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年末年始は故郷でトーク!「方言診断アプリ」の開発術

女子大生11人が作った、
   出身地鑑定!!方言チャート

「診断アプリ」はさまざまあるが、夏から話題なのが「出身地鑑定!!方言チャート」。東京女子大学の女子学生11人が作ったアプリで、累計ユーザー数は700万人を超えたとか。もうすぐ年末、里帰りの場で盛り上がること間違いなし!

(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ 撮影/大隅孝之) 作成日:13.12.25

とりあえずやってみて!出身地を鑑定する「方言チャート」


東京女子大学
現代教養学部 国際社会学科
篠崎晃一教授

もうすぐ年末年始の正月休み。故郷に帰って、実家の家族や地元の友人と過ごす人も多いはずだ。そんなときにぜひオススメしたいのが、「出身地鑑定!!方言チャート」。
ネット上に数多くある「診断アプリ」のWebサービスだが、今年8月に公開すると「当たる!」「すごい!」と話題となり、累計ユーザー数は700万人超。Facebookでの「いいね!」は4万、Twitter上でのつぶやきは10万に迫る勢いだ。

「鑑定」はとてもカンタン。『翌日、家に不在の時、「明日、家におらん」と言うことがありますか?』から始まる質問に、「はい」か「いいえ」で答えていくだけ。これを何度か繰り返すと、「あなたの出身地は○○ですね!」と結果が出る。後述のように「東京都を当てるのは難しい」そうなのだが、実は筆者の出身地。一発で当たり、かなり驚いた。

このアプリのキモは、名前のように「チャート」にある。適切な質問をいくつも用意し、YES/NOで進むルートを組み合わせ、47もある都道府県へと導くフローチャートだ。作ったのは東京女子大学現代教養学部の篠崎晃一教授と、篠崎ゼミの11人の女子大生。篠崎先生と、ゼミの3年生である小野梨紗子さん、洞まなみさんに取材した。

出身地鑑定!!方言チャート → http://ssl.japanknowledge.jp/hougen/

大分県と似ている北九州市の方言、「後ろ頭」で解決!


小野梨紗子さん


洞まなみさん


フローチャートの一部

―― そもそもなぜアプリ開発を?

篠崎 方言には「年配者が使う古い言葉」というイメージがありますが、実際には若い人も話していますし、それと気付かずに使っている場合も多い。そして、まだまだ埋もれている言葉もあるので、それらを掘り起こして、地域差などを調べています。

ただ、そもそも方言の区画は江戸時代の藩に基づくもの。現在は都道府県ですから、複数の質問を組み合わせて調査すれば、行政区画に基づく方言分布がわかるのではと考えました。とはいえ、単純なアンケートだとなかなか答えてもらえないので、遊び心のある仕掛けはどうかと考えたのがきっかけです。
これまでの調査に協力していただいた方々に、成果を還元するという意味もありました。ですから、もともとの目的はアプリやチャートの開発ではないのです。

―― いつから取り組んだのですか?

篠崎 昨年から調査を始めて土台を作り、今年4月から本格的にスタートしました。ゼミの学生11人が地域を分担してフローチャートを作り、定期的に全員で調査内容を発表して、情報交換を繰り返しました。ただ、地域は厳密に分けたわけではなく、重なり合う部分もありましたね。
彼女たちがまず行ったのは、ネットやSNSを使った情報収集です。

―― 同じ県なのに、地域によって方言が違うことがありますよね?

篠崎 同じ県でも、ある方言を使う人と使わない人がいるとします。使わない人が「いいえ」と答えると外れてしまうので、そうした人を再び戻すようなルートをいくつか入れています。的中率を高める工夫ですね。

 私は福岡県の北九州市出身ですけど、ここには中国地方と九州地方の方言が混在しているんです。ですので、中国と九州を担当しました。
チャートを作っていくと、北九州市の人は大分県にたどり着く例が多くありました。というのは、北九州市と大分県では方言が似ていて、同じように福岡市と佐賀県では方言が似ているんです。

そこで、最初に北九州市だけで使う方言を質問して、北九州市の人を先に福岡県に飛ばして、福岡市と大分県を残しました。その次に大分県だけ使う方言を質問し、出身地を分けたんです。
ただ、大分県の方言だと思って調べたら北九州市でも使われていたりと、最適な言葉を探すのが大変でした。最後の最後に(大分県で使われる)「後ろ頭」を見つけたときは興奮しました(笑)。ほかの県でも同様のことがあるので、みんなでいろんなルートを作りました。

小野 私は3年生から、フローチャートで全体を統括する部分を担当しました。群馬県出身なのですけど、「方言は訛り」だと思い込んでいたので、群馬県には方言がないと思っていました。
でも、訛りではなく、単語や言葉の意味が違っている方言もあると、大学で東京に来てから気づきました。

―― わかりやすい訛りではなく、単語や言葉の意味が違う?

小野 例えば「起立、注目、礼」です。小学校から高校まで普通に使っていたので、全国区の言葉だと思っていました。「注目」とは「先生に注目」ということですけど、こう言うのは、関東では群馬だけだそうです。質問に入れました(笑)。

―― 東京だと「起立、気を付け、礼」でしょうか。確かに気づきにくいものですね。

篠崎先生推薦の「あおなじみ」、若い人は使わない?




合計9枚からなる110問のフローチャート

篠崎 共通語と語形が同じで意味が異なる言葉も、方言とは気付きにくいものです。アプリの質問にも使っていますが、「しみじみしなさい」は「しっかりしなさい」、「こわい」を「疲れた」という意味で使う地方があります。意味だけが地域特有なので、地元の人たちは共通語だと思いがちなのです。

小野 ですので、質問に使ったのは主に、「地元の人でも方言だと気づいていない方言」です。若い人から年配の方までが、知らずに使っている方言をなるべく集めました。そこが特に難しかったです。

―― 篠崎先生はどちらのご出身ですか?

篠崎 千葉県です。私の出した千葉の方言は一応採用されまして、「あおなじみ」というものです。体を何かにぶつけたときにできる内出血のことで、共通語では「青あざ」でしょうか。

 でも、「あおなじみ」は若い人は使わないんです。ですから、ここで「いいえ」と答えた人は、別の質問で千葉県出身かどうかを確認しています。

篠崎 若い人も使う言葉だと思ったんだけどなあ(笑)。

 その2番目の方言が、「業間休み」(授業と授業の間の休み時間)です。インターネットで見つけたときは「やった!」と思いました。

小野 方言を集めるのには、ネットだけでなくTwitterもよく使いました。例えば「千葉 方言」で検索すると、「これって千葉の方言だと知らなかった」などのつぶやきが出てきて、その言葉を候補にするなどです。次にその単語をTwitterで調べて、プロフィールでその方の出身地を見たりして(笑)。

篠崎 このように情報は集めましたが、正しいかどうかはわかりません。そこで、その方言が本当に使われているのか、どのように使われているのかなどを、その地方の出身者に検証してもらいました。きちんとした検証を経ているからこそ、的中率が上がっているのでしょう。
最終的にはここにある9枚のチャートが完成し、質問は全部で110問になりました。

沖縄は2問でOK、当たりにくいのは東京、富山、佐賀

―― 検証者はどのようにして探したのですか?

 見つけるのが大変だったので、あらゆるネットワークを使いました。それでも島根県と鳥取県は出身の方が少なくて、東京女子大にはいないことが判明しました(笑)。知り合いに紹介してもらうことも多く、会ったこともない友達のバイト先の先輩などを探して、メールで「失礼します。調査にご協力ください……」などと質問しました。

小野 私も友達の友達の友達に聞いたりしました。ゼミのみんなはひとりで50人以上は検証者を探して、質問したと思います。2年のときから続けていますから、全員の延べ人数で1000人は超えていると思います。

篠崎 フローチャートの完成は7月でしたが、その前にメディアに取り上げられたことで目標が定まり、作業も早く進みました。ただ、この前の土台作りの時期が1年4カ月あったことが大きく、この調査期間がなければ、実現できなかったかもしれません。

小野 検証者の方の半数以上が使っていれば、その方言はとりあえず採用しました。その後でチャートに使うかどうかを再検討するのですが、検証していない方言は使いませんでした。

篠崎 リリース前に300人ほどに試してもらったところ、的中率は8割以上でした。しかし、これにはわけがあります。人の言語形成期は3〜4歳から13〜14歳と言われており、この時期にその土地を離れていない人にテストをお願いしたのです。
だから的中率が上がったわけで、親がいわゆる「転勤族」で、子供のころに各地を転々とした人は当たりにくいでしょう。

―― 当たりにくい都道府県というのもありますか?

篠崎 東京都は当てるのが難しいです。影響力のある東京の言葉はすぐ周囲に伝播するので、特徴がなくなってしまうからです。そこで、特徴のなさを特徴にして、回答がすべて「いいえ」だと東京出身となるような消去法にしました。
逆に方言の特徴が強い沖縄県はほかの県と別格で、2問でわかります。もう少し回り道をさせてもいいかと思いました(笑)。

 ほかには、佐賀と富山が当たりにくいです。富山県は検証者が少なくて、あまり質問できなかったからです。佐賀県は、佐賀県と判定する質問までたどり着くまでが長いので、その過程で別の地域に流れるケースが多いからです。今は改訂版を作っていて、こうしたことを避ける工夫をしています。




「おしぴん」「ひざまづき」、年度内を目指して改良中




―― バージョンアップの予定があるのですね?

篠崎 アプリには当たった人も外れた人も、その内容を送信してもらうボタンがあります。回答者が通ったルート情報が集められているので、それを解析している最中です。年度内のリリースを目指しています。

 問題は「おしぴん」の質問にもあります。「画びょう」を「おしぴん」と呼ぶ人は、大阪、近畿、中国、四国などの西日本に、呼ばない人は関東や東北などの東日本に行くようになっています。ですから、大事な質問なのですが、関東でも「おしぴん」と言う人が結構いるみたいで、そんな人は山口県出身となってしまいました。

篠崎 その後の質問は西日本を想定しているので、関東の出身者の人はすべてを「いいえ」と答えてしまいます。すると、山口県になってしまうのです。

小野 「ひざまづき」も問題でした。正座しているイラストを出して、これを「ひざまづき」と呼ぶかどうかの質問ですが、「ひざまづく」という動作は一般的なので、「はい」をと選んでしまう人が少なくなかったのです。この点も改良しています。

―― ところで、方言が謎解きのカギになるミステリーに、松本清張の「砂の器」があります。出雲地方で東北弁が使われていたという設定です。

篠崎 方言は人から人に伝播していくものなので、政治や文化の中心地から広がることが多い。昔ならば京都を中心に周辺に広がったので、南北で同じ方言を使うケースもあり得ます。

ズーズー弁もそう考えられますが、厳密には東北と出雲の発音は違うのです。東北地方では「し」が「す」に近づくので、果物の「梨」が野菜の「茄子」の発音に近くなります。出雲は逆で、「茄子」が「梨」に近くなる。ですから、出雲の方言は「ジージー弁」と言ったほうが実態に合っています。東京の出身者が聞いたら似たように聞こえるかもしれませんが、実際はちょっと違っていますね。

方言は楽しくてカジュアル、アイデンティティの再認識も



―― 2年生のときから調査や検証を続けてきて、変わったことはありますか?

小野 夢を見るんです。方言を探す夢を見たり、常に何かに追われていているような夢です。それと、相手がどこかの方言を話すと、「今何て言ったの?」と聞き返してしまいます。

 私もそうです。2人で同じ授業を取っているのですけど、授業で先生が方言を話すと、「今のは神奈川じゃない?」とか言い合います。だいたいの方言がわかるようになり、出身地を推定できるようになってきました(笑)。

小野 新歓活動でも1年生に「どこから来たの?」と聞いて、「こんな言葉使うでしょ」と得意げに言ってます。

 久しぶりに会った兄に「お前なにしちょん」と聞かれ、「方言チャートを作った」と話したら、「俺もあれ知っちょる!」と言われて盛り上がりました。家族で話すとチャートの話題ばかりで、私の就活の話とか聞いてくれません。

小野 母にやってもらったら、「何で当たったの!」と驚かれました(笑)。

―― 方言を調べていくうちに、改めて気付いたことはありますか?

小野 地元を知るきっかけになって、地元を好きになる気持ちが強まりました。また、ネットで簡単にできるので、初対面の人とのコミュニケーションのきっかけになるみたいです。こうした声を聞くとうれしいです。

 全く同じことを言おうと思ってました(笑)。付け加えると、方言を使う人が多いことを知ってもらいたいです。特に私は西の出身なので、地元で普通に方言を使っていて、大学で東京に来た当時はからかわれたりもしました。このアプリで「方言は楽しい」と思ってくれるとうれしいです。

――でも、話をしていると訛りなどなく、全くの共通語ですね。

 ため語だと方言が出るんです(笑)。

篠崎 方言はそもそもカジュアルな話し言葉ですから、丁寧語や敬語になると標準語になってしまうんです。方言とは、自分のアイデンティティや帰属意識を再確認する大きな手段。実際、ユーザーの感想に多いのが、「自分の出身地に思いをはせるきっかけになった」というものでした。これだけでも公開した意味があります。

エンジニアには「書式統一ツール」を作ってほしい!

―― 最後になりますが、私たちの読者であるエンジニアにメッセージを。

小野 えええ!何だろ。そうですね、このフローチャートの書式を簡単にそろえるようなツールを作ってほしいです。全9枚を1ページずつ別の人が作っていたので、文字のフォントや大きさ、四角などの枠の形がバラバラで、最後に私がフォーマットを統一したんです。これが簡単にできるものを開発してほしいです。

 ちなみに、今の改訂版ではフォーマットをそろえてあります(笑)。

篠崎 フローチャートのルートの決め方などは、文科系的な発想だと思います。エンジニアは理系的な考え方をする人が多いでしょうが、仕事の中にこうした文科系的な要素を取り入れてはどうでしょうか。仕事の幅が広がるのではないかと思います。

―― 先生、締めが秀逸ですね。

篠崎 「締めの篠崎」と言われてますから(笑)。

小野、洞 えっ、初めて聞きました!


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