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明日に向かってプログラめ!!PARTV vol.1 えふしん@モバツイは、大学院博士課程で勉強中
4年ほど休載しておりました連載記事「明日に向かってプログラめ!!」を再開いたします! といっても、一夜限り(?)の不定期掲載。登場するのはみなさんご存知の、えふしん(藤川真一)さんです。お話をたっぷり伺いました。
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ 撮影/平山 諭) 作成日:13.09.12
プログラミングとは、アバターをつくる手段である
えふしん(藤川真一)さん
想創社のホームページ
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えふしんさんのブログ「F's Garage@fshin2000」
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F's Garage@fshin2000
慶應大学の博士課程で「メディアデザイン」を研究中
「ギーク座談会!」ではお世話になりました。
こちらこそ。
今年の4月に慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科に入学して、博士課程で学ばれています。えふしんさんの研究テーマとは?
 例えば、ふらりと飲み屋さんに入ると別のお客さんがいる。知らない同士だから普通は会話しませんが、せっかく同じ空間にいるのだから接点ができてもいいわけです。これをモバイルインターネット、つまりスマホの力で実現できないかと考えるような研究です。

 場所はお店でも街中でもよくて、知らない同士が情報の伝達をし合うような仕組みを考えています。
もう少し具体的に聞かせてください。
 宮台真司さんがナンパのロジックを語っているのですが、例えば、男性が女性に渋谷で声を掛ける。うまくいくことは少ないのだけど、100人の女性の中に1人くらいは「知り合ってもいいかな」と思う人がいるだろうと。その女性とマッチングする仕組みがナンパだと。

 ただ、ナンパが上手い男性は女性と出会いたい気持ちが強く、テクニックもある。いわば「出会いのエリート」で、飛び込みで契約を取ってくるトップ営業マンのような存在です。だから、このマッチングプロセスを私がアプリで一般化するのは難しいし、下手をすると出会い系サイトになってしまう。

 なので、1人で飲んでいて「ちょっと暇だな」と感じたとき、周囲と何らかのインタラクションを起こして、その場が心地よくなるようなメディアやサービスをつくりたいのです。

 簡単に思いつくのはプロフィールの交換ですね。互いのプロフィールをBluetoothなどで紹介するわけです。
こうしたサービスはありますよね。GPSなどの位置情報を使って近くにいる人に呼び掛けるとか。
 でも、うまくいっているのは少ないですよね。だから難しいし、研究のテーマにしてみたいと思いました。

 震災や災害のときには、普段は話さないマンションの住人同士が会話をします。不安な気持ちがあるからでしょうが、「皆が困っていることをお互いに知っている」ことが大きいと感じます。つまり、知らない同士が会話をしても構わない状態なら、人はおしゃべりをするもの。これに近い状況をつくれば、話しかける入口になると思います。
なるほど。
 そのためにはまず、人の警戒心を解かなければなりません。そのキーワードが「信頼」と「安心」で、「安心」は「信頼」をつくり出す手段だと思っています。

 例えばヤフオクでは、評価が低いと取り引きを躊躇するという意識を皆が持っているから、高評価の人と取り引きするという「安心」につながる。これはWebサービスの成功パターンのひとつだと思います。

 私が考えているのは、こうしたシステム化された「安心」の上に、どれだけ「信頼」をつくるかということ。そのひとつは「ブランド力がある」ということでしょうけど、これをつくり上げるのも難しい(笑)。
メーカーからWeb業界へ、「プログラミングは同じじゃん」
えふしんさんはご経歴が少々変わっていて、メーカーの電気制御エンジニアから、Web業界でのプログラマになったんですよね?
 大学を卒業して半導体製造装置メーカーに入社しました。Webの世界に転職した理由は、そうですね、自分が主役になれないから(笑)。こうした装置はメカ系エンジニアが主役で、電気制御は脇役なんです。

 私がいた会社は特に、はんだづけのための製造装置を開発していたので、電気制御はそんなに高度なシステムではなかった。

 新製品の開発をしていたときに、装置をWebベースでパソコンでモニタリングするプログラムなどを、勝手につくっていました。まだ工場内LANが一般的ではないころで、OSはWebサーバーが内蔵されているWindows NTでした。
プログラミングはここで覚えたのですか?
 大学時代に講義でCを勉強しましたが、あまり熱心ではなかった(笑)。会社に入って研修と実践で覚えていきました。金属の板をベンダーという機械で曲げるのですが、板を引っ張るので角が伸びる。その分を計算する必要があるのですが、皆が図面を見ながら電卓をたたいているので、これの自動化プログラムを書いたのが始まりかな。

 子供のころは「べーマガ」(マイコンBASICマガジン)を買って、載っているソースコードをファミリーベーシックで打っていたなどはありましたが、中々動かないので、そこでやめていました(笑)。

 高校からはシャープのパソコン「X68000」を買って、大学卒業まで使っていました。当時はPDS(パブリック・ドメイン・ソフトウェア)という、今で言うオープンソースのような著作権を放棄したソフトがあり、これをダウンロードして使うなどでした。昔から私がハマっていたのはパソコン通信のコミュニケーションのほうで、このためにWebに乗り遅れてしまったのですが……。
というのは?
 パソコン通信の人たちって、Webが苦手なんですよ。理由はちゃんとあって、ブラウザのGUIになかなか移行できないから(笑)。こうした人たちに影響されていたので、「インターネットはダメだ」とか言われて、ネットになかなか手を出さなかった。マニアがいいということは必ずしも正しくないと学びましたね。
その後、転職してWebの世界に入ったわけですね。メーカーとIT系企業のプログラミングの差は感じましたか。
 メーカーでは電気設計をしながら、ハードを動かす組み込みソフトのプログラムを書いていました。転職先はWeb制作会社で、主にFlashや動画のストリーミングなどのリッチコンテンツを開発していました。全然違うのかと思っていたら、同じじゃん(笑)。

 ハードを動かす場合、例えばセンサーからの情報を入力して、モーターを動かすなどを出力するプログラムを書くわけですが、当時のFlashはムービークリップという動画の素材を基に、Actionscriptというスクリプトで制御していました。アーキテクチャは変わっても、やってることは似ているんです。

 ただ、機械の制御では人を怪我させる危険があるので、エラーの重要性は会社から叩き込まれました。それは今でも役立っていいますね。その後、この会社には5年半ほどいて、2006年に株式会社paperboy&coに転職しました。
2007年にモバツイをリリース、大学院への布石だった?
入社してすぐにTwitterと出会い、その後個人で「モバツイ」(モバトゥイッター)を開発するわけですね。
 モバツイを開発したのは2007年4月のことです。日本で第1期のTwitterブームが起きたころです。Twitterに触れてみて感じたのは、パソコン通信に似た空気感。面白いと感じて、Twitterを持ち歩けたらもっと便利になると思ったのです。携帯電話が好きだったし、デザインもいらないから、さくっとつくってしまおうと。

 ここには下地もあって、当時のTwitterは日本語対応が全然できていなくて、文字を送るには文字数を調整しなければいけなかったんです。バイト数の関係だと思いますが、そのために文章の中にスペースを何個か入れる必要があり、これを自動化するプログラムを業務でつくっていたのです。そのため、モバツイのプロトタイプの開発期間は3日くらいでした。
モバツイはかなり流行りましたよね。
TwitterのAPI対応アプリが出てきた時期でもあり、ユーザーさんには暖かく迎え入れてもらいました。私が管理をしている中では延べの登録数で150万人以上でした。
その後、2010年に株式会社想創社を設立して起業し(後にマインドスコープ株式会社に社名変更)、2012年5月にモバツイを株式会社jig.jpに売却。モバツイはえふしんさんの手を離れることになります。
 jig.jpさんは技術力がとても高いので、何の苦労もなく譲渡することができました。その後、昨年11月に再び想創社を設立しました。
モバツイのおかげで、大学院は修士課程を飛ばして博士課程から入学できたとか。
 アドバイスをしてくれた人がいて、モバツイの開発内容を大学に申請したところ、「修士課程修了相当の実績」と認められました。ただ、博士の研究はハードルが高いので勉強は大変です。

 必須の授業があるわけではなく、基本的には自分の研究を定期的に発表して、先生やゼミの仲間にレビューしてもらい、次に進めていきます。これは会社で企画をプレゼンするのとさほど変わりません。

 また、修士の授業に参加できるので、ガンホーの孫泰蔵さん、DeNAの南場智子さん、GREEの田中良和社長などの講義に出たりもしました。こちらはまさに「潜り込む」という感じです。
大学院生活は楽しそうですが、入学のきっかけは何ですか?
 もともとからお話しすると、Web制作会社時代に、会社を続けながら社会人大学院に行くか、転職するかを考えていました。当時は土日のMOT(Management of Technology)コースを考えていて、いくつかの大学に見学に行ったところ、MOTは大企業向けでベンチャー寄りではないと感じました。大企業の技術イノベーション重視で、Web系のメディアをつくる勉強は難しいのではないかと思い、大学院はあきらめて転職しました。
そのころからメディアをつくることに興味があったわけですね。
 はい。だからメディアデザイン研究科を選びました。昨年モバツイを売却して、時間的な余裕ができていたことも理由です。また、Web業界には大学院を出た人が少なくないですが、私は学部卒なので研究するプロセスに慣れていない。研究するという行為自体にも興味があったわけです。

 向き不向きで言うと、プログラミングやエンジニアリングで人を支えるほうが、間違いなく私には向いています。ただ、メディアのデザインは昔からやりたかったことで、その動機をざっくばらんに言えば、「主役になりたい」のでしょう。
プログラムとは「自分の分身」、思想を語り、人を喜ばす
先ほどの研究を通して実現したいこととは何でしょうか?
 「インターネットはもっとさまざまな人たちに浸透すべき」という考えが前提にあります。SNSだって誰もが使っているわけじゃないですから。

 そのための私の役割は、スマートデバイスのアプリやサービスをつくること。今までのアプリ開発は漠然と好きなものをつくっていた部分が多かったのですが、大学院ではデザイン志向というプロセスを取り入れていて、最初に哲学があってコンセプトがあり、実際にモノをつくって、ユーザーに評価してもらって、結果をフィードバックしてつくり直すというサイクルを繰り返します。

 9月に新しいアプリをリリースするのですが、この開発にも同じ手法を取り入れています。
LINEは毎日使うけれど、インターネットの概念はわからない。何かを調べたり、ほかの情報を得るなどはせず、ひとつのアプリがネットのすべてだと思っている。そんな人たちも少なくないと思います。
 そういう人たちが出てきたことがチャンスだと思います。携帯電話に閉じていた人たちがスマートフォンを使うようになったわけですから、接点は近くなりました。シームレスにつながる土壌ができてきています。
これからは研究を続けながら、その成果をビジネスにも生かしていく?
 「今までできなかったことが、こんなサービスで実現できたよ」と言ってもらえるなら、何でもありです。ただ、ビジネスに関しては、私は市場を探してそこに釣り糸を垂らすタイプではないと思っています。
というと?
 モバツイでは、2007年はアーリアダプターのおかげである程度のユーザーが確保でき、2008年はTwitterの停滞期がきましたがそれでもユーザーは増えて、最終的に150万人となりました。

 ユーザーが4万人を超えたころからサーバーの負荷が増えて、「俺は何のためにこれやってんだ?」と思いました。お金もうけではないし、会社から帰って毎日のことでしたから。それでも、色々と考えながら3年ほど続けました。

 ここから感じたのは、自分の好きなことを淡々と3年続ければ、何かの結果に結び付くのかなということ。ですから、新しい市場をガンガン切り拓いていくようなタイプではないんです(笑)。
最後になりますが、この連載では「プログラミングとは○○である」という質問をしています。
えふしんさんにとってプログラミングとは?
 う〜ん、手段ですね。「自分の分身をつくる手段」かな。プログラマの人は皆そうだと思うけど、プログラムが自分の分身として思想を語ったり、人に興味を持ってもらったりします。自分の分身が万単位の人が利用するサービスになるなんて、すごいと思いませんか?

 私は今でも「モバツイのえふしん」と呼ばれることがありますが、これも私の分身が成し得たことです。これからもそんな分身をたくさんつくりたいですね。
藤川真一さん(39歳) 藤川真一さん(39歳)
1973年生まれ。芝浦工業大学工学部卒業後、半導体製造装置メーカーに入社。電気制御エンジニアとして装置開発に携わり、プログラミングに本格的に学ぶ。2000年にWeb制作企業に転職。2006年に株式会社paperboy&coに転職し、Twitterの日本語処理サポートに従事する中、携帯電話向けTwitterクライアント「モバツイ」を2007年に開発。一大ブームとなる。2010年に株式会社想創社を設立。2012年5月に株式会社jig.jpにモバツイのサービスを譲渡。2012年11月に株式会社想創社を再設立。現在は他社の技術顧問も兼務する。2013年4月に慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科博士課程に入学。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
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