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プロダクトの品質とデータ分析を担うTech Leadたちが語る
グリーが「新ハコニワ」をネイティブアプリで挑む理由
姉妹ゲーム「ハコニワ ふしぎな手紙とどうぶつ島」を新たにリリースしたグリーの人気育成ゲーム「ハコニワ」。軽快なレスポンスと豊富な演出を、サービスを止めることなく、ネイティブアプリで開発したプロジェクトチームに話を聞いた。
(取材・文/臼井 隆宏 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/刑部友康) 作成日:13.04.24
女性向けの人気育成ゲーム「ハコニワ」の姉妹作をリリース

 グリーの人気ゲーム「ハコニワ」。その名の通り自分だけの箱庭をつくって楽しめるガーデニングゲームだ。ネジを巻いて植物を育てる、見た目にも可愛い箱庭育成ゲームとして女性にも人気が高い。

 そして2013年3月12日、「ハコニワ」の姉妹ゲームとして「ハコニワ ふしぎな手紙とどうぶつ島」が新たにリリースした。当初はAndroid版のみの対応となるが、ネイティブアプリとして提供されており、軽快なレスポンスと豊富な演出が楽しめる。今回は、グリー社内で「ハコニワ」シリーズを担当するエンジニア3人にご登場いただき、開発プロジェクトの舞台裏を聞いた。

「ハコニワ」「ハコニワ ふしぎな手紙とどうぶつ島」
[PART1]アプリ作成にハマってグリーに転職。ネイティブアプリの新ゲーム開発に全力投球!
長 大地さん

1980年、栃木県生まれ。大学卒業後、SIerに入社。SE、PG、さらには小規模プロジェクトのPMを経験後、グリーに転職。iPhone3Gと出会ってからは、もっぱらスマートフォン向けの開発に没頭。仕事外でも個人的にスマートフォン向けアプリの開発を行っている。

リリースしてからが勝負の、ソーシャルゲーム開発現場

 長さんの前職はSIer。転職した理由は、「クライアントの要望に応じてつくるだけではなく、ユーザーの声が届く環境でものづくりがしたかったから」。自分でもスマートフォン向けアプリをつくるのが好きだという彼は、それを活かせる舞台としてグリーを選んだ。

 転職して感じたのは「スピード感」が違うこと。前職では、事前にスケジュールをカチッと決め、テスト期間も長めにとっていた。それがグリーでは、今日決めた機能を明日リリースするということもある。「最初はそのスピード感に驚きましたね」と長さんは笑う。
「前職では、納品するまでが勝負。事前に考えられるだけの対応策を打っておかなくてはなりません。一方、今はリリース以上にその後の改良が勝負です」

 ソーシャルゲームの場合、リリースしたら終わりではなく、そこがスタート地点。とはいえ、適当につくって出せばいいわけではない。長さんによれば、入社後、品質に対する考え方が変わったという。
「エンジニアリングは投資判断ですから、限られた時間の中で何をすべきか、その優先順位をつけて、しっかりとやりきることが大切です。品質に関する優先順位だけでなく、事業としての優先順位も判断が必要となるため、クリティカルな部分の問題を見抜けるようになりました。リリース後にユーザーの要望や、データ検証に応じた改良などにすばやく対応することが、ゲームを成功させる上で重要ですね」

 長さんは、2011年3月のグリー入社後から「ハコニワ」を担当。ゲーム内イベントの改善を皮切りに、新イベントの設計・開発を歴任。そして2012年1月、入社後わずか10カ月で「ハコニワ」のプロデューサーに昇格し、プロダクト全体を統括する立場に抜擢された。

 PM経験があるとはいえ、入社1年未満でプロデューサーである。エンジニアとディレクター、合わせて10名ほどのチームを受け持つことになったのだ。さらに翌2月からは、後に「ハコニワ 不思議な手紙とどうぶつ島」としてリリースされた新規プロジェクトのプロデューサーも兼任している。

新しいハコニワは、ネイティブアプリとして開発

「ハコニワ」は、元々フィーチャーフォン向けだったこともあり、Flashが多用されている。しかし、スマートフォンの普及が進んだ結果、Flashを中心に据えた開発を転換せざるを得ない事情が出てきた。
「ご存じの通り、iOSでは標準でFlash非対応ですし、またAndroidもモバイル向けのFlash Playerの開発打ち切りなどでFlash対応が難しくなってきました」

 グリーにはFlashコンテンツをスマートフォン向けに移植する技術もあるが、ユーザーが100%満足できるゲームをつくるためには、新規にネイティブアプリで開発してみようという結論に達した。それが新しい「ハコニワ」だ。
「新規開発では、現状分析から始めました。モデル図(システム構成図)を起こして、サイクルを分析し『ここが回ってないな』という点を発見、改めます」

 グリーでは、会社として画一的な開発手法を採っているわけではない。プロジェクトごと、チーム毎に手法があり、自分たちで創りあげていくのだという。ちなみに長さんのプロジェクトでは、各人の明確な役割を決めていないのが最大の特徴とか。
「守備範囲をがっちり決めてしまうと、それ以外のところは見なくなりますから。周囲の仕事をカバーすることもできるのでとてもうまくいっています」

 現・新バージョン2本の「ハコニワ」を合わせ、エンジニアだけでも15〜6名を管理する立場になった長さん。今は新しいハコニワを成功させることに力を注いでいる。
「まだ現在(4月上旬)は、機能の半分も出せていません。今後は動物と遊べるようにするなど、どんどん新機能を投入していきます。ユーザーさんからのフィードバックを見て参考にしたり、はげみにしている毎日です」

[PART2]サービスを止めずに新機能をリリースするには、独自基盤を活用した事前の分析がポイント
崔 碩訓(ちぇ そっくふん)さん

1983年韓国・釜山生まれ。2008年に交換留学生として初来日。大学卒業後は日本で就職。コンソールゲーム開発を経験した後、2012年3月にグリー入社。「ハコニワ」チームのプロジェクト管理業務を経て、同年9月から同チームの“Tech Lead”として活躍中。

入社半年で重要ポジションに抜擢。「正しいフィードバック」が大切

 崔さんは学生時代、交換留学生として鳥取大学で学び、ゲームをつくるために日本で働こうと決意。大学を卒業すると同時に、日本の大手ゲーム会社に入社。前職ではPlayStation®3や、Xbox360向けのゲームを開発していたという。
「ソーシャルゲームの可能性を感じて、グリーに転職しました。ソーシャルゲームは今後さらにリッチなものになっていくはずだと思って」
 と、語る崔さん。

 入社にあたって感じたことは、開発スピードの違い。コンソールゲームは開発期間が長く、それに比べてソーシャルゲームはケタ違いに短期間で開発する。最初は追いつくだけで大変だったそうだ。さらに、しっかりした分析の上でゲームをつくっていることにも感銘を受けたという。
「他社でも開発前の分析はしていますが、グリーは大規模データから綿密な計算をした上で開発に取り組んでいる。その分析の量も速さもすごいと思いました」

 入社後はハコニワチームに配属。バグの修正などから徐々に仕事に慣れていき、2012年6月からはプロダクト全般の管理業務を担当。さらに9月にはハコニワチームの“Tech Lead”となる。Tech Leadとはグリー独特の職位で、プロジェクトの中で技術的な品質管理を行うポジション。具体的な仕事はそれぞれ異なるというが、多くの場合、バグや工数を削減するためのコードレビューを行ったり、サーバサイドの負荷監視を行ったりが中心。また、技術的な情報をチームメンバーに共有する役割も持つ。

 そんな重要ポジションに入社後半年で就いた崔さんは、日々の業務の中で「きちんとした分析」を行うことを心掛けているという。そこで役に立つのがグリーの持つ分析基盤だ。
「エンジニア自身の成長でもそうですが、プロダクトも正しいフィードバックなしでは完成しません。パフォーマンスをきちんと分析し、正しいフィードバックを行うことが最も重要です。それを分析するための手段が、グリーにはあるのです」

グリーならではの分析基盤を活用。サービスを止めずに新機能をリリース

 グリーでは、あらゆるプロジェクトで「PDCAサイクル」をきちんと回すことを基本としている。そのために重要なのは、やはりデータの分析だ。例えば、既存のゲームに新機能を導入する場合など、グリーオリジナルの分析基盤を活用し、ほかのゲームで似たような機能を実装した際の負荷状況について、データを参照していく。ユーザーの行動やインフラの状況を示す過去のデータを参考にした上で、導入後の状況を類推しつつ、新機能の使われ方やインフラへの負荷を見積っていくのだ。
「ソーシャルゲームでは、リリース後の運営や改善が特に大切。特に、今動いているゲームを止めることなく新機能を追加するのには気を使います。私が関わっているプロジェクトでは大きな問題が起きたこともなく、サービスを止めずに改良を続けています」

 また、彼がエンジニアとしてこだわっているのが「自分が関わっている以上、トラブルは出さない」ということ。コードレビューを厳重に行うことはもちろん、事前の作業プランを綿密に立て、またそのプランが適用できなくなった場合の代案まで考えることもあるという。トラブルは出さない、出したくないと決めてから、すべての作業手順や行動に気を使うようになったという崔さん。その結果が、大きなトラブルもなく仕事に取り組めていることに繋がっているのだろう。そしてこうした一人ひとりの思いが、グリー全体としての開発における品質向上に繋がっているのではないだろうか。

 またTech Leadは、チームメンバーに対して知識を共有する役目でもある。グリーでは、各社員が経験したことは社内で共有される仕組みがあり、開発時のトラブルを減らすことにも繋がっている。
「一人ひとりが、トラブルを出さないという意識を持った上で、その仕組みやワークフローを活用すれば効率よく、しかもトラブル最小限で開発を進められます」

[PART3]社内に蓄積された知見を活用、新プロダクトも効率よく開発しています
白倉 悠祐さん

大学院修士課程を修了後、大手ゲームメーカーに入社。アミューズメント施設向けのメダルゲーム開発でメカ制御を担当。3年後、関連会社に転籍。1年少々勤めた後、2012年7月、グリーに転職。入社当初から新しい「ハコニワ」を担当している。

開発も組織もスピード感。意見がすぐに反映される環境

 白倉さんの前職はゲーム会社。「ものづくりに関わるなら面白そうな会社で」と考えて選んだ就職先だった。グリーに転職し、入社後は新しい「ハコニワ」のプロジェクトに参加した。配属当初は主にクライアントサイドのユーザーインターフェイス部分を担当。その後、サーバ側の開発も担当するようになった。
「グリーに入社して感じたのは『意見がすぐに反映される』ということ。製品に関することはもちろんですが、自分がやりたいと言うとすぐに実践させてくれることにびっくりしました。開発そのもののスピード感は前職でも似たようなものでしたが、組織や人事面での対応がこれだけ早いとは想像していませんでした」

 白倉さんによれば、入社後、サーバ側の開発に取り組みたいと上司に相談したところ、担当マネージャは、「それならば、このようにキャリアを進めていこう」と快く相談に乗ってくれたそうだ。その後、彼は入社およそ5カ月で希望した業務に就くことができた。

 そして今年の1月からは、新しいハコニワ開発チームのTech Leadにも抜擢。新ゲームの開発に手腕を発揮している。白倉さんが開発にあたって重視しているポイントは「効率」。企画段階から作りやすい方法を考えてから取り組むのだとか。
「自社の他ゲームで使われている機能を取り入れ、新規開発する場合も流用しやすいように、汎用性を考えた設計にしています。できるだけラクに、面倒なくできるようにするほうがいいと考えているからです。作業が減らせれば、その分の時間や工数はほかに使えます。もっとゲームを面白くするためには、削れるところは削るべきだと思っています」

Tech Leadとして「プロダクトの品質を保証」

 白倉さんから見たグリーでの開発環境。その特徴は「技術的な面でも自由」な点にあるという。新しいツールも自由に使え、開発に用いる言語の選択も自由。彼のように効率よく「いいものを作る」にも最適の環境だ。白倉さんにも、Tech Leadの具体的な仕事内容について聞いてみた。
「私は、スケジュール管理や不具合のチェックがメイン業務です。もちろん、コードレビューも重要な役割。一言で言うと製品の品質を任されている立場ですね。グリーに来て驚いたのが、納得できないモノは出さなくていい、ということ。本来リリース日は厳守するものですが、当社ではユーザーにとって面白いかどうかも優先されます。納期に無理やり合わせるのではなく、面白いモノを作ることが求められています。その中で、不具合を起こさないようにすること、ゲームが面白い仕様になっていることを保証する役割を担うのがTech Leadだと考えています」

「ハコニワ」シリーズは、女性をメインターゲットにしている。さらに、ゲームに親しみがないユーザーにもわかりやすいものをつくるよう心掛けたという。また、女性ユーザーならではの視点を取り入れるために、チーム内の女性ディレクターはもちろん、社内ベータテストの際には他部署の人々からも意見をもらったそうだ。
「前職ではアミューズメント施設向けということもあり、ゲームに縁がない人に向けて考える必要はあまりありませんでしたが、携帯ゲームの場合は違いますからね」

 技術面では、ネイティブアプリの開発を効率的に進めるため、Unityを活用。他プロジェクトでUnityを利用しているメンバーとも連携、情報を共有しているという。
「今後は、新しいハコニワをグリーにおける『大ヒットネイティブアプリ』に育てたいですね」と、語る白倉さん。普段ゲームをしないような人をも惹きつける「ハコニワ」を目指して、日々工夫を重ねている。

エンジニア主導で開発が進むグリー。「新ハコニワ」はエンジニアの努力の結晶

 取材を通してわかったのが、グリーでは企画も開発もエンジニア主導で進む、ということだ。最初に話を伺った長さんが言う「今日決めて明日リリース」という驚くべき開発ペースも、けっして「上」から押しつけられたものではない。話し合いの結果、エンジニアの側から「これなら明日できる」と提案したことが、ハイペースでのリリースを実現したのだ。ほかにも、実装すべき機能に対し「この方法ならコストも節約でき、期間内にリリースできる」と、エンジニアから提案することも日常的に行っているという。

 さて、3人が関わった新しいハコニワ「ハコニワ ふしぎな手紙とどうぶつ島」は、先ごろリリースされたばかり。これから多くユーザーが楽しめるように機能の追加や改良が進められることだろう。新しい「ハコニワ」、そして従来からの「ハコニワ」にも注目していただくとともに、それをつくる彼らの奮闘ぶりにも思いを馳せていただきたい。

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