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回路、機構、電気、材料…多職種にチャンス到来!活況のFPD業界が欲しがるエンジニア

アテネオリンピック、デジタル放送の普及などで人気沸騰のFPD。市場拡大を受け、FPDサプライヤー各社の開発競争が激化している。エンジニア不足から、未経験者を採用するケースも多い。今がまさに転職のチャンスだ。
(取材・文/伊藤憲二 イラスト/関根康子 総研スタッフ/高橋マサシ) 作成日:04.10.06
PART1 液晶、PDP、有機EL…世界で過熱するFPD開発
大型工場への莫大な設備投資、世界企業同士の提携・連携など、企業のFPDへの開発熱は止まることを知らないようだ。その理由は、現在から将来に向けて急上昇する、世界的なFPD需要にある。
4年後には900億ドルにふくらむ巨大市場
 鮮明な画像と省スペース性で大人気のフラットパネル・ディスプレイ(FPD)。ホームシアター向けなどの大型機ではプラズマディスプレイ(PDP)、中・大型機では液晶テレビ(LCD)がよく売れている。今後は世界的に地上波放送網のデジタル化が進むため、デジタルハイビジョンをフルスペックで映すことができるFPDにさらなる需要増が見込まれている。
 FPDの開発・生産で世界をリードするのは、圧倒的にアジア陣営だ。PDPは日本と韓国のメーカーが世界生産のほぼ全量を占める。LCDは台湾と韓国が世界シェアの8割を占めているが、技術開発では日本が主導権を握っている。また、米ディスプレイサーチ社はLCD、PDP、有機ELを合わせたFPDの市場規模を、売り上げベースで2008年には900億ドルに達すると予測。今後の市場拡大は確実視されている。
次世代技術を巡る熾烈な開発競争で人材ニーズが急増
 商品単価の高いFPDは、家電メーカーにとって非常に魅力的な分野だ。FPDの多くはホームシアターやデジタルハイビジョン受信を主眼としたハイエンドモデルという位置づけであるため、価格競争力だけでなく、性能の高さが売れ行きを大きく左右する。
 FPDベンダーはPDPやLCDの高性能化、さらには有機ELやFED(フィールドエミッション・ディスプレイ)など、次世代FPD技術で主導権を掌握するために、研究開発投資を活発に行っている。このため、FPD関係のエンジニアは常に不足気味であり、人材確保が企業の至上命令となってきた。最近では経験者採用が難しくなってきたため、FPDに直接携わっていなくとも、関連技術の経験があれば採用するケースも増えてきた。
 デジタル家電の花形ともいえるFPDの世界。企業の開発意欲がこのうえなく高まっている今が、転職に絶好のタイミングといえるだろう。
  フラットパネルディスプレイの世界市場推移予測
PART2 FPD関連企業が語る先端技術とエンジニアニーズ
転職を考えるエンジニアにとってFPD業界は、求められるスキルが多彩であるという点で、非常に魅力的なものだ。実際にFPDや周辺設備の開発現場では、どのようなエンジニアが求められているのだろうか。
松下電器産業 PDPディスプレイ「ビエラ」高い技術力で「闇夜のカラスの影」が映るブラックを追求
PDPの映像品質競争はこれからが本番
「PDPはここ数年で性能が大幅に向上したといわれていますが、画質の向上は、実はこれからが本番なんです。2000年ごろのPDPと現行商品では画質に雲泥の差がありますが、3年後の商品と現行商品も、同じような性能差が出ると思いますよ」
 松下電器のPDP「ビエラ」の開発を手がけてきた、テレビ高画質技術開発センターの猪原静夫所長はこう語る。PDP、LCDはFPDとひとくくりにされるが、実際には両者の製品特性はかなり異なる。
 LCDは低消費電力・小型軽量という特性があり、中・大型テレビの代替技術として有望視されている。一方、ホームシアター向けなどの大画面・高画質FPDとなると、俄然PDPの存在感が大きくなる。自発光式のPDPはバックライトを液晶でマスキングするLCDに比べて、特に暗部の表現力で優れている。画面の反応速度やにじみの少なさも特徴だ。
 松下電器はPDPの量産化では後発組だが、ここ数年で急速にシェアを伸ばし、2005年には世界生産150万台と、韓国のサムスンを抜いて世界首位をうかがう勢いである。躍進の原動力となったのは、「闇夜のカラスの影がわかるくらいの暗部描写を目指した」(猪原氏)というほどの高画質へのこだわりだ。
「ビエラ」の最新モデルは、入力ゼロの闇から真っ白まで、2048階調の制御を可能としている。これは最新のデジタル映画の10bitを超える11bitに相当する性能だが、本当に大切なのは、そうした数字に表れない表現力だという。
「人間の目は、暗闇について特に敏感です。2048階調のうち、入力ゼロの完全な闇と入力1の微小な明度の差をどれだけ小さくできるかが、画面の表現力を大きく左右するのです」
エンジニアには「匠の技」を支えるスキルがほしい
 PDPの性能は階調や表現可能な色数で語られることが多い。だが、本物の高画質を追求するには、繊細なチューニングにこだわる必要があるのだ。PDPの構造はメーカーによる大きな差はないため、高度なチューニングを受け入れるPDPには、制御や材料、パネル構造といった要素技術を、徹底的にリファインしていく必要がある。
「そういう作業は先端技術開発とは趣を異にするものです。ノウハウ勝負という点では、まさに『匠の技』と呼ぶべきものです」(猪原氏)
 PDP開発を目指すエンジニアには、リファインにこだわる姿勢がまず問われるのである。言い換えれば、こだわりを捨てないエンジニアに対しては、PDP開発の経験がなくとも、門戸が開かれる可能性もあるということだ。
「PDPの中核技術はパネル構造と放電制御です。そこには当然材料、プロセスも含まれていますから、それらの経験があれば、PDPそのものの開発経験がなくてもできると思います。回路ではデジタルとアナログの両方に経験があると強みになるでしょうね」
 もう少し細かく見ると、材料では保護膜材料やガラス材料、誘電体などの経験が有用。プロセスでは厚膜や熱プロセスの経験がパネル製造に生きる。回路では大電流、大電圧、MOSトランジスタの経験があると有利だ。デジタル信号処理ではLSI設計、特に機能開発、アルゴリズムに踏み込んだ経験があれば重宝される。
「ビエラ」の映像品質を限りなく天然映像に近づけたいと語る猪原氏。彼は求められるエンジニア像についてこう締めくくった。
「技術動向によってPDPは、今後30年以上確実に続く分野。小手先ではない、本物の独自技術、キーデバイスを作り上げてやろうという志をもつことが、PDP開発にはいちばん大切だと思います」
「ビエラ」の最新モデルは明暗で2048階調、発色で36億色のスペックを誇る。だが、さらに大切なのは「スペックに表れないチューニング」
猪原静夫氏
松下電器産業株式会社
 AVCネットワークス社
映像・ディスプレイ
 デバイス事業グループ
テレビ高画質技術開発センター 
所長 猪原静夫氏
松下電器産業のPDP開発で求められる職種
アルバック 液晶ディスプレイ製造装置 LCD産業を支える「真空技術」で世界シェア8割
LCD製造装置を進化させ、有機ELにも挑戦中
 薄型軽量、低消費電力という特性から、中・大型テレビの代替需要が期待されているLCD。ただし、その難点はコスト高だ。理由は製造に手間がかかることで、特に大型パネルとなると、液晶をガラスパネルに均質に封入すること自体が難しくなる。LCDの大型化、コストダウンのカギを握るひとつは、製造装置の進化である。
 アルバックはLCD製造装置の最大手企業。半導体製造装置を得意としていた同社は、90年代に半導体と製造プロセスが似ているLCDのスパッタリング装置に拡大展開し、現在に至っている。世界シェアは実に8割に上り、アルバックの技術開発がLCDの命脈を決めているといっても過言ではない。近年では有機ELの成膜装置も開発し、有機EL液晶の量産技術の確立にも挑戦している。
SMD-Xシリーズ
ZELDAシリーズ
LCD製造装置である枚葉式スパッタリング装置の「SMD-Xシリーズ」は、1100mm×1300mmのマザーガラスに対応
世界初の有機EL製造用真空蒸着装置「ZELDAシリーズ」は、基板導入から封止までの一貫自動システム
薄膜経験必須だが機構設計や電気にもチャンス
 LCD製造装置開発のコアスキルは、真空技術を使った薄膜関連だ。イオン注入、パターン形成用スパッタリング装置、低温ポリシリコンTFT LCD用薄膜形成装置など、同社の主力商品の多くがこのスキルを要求する。
「薄膜の知識がないと、製造装置の仕様そのものを決めることができません。いちばん重視されるスキルですね」
 第1FPD事業部長の末代政輔氏はこう語るが、LCD製造装置の開発に薄膜の経験が必須というわけでもないという。LCD製造装置はオートメーション化されており、そのシステム自体の設計では、真空装置以外の分野の知識を生かすことも可能なのだ。
「LCD製造装置の機構設計はこれまで、物理系や化学系のエンジニアが担当してきました。そのため、真空を制御するロボット部分の機構設計については、今後も改良を重ねていく必要を感じています。その部分の良しあしで信頼性が決まります」
 機構設計、電気・計装設計、ロボットなどの経験があれば、製造装置の改善対策や性能向上という形でLCD業界にかかわることは、十分可能だという。なお、現在はLCDの実装は薄膜のパターン形成が主流だが、液晶用配向膜をインクジェットで行うといった、成膜に関する新技術の模索がさかんに行われている。
「今後は制御系のエンジニアが、プロセスの手直しで活躍できる可能性が十分にあります」
 LCD業界の影の立役者ともいえるLCD製造装置開発。エンドユーザー向けの商品開発とは別の意味で、大いにやりがいのある分野である。
アルバックのLCD製造装置で求められる職種 末代政輔氏
株式会社アルバック
FPD事業本部 第1FPD事業部
事業部長 末代政輔氏
PART3 未経験者にもチャンスが広がる膨大なエンジニアニーズ
FPDに関連したエンジニアニーズの特徴は、多くの業種と職種にわたって展開されていること。近年では、異業種や異職種からの転職者も増えているという。それでは、実際に求められているスキルとは何か。
大型FPDから小型液晶までFPD全般で続く「売り手市場」
 好景気に沸くFPD業界では、将来に向けた投資の意味もあり、エンジニアの積極採用が相次いでいる。リクルートエイブリックのキャリアアドバイザー、池田一知氏は次のように語る。
「FPD関連の人材ニーズの中心はPDPとLCDの二本立てですが、どちらも近年、継続してエンジニアニーズが高いです。特に求人が多いのは、技術革新の頻度の高さや汎用性という点で一歩リードしているLCDですね。携帯電話用の小型ディスプレイメーカーなども業績好調で、求人件数は高止まりの状態です」
 注目すべきは、エンジニアに求められる経験のハードルが、下がり始めているということ。エンジニアの転職は、業績不調の企業から好調企業へという流れで起こる場合が多いが、
「FPD業界はどの企業も業績好調であるため、転職市場に経験者がほとんど出てこない。そこで募集する側は、スキルや年齢制限など応募条件の基準を緩め、同時に経験職種や業種の間口も広げているのです」
多彩なスキルを受け入れる技術的すそ野の広さ
 FPDの未経験者は、従来であれば採用される可能性は低かった。しかし、現在はFPDと共通性の高い技術をもつエンジニアが、一定水準以上のスキルを保有していれば、採用されるケースが増えているという。
「半導体デバイスの設計エンジニアなら、LCDや有機ELディスプレイの、周辺回路設計や開発者として転用できます。また、半導体デバイスの不良解析や評価に強いエンジニアや、プロセスエンジニアなら、FPD未経験でも採用する企業はあるでしょう」
 もちろん画像処理回路などのデジタル信号処理、アナログ回路、高圧パルス回路、光学評価、材料解析、放電解析、電源など、FPDのコア技術をもつエンジニアならひっぱりだこ。ただし、デバイスの設計レベルについてはFPGA、データアレイ程度だと弱く、ASICの特に上流経験があれば十分にアピールできる。
 また、FPD本体のメーカー以外、すなわちガラス、高分子材料、フィルム、LCD検査装置などを手がける企業に目を移すと、選択肢はさらに広がる。特に材料系はPDP、LCD向けを直接手がけている人材が転職市場にほとんどいないため、第2新卒者や未経験者にとっても狙い目だ。FPD関連のエンジニアニーズは当分止まりそうもない。
池田一知氏
株式会社リクルートエイブリック
キャリアアドバイザー
池田一知氏
FPD関連の各分野で広がるニーズ
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
FPDの話をすると出てくるのが、LCD、PDP、最近では有機ELを加えた「それぞれの長所と短所」。画質から、視野角、消費電力、製造コストまで話題は尽きません。この理由は、技術的に未確定な要素が多く、今後の可能性が大きいためだと思います。この分野、エンジニアに期待大です。

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