日本とは全く異なる環境で、人事はどう動いたか?

異なる文化、法律…「グローバル採用」人事部の舞台裏

日本企業の海外進出が加速化する中、初めての海外進出に際して「人事・採用においての壁」を感じる企業が増えているようだ。文化、法律、働くことへの意識、宗教観…など、日本とは全く異なる事項をどう乗り越え、どのようにグローバル採用を推し進めればいいのだろうか?専門家と、実際にグローバル採用の壁を乗り越えた2社に、話を聞いた。

2012年11月7日

【専門家の声】あらゆる情報収集こそが海外進出の第一歩。生活水準、文化、
宗教、法規制などを理解しないと、賃金体系も就業規則も定まらない

株式会社リクルートキャリア 吉岡綾子氏

株式会社リクルートキャリア
グローバル統括部 グローバル総合企画部
吉岡綾子氏

「海外に進出するということは、日本とは全く異なる文化、法律、宗教観などの中で人材採用、育成を行うということ。海外に活路を見出したいと考える企業は増えていますが、人事的な課題の大きさを目の当たりにして、二の足を踏む企業は少なくありません」とは、リクルートキャリアで日本企業の海外進出を人事的な側面からサポートする吉岡綾子氏。
「海外への進出を簡単に考えて過ぎている企業が多いと感じますね。まずは何より、進出予定国の『雇用』に関する綿密な情報収集が不可欠。ローカルの生活水準、雇用関係の法規制、報酬水準、組織風土などを理解しないと、採用計画どころか、そもそも人事評価制度、就業規則の作成はもちろん、賃金・福利厚生の設計もできません」

そして、その際に初めて、日本とのギャップの大きさに直面し、「本当に海外進出できるのか」と苦悩する企業が多いという。
例えば、労働法の内容一つとっても、国によって全く異なるため、それに合わせた就業規則、人事制度を考えねばなりません。特に社会主義国では、人は国の財産であるという考え方から労働者に手厚い法律となっており、特に外資が進出する際はさまざまな法規制が設けられているケースがあります。また、宗教や制度面の違いも大きな影響を与えます。インドネシアなど、イスラム教徒の多い国では、1日に5回のお祈りの時間、ラマダン(断食)明けの休日などを考慮しなければなりませんし、インドではカースト制度の考え方が存在するため、採用時には職業カーストを考慮しなければなりません。雇用問題に政治情勢が絡む国も多くあります。海外進出のための第一歩を踏み出す前に、あらゆることを考慮した国ごとの情報収集が必要不可欠なのです

採用体制が整ったあとも、乗り越えねばならない壁は多い。「ローカルスタッフを採用したくても、現地で人が集まらない」ケースがあるためだ。
「特にアジアにおいては、日本企業の人気はあまり高くはありません。コストダウン目的で海外進出を狙うメーカーなどが、賃金を安く設定し過ぎる傾向にある…というのが大きな理由です。アジアは特に、進出外資が多く採用競争が激化していますし、経済成長が著しい国が多いのでインフレも激しい。常に、“いま現在の”経済水準をリサーチして、それに沿った賃金やベースアップ計画などを組む必要があります。また、ローカルスタッフに日本の企業文化やガバナンスモデルを伝えることは大切ですが、ローカルの文化や環境を考慮して、守るべきところは伝え、優先順位の低いものは外すなどの対応が必要。文化や国民性の違うローカルスタッフに、自社ルールを無理強いして、敬遠されてしまうケースも多いのです」

【企業の声】現地の文化、慣習を調査して、先回りして給与や待遇、設備などに
反映。ローカルスタッフの心をつかみ、「愛着」を持ってもらうことに成功

株式会社ニトリファニチャー 村上純斗氏

株式会社ニトリファニチャー 人事
村上純斗氏

家具・インテリアショップを全国に展開するニトリの、製造部門を担うニトリファニチャー。インドネシア、ベトナムに生産拠点を持ち、工場での生産ラインを担当するスタッフと、オフィスワークを担当するスタッフを採用している。同社で人事を担当する村上氏は海外進出時を振り返ってこう語る。

両国とも、進出の際は現地のコーディネーターから情報収集し、それに基づいて就業規則や報酬体系、人事制度などを決めましたが、あまりの環境の違いに驚かされましたね。大きなギャップを感じたのは、宗教と給与に対する考え方。例えば、インドネシアの場合は、現地人はイスラム教徒が中心で、1日5回の礼拝が必要となるため、工場の敷地内に礼拝スペースを作って対応しました。ベトナムは、将来よりも『今いくら稼げるか』を重視する傾向があり、別の会社の給与が少しでも高いと、そちらに移ってしまいます。そのため、一定水準の賃金を確保するのはもちろん、入社時には入社祝いとしてお米を進呈することを決めました。これが予想以上に、他社との差別化につながっています」

インドネシア、ベトナムとも、採用後の「人員の定着」にも苦労するという。生活を第一に考えるため、賃金が高いほうにすぐに移ってしまう傾向があるうえ、インドネシアではインフレが起こると民間人のデモにより、ストライキが誘発されることもある。
「だからこそ、愛社精神までは難しくても、当社に『愛着』を持ってもらうための工夫は欠かせません。例えば、インドネシア工場では、市価よりも安く、豊富なメニューが食べられる食堂を用意。宗教上、食事制限が多いので、食堂のメニューのバリュエーションを増やし、それぞれに何が入っているのかをイラストを使って明確に説明するようにしたところ、好評を得ています。カラオケが国民的趣味とされているベトナムでは、入社後の導入研修内に親睦のためのカラオケのレクリエーションを取り入れ、従業員同士の交流を深めることで団結力を養い、会社に対する帰属意識を持ってもらっています」

ただ、今一番課題に感じているのは、「日本人のグローバル人材」の採用だという。
インドネシア、ベトナムとも、進出を決めた当初こそ日本との違いに驚きましたが、違いが明確にわかりさえすれば、それに合わせていけばいいこと。それよりも難しいのは、彼らをまとめる日本人赴任者の採用です。ローカルスタッフから見れば、現地に赴任する日本人は、『得体のしれない外国人上司』。現地スタッフの中にどんどん入り込んでコミュニケーションを取ったり、部下よりも多く仕事をこなし、さまざまなことを改善・仕組み化することで、信頼に値する人物と思ってもらう必要があります。一方で、日本以上にスタッフの行動管理や、クオリティー維持に関する周知徹底は重要です。だからこそ、マネジメント経験もさることながら、現地の人とコミュニケーションし尽くす覚悟とロジカルな思考が重要。この重責を担える人材の発掘と育成が、目下の注力テーマですね」
 

【企業の声】まずは現地で影響力を持つ人材をコアメンバーとして採用。
その人脈づてに採用活動を行うことで優秀な人材の確保に成功

株式会社gumi 富吉聰一朗氏/マシュー ブレロー氏

株式会社gumi
Human Resources 部長
富吉聰一朗氏
Global Business Development
マシュー ブレロー氏

gumiは、「任侠道」「海賊道」「騎士道」などのオリジナルゲームが人気の、ソーシャルゲームプロバイダ。設立は2007年とまだ若い企業ながら、2012年4月に韓国、6月にシンガポールに拠点を設立したのを皮切りに、中国、アメリカに立て続けに進出。現在は、初のヨーロッパ拠点として、フランス・パリで拠点の立ち上げ準備を進めており、世界進出に本腰を入れている。同社でグローバル採用を人事サイドからサポートしている富吉氏と、パリ拠点の立ち上げを担当するブレロー氏に話を聞いた。

「今でこそ、海外進出の際の手順はつかめてきましたが、海外拠点立ち上げの初期は苦労がありましたね。知名度が低いうえ、モバイルやソーシャルゲームが日本ほど進んでいない国では『魅力的ではない』と思われてしまい、なかなか人が集まらないと予想されました。特にスタッフ採用においてはそれが顕著に出ると予想されたので、まずはコアメンバーの採用に注力しました。現地でのネットワークが広く、市場特性を理解したエージェントと組み、ゲーム界に広い人脈を持ち影響力も高い人物にアプローチ。そして社長が直々に、ソーシャルゲームの将来性、世界市場での勝算、そしてグローバル市場でナンバーワンを目指したいという想いを伝えました」(富吉氏)

国によっては、社員が友人・知人を紹介する社員紹介制度など、知り合いづての転職が主流というケースもある。人脈を持つコアメンバーが採用できれば、そこから優秀な人材にアプローチができる。
「そもそも日本企業は、年功序列でなかなか上に行けないというステレオタイプなイメージが先行しており、一部の国ではあまり人気がなかったりします。しかし、gumiでは、『現地のビジネスを一番知っているのは現地の人間である』という考えがあり、大きな裁量を与えています。だから、コアメンバーを日本人で固めるということはありません。そういった考えや、体制を体現しているからこそ、gumiが本気でグローバル市場でのナンバーワンを目指していることが伝わると思っています。これにより、当社のイメージは『名も知らぬ日本企業』ではなく『成長性の高いグローバル企業』に変わり、『この会社に入って、グローバルなゲーム市場でトップを目指す』というモチベーションにつながります。このように、まずは当社と現地コアメンバーが想いを共有し、そこからスタッフにも同じ想いを共有してもらうという方法で、計画通りの採用をすることができました」(富吉氏)

同様の方法で、シンガポール、中国、アメリカでも採用に成功。立ち上げ準備中のパリにおいても、現在コアメンバーの採用に注力している。
「フランスはゲーム人口が多いうえ、日本のサブカルチャーへの親和性が高く、他国よりも人材の確保がしやすいというメリットがありますが、コアメンバーの採用は他拠点と同様、現地に豊富なリソースを持つ人材エージェント経由で行いました。現在、着実にコアメンバーを確保しつつあり、近いうちにスタッフレベルの採用が始まります。さまざまな国が交わるヨーロッパにおいては、マルチカルチャー(多文化)の風土で働くのは当たり前。そのため、世界をまたにかけて働きたいという思いを持つ人は多く、当社に魅力を感じてくれるエンジニアは多いはず。特にフランスにおいては、日本で働ける可能性があることが、アドバンテージになると期待しています」(ブレロー氏)

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EDIT&WRITING
伊藤理子
PHOTO
平山 諭/TAKE

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