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世界屈指のスピードをすべてのインターネットユーザーに
ソフトバンクが注力する超高速ネットワーク構築舞台裏
高速データ通信仕様TD-LTEの互換技術であるAXGPサービスを開始したWireless City Planning。世界規格の最先端技術を真っ先に日本で展開することに、彼らが燃える理由は何か。その強いモチベーションの在りかを探った。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:13.02.27
高速通信を支える基地局技術に高まる関心

 携帯電話からスマートフォンへの転換に伴って、データ通信によるトラフィック需要が、爆発的かつ局所的に増加している。それに対応するために近年、第3世代(3G)携帯電話を高度化した高速データ通信仕様LTE(Long Term Evolution)が生まれているが、中でも同じ周波数帯を極めて短い単位時間に分割し、上り方向と下り方向を交互に切り替えて利用(時分割多重方式)するのがTD-LTE方式だ。

 TD-LTEはインターネットのトラフィックの特性に合わせて、下り方向(ダウンリンク)重視のネットワークを構成でき、トラフィック需要が逼迫する都市部に、マイクロセル方式による基地局を集中展開できる強みもある。日本だけでなく、中国のチャイナ・モバイル、インドのバーティ・エアテルなど海外32社の有力事業者も採用あるいは導入を検討している。

 日本では、ソフトバンクグループのWireless City Planning(ワイヤレス シティー プランニング:以下WCP)が、TD-LTEと互換性のあるAXGP技術を用いたデータ通信サービスを2011年より東京・大阪・福岡の一部地域で開始。

 その後、WCPから回線提供を受けたソフトバンクモバイルが、2012年2月から一般向けサービスを開始した。「SoftBank 4G」ブランドで提供するAXGPと自社の「ULTRA SPEED」のデュアルモードに対応したデータ専用Wi-Fiルータ端末やスマートフォン端末を提供している。ちなみに、最大下り110Mbpsというスピードは、国内でサービス提供中のモバイルデータ通信サービスにおいて最速のものだ(2013年2月27日現在)。

「さまざまな最先端の無線技術を駆使して、究極のモバイル・インターネット環境を実現したい。そのために人材が必要だ」
 と言うのは、WCPの黒澤泉氏(技術統括部 統括部長)だ。

 WCPのAXGP事業は、もともとウィルコム社のXGP事業資産を受け継いだもの。ウィルコム時代は、経営状況の悪化により基地局建設は停滞していたが、事業承継を継承したWCPは、XGP規格をAXGPとして高度化させるとともに、ウィルコムが保有していた基地局設備を最大限活用し、急ピッチでエリア拡大を進めてきた。

 2012年9月には、当初の年度末基地局数目標の1万2693局を前倒しで達成。8月末時点、全国422市町村で利用可能となった。さらに2012年度末には全国政令指定都市の人口カバー率を100%とする計画だ。

 サービス提供エリアの拡大と共に、その接続スピードにはあらためてユーザーの関心が高まっている。また、通信・ネットワークエンジニアの中には、AXGPを支える技術のバックグラウンドに関心を寄せる人も増えつつある。

 例えば、AXGPネットワークでは通信速度や品質を高めるため、MIMO(multiple-input and multiple-output;マイモ)やBeam Formingなど、新しい技術が使われている。

 さらに、PHSで採用されてきたマイクロセルと干渉低減の両立も新しいチャレンジの一つだ。この両者は一見、矛盾する課題のように思えるが、WCPはこれらを両立する手法として「クラウド基地局」という考え方を提起している。クラウド基地局は、複数の基地局を局舎に設置したBBU(Base Band Unit)と呼ばれる装置で束ね、制御する手法のことだ。

「クラウド基地局を大規模に導入するのはWCPが世界で初めて。従来の分散設置されていた基地局構成と比較して、BBUを局舎に設置することで装置数を減少させることができ、ビル等にアンテナ設置した際の消費電力、設置面積や装置総重量の負担を軽減することが可能になる。また、多くの基地局を一括して集中制御することにより、各基地局の電波状況や利用状況を調整し、基地局間の電波干渉軽減や無線リソースの有効活用を実現することができる」
 と、黒澤氏は技術の優位性を語る。

AXGPが成功すれば、TD-LTEの未来が一気に広がる
楠 弘次氏
技術統括部 技術企画部
予算企画管理課
楠 弘次氏

 ウィルコム時代の資産を引き継ぎながら、それを最先端の技術で高度化し、無線インターネットの醍醐味を幅広いユーザーに提供しようとするWCP。その最前線で働く技術者たちに話を聞いた。

「AXGPのスピードに一度触れたらやみつきになりますよ。理論値に近いスループットを実際に体感すると、それまで速いと感じていた通信も一転遅いと感じてしまいます。ハイビジョンクラスのWeb動画がストレスなく視聴できるのは感動的。つい、周りの人にも『見てみて』、と言いたくなります」
 と言うのは、技術予算を担当している楠弘次氏だ。

 彼には、「AXGPがソフトバンクグループの中でも価値あるネットワークになる」という確信がある。その高品質なネットワークを、いかに低コストで効率よく構築するか。予算管理のお目付役だ。
「お金を使うな、などとはもちろん言いません。ただ、必要性、妥当性、効率よい手法など、お金の使い方について注文は出します。とはいえ、私も技術者の一人。技術セクションのニーズはよくわかっているつもりです。技術部門の努力や思いを経営側に伝え、予算を獲得、管理・運営するのが私の任務だと思っています」

 もともとは携帯電話端末のソフトウェア技術者で、無線技術やネットワークに本格的に触れたのはウィルコム入社以降。しかし、さまざまな技術領域を、幅広く見てきたという自負はある。「TDDの最新技術をリードし、それを事業性も含めて真っ先に検証し、実践するのはWCPの役目。私たちがAXGP事業で成功すれば、TD-LTEの未来が一気に広がることになり、本格的なグローバル化の先にはさらなるスケールメリットを得ることができるようになります」と、“世界最先端”を意識し、日々の業務に努めている。

技術統括部 技術企画部 予算企画管理課 楠 弘次氏

大学で会計学を専攻し、卒業後、メーカーで携帯電話端末のソフトウェア開発やプラットフォーム設計に従事。通信事業者の技術開発に関心を持ち2008年にウィルコムに入社し、2010年10月にWCPへ出向。

楠 弘次氏
圧倒的スピードで基地局展開──10年に一度の気持ちの高まり

 WCPは、これまでのウィルコムの基地局を活用し、2013年末までに新設基地局を展開することで、AXGP基地局ネットワークを構築しようとしている。その置局プランをつくるのが、今秀昭氏の仕事だ。
「経営の大方針をいかに早く現場に落とせるかが勝負ですね。私たち企画セクションの判断が遅くなるとそれだけ基地局設置が遅れることになります。新しい事業はスピードダッシュが肝心。WCPになってから、会社の仕事にスピード感が出てきました。今日明日には数値を出せ、というような指示が職場に飛び交っています」

 既存施設を一部利用するとはいえ、ネットワーク構築を免許取得から始めて基地局全国展開にまで進めるフェイズは、通信キャリアの技術者と言えど、10年に一度体験できるかどうか。だからこそいまが面白いのだ。
「AXGPと互換技術であるTD-LTEは国際規格ですから、将来は海外で私たちのノウハウが活かされるときがあるかもしれません。例えば、海外におけるエリア展開のプランを練ったりとかね。世界に出て行くチャンスがあるんですよ」と、将来への野望も隠さない。

「エリア内でどこに基地局を打つのが最も効果的か、それをいつも考えています。基地局の設置後は、サービスエリアがきれいに面的に形成されているかどうかのチェックもします。エリア改善のための調査は、シミュレーションツールも使いますが、やはり現場に行って確認するのが基本です。新宿、渋谷などの人の多いエリアではなおのこと、自分の目で確かめることが欠かせません」
 と、中嶋健一氏は言う。

 基地局設置は、設置場所のオーナーの意向や設置場所の制限などで、プラン通りに進まないことも多い。その場合は、次の候補を探すが、最適立地でないためにスループットなどのパフォーマンスに影響が出てしまう。
「つながるだけではだめで、パフォーマンスをだすことが大切。基地局のパラメータをチューニングしたり、性能のよい新しいアンテナに取り替えることもしますが、このあたりはいつも歯がゆさを感じるところですね」

 とはいえ、彼には強いモチベーションがある。ウィルコム時代のXGPはエリアを限定したサービス止まりだった。WCPになってから、AXGPへと技術を高度化させ、昨年ようやくそれを全国サービスとして世の中に出すことができた。それまでの苦労がもしかすると報われないかもしれない、という危機感をウィルコムのエンジニアたちは感じていたのだ。
「AXGPとして新たに展開すると聞いたときは、否が応でも私たちのやる気は高まりました。同時に、商用サービスとしての責任感をずしりと重く感じました」
 その気分の高揚と責任感が、彼らを日々厳しい仕事に向かわせている。

今 秀昭氏
技術統括部 ネットワーク企画部
計画課
今 秀昭氏
中嶋 健一氏
技術統括部 無線技術部
無線課
中嶋 健一氏
今 秀昭氏 技術統括部 ネットワーク企画部 計画課 今 秀昭氏

大学工学部を卒業後、2008年に新卒でウィルコムに入社し、2010年10月にWCPへ出向。エリアの企画業務に従事。

技術統括部 無線技術部 無線課 中嶋 健一氏

大学院工学部を卒業後、2007年に新卒でウィルコムに入社し、2010年10月にWCPへ出向。基地局仕様検討、XGP技術の評価などを経て、AXGPに携わる。

中嶋 健一氏
端末ベンダーと一緒にものづくりに関われる醍醐味
滝井 孝則氏
技術統括部 技術検証部
システム検証一課
滝井 孝則氏
森 久和氏
技術統括部 技術運用部
運用企画課
森 久和氏

 MVNO向けの端末評価を行う滝井孝則氏も、同様の感覚を抱いている。
「AXGPをMVNOとして始めたいという企業が、端末をわれわれのところに持ち込んで、テストしてくれと言ってきています」

 持ち込まれた端末は、開発拠点のシミュレータを使って動作を確認する。AXGPであると同時にTD-LTEというグローバル規格に準拠しているとはいえ、実際に国内のネットワークに接続できるかどうかのテストは不可欠だからだ。
「その中にはグローバルに活躍している国際ベンダーも多いんです。技術者との会話やメールは英語。英会話は苦手だったんですけれど、そうも言っていられない。語学の勉強については会社も全力でサポートしてくれます。専門用語をつないで冷や汗をかきながら対話しています」

 通信キャリアという立場ながら、技術検証部には、端末ベンダーと一緒にものづくりに関わっているという醍醐味があるという。基地局が設置され、エリアの検証が行われ、端末がテストされ、そしてユーザーが増えてくる。その後の面倒を見るのが、森久和氏の仕事だ。森氏は、ウィルコム入社後10年にわたってずっと運用・監視・保守畑。現在は、AXGPにおける運用・監視・保守の業務をプランニングする立場だ。
「WCPの運用保守体制は、ウィルコム時代のノウハウはあったというものの、実質4人の少人数からつくり上げました。それが現在は50人が運用にかかわっています。私たちの仕事は、運用に関わる方針・基準・企画、商用サービスを維持・継続するための運用の仕組み、運用体制および運用するためのシステムをつくりあげることです。また、新技術の導入、設備増強等に伴うネットワーク変化にも柔軟に対応すべく、日々、最適なネットワークを維持し続けるため、未然に事故を防ぐシステムや方策も企画し実行しています。もちろん運用の視点から、絶対に落ちないようなネットワークを構築してくれと、その品質向上に注文をつけることも大切だと思っています」

 5人ともウィルコム時代から継続してネットワーク構築にかかわるエンジニアだが、WCPには他のソフトバンクグループからもエンジニアが出向してきており、そこでは多様な技術交流が生まれている。しかし、基地局の急速な全国展開から運用保守体制の強化に至るまで、求められる課題は多い。それを一気に成し遂げるため、どうしても外部から大量のエンジニアが欲しいのだ。

 彼らの一人が語ったように、いままさに「エンジニア人生の10年に一度体験できるかどうか」のバトルがそこでは繰り広げられている。真剣な闘いだからこそ、“戦闘員”の一人ひとりは、その“戦場”でさらにスキルを伸ばすことができるのだ。

滝井 孝則氏 技術統括部 技術検証部 システム検証一課 滝井 孝則氏

大学卒業後、メーカーで携帯キャリアのネットワークシステムのソフトウェアを開発。2008年にウィルコムに入社し、2010年10月にWCPへ出向。XGP事業に最初から関わる。

技術統括部 技術運用部 運用企画課 森 久和氏

大学工学部卒業後、2001年に移動体通信事業者に入社し、運用保守業務を担当。出向を経て、ウィルコムに転籍し、2011年1月にWCPへ出向。一貫して運用・保守の専門エンジニア。

森 久和氏
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