大沢直喜さん （仮名・35歳）
	システム開発会社3社で人材採用と研修、教育の経験を積み、人事職として4社目の転職を果たすが、旧態依然とした組織体制に合わず5カ月で退職。失業期間に突入してすでに10カ月が経つが、なかなか書類が通過せず、面接に至っても内定はつながっていない。
	・経験がフルに活かせるのは当然人事職だが、経験にピッタリ合う求人が少なく、未経験でもOKの教育系や接客サービスなどの職種にも応募している。でもなかなか書類が通らず、せっかく進んだ面接でも面接担当者の反応が総じてよくない。 ・ブランクはそろそろ10カ月に。以前は3割程度だった書類通過率が、ここ最近は15％を切るように。とにかく早くどこかに就職しなければ！と焦る日々。

新卒でシステム会社に入社し、新卒採用と内定者研修を担当。後に、親会社に転籍となり、グループ全体の教育体系作りに携わりました。その後、ベンチャー系のソフト開発会社に転職して採用と研修を担当しました。

グループ全体の教育体系作りとは、すごいなあ。グループでどれぐらいの規模だったのですか？

グループ会社は30社ぐらいで、社員数は全体で約3000人でした。その教育体系を、私と上司2人で作りました。

それはすごい！そういう数字は応募書類に書いたほうがいいですよ。大変そうですが、いい経験をされましたね。

でも、いずれの会社も企業規模は大きいものの比較的新しい会社で、自由にやれる楽しさはありましたが、いかんせん忙しすぎて。歴史があり安定感のある会社で腰を据えて仕事がしたいと思い、再び転職に踏み切ったのですが、わずか5カ月で退職してしまいました。それ以来、転職活動を続けているのですが、もうブランクも10カ月になってしまいました。

そうなんですか。なぜ5カ月で？

業務フローが完全に固まっていて、意見やアイディアが全く通らないんです。組織自体、旧態依然としていて、「出る杭は打たれる」社風。今まで裁量を与えられてバリバリ仕事していたので、どうしてもこの社風に合わず、辞めてしまいました。

書類通過率は今、どれぐらいですか？

以前はだいたい30％ぐらいだったのですが、ここにきて15％以下に落ち込んでいます。ブランクの長さが影響しているのでしょうか？

その可能性はありますが…。では、応募しているのはどんなところですか？人事が中心？

いや、いろいろですね。人事はもちろんですが、異職種にも積極的に応募しています。児童福祉に興味があるので、関連する福祉系の職種や教育関係、未経験歓迎率が高い接客サービス業が多いでしょうか。これ以上ブランク期間を延ばしたくないので、未経験OKの求人には幅広く応募していますね。

（応募した企業のリストを見ながら）ほー、バラバラですね…。

はい（苦笑）。本来ならばIT系の人事が一番ストレートに経験を活かせるのでしょうが、手がけてきたのが採用と研修中心で、労務や給与の経験がないので、応募できる求人が少ないんですよ。…でも、こうやって応募リストを見ていると、改めて「自分の軸ってものがないなあ」と思います…。

視野を広げるのは決して悪いことではありませんが、「この経験を活かしてこれがやりたい！」という明確な意思がないと、気持ちがぶれてしまい、それが面接担当者に伝わってしまうものなのです。もちろん、応募書類の段階でも同様ですよ。

うーん、確かに…。サービス関係でいくつか面接に進んだのですが、初めは好感触でスタートするものの、やり取りするうちにどんどん面接担当者の表情が曇っていくんですよね。で、落ちてしまうという。

おそらく、大沢さんの「気持ちのブレ」に気づいたのでしょう。失業期間が長くなると、とにかく再就職を！と焦りがちになりますが、まずはご自身の軸を明確にすることが先決です。

先ほど大沢さんは「軸がない」とおっしゃっていましたが、キャリアの大きな軸は明らかに「人事」です。レジュメを拝見し、お話をうかがったところでいえば、さらに軸は3つに分けられそうですよ。1つ目は採用業務、2つ目は人材教育・研修、そして3つ目は人事総務系。

確かに（苦笑）。そういう求人もチェックしてみます。…前職を5カ月で辞めたことって、書類や面接でどう伝えればいいと思いますか？正直、旧態依然とした組織に全く合わずに、半ば体を壊しかけて辞めたという感じなのですが。

言い方は工夫したほうがいいでしょうね。今までのお話から考えてみると、例えば私なら「成長期の3社での経験をベースに、新天地で仕事にまい進するつもりだったのですが、社員の意見やアイディアがなかなか通らない社風でした。そこに入社して初めて、私はまだ組織が固まり切っていない会社でこそ力を発揮できる、と気付いたんです」と説明するかな。自身の志向に気づいたから…とすれば、短期間で辞めたことも筋が通ります。この言い方は、ベンチャーや中小企業に応募するとき限定ですが。

なるほど…。

前の会社は意見が言えず、ご自身が求めていた環境ではなかった…とおっしゃいましたよね。ということは、やはり以前のように忙しいながらも裁量があり、アイディアが活かせる職場が合っているということなんでしょう。その気づきを、先方に素直に伝えればいいと思いますよ。

そう言えばいいのか。すっきりしました！

こうやってお話ししていると、大沢さん、営業でも力を発揮できるような気がするなあ。笑顔が柔らかくて、とても温厚そうなイメージ。第一印象がとてもいいんですよ。対人能力や調整力も鍛えられているし、会話のキャッチボールも上手です。例えばルートセールスとか代理店向けの渉外担当とか、既存顧客と長く信頼関係を築くような営業ならば、活躍できるのでは？どうですか、選択肢に加えてみては。

営業ですか？今までの経験が営業職でどう活かせると伝えればいいんでしょう？

あくまでも一例ではありますが、先ほどの退職理由がそのまま使えると思いますよ。前職では意見やアイディアを言える環境になかった、だから自分の裁量で顧客対応ができる営業の仕事に興味を持ち、挑戦したいと思った…と。あとは、未経験職種の場合は何でもそうですが、「未経験からでもやり切る！」という"腹決め"を見せることです。

うーん、それが難しいんですよね。面接で「本当にこの仕事できますか？」と問われると、未経験だし、自信を持って「できる」と言い切れなくて…。

気持ちはわかりますが、そこは言い切らないと！未経験なんだから、入社してみなければ本当のところはわからないなんてことは、企業側は百も承知ですよ。だからこそ、覚悟のほどが知りたい。やれる？と聞いて迷う人を、採用するはずないですよね？採用担当者だったんだから、わかるでしょ（笑）。

確かにその通りですよね（苦笑）。わかっているはずなのに、自分のことになるとどうも自信を持てなくて。

そんなときは、「何でこの仕事に応募しようと思ったのか」を考え、掘り下げていきましょう。○○の経験が活かせそうだから、△△の知識があるから、××業界の人脈があるから…などと、具体的に落とし込んでいくんです。そうやって整理しておけば、臆せずかつ具体的に、思いを伝えられますよ。

確かに、考えてみれば異業種への志望動機は、表面的なものばかりだったかも。漠とした思いはありましたが、掘り下げていないから腹落ちしていませんでした。

腹落ちしていないと、迷いが表情に出てしまうものです。応募の前には「なぜ？何で？」と自分に問うくせをつけてくださいね。

EDIT

伊藤理子

DESIGN

マグスター

ILLUST

もりいくすお

PHOTO

TAKE

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