震災復興、グローバル、コンパクトシティー…注目キーワードで読み解く

2011年春夏、雇用はどうなる?

リーマンショックの長い冬から、ようやく立ち直ろうとしていた矢先に起こってしまった東日本大震災。100年に一度の大災害は、今後の日本経済にどんなインパクトを与えるのだろうか。グローバルやITの進化にまで視界を広げて、2011年の春から夏にかけての雇用動向を表す「注目のキーワード」を3人の専門家に聞いた。

2011年4月27日

<ADVISER>

<経済のプロ> 経済評論家 平野和之氏

<経済のプロ>
経済評論家
平野和之氏

大学卒業後、株式会社光通信に入社。ディーラーへの投資、開拓のほか、移動体ディーラーのM&Aを多数実践。本社事業開発部課長に入社1年で最速で昇進したほか、本社インターネット投資部を設立にも関わる。退社後は株式会社グローバルマーケティングを設立、最先端ファイナンス戦略をからめたマーケティング業務、投資分析、インキュベーター事業を行った。現在は経済評論家として、シンプルな解説や斬新な予測、政策提案などで人気を集めるほか、講演活動にも力を入れている。

<株式のプロ> 株式会社日経ラジオ社 「ラジオNIKKEI」放送記者、株式評論家 和島英樹氏

<株式のプロ>
株式会社日経ラジオ社
「ラジオNIKKEI」放送記者、株式評論家
和島英樹氏

株式新聞記者を経て、ラジオNIKKEI放送記者に。現在東証記者クラブ・キャップでもある。証券界での豊富な経験と人脈、綿密な取材を武器に、株相場を予想。その的中率の高さは業界でも有名で、雑誌への執筆や講演依頼も殺到している。出演番組は「和島英樹のウィークエンド株!」、「マーケットカレッジ 集まれ株仲間!」。

<人材のプロ> 株式会社リクルートエージェント ソーシャルエグゼクティブ 海老原嗣生氏

<人材のプロ>
株式会社リクルートエージェント
ソーシャルエグゼクティブ
海老原嗣生氏

リクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社後、人事制度設計などに携わるほか、リクルートワークス研究所で「Works」編集長に。2008年からは人事経営雑誌「HR mics」の編集長に就任するなど、「人材のカリスマ」と呼ばれる。2008年に人材コンサルティング会社、株式会社ニッチモを立ち上げる。主な著書に「2社で迷ったらぜひ、5社落ちたら絶対に読むべき就活本」(プレジデント社)、「就職、絶望期」(扶桑社新書)、「もっと本気で、グローバル経営」(東洋経済新報社)など。

経済のプロ・平野氏に聞く

覚えておきたい「雇用につながる」キーワード

【コンパクトシティー】
大震災によって、近隣地域への避難などといった、やむを得ない「人の移動」が起こりました。今後、都市再生の観点で注目されるのが、「コンパクトシティー」という発想です。“特定エリアの人口が増えれば、その分、「経済のパイ」も増やせる”という考え方で、よりコンパクトな経済成長が見込める都市づくりにシフトしていくでしょう。少子高齢化、人口減少によるインフラの維持コストの負担からも、街の選択と集中が必要となってきています。さらに「特区」という発想を組み合わせ、同じ目的を持つ人を集約させることで活性化をはかる新たな「まちづくり」も盛んになるはずです。子育て特区や経済特区などは今後も加速するでしょう。
こうした動きの加速に伴って力を発揮するのが、都市再生コンサルティングサービスやファンドビジネスです。ファンドといえば、これまではどちらかというと株式上場やM&Aといった側面で注目されていましたが、金融ノウハウを活かして都市再生事業に力を入れているところもあります。また、太陽光や海水淡水化、水力発電などの公共投資や、自家発電に力を入れている企業なども、次世代の都市づくりと連携していくエコタウン構想という観点からは、注目度が高まるはずです。国単位で見ても、ニュージーランドや香港、マカオなど、「小さい国土でありながら高い経済成長を遂げた国々」を参考にした経済成長戦略、観光立国、貿易立国、金融立国を目指すという観点でも、コンパクトシティーは重要なテーマとなっていくでしょう。

【ライセンスビジネス】

日本の高い品質力・技術力を活かして、新幹線、水などの「安全を輸出する」という成長戦略がありました。今後は、商品そのものではなく、技術や仕組み、知的財産権などを「ライセンス」し、コンサルティング、ソリューションなどを輸出していくというモデルがさらに注目されていくでしょう。為替の影響を受けにくいというのもメリットです。これからは“技術をいかに持つか”よりも、“技術力をうまく提案できる”ことが重要視されるようになります。「企画力」で勝負できる企業の成長余力があるということです。

【インドネシア】

BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国)やVISTA(ベトナム、インドネシア、南アフリカ共和国、トルコ、アルゼンチン)、NEXT11(イラン、インドネシア、エジプト、韓国、トルコ、ナイジェリア、パキスタン、バングラディシュ、フィリピン、ベトナム、メキシコ)などの国々が、今後の経済成長を期待されていますが、その中でも特に注目したいのが「インドネシア」です。その理由は、資源が豊富、世界第4位という人口、生産コストの低さなどが理由です。生産拠点としては中国・インドに次ぐポジションとして注目を集め始めており、すでにあらゆる企業がシフトし始めています。今後は、生産拠点としてだけではなく、内需主導経済による成長が見込まれます。
ちなみに、“その次”を狙うのであれば、私が「ファイナルアジア」と名づけた、ミャンマー、ビルマ、カンボジア、モンゴル、北朝鮮などの経済規模が極端に小さい国々の政局に注目するのもアリだと思います。例えば、民主化などをきっかけに急成長するということも起こりうる国も出てくるかもしれません。これは少し長期的な視点になるかもしれませんが…。

【海外生産比率】

円が不安定な状態で推移する可能性があるため、円高・円安のどちらになっても左右されない企業を選ぶのが、リスクヘッジのための鉄則となります。では、どう見極めるか。一つの目安にできるのが、「海外生産比率」です。最低でも50%、というのが一つの分岐点ですが、基本は現地生産・現地販売ですから、「国内外の収益率に合わせて生産比率が決まっているかどうか」を見ることで参考にできるはずです。電気製品や自動車といったところが注目分野となります。

株式のプロ・和島氏に聞く

覚えておきたい「雇用につながる」キーワード

【インド、ベトナム、バングラディシュ】
リーマンショックから改善できているのは、アジアに向けてものを売っている企業ばかりでした。中国が2000年から一気に成長し、約10年で一気に先進国入りするかなどと言われていますが、まさに今のインドが2000年当時の中国のような雰囲気を持っています。さらに、その後ろに控えるのが、ベトナムやバングラディシュ、インドネシアといった国々。彼らは中国の急成長を近くで見ている分、キャッチアップも早いのです。日本は先進国ですから、それらの国々を牽引する存在としての影響力は絶大です。中国が先進国入りといっても、まだ車の普及率は6%程度と言われるくらいですから、あらゆる電子部品のほか、樹脂やゴムなどの輸出先としては、アジアは当分期待できる市場なのです。

【フラッシュメモリ、液晶パネル】

アメリカとの関係や為替の動きから考えると、この先しばらくは円安が続くはずです。これで日本の輸出企業全般が潤うことは予想されます。中でも、日本が誇る、知られざる世界トップシェアの「部品メーカー」に注目です。特に、世界中で普及を続けるスマートフォンやタブレットPC、電子書籍などには、フラッシュメモリや液晶パネルなどの部品が欠かせなくなっており、大震災の影響で生産が止まった場合に「アメリカが困るくらいの日本の技術」と言われているくらい、換えがききません。今、日本の技術力があらためて見直されてます。

【電力源】

今回の地震の影響もあり、「電力」そのものが見直される時期にあります。「LNG(液化天然ガス)」や「自家発電」、「スマートグリッド」などのキーワードに注目しておいてください。また、製品化できずにくすぶっていた「蓄電池」や「燃料電池」が、実は新しいエネルギーとして期待できそうだと見直す動きがあり、そこから「今までになかったビジネス」が創出される可能性が高まります。もちろん、水力や風力以外に、「波力」や「地熱」なども電力源として注目を集め始めていますから、「電力源」の次の動きに注目してみてください。

【二番底】

私の見立てだと、大震災による決算のズレで、6月までは下方屈折して厳しい状態になる可能性があります。8月から9月に「二番底」となる可能性は大きいです。ネガティブなキーワードになってしまいますが、株を買うにはいい時期かもしれません(笑)。その後は早ければ10月から、遅くとも年明けには景気も回復傾向に入るはずなので、前向きに捉えてください。
震災の被害が大きかった東北地方の工場でも、ようやく稼働率が上がってきたというニュースを耳にしているはずです。現在ストップしているところが稼働し始めれば生産率が上がり、供給が増えれば需要も戻るでしょう。つまり、物流が戻って工場の操業率が上がれば、次に問題となるのは、工場における人材不足。これは、関東以西から順番に起こってくる切実な問題です。復興にともなって、製造業全般の採用ニーズが高まるはずです。

リクルートエージェント・海老原嗣生氏に聞く

覚えておきたい「雇用につながる」キーワード

【金融緩和】
マクロな視点で見ると、2010年から11年の経済の動きとしては、世界的な金融緩和によって“バブル状態”が続いていました。株、石油、金のいずれもが高値を更新という状況に。ただ、こうした熱狂状態を鎮めるために中国が早々に連続利上げを実施し、4月にはECB(欧州中央銀行)も続いて引き締めに転じ、あとはアメリカのFRB(連邦準備制度)が6月に予定通り緩和終了で、「バブルも遂に崩壊か?」…というタイミングでの震災だったわけです。結果として、今後の世界的な金融の引き締め基調の中で、震災復興中の日本のみに緩和が許されるという「特別待遇」が見込まれます。それが円安を招き、復興特需や過剰な悲観を織り込みすぎた反動なども重なり、6月以降しだいに景気はしっかりとした足取りへ…というのが、私の見立てです。
そもそも、現在の日本の状況は、生産が失速したので、原材料費も人件費もかからないまま在庫がはけて「売り上げだけが立っている」という、“経理的には”望ましい状態。GDPや鉱工業生産指数は「製造」を強く織り込むため、悪化度合いが激しいですが、企業業績はこの2指標ほどは落ち込みません。一方で、金融引き締めによるバブルの崩壊はどうなるか。こちらも夏にも起こると思われていたところが、日本の金融緩和が続くため、時期はむしろ後ろ倒しになり、ダメージも弱くなる。そんな、「それほど悪くない(むしろ「良い」)」時期になると考えられます。

【ネットワークエンジニア】

マクロな見解はある程度予測できても、ミクロで見るのはとても難しい状況です。そんな中で一つ言えるのは、リクルートエージェントの求人数で、今年1月からIT業界の求人が急激に増え、好景気モードに入っています。業界そのものが昨年末の決算で持ち直したことや、Windows 7やWindows Vistaがふるわなかったことでシステム開発のタイミングが遅れており、そろそろ本格的なシステム投資に動き出そうというタイミングが重なったことが理由として考えられます。この動きは、しばらく順調に推移すると予想されます。いつまで続くかははっきりとはわかりませんが、バブル崩壊が予想される年末くらいまでは持つのではないかと考えています。

【新卒採用の後ろ倒し】

大震災の影響で、経団連加盟企業の新卒採用が2カ月ほど後ろ倒しになっています。仕方のないことですが、それによって中途採用に影響が出ています。例年であれば、中途採用市場は4、5月は落ち込む時期です。しかし、新卒採用が進まない分、中途採用を実施しておこうと前向きに考える企業が増えており(数字としては前年比40%アップ)、まさに今は中途転職者にとっては転職しやすいタイミングとなっているのです。

【日本型「人肌サービス」】

大震災による人材の流動化によって、グローバル人材の採用がしばらくは落ち着く可能性が高いでしょう。その影響を受けやすいのが、海外展開で強みを発揮していた「コンビニエンスストア業界」かもしれません。アメリカ発のコンビニエンスストアですが、世界を席巻しているのは、実は「日本型」のスタイルです。アメリカ型とは「24時間いつでも便利」をビジネスコアにおくため、「買ったらすぐに帰る」顧客スタイルから脱せず、結果、店に滞留する人が少なくなり、犯罪者の恰好の標的となりやすい。それが理由でさらに人がより着かず、店舗としての魅力を失っていきがちだと言われているのです。一方で日本型とは「便利なだけでなく、楽しくてほっとできる場所」の提供を目指すものです。わざとトイレを貸し、立ち読みやイートインで人を集め、きめ細かいサービスで売り上げを伸ばしながら“いつでも人がいる”、楽しい場所を提供する発想です。こうした「人肌サービス」に基づいた店舗づくりは、実はマニュアルだけではできません。だからこそ、グローバル人材を日本で採用し、日本で育てて現地展開につなげるという方法を積極的に行ってきました。今後、グローバル採用は厳しくなったとしても、こうしたスタイルは世界のどこでも通用しています。「パッケージ化して輸出する」というビジネスチャンスにつながるかもしれません。

ビジネスチャンスは増大。積極的に動いてみては

3人の話を集約すると、今すぐの急激な経済成長は見込めないまでも、ビジネスチャンスは確実に広がっていくのが2011年の動きとなりそうだ。もちろん、大震災の影響なしには語れないが、だからといって悲観的な状況が続くわけでもない。中でも、キーワードに挙がった「アジア」や、日本ならではの高い技術力に裏打ちされたメーカーなどの募集は増加傾向となるだろう。あなたの強みが活かせる場所を探すのに、ぜひ役立ててほしい。

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EDIT
高嶋ちほ子
WRITING
志村 江
PHOTO
武島 亨
ILLUST
もりいくすお

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