変化に対応し、成長が期待できる企業とは?

伸びる企業を読み解く 3×3の方程式

業界や企業を取り巻く状況は刻々と変化を続けている。変化の激しい時代だからこそ、われわれに求められるのは、そうした変化をできるだけ正確につかむ力を持つことである。伸びる企業・業界を分ける境目は一体何なのか?衰退する業界を見極めるポイントとは?経営コンサルタント、株式評論家など3人のプロに、業界・企業を見抜く「方程式」をうかがった。

2011年11月9日

<ADVISER>

百年コンサルティング株式会社<br>
代表取締役 鈴木貴博氏

百年コンサルティング株式会社
代表取締役 鈴木貴博氏

東京大学工学部物理工学科卒業後、ボストンコンサルティンググループに入社。分析力と洞察力を武器に企業間の複雑な競争原理を研究し、伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループの起業に参画後、2003年に独立、百年コンサルティングを創業。以来、大企業を中心にアドバイザーとして活躍。著書に『会社のデスノート』『ワンピース世代の反乱、ガンダム世代の憂鬱』(ともに朝日新聞出版)、『アマゾンのロングテールは、二度笑う』(講談社)ほか。

株式会社日経ラジオ社<br>
「ラジオNIKKEI」放送記者、株式評論家<br>
和島英樹氏

株式会社日経ラジオ社
「ラジオNIKKEI」放送記者、株式評論家
和島英樹氏

株式新聞記者を経て、ラジオNIKKEI放送記者に。現在、東証記者クラブ・キャップでもある。証券界での豊富な経験と人脈、綿密な取材を武器に、株相場を予想。その的中率の高さは業界でも有名で、雑誌への執筆や講演依頼も殺到している。出演番組は「和島英樹のウィークエンド株!」「マーケットカレッジ 集まれ株仲間!」。

ブルーマーリンパートナーズ<br>
代表取締役 山口揚平氏

ブルーマーリンパートナーズ
代表取締役 山口揚平氏

早稲田大学政治経済学部卒業後、1999年より大手コンサルティング会社でM&Aに従事。カネボウやダイエーなどの企業再生に携わった後、独立。企業の実態を可視化するサイト「シェアーズ」を運営し、証券会社や個人投資家に情報を提供(2010年に同事業を売却)。現在は金融とデザインを融合させた新しい信用創造の仕組みを考案中。専門は貨幣論・情報化社会論。主な著書に「なぜか日本人が知らなかった新しい株の本」(ランダムハウス講談社)」「企業分析力養成講座(日本実業出版社)」。

事業戦略コンサルタント・鈴木貴博氏に聞く

【方程式1】
「イノベーションによって強みが陳腐化しない企業」は変わらず伸びる

業界に劇的なイノベーションが起きようと、その企業が持つ優位性や強みが陳腐化しなければ、必ずしも廃れはしません。例えば自動車業界を例にあげて考えてみます。電気自動車は今後、需要が伸びるだろうと言われています。その際、電気自動車というイノベーションによって変化が起こります。燃料がガソリンから電気に変わることによって、何がどう変わるでしょうか。ガソリンを使う場合、エンジン内部で燃焼が起こります。電気自動車であれば、それに耐え得る鉄のボディーでなくてもよくなりますし、エンジンそのものの構造が変わり、ブレーキの作りも変わっていくでしょう。一方で、タイヤはなくなりません。窓ガラスも、ホイールも、メーターだってなくなりはしません。変化の激しい時代ですが、変化が及ぼす影響について一つずつ考えてみれば、なくなるもの、変わらず需要があるもの、新しく生まれるものが見えてくるはずです。

【方程式2】
「団塊世代の下の世代」が取り込める企業は伸びる

鉄道やアニメなど、固定ファンが多い業界や企業は強いと言われています。その反対に、固定ファンがいなくなれば、一気に斜陽産業になります。これは、ものすごく当たり前のことですが、未来を予測するうえではとても重要な考え方です。
そのキーワードとなるのが、いわゆる「団塊の世代」です。人口が多い「団塊の世代」がごそっと抜けた後に、その特定の層の人たちだけに頼っていた産業が一気に廃れる可能性があります。うまく下の層の人たちを取り込めていない産業ということです。しかし裏を返せば、うまくその下の層の人たちを取り込めている業界は、ちょっとやそっとではなくなりません。最近の例でいうと「山歩き」です。シニア層を中心に山歩きはトレンドですが、「山ガール」などの流行語からもわかるように、若い世代をうまく取り込んでブームになっています。団塊の世代が楽しむものだけでなく、世代を通じて広い層をうまく取り込んでいる産業は、衰退しにくいのです。

【方程式3】
「3年間話題になり続けたもの」は今後も伸びる

今も、そしてこれまでも、皆さんが生きてきた中でたくさんのブーム、トレンドがあったと思います。今でいえば、スマートフォン、SNS、韓流スター…といったところでしょうか。過去のそうしたブーム、トレンドを振り返ってみてわかることは、一過性のものではなく、少なくとも3年間は話題となって人々の生活に入り込めているものは、簡単にはなくならないということです。それどころか、ビッグトレンドとしてその語も影響を持ち続けるものになっているのです。例えばスマートフォンは3年以上前から話題となり、今でもすそ野を広げています。今後、普及する携帯電話のほとんどがスマートフォンになると言われているのは、こういった方程式から割り出しているものなのです。今、皆さんが熱中しているものは、果たしてどうでしょうか?話題になってから、3年間ユーザーが増え続けているでしょうか。そこにヒントがあると思います。

株式のプロ・和島英樹氏に聞く

【方程式4】
「人口が多い地域」+「ブランド力」+「カスタマイズ」=成長企業

今後20年から30年のうちに、世界中の人口バランスは大きく変化すると言われています。特に注目したいのが、アジア。その中でも中国とインドでしょう。2030年には中国が15億人、インドでは20億人を超えると予想されています。今の日本の規模と比べても、単純計算で10倍以上の消費が見込めるというわけです。
数年前から日本企業のアジア進出の動きは活性化し、多くの企業が現地でシェアを伸ばしています。しかし、その一方で、現地の企業がその産業に参入し、淘汰されてしまった商品や企業も出てきました。今後のアジア進出には、日本でヒットしている“ブランド力のあるもの”を、いかに現地のニーズに合わせてカスタマイズし、展開していけるかがポイントになると思います。

【方程式5】
価値観の多様化に対応し、変化できる企業が伸びる

少子高齢化社会に向けて、国内の生産人口は減っていきます。厚生労働省のデータによれば、2004年(6642万人)に比べて、2015年には42万人減、2025年にはさらに300万人減と言われています。企業としては、いかに生産人口を確保するかが、命運を左右するほどのものになる可能性があるわけです。だとすれば、例えば今以上に女性の登用を増やす、シニア層により目を向ける、長期滞在の外国人をうまく雇用に組み込むなど、従来の価値観から視点を変えていかないと、勝ち残れないのです。消費者ニーズの多様化、ターゲット層の変化などにおいても、今までのマーケティングが通じなくなります。逆に「これまでのマーケティングで重視されてなかった部分」にこそ、チャンスの目が埋もれているわけですから、そうしたところに目を向けられるように、柔軟な対応ができる企業しか伸びていけなくなるでしょう。特に大企業になればなるほど、社内にしがらみを多く抱えるために思い切った変化ができなくなっています。もちろん経営陣の手腕にもよりますが、大企業に対しては、どれだけ変化に対する柔軟性があるかを厳しく見ておく必要があります。

【方程式6】
いち早く「国策」に乗れる企業は強い

国内の消費が飽和状態で、生産人口の比率も下がっています。そろそろ、国が抜本的な政策を打ち出す可能性が高いと思います。産業人口の確保のために支援金を出すといったことは、現実的に考えて十分に起こりうるはずです。例えば、農業です。震災などの影響もありますが、農業人口の減少は目の前に迫った大きな危機です。しかし、国の政策が変われば、一気にチャンスが広がります。現在、閉塞感がある業界でも、国策に乗ることで、180度状況が変わることは大いに考えられますから、日々のニュースに注目してください。

M&Aコンサルタント・山口揚平氏に聞く

【方程式7】
「投資をしながらもうけられる企業」は強い

企業の状態を知るために効果的なのが、営業キャッシュフローと投資キャッシュフローをまとめた「キャッシュフロー・マトリクス」を見ることです。
営業キャッシュフロー(稼ぎ)が多く、投資キャッシュフロー(投資)がマイナスになっている(投資にお金をかけることができている)のが健全な状態で、企業としては安定期です。しかし、投資をしなくなり、それまでに投資したものを手放すようになれば投資キャッシュフローがプラスに転じます。こうなると、企業は停滞期に入ります。そして投資を行えていないために稼ぎも増えていかず、営業キャッシュフローがマイナスになっていく。つまり後退期に入ります。プラスに転じるためには投資をしなければならず…という繰り返しが起こっていくわけです。こうした、営業キャッシュフローと投資キャッシュフローがマトリクス上のどのポジションにいるかを見ていけば、企業の状態がわかり、今後の動きも推測することができるのです。
キャッシュフロー・マトリクスを簡単に見られる専門サイトもありますが、四季報や財務三表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)などを見て、自分で調べることも難しくはありません。さらにもっと詳しく企業の内情を見たい場合は、投資の内訳を確認してみるのもいいでしょう。投資には、「メンテナンス投資」「開発投資」「純投資」の3つがありますが、そのうち、工場などの設備環境や規模拡大のための土地・建物購入といった「開発投資」にどれくらい投資しているかに注目してみると、より今後の伸びを予測しやすくなります。

【方程式8】
「業界になっていない業界」「新陳代謝を起こしそうな業界」の2つが伸びる

業界と呼ばれるものが完成するまでに、一般的には50年くらいかかると言われています。最初の10年くらいで、もやもやしたものが業界としてまとまっていき、その後10年から30年くらいかけて広く認知されていき、そこからさらに10年くらいかけて成熟、そして新陳代謝が始まると言われています。伸びる可能性が高いのは、例えば「携帯電話でできるゲーム」のような、まだ業界名が定まっていない業界。そして、誰もが名前を知っている一方で、新陳代謝を求められているような「製紙」「鉄鋼」「テレビ」などの業界。この2つです。
成長や再生のきっかけをつくるのが「イノベーション」です。イノベーションとは、「同じことを10分の1のコストでできるようになる」もしくは「同じコストで10倍価値のあることができるようになる」ことだと言われています。今後10年を見据えて、いずれ業界を生み出しそうなイノベーションがどこに起こりそうか、もしくはすでに完成された業界において、新陳代謝を促すイノベーションがどこに起こりそうかに注目してみてください。

【方程式9】
「大多数の人々の欲求を満たせる」企業が成長する

ファストファッションと、高級ファッションブランドは、どちらも「衣料品業界」という括りで見られています。ファストファッションの商品は、今や多くの人にとって日常生活の一部になっていて、あって当たり前の、簡単に購入できるものになっています。一方、高級ファッションブランドの洋服は、「寒さをしのぐ」ために買う衣料品というよりは、「自己表現」や「社会的欲求を満たす」といった側面が多いと言われています。つまり、それぞれは別の価値観に合わせて商品を提供しているわけで、そもそも同じ業界という括りで語ることに無理があるのです。
つまり、価値観が多様化しすぎた現在において企業の成長性を測るには、業界というわかりやすい枠だけで物事を捉えないことです。ファストファッションのように「大多数の人々の欲求を満たす存在になり得るか」を見抜くことが、成長性を判断するために大事なのです。特に衣食住は絶対になくならない分野ですから、「食」と「住」の分野に注目してみるのがよいでしょう。

伸びる企業を見抜くためには「消費者ニーズの変化」に注目せよ

今回は3人のプロに、合計9つの「伸びる業界・企業を見抜くための方程式」を提示してもらった。変化が激しい時代と言われるが、結局はその中で同時に変化する「消費者のニーズ」にいかに対応できるかという、“根本的な部分”に敏感な企業は強い。これから起こり得る「イノベーション」に注目するとともに、その影響について冷静な視点で考えることが、近い将来を見抜く近道だといえそうだ。

リクナビNEXTスカウトを有効活用して
自分に合った新しい環境を探してみよう

「リクナビNEXTスカウト」に登録することで、思わぬ企業からスカウトが届くことがある。これまでに知らなかった企業について知るきっかけになるだけでなく、思わぬ魅力を発見し、新たに興味を持つことがあるかもしれない。さらに今回紹介した方程式と照らし合わせることで、企業選びの視点も広がるはず。たくさんの企業を比較検討して、あなた自身の可能性を広げる「この一社」を探してみよう。

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EDIT
高嶋ちほ子
WRITING
志村 江

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