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IT業界ではおなじみの、複雑な下請け構造。今回は、複数社が間に入っている“三次請け”の案件に携わったエンジニアに、その仕事内容や特色を聞いてみた。
(総研スタッフ/タニー只野 イラスト/入江久絵) 作成日:14.1.22
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IT・Web系で常態化している下請け構造。上流から離れれば離れるほどプロジェクトのタスクは細分化されるので、業務内容も課題も上流工程のエンジニアとは異なってくる。プロジェクトの全体像や目的が把握しにくい状況で開発を行い、時には悩ましいオーダーに対しても、ガリガリと現場でソースコードを書いて何とか仕上げるIT職人といった印象があるが、実際はどうなのか。
今回、Tech総研では、三次請けの案件に携わってきたIT・Web系エンジニアにアンケートを行い、三次請け開発現場について聞いてみた。三次請けならではの「あるある」エピソードとは。

特に大規模プロジェクトの場合、複数の企業が絡み合って開発は進行するもの。普段は冷静に発注元の名刺を持って立ち振る舞うエンジニアも、あまりに複雑化すると立ち位置がなんだかわからなくなることも…。

・お客さま先での常駐がほとんどで自社の名刺は配ることがまずない。案件によっては、どこの会社から指示を受けて仕事をしているのかわからなくなることがある。
・基本的に自分の会社名を名乗ってユーザーと接する機会がないため、スーツの襟に付ける社章を新しい現場に初日付けていくと上司から外すように注意される。三次請けの場合、親会社から二次の会社名で呼ばれるが、二次と自社の間に複数の会社が絡みすぎて実際は何次なのか不明。
・客先で作業を行っているため、自社に対しての帰属意識が薄い。また、そもそも自社にいることが少ないため、自社内の知り合いが少ない。
・名刺は「忘れました」でやり過ごすのだが、メールアドレスが自社のドメイン名なので、なぜほかの人とアドレスが違うのか聞かれて困ることがある。 |
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・元請け、二次請けの都合でスケジュールやスコープがころころ変わる。情報が下りてくるのが遅いのに、作業は緊急を要する場合がほとんど。
(金融系システム開発 36歳 男性)
・進捗状況を正しく伝えて、スケジュールがタイトな状況であることを進言しても、客先の変更要望などを無理やり押し込められてプロジェクトが最悪な方向へ進みだすことが多い。
(Webアプリ保守・改修 39歳 男性)
・フロント側の事情や意向がタイムリーに伝わってこず、結果的にほとんどが緊急対応となってしまう。金曜日の夜に電話がかかってきて、「今週中にデモ画面を作ってほしい」と言われたこともある。
(販売管理システムの設計、開発、運用 37歳 男性)
・突然のスケジュール変更が何度もあり、結局どのスケジュール表が正しいのかさえわからなくなることが。
(汎用機系システム開発 27歳 女性)

・三次請けになると、お客さまとお会いすることができず、二次請けの言われるがままに対応しなければならない。なので、二次請けの担当者がお客さまの意向を理解していない場合、内容がひっくり返ることがよくある。
・上の方のひと言で開発仕様が簡単に覆る。それでもスケジュールの終わりは変わらないため、極端に忙しくなる場合がある。
・お客さまとの交渉はまずなく、自分の名刺がなくなることはない。お客さまの顔が見えないのが三次請けの特徴だと思う。
・納期や仕様などがことごとく伝わってこない。ばかばかしいくらいの伝言ゲームっぷりに呆れ返り、PCの前で独り大笑いしたことがある。 |
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上流工程が頼りないと、しわ寄せを受けるのはその後の工程を受け持つエンジニアたち。もちろんプロジェクトを放り出すこともできず、担当する業務はだんだん川を上る鮭のように上流へ…。

・一次請け、二次請けと、段々と情報が下りてくるため、われわれが情報を知った時にはスケジュールが厳しい状態になる時がある。それどころか、情報が下りてこないことも多々あるため、情報が来ないことを前提とした三次請け独特の課題管理手法が確立されている。
・本来、仕様を把握しているはずの二次請け担当者が次々に外れていき、最終的に三次請けの人間で仕様調整をしていた。
・プロマネが週単位で交代すること複数回。最後尾にいた三次請けの自分が最終的にプロマネ。言い方は悪いが、二次請けがただのブローカーとなっていた。
・パーツの開発なので目的がわからず、かつ変数の意味もわからず作ってたが、実はコアだった。 |
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・炎上プロジェクトのプロマネに三次請けが主体的に参画し、解決したときはある種の達成感があった。炎上した案件への対応はむしろ楽。それ以上悪くなりようがないから。
(パッケージソフト開発 35歳 男性)
・なかなか仕様が確定しないのでこちらから提案したら、それがそのまま採用され、特許が取れそうというところまで話が進んだこと。
(ソフトウェア開発 38歳 男性)
・大企業のシステム管理手法などを見ることができ、いい勉強になった。大規模システム向けの技術面のスキルは大企業のメンバーの方が詳しいように感じたが、業務的なスキルでは専門的にやっている三次請けの自分たちの方が主導権を持っていた。
(業務システムの運用サポート 38歳 男性)
・顧客の要望で一次請けの会社に出向することになり、三次請けの自分の会社に指示を出すようになった。顧客に認めていただいたのがうれしかった。
(汎用系システム改修 33歳 男性)
・二次請けの担当者ではクライアントの意向をつかむことができなかったので、われわれが要件定義からやり直した。結局、その後契約が変更され、自分たちが二次請けになった。
(業務系システムの保守メンテナンス 32歳 男性)

・元請け〜二次請けに業務とシステム特性を理解する方が少なく、結局、エンドユーザとの折衝も三次請け以降の企業が対応することとなったが、発注元と金額面での交渉が必ず発生するので、頭を悩まされる。元請けが提出した見積もり書をエンドユーザから見せられると、システム規模からして桁が1つ多いことがザラであり、言葉に困ってしまう。
・後先考えずに、安値で受注。ライバル会社から仕事を横取りしたのは良いが、始める前から赤字確定。あとは負のスパイラルで、会社が倒産寸前になった。
・プロジェクトの途中、二次請けが破産申請をしたため資金回収できなくなり、所属している三次請け会社に損失が出たとき、自身に給与が支払われるのかと心配になった。
・二次請けから三次請けに発注がきていたが、実は二次請けは一次からまだ受注していなかった。最終的にポシャり労務費でもめた。 |
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特に専門領域ともなると、全く実績のない企業が受注できるはずもなく、業界内では見たことのある企業と人があちこちに。なかには、少し前まで隣の席で同じ案件を担当していたはずの人がいつの間に…ということも。

・設計書、仕様書の内容に関する質疑のやりとりをしても支離滅裂な回答をし、挙句に「プログラミングしたことがないからわからない」と開き直られてしまった。
・二次請けの担当者に、下に業務を回すことしか考えておらず、仕事ができない人がいた。その人を挟んでもよくわからず面倒なだけなので、実際にはいないことにしてプロジェクトを回していた。
・プロジェクトの上位工程の人たちが、全員寄せ集めの業務未経験者だった。
・元請けの社員が勤務中に堂々と転職サイトの閲覧をしていた。それが一人でなく複数人いて、実際にあいさつもなしに退社した人までいた。 |
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・先月末でプロジェクトを退任された方が、翌月には別会社経由となり、再び同じ現場で働いている。
(受注管理システム開発 35歳 女性)
・元請けから仕事が来る時もあれば、間に二次請けが挟まることもあり、二次請けから指示されていても「結局向こうにはあの人がいるんだなー」とか思ってしまう。
(プログラマ、デバッガ 39歳 女性)
・人が辞めたら新しく補充され、の繰り返しでプロジェクトを続けていたら、最初に参画した時とメンバーがほぼ変わっていた。
(Web系システム開発 39歳 男性)
・プロパーだと思っていた人も三次請けだった。もはや人の移り変わりや間に入っている会社が多すぎて、人間関係を把握できない。
(物流システム開発 36歳 男性)

・打ち上げで二次請けの担当者と飲んだとき、「実はこういう会社で」「あの会社はこんなだ」などと、各社の暴露大会になったこと。
・旅費規程も違うし、お金もなかったので飲みに行くことを断ったところ、「せっかくだから」と元請けの年下の社員に奢ってもらう羽目になった。
・三次どころか営業を経由しすぎて五次請けくらいになった現場に行った時のこと。複数の会社のお偉いさんと営業が集まっての忘年会が、宴もたけなわとなったころ、泥酔した一次請け企業の営業さんが、悪ノリとはいえお偉いさんの悪口を何度も何度も叫んでいた。翌日、営業さんが菓子折りを持ってみんなに配っていた。
・元請け、二次受けなどと一緒の飲み会などで、出てくるメンバーにより言えないことがあったり、相手の言うことがまるっきり変わったりするので大変。うっかり仕事のことは発言できない。 |
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最後に、転職意向についても聞いてみた。現在置かれている立場や、受注する案件のバリエーションによって意向はさまざまだ。もし現在、転職を検討しているのなら、今後のキャリアの参考にしてみては。

・三次請けでも、クライアントに信用してもらい、上流工程から携われるようになったから。その信頼を裏切りたくない。
(ソフトウェア開発 38歳 男性)
・三次請けの業務もありますが、一次請けの仕事も来るので、今の会社でもう少し頑張ってみようと思っています。
(受発注システム開発 32歳 女性)
・上流に関わることはできているので、あまり気にしていない。一次請けは仕様だけの頭でっかちになってしまうので、技術をまだやっていたい。
(業務システム開発 38歳 男性)

・収支、労務の管理、システムの全体像を把握できるのは上流工程を担う企業でしか体験できないと思うから。携わったシステム開発全般にいえることだが、元請けは二次請けに丸投げ、二次請けは収支の管理が主業務、三次請負以降の企業が基本設計、実製造をしている現実に違和感を覚える。
(システム開発 37歳 男性)
・給料が安定しない。間が入りすぎて自分の元までにかなり引かれているように感じる。
(客先常駐SE 37歳 男性)
・仕組み化された中で仕事を回すことに面白みを感じない。新しい技術に触れる機会をもっと増やしていきたい。
(組込みソフト設計 27歳 男性)

・クライアントとコミュニケーションを取らないと真の目的がわからず、無駄に工数を使って無駄なものを作って、要らないといわれることがある。企業選びでは、一次請けオンリーの会社に入った。
(システム開発、テスト 36歳 男性)
・プログラム専門のソフトハウスだったので、将来性に不安を感じ転職した。現在は外資系SIで、金融系のユーザ企業のシステム部門にでシステム開発を行っている。
(金融系システム開発 39歳 男性)
・現在は一次請けではあるものの、パッケージシステムの開発・導入を担当という話で入ったのに、実際には客先常駐での保守サポートということで、不満を感じてはいる。
(保守サポート 38歳 男性)

・特に現在において不満はないが、より良い待遇で面白い仕事があれば転職してもいいかとも思っているという感じ。
(スマホアプリ開発 37歳 男性)
・三次請けもあるが、基本的には二次請けで上流工程担当の現在のポジションとしては悪くない。が、給料が低いので条件の良いところがあれば移籍したい願望はある(もののそんな候補も引き合いもないため残留)。
(Web系アプリ開発 38歳 男性)
・一度転職をしたが、あまり変わらない雰囲気であった。ただ、今は全く別分野の仕事なのでよくわからないことも多く、様子見である。
(金融系システム運用 37歳 男性)
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