi.or.jp/
日本行政書士連合会
身近な法律相談
http://www.gyosei.or.jp/
全国社会保険労務士連合会
労務管理や社会保険などの相談
http://www.shakaihokenroumushi.jp/
EDIT/COPY/中嶋典子 DESIGN/カンダマキコ ILLUSTRATION/牧野良幸

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