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日本気象協会が企画・開発を主導したその理由とは?

『空にかざして豪雨を事前に探知』
アプリ開発舞台裏

今年の夏も全国各地で「ゲリラ豪雨」が多発し、被害を受けた方もいるだろう。その一方で、この夏リリースされた空にかざして豪雨を事前に探知できるiOSアプリが、大きな注目を集めた。今回、その開発の舞台裏を探ってみたい。

(総研スタッフ/山田モーキン) 作成日:13.09.19

(画面左から)
一般財団法人 日本気象協会
事業本部防災事業部 防災事業課 吉開朋弘氏
事業本部情報システム事業部 モバイル・Web課 井上紗斗子氏
事業本部営業部 営業第1課主任技師 桃谷辰也氏

この夏、日本気象協会がリリースしたiOSアプリ『Go雨!探知機 −XバンドMPレーダ−』が注目を集めた。
このアプリは国土交通省が提供しているXバンドMPレーダーネットワーク(XRAIN)の雨量データを、AR(拡張現実)機能を使用してカメラ画像に重ねて表示するもの。
使い方は、スマートフォンのカメラを空にかざすだけ。それだけで今見ている上空の雲に、実際にレーダで観測された雨量情報が重ねて表示されるので、直感的に「今、どのあたりで実際に雨が降っているのか」「あとどれくらいで降りそうなのか」がわかるようになっている。
こうした簡単な操作性や、XRAINデータを活用した精度の高い機能性が評価されて発表以来、1カ月で約10万ダウンロードを記録。当初の想定をはるかに超える数字を記録した。
今回のアプリ開発での大きな特徴の一つは、日本気象協会が開発を主導したことである。通常、こうしたアプリは、民間のWeb開発企業が日本気象協会に話を持ちかけ、同協会の協力を得て開発を進めることが多い。
しかし今回、実際の開発に関しては外注したものの、企画からリリースまで一貫して同協会が主導して行った。今回、開発のきっかけからリリース後の反響までの経緯について、3名の開発プロジェクトメンバーに話を伺った。

『Go雨!探知機 −XバンドMPレーダ−』の操作画面

『Go雨!探知機 −XバンドMPレーダ−』の操作画面

「1枚のプレゼン用画像」が、開発のきっかけに


企画提案した際に使用された、実際の試作画像。ほぼ完成版にそのまま活用されている

「きっかけは、この1枚の画像だったんですよ」と語るのは、今回のアプリ開発のリーダーを務めた吉開氏。この画像、実は1年前に同僚のメンバーが企画提案をした際に作成した、合成画像だったのだがこの時点ですでに、現在リリースされているものとほぼ同じレベルにまで仕上がっていた。
この企画の経緯について、同じくプロジェクトメンバーで現在はアプリの販売企画を担当する桃谷氏が説明する。
「私たちが所属する防災事業部の全員が、一人一つずつ何か商品化できる企画を考え、発表することになったんです。その中のひとつが、先ほど紹介した画像。夜空にカメラをかざすと星座がわかるアプリが既にあり、それをヒントにAR技術を活用した新しい気象情報の提供方法を思いついたそうです」

昨年11月に企画提案された後、周りの評価が高かったこともあり商品化が決定。実際に開発がスタートしたのは今年2月からで、そこから仕様を決めて外部の開発ベンダーに発注し、App Storeへの申請手続きを経て、晴れて7月にリリースされた。

「何キロ先まで表示すべきか?」自分が使った時、便利に思う基準で仕様を決定

今回の開発で最もこだわったのは、「メッシュの見せ方」だった。
「XRAINで提供される情報は、250m四方単位の1分毎の雨量データなのですが、実際にこのデータをスマートフォンの画面上にどこまでの範囲で表示させたらいいのか、かなり試行錯誤しましたね」(吉開氏)
そこで、スマートフォン向けアプリ開発を担当している井上氏に協力を仰ぎ、ある調査を行った。
それは日本気象協会が入居している、池袋・サンシャイン60の眺めから、理想の表示範囲を特定する作業だった。ご存知の通り、サンシャイン60は60階建ての超高層ビル。同協会はその55階に入居しているため、窓からの眺望はいい。そうした“地の利”を生かし、この窓から見える風景にメッシュの線を引いて地図に落とし込んでいったという。その結果、導き出されたのが「周囲5km」という基準であった。

またリリース前のテストでも、あらかじめ加工したデータを疑似入力した上で、実際にどのように画面上に表示されるのかを何度も試したという。
「あとは電波の弱い所でも利用できるように工夫したり、屋外だけでなく、屋内や地下にいても空にかざせば雨量が表示されるようにするなど、とにかく利用者目線で便利だと思う機能はできる限り追加しました」(吉開)

池袋サンシャイン60の55階からの景色

池袋サンシャイン60の55階からの景色。ここから理想的なメッシュの見せ方を研究・分析した

サーバを4倍に増やして対応。気象情報を個人が身近に利用できることが最大の目的


こうして様々な経緯を経てリリースされた後、1カ月で10万ダウンロードを記録するなど注目を集めることになった。しかしその利用状況を見ると、ある傾向が浮かび上がってきている。
「例えば7月末に開催されたものの、開始30分で豪雨により中止となってしまった隅田川花火大会。この日は非常に多くのダウンロードがあり、花火開催直前の時間帯には通常の数倍のアクセス数を記録しました。このように何か大きなイベントや、午後〜夕方にかけて都市部に豪雨が降る時間帯に、アクセスが集中する傾向があります。それによって当初設定していたサーバを急きょ4倍に増強して、何とかやりくりしていましたね(笑)」(吉開)

今後、Android版の投入をはじめ、将来的には雨以外の気象情報(雪・雷・風等)にも応用していきたいと考えているそうだ。
「私たちの0究極の目標は、気象情報を個人が身近に利用できる環境を作っていくこと」と語る吉開氏。今回活用したXRAINは、非常に精度が高く、小雨でも感知できるほど以前に比べ進化しているという。これだけ精度の高い情報を個人レベルで日常的に利用することができれば、災害等を未然に防いだり、身を守ることもできる。
そのために今回、AR技術をうまく活用したことで、今後私たちにとって気象情報がより身近な存在となっていくだろう。

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