3年後には
平均来場者数を1万人にしたい

一人の熱狂的なサポーターだった女性が、1年後にJリーグクラブの幹部として働いている。
劇的に人生が変わった江藤さんに、転職のきっかけから今の仕事内容までを聞いた。

——写真売買アプリのSnapmart(スナップマート)を開発されて、2018年3月まで運営会社の代表取締役をなさっていました。どんなきっかけでJリーグの栃木サッカークラブ(SC)へ転職されたのですか。

「スナップマートが軌道にのって、いまの役割は私じゃなくてもいいかなと常々感じていました。だから自分が誘ったCOOが会社から独立したタイミングで私も辞めようと思ったんです。次はすぐに就職というよりは、フリーランスでSNSコンサルや以前やっていたライターをやろうかなと。そんなときにFC今治の人材募集広告を見て、応募したらけっこういいところまで残りました。それが最初のきっかけです」

——なぜ前職のIT業界とはまったく異なるスポーツ業界に?

「ずっとJクラブのサポーターだったのですが、これまではどうやればあのクラブに入って働けるのか、まったくイメージわかないくらい遠い存在でした。働きたいと思ったこともなかったんです。方法がわかったのは、その募集広告が初めてで、しかもどうやらサッカー経験者やスポーツ業界経験者ではないビジネス人材を欲しているらしい。そこで他の募集でしたが、下の方に小さな文字で幹部登用もありと。もしかしたらと思って応募しました」

——入社を決断された決め手は?

「社長の橋本です。栃木SCのフィロソフィーを掲げて、100年後も続くスタイルのあるチームをゼロから作りたいというビジョンに共感しました。自分もそこに携わりたいと思ったのが一番の理由です。42歳と若くて柔軟性もあり、私のようなマネジメントしづらい人間もうまく働かせてくれるかなという印象も大きかったです」

——転職活動するなかで、スポーツ業界にご自分の活躍の場があるという手応えがあったのでしょうか。

「2つ軸があります。1つはマネタイズ。キャリアのほとんどで立ち上げのフェーズをやってきました。ゼロからイチにするところは得意だと思っています。例えばここで、サッカーの興行とは別の新規事業をやる。ガイナーレ鳥取さんは、Shibafull(しばふる)という事業をやってらっしゃいますが、ああいったことを自分もできるのではないか。もう1つは20年ほどやってきたサポーター目線でクラブが改善すべき点を指摘することができる。それを実現していきたいという思いです」

——ご家族やご友人の反対はありませんでしたか。

「まったくないですね。むしろこんなチャンスはめったにないからと背中を押されました。普通は家族に反対されたりするんですよね? 私も代表を務めていたとき、スタートアップに人を誘うと、だいたい本人の奥さんに反対されました。そんな小さい会社に行ったらだめだ、失敗したらどうするのだと。それを説得して来られる人は、おそらく日頃から家族とコミュニケーションを取れているのだと思います」

仕事と私生活の境目がなくなった。

同じことをやっていてはダメだと思った

——では、いざ入ってみたスポーツ業界は、以前とどんな違いが?

「働き方という観点では、仕事と私生活の境目がよりなくなりましたね。以前は平日に仕事して、土日にサッカーを観に行っていました。サッカーを観に行くのが仕事になったので、いつが仕事でいつが私生活なのかわからない。家に帰ってダゾーンで観るのも仕事であり、趣味でもある。境目がないのは、たぶん他のスポーツ業界の人たちにも共通した傾向かなと思います」

——その変化はご自身に合っていましたか。

「私はこういう働き方が好きです。朝9時から夕方5時までの仕事で、それ以外ときっちり分けるよりは、本当に自分がやりたいことを24時間ずっとやっているほうが好き。だからすごく楽しいです。いま働き方改革が叫ばれていますよね。裁量のない仕事、やらされ感のある仕事だと、確かに長時間労働で人は病むと思います。でも自分でいろんなことを決められる仕事であれば、それで疲れることはない。少なくとも私の場合はそうです。いまは本当に楽しいですし、いい仕事に就いたなと思っています」

——栃木SCではマーケティング戦略部長というポジションに就かれました。具体的にはどのようなお仕事をなさっていますか。

「いま見ているのはチケットやグッズなど『BtoC』の部分ですね。大まかに言いますと、ある人がサッカーを観に行こうと思ったときに、チケットを買って、スタジアムに行って、家に帰ってくるまで、その道筋でボトルネックになるところを取り除く仕事です。買い方がわからない、行き方がわからない、なにを着ればいいかわからない、そういったネックを解消して、また観に来たいなと思ってもらえるような環境作りです。例えばチケット販売では、雨の影響を少しでも避けられるようにシーズンパスポートと当日券の価格設定を調整しています。サッカーは天気やカード、その時の順位など変数が多くて、データ活用も一筋縄ではいかないですが」

——強みを生かされているわけですね。

「私が来る前から様々な部分が改善され、下地は作っていただいていました。しかし、どうしてもリソースが足りずにできないことがあります。そこでITの力を使えば解決できる点を変えているところです。例えば、フロントスタッフの1日のスケジュールは、朝礼で伝えたり、ホワイトボードに書いていましたが、いまはサイボウズを入れて全部見える化しました。対面しなくてもコミュニケーションを取れるようチャットツールのスラックも入れています」

次のページ : 他業界からの転職が有利だと思う。