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SSDでも世界トップを目指せ!
東芝・大船、SSD開発の現場
NAND型フラッシュメモリを搭載し、ノートPCやサーバのストレージとして用いられるSSD。従来のHDDを置き換える勢いで急速に世界市場が伸びている。NANDの発明者としてSSDビジネスにも自負を持つ東芝。その戦略を支えるエンジニアの技術とは何か。大船で話を聞いた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/伊藤理子 撮影/中川良輔)作成日:14.06.25
NAND型フラッシュメモリを深く知るからこそ可能な、SSDコントローラの開発

 自らその技術を発明し、デバイスの設計からプロセス開発、製品化に至るまで一貫してNAND型フラッシュメモリに関わる東芝。その応用技術であるSDカードやSSD(solid state drive)、ハイブリッドHDDなども自社ブランドで製造している。半導体素子からメモリ・ストレージへ至るその垂直統合力は、東芝グループの成長を支える屋台骨の一つだ。

 今回はこのなかでSSD技術にフォーカスし、そこにおける技術者の役割を紹介してみたい。

 JR大船駅の近くにある東芝セミコンダクター&ストレージ社の大船分室。ここにメモリ事業部の「cSSD技術部」が置かれている。
 東芝のSSD事業は、当初はノートPCなど民生用のクライアント向けSSD(cSSD)からスタートしたが、大容量かつハイスピード、高信頼性のSSDを追究することで、現在ではデータセンターなどのエンタープライズ向けにも市場を拡大している。

「NANDを応用してハードディスクをすべて半導体で置き換えようという発想からSSDは生まれました。ただ、単に箱の中にメモリ素子をセットすればいいというものではない。NANDのチップそのものにもそれぞれ個性や特徴があり、それを使いこなすにはさまざまなノウハウが必要です。NANDを発明した東芝だからこそそれができる、という面もあるのです」
 と、東芝のSSD事業について語るのは、cSSD技術部SSD開発担当の近藤仁史主幹だ。

近藤 仁史氏
東芝セミコンダクター&ストレージ社
メモリ事業部 cSSD技術部 SSD開発主幹
近藤 仁史氏

 NAND型フラッシュメモリ自体、大容量化に向けた微細化技術はとどまる所を知らず、現在東芝四日市工場で量産される製品のプロセスルールは19nm(ナノメーター)。これが近いうちに15nmに置き換えられようとしている。

「微細化技術が進めば進むほど、信頼性やデータ転送速度をどう担保するかという新たな問題が生じてきます。この処理を行うのがコントローラ技術。コントローラは、不良ブロックの管理、エラー訂正、論理物理アドレス変換、書き換え回数の平均化などの処理、あるいは低消費電力化のためにもなくてはならない技術なのです」

 主にクライアント向けSSDについて、SSD装置の設計に始まり、コントローラSoCの設計、ファームウエア開発、最終評価から量産立ち上げまでを一貫して推進するのが、cSSD技術部の役割ということになる。

 特にコントローラ開発で欠かせない要件は、「いかに細かくNANDを知っているかに尽きる」(近藤氏)。
「どういう使い方をすればNANDメモリのパフォーマンスと信頼性を高めることができるのか。ユーザーからの要求に応えるために、メモリ開発者とコミュニケーションしながら、私たちは“生きた技術”としてコントローラを作り上げなければならないのです」

SSDビジネスでフラッシュメモリメーカーの存在感が拡大

 東芝が打ち出す中期経営計画のキーワードは「創造的成長」。なかでもセミコンダクター&ストレージ社を含む電子デバイス事業グループでは、サーバ、ストレージにおけるフラッシュ化を担う柱の一つとしてSSD事業の拡大を重点目標に掲げている。

 その背景には、世界のSSDビジネス市場の変化がある。2010年ごろまでマーケットには、NANDフラッシュメモリメーカーだけでなく、比較的規模の小さな独立系のメーカーが作るSSD製品も多数存在していた。

 しかしその後SSD市場が成長するにともなって、メモリメーカー自らが、自社開発のSSD事業を強化したり、独立系のSSDメーカーを買収する形で市場シェアを伸ばすようになった。東芝が今年初め、リテール販売やデータセンター用SSDに強みを持つ米OCZ Technology社のSSD事業を買収したのも、SSDビジネスの世界的再編を意識してのことといわれる。

「これまでは、外からフラッシュメモリやコントローラを調達して組み立てるセットメーカーにもSSDビジネスは可能でしたが、今はNANDメモリメーカーが垂直統合的に最終製品まで開発するという傾向が強くなっています。そうしないと、ハイスペックなユーザーからの要求にこたえ切れないということが、だんだん見えてきたからです」
 と解説するのは、メモリ事業部cSSD技術部の今宮賢一部長だ。

 SSDビジネスはメモリメーカーにとっても有望であり収益性の高い市場。メモリメーカーにはセットメーカーにはない技術的アドバンテージもある。となると今後はこの領域でも、日韓米のNANDフラッシュメーカーの競争がさらに熾烈になることは十分予想できる。

 残念ながらいま東芝は、国際的なマーケット競争ではライバルメーカーの後塵を拝している状況だ。昨年度は1つの記録素子に3ビットのデータを記録することで大容量化を実現する「TLC」技術のSSDへの投入で出遅れた。
「しかしこの技術も東芝が世界に先駆け開発したものです。SSDでは性能と信頼性を確保するための時間をかけ、慌てて製品化しなかっただけ。もう少し待っていただければ、われわれも近いうちに新しい技術を投入しますよ」  と、今宮氏は次の手を考えているようだ。

「SSDはこれからますます伸びていく事業。社内の中で成長分野に人を集めるのはもちろんだが、外からも広く人材を求めたい。優秀な技術者を外部から採用して事業基盤を強化し、世界トップの座を奪うというのが、私たちの当面の戦略だ」
 決して技術開発で遅れを取っているわけではない。しかしその技術を市場の急速な動きに合わせてスピーディーに展開するため、大船の技術者たちを叱咤激励する役目が、今宮部長にはある。

今宮 賢一氏
東芝セミコンダクター&ストレージ社
メモリ事業部 cSSD技術部 SSD開発
部長 今宮 賢一氏
ユーザー視点、マネジメント経験、深掘りした技術──キャリア採用エンジニアに求めるもの

 世界トップを目指すうえで、東芝のSSD事業の強みは何だろうか。あらためて聞いた。

「NAND開発とコントローラ開発が近いところで協業できるところが最大の強み」というのは、近藤氏だ。
 NANDはいま半導体テクノロジーとしては最先端をゆく分野なので、デバイス開発者にとっても予測できない問題が日常茶飯事のように発生する。その歩留まりや収益性をいかに上げるかは開発現場の最大の課題だが、コントローラの性能を高めることで、その課題を解決することもできる。いわば、メモリとコントローラは相補的な関係にあるのだ。

「次のNANDではコントローラでこういうことやってもらいたい、という情報がすぐ入ってくる。所内のちょっとした立ち話でも情報が共有されている。NANDメモリの開発を経て、コントローラ開発に移る、あるいはその逆など、人的な交流も活発です」

 ただ、これから強化しなければならない部分もある。

「東芝はNANDを自分たちで作っているし、それをコントロールする技術も他社に負けないものを持っている。とはいえ、スタートは半導体屋。SSDという小規模ながら『システム』を作るためには、それなりの新しい知見が必要です。例えばPC側でSSDをどう制御するのか、HDDなど従来のストレージで可能だった技術をSSDにも実装するにはどうしたらいいのか、どの機能をハードで、どの機能をソフトで実現するか、といったアーキテクチャ・デザイン。性能と信頼性に加えて、低消費電力をどうやって実現するのか──そういう分野に関心と経験がある人が来ていただけると、私たちの開発のすそ野やスパンが広がります。コントローラはSoCですので、異分野でもSoC開発経験がある方は活躍できますし、MCUやASICなどのロジック半導体、また、それに関わるファームウェア開発のご経験がある方なら、異分野の知見を活かせます。メモリの知見は入社後十二分に積んでいただけますので、まずは得意分野を持った方にチャレンジいただきたいですね」
 と近藤氏は、今後求めるエンジニアのスキルに触れる。

「その人にしかないような個々の専門技術も必要ですが、それとは別に、技術革新のスピードが速いNANDの特性を全般にわたって知っていただくことも欠かせません。学習の機会はふんだんにありますが、視点が広くないと、なかなか画期的な製品開発につながっていかないからです。すべての人に深く広くを求めるのは難しいと思うが、深く技術を追求する人も、広くプロジェクトをマネジメントできる人も、双方必要、というのが私たちの考え方です」
 と、今宮氏が補足する。
「プロジェクトリーダーやマネジメントをやっていただく方は、過去にも同様の立場の経験がある人が望ましい。広い範囲で技術を見て全体の方向性を決めることが必要。その一方で、例えばコントローラによるエラー訂正技術や高速インターフェース対応など、縦方向に技術を深掘りできるエンジニアも必要」

 つまり、海原の全体を見通して舵を切れるタイプの人と、船倉に降りて自分の専門技術をたえず高めるタイプの人が組み合わさることで、船は初めて前に進むというわけだ。

世界中の人の暮らしを変えてきたNANDへの思い

 今宮氏は、半導体メモリ設計の仕事が長く、社内はもちろん社外でもNAND型フラッシュメモリの専門家として知られている。
「20年にわたって育ててきたNANDは、いわば自分の子供のようなもの。これをどういう形でどういう風に社会に広く提供していけばいいかということを、常に考えています。大好きなんです、このメモリが」
 とNANDへの“愛情”を吐露する。
「NANDとSSDがこれからどう発展していくか、私たちには予測がつかないところもありますが、このメモリを持ってつねに世界の最先端を走っていたいと思っています」

 一方、近藤氏は入社以来長く、RISCプロセッサ、家庭用ゲーム機やデジタルテレビのチップセットなどコンシュマー領域でのロジックLSIの開発に携わってきた。
「7年前にメモリ事業部でもコントローラの開発が不可欠で、ロジックLSI開発者が必要だということになり、ここに飛ばされました(笑)。最初はSDカードや携帯電話用組込モジュールのコントローラを担当し、SSDが事業化されるとそれに専念するようになりました」
 メモリ事業部外からやってきて、いきなり中核を担ったという、やや異色の経歴だ。
「SoCを作るという点では一緒ですが、エラー訂正技術など勉強しなければいけないことがたくさんありました。これから来ていただく方も、自分にとって未知の領域を勉強せざるを得ない機会が必ずあると思います。ただ、この事業部はNANDを応用して世の中を変えるような製品を生み出すという点で意志統一ができているので、迷うことなく仕事に専念できるはず。この団結力こそが最大の魅力かもしれませんね」  と語る。

「NANDとSSDで世界の情報革命を支え、人々のライフスタイルを変える」──二人から幾度となく語られた言葉が印象に残った。その“野望”実現は、これから転職するエンジニアの手にかかっているといっても言いすぎではない。

東芝セミコンダクター&ストレージ社 メモリ事業部 cSSD技術部 部長 今宮 賢一氏

1986年入社。半導体技術研究所で不揮発性メモリの設計に従事。1992年以降はNAND型フラッシュメモリの設計に携わり、2006年メモリ事業部ファイルメモリ設計技術部長、2007年四日市工場ファイルメモリ製品技術部長、2011年メモリ事業部フラッシュカード技術部長などを経て、2013年より現職。

東芝セミコンダクター&ストレージ社 メモリ事業部 cSSD技術部 SSD開発主幹 近藤 仁史氏

1983年入社。集積回路事業部でLSIの開発に従事。マイクロプロセッサ、家庭用ゲーム機やDTV用チップセットを開発。1993〜1995年米国現法に駐在し、SGIとの超高速RISCプロセッサ開発PJに参画する。2007年にメモリ事業部に異動、NANDシステム技術部部長を経て現職。

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