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欧米から日本に凱旋。この夏話題のソーシャルゲーム
最新ゲームエンジンで開発したDeNAの新作「D.O.T.」
ネイティブとブラウザゲームの良さを両立するハイブリットスタイルで開発されたDeNAの新ゲーム「D.O.T.」。海外市場で評価を高め、国内市場にも2013年夏に投入される。DeNAがチャレンジする新たなソーシャルゲーム開発のストーリーを取材した。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/馬場美由紀 撮影/平山諭)作成日:13.07.24
ドット絵ゲームの2010年代的スペクタクル。欧米市場から逆輸入された「D.O.T.」

「D.O.T. Defender of Texel」(以下、D.O.T.)は、DeNAが開発・運営しているスマートフォンアプリのロールプレイングゲーム(RPG)。欧米版「Mobage」で2012年12月に配信を開始して以来、これまでにApp Storeでは23カ国、Google Playでは18カ国において総合売上ランキングのトップ20入りを果たした。

 その人気ゲームを逆輸入という形で、2013年夏からは日本語版を配信することが決まった。ネイティブアプリとブラウザアプリの両方のメリットを活かすために、ハイブリッドゲーム開発用の新たなゲームエンジンを自社開発したという点で画期的だ。

「D.O.T.」のロゴ
「D.O.T.」のロゴ

 開発者の多久島信隆氏と堀米智彦氏に、その「D.O.T.」開発の舞台裏を聞いた。
「3つの種族が暮らす世界“Texel”の戦士たちが、外部から侵略してきた邪悪なロボット集団と戦いを繰り広げるファンタジー。それをレトロなドット絵とエレクトロニック音楽で描いています。ファミコン世代のゲームファンにもぜひ触ってみて欲しいですね。D.O.T.は“ドット=点”とのダブルミーニング。また“Texel”はもともとコンピュータグラフィックスにおけるテスクチャの基本単位のこと。ドット絵へのこだわりをタイトルに込めています」
 と語るのは、「D.O.T.」開発チームの現リードエンジニア堀米智彦氏だ。ドット絵にはこだわるが、レトロなイメージでもない。実際、エフェクトやパーティクルなども多用して演出は豪華にしており、あえてドット絵とのギャップを狙っている。3Dゲームの演出と比べても見劣りしない。

「国内のゲームで使われるドットイメージはそのままでは海外であまりなじみがありません。日本のゲームはドット絵でも滑らかな表現が得意ですが、海外ではレゴのようなアート表現が好まれます。そこで、D.O.T.ではよりゴツゴツした感じを出すようにしました。キャラクターの設定もアメリカ的。ゲーム中に頻出するメッセージ文言や登場するキャラクターのフレーバー・テキストも、日本語の直訳ではなく、最初からネイティブスピーカーのライターがネイティブ的な口語表現を多用して、現地の人ならピンとくるセリフ表現に仕上げています」

堀米 智彦氏
ソーシャルゲーム本部
ソーシャルゲーム開発部 第四グループ
堀米 智彦氏

 とはいえ、ベースにあるのは日本のRPGゲームのテイスト。それに北米スタイルがミックスされることで、逆輸入されれば「日本のユーザーには、“新しいけど懐かしい”という不思議な感覚をもたらすはず」と堀米氏は言う。

 最初の投入地、北米マーケットを意識したとはいえ、将来的にはグローバルに展開できるゲームという狙いが開発チームにはあった。開発はすべて東京の本社で行われ、日本市場向け配信に先立って、韓国向けのローカライズも行われている。

 海外で最初にリリースされ、その後国内で展開されてヒットしたDeNAのゲームとしては、「Blood Brothers(ブラッド・ブラザーズ)」が知られている。一方、「神撃のバハムート」(開発はCygames)のように最初は日本向けリリースだったが、その後英語版を作成してグローバル市場に投入し爆発的なヒットを生んだゲームもある。こうした経験の積み重ねを通して、DeNAの開発チームは、グローバル市場が相手でも決して物怖じしないようになった。

「これからも世界に通用するグローバルタイトルを意識したものづくりが進むと思います。どこの拠点で開発しても、グローバルを意識するということ。つくり方、考え方は世界共通でも、市場の差はきちんと捉えていく。最初はどこでリリースするかというリリースの順番もさまざまな組み合わせがあります。チャレンジは尽きないですね」

欧米版「D.O.T.」ゲーム画面
欧米版「D.O.T.」ゲーム画面
ハイブリッド型ゲームをいかに効率よく開発するか

「D.O.T.」開発で技術的に注目されるのは、ハイブリッドゲーム開発用の新たなゲームエンジンを自社開発したという点だ。それがなぜ必要だったのか、まずはその背景に触れよう。

 欧米のゲームアプリ市場は、2〜3年前まではまだソーシャルゲームはそれほど流行っておらず、ゲームといえば売り切り型のネイティブアプリが基本。そのため、ソーシャルゲームの市場開拓を狙うDeNAもネイティブアプリ型で参戦した。

 一方その頃、日本では売上ランキング上位をブラウザベースのタイトルが占める時期が続いており、ソーシャルゲームはWebテクノロジーを最大限活かして成果を上げていた。
「ユーザーから見ればネイティブもブラウザベースも関係ありません。しかし開発者としては、表現、ユーザビリティのような見える部分だけでなく、運用/開発の容易さを含めて高いレベルに保つ必要がありました。ネイティブなら表現力は高めやすいですが、運用はブラウザの方がスピード感を高められます。ゴールは同じでどう到達するかという話なのですが、我々の強み、運用力を最大限に活かすためにブラウザベースから出発して、そこにリッチな表現を取り込むアプローチもあるのではと考えました」
 と言うのは、「D.O.T.」の初代リードエンジニアを務めた多久島信隆氏だ。

多久島 信隆氏
ソーシャルゲーム本部
ソーシャルゲーム開発部 第四グループ
多久島 信隆氏

 ネイティブ技術オンリーに偏するのではなく、ブラウザ機能に引き寄せてアプリをつくる。一般的にハイブリッド型と呼ばれるこの手法が採用される理由の一つに、アップデートのしやすさがある。周知のようにソーシャルゲームでは、ユーザーの日々のアクセスデータを分析してそれをゲームのロジックに反映するなど、頻繁なアップデートがゲームの鍵を握る。朝の分析データを踏まえて、その夜にはゲームの内容が改修されていることも珍しくない。

 また、ゲーム内で毎週・毎月のように行われるイベントも重要な集客機会であり、そこでもタイミングよくアップデートできるかどうかは、ゲームの収益性の鍵を握る。この点でも、更新のたびにユーザーにダウンロードしてもらわなければいけないネイティブアプリに比べると、ブラウザゲームのほうが有利である。

 一方、進化の著しいWebテクノロジーではあるが、古い端末でプレイするユーザーは、その恩恵を得られないことがある。とりわけ、滑らかなアニメーションは古いブラウザでは実現が難しいこともまれではない。古い端末でも快適に再生できるようにするためにはネイティブで実装する方が簡単だ。

 そこで採用されたのが、ハイブリッド戦略である。
「滑らかにアニメーションを再生する機能をネイティブ部分に盛り込み、それ以外の部分はブラウザゲームと同様に、HTML5を駆使しつつサーバ側に実装しています。アプリ内のブラウザがメインのユーザーインタフェースとなり、大半の処理を担える形にしました」
 と、多久島氏。

 こうしたハイブリッド型のアプリはよくあるが、ともすると複雑化し開発しづらいものになりがちだ。それを避けるべく「D.O.T.」開発と同時に進められたのが、新たな自社製ゲームエンジン、通称「Kickmotor(キックモーター)」の開発だった。

「Kickmotor」──ブラウザの上に、透明なレイヤーをかぶせるように機能を実装

「Kickmotor」は、多久島氏が開発をリードしたソーシャルゲームをハイブリッド型でつくるために必要な機能を集めたクライアントの開発基盤だ。構造としては、ブラウザの上に透明なレイヤーをかぶせるような形で、OpenGL APIにもとづいたアニメーションやエフェクト機能が搭載されている。

 アニメーションの制御はブラウザのJavaScriptで行うので、コンテンツ開発においてもアプリの更新は不要だ。また、アニメーション作成に内製ツールも活用しており、ブラウザチームとアニメーションチームの分業化を進め効率を高めている。

「アニメーション・サウンドなど表現に関わる要素はネイティブ部分が受け持つが、イベントのたびに頻繁なアップデートが必要なゲーム自体は、ブラウザ内で完結させる。こうすることで開発の大半をPCブラウザで行うことができ、ネイティブアプリのリッチな表現力と、ブラウザアプリの軽快な開発のいいとこ取りができる。一方、ユーザーはアプリ本体の更新を意識することなく、いつでも最新のコンテンツを遊ぶことができます」

 また、「Kickmotor」にはサウンドやムービーの再生といったハイブリッドアプリ定番の機能だけでなく、ブラウザキャッシュも対象としたネイティブキャッシュ機構が追加されており、ロード時間の短縮を図っている。

アプリサイドと開発環境サイドを自在に往還

 多久島氏は「D.O.T.」の開発のかたわら、「Kickmotor」の開発を進めたが、「D.O.T.」リリース後はリードエンジニアの役割を堀米氏に譲り、自身は「Kickmotor」の社内での普及活動に専念するようになった。

「もちろん、これからのゲーム開発がすべてKickmotorを使うようになるかどうかはわかりませんが、関心を持つエンジニアたちは多いです」と、その将来性には密かな自信があるようだ。社内で開発実績を積んだあと、いずれはMobageプラットフォームでゲームを開発するSAP向けにも開発基盤として提供できたらいいと考えている。

 多久島氏はDeNA入社前、コンソールゲームを中心に開発する社員50人規模のゲーム会社に勤務していた。開発者は少数精鋭だったので、アプリを書くのに必要なツール──ライブラリやゲームエンジンも含めて──は自らつくり上げていく必要があった。そうした自主開発のマインドは、はるかに規模の大きなDeNAという会社でもそのまま活かされた。頭でゲーム企画を考えながら、同時に手を動かしてコーディングする。そんなDeNAエンジニアの風土にもすぐに慣れた。

「コンソールゲームを開発している頃は、ユーザー動向を示す定量的なデータが得にくいというもどかしさもありました。DeNAというか、ソーシャルゲームでは、データが重要でそれをゲームに反映するサイクルも非常にスピーディ。定量的なデータを見ながら、ゲームの内容をブラッシュアップできる利点があります」
「D.O.T.」をリリースしたと思ったら、翌月からはゲームエンジンの開発に専念している。このように、アプリサイドと開発環境サイドを自在に往還できるのも、DeNAの面白さだという。

 一方、堀米氏の前職は家電・情報端末など組み込み機器向けのソフト開発会社。自社製組込みブラウザのエンジンを活かしたビュワーアプリや、アプリケーションゲームエンジンなどを開発していた。
「DeNAのような自社サービス企業に転職してからは、ユーザーとの距離が近くなり、レスポンスやフィードバックが早くなりました。そのスピードに馴れるまでは大変でしたが、自分でつくったアプリをよりよくするために、自分が手を入れられるというのは、開発者にとってはものすごいモチベーションアップにつながります」

 多久島氏から手渡されたリードエンジニアのバトンには、「D.O.T.」をさらに盛り上げて欲しいという強い期待が込められている。だが、堀米氏に気負いはない。
「今のメンバーが実力を発揮できれば、もっと良いゲームに育てていけると確信しています。リーダーとしては、現場の開発メンバーに不安感を持たせないことが何より大切。問題を察知し、早めに動き、解決していく。また、メンバーが作業しやすい環境を整えるのも大事。開発効率を高めるための環境整備にはこれからも力を入れていきます」
 と、抱負を語る。

タフな“自走力”を蓄えたエンジニアが活躍する風土

「D.O.T.」とゲームエンジン「Kickmotor」が成功するかどうかは、多久島・堀米両氏だけでなく、それに続くエンジニアの活躍にもかかっている。どんな人材が求められているのか。
「ソーシャルゲームという絶えず変化していく市場において、自分の得意領域に閉じこもらない人がいいですね。得意なことだけでなく未知の領域に踏み込んでいき、ブレークスルーを起こすことが、これからのソーシャルゲーム開発では絶対に必要ですから」
 と、多久島氏。

 堀米氏は「自分で行動して問題を解決できる“自走力”」が最も大切だという。ものをつくる際も、自分で考えて自分でつくった方が一番早い。スピード感を要求されるソーシャルゲーム開発で活躍するためにも、技術トレンドを自ら巻き起こせるようになるためにも、自走力は不可欠だ。

 堀米氏は多久島氏の実装力を「すさまじい」と表現し、多久島氏も堀米氏を「こんなに手が速く動くエンジニアも珍しい」と評価する。お互い認め合えるエンジニアがいてこそ、組織の成長に繋がるのだ。

ソーシャルゲーム本部 ソーシャルゲーム開発部 第四グループ 堀米 智彦氏

2011年8月、組み込み業界からDeNAに転職。アプリの共通ライブラリ開発から「忍者ロワイヤル」のヘルプ・イベント運用を経て、開発スタート間もない「D.O.T.」チームに参加。現在は同タイトルのリードエンジニア。

ソーシャルゲーム本部 ソーシャルゲーム開発部 第四グループ 多久島 信隆氏

コンソールゲーム主体の開発会社を経て、2011年7月、DeNAに転職。「D.O.T.」ではリードエンジニアとしてタイトルリリースまで担当し、現在はゲームエンジン「Kickmotor」のアーキテクトとして活躍中。

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