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アミューズメントゲーム制作で先端を走るKONAMI。「BEMANI」シリーズで知られる音楽ゲームでも、その市場を切り拓いてきた。これからの音楽ゲームはどこまで進化するのか。「BEMANI」プロダクションのプロデューサー西村宜隆氏に話を聞いた。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:13.05.08
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コナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)で主にアミューズメントゲーム制作を行うe-AMUSEMENTスタジオ。そこにおけるゲーム制作はどのように行われるのか、仕事の醍醐味とは何なのか。その一例を知るべく、私たちはBEMANIプロダクションの西村宜隆氏に話を聞いた。
西村氏といえば、音楽ゲームあるいはゲーム音楽が好きな人にとっては広く知られる存在で、もともとはサウンドクリエイターとしてKONAMIのアミューズメントゲームのために数多くの楽曲をつくってきた。ライブなどで華麗なスクラッチプレイを披露する「DJ YOSHITAKA」としても活躍している。
株式会社コナミデジタルエンタテインメント
e-AMUSEMENTスタジオ ビーマニプロダクション プロデューサー 西村 宜隆氏/DJ YOSHITAKA |
今期より、プロデューサーの立場から、企業としての目標を目指しながら、BEMANIシリーズのラインを整え、さらに拡大する任務を持つ。「BEMANI(ビーマニ)」は音楽ゲーム好きには説明不要だが、1997年の「beatmania(ビートマニア)」で“業務用音楽ゲーム”という新しいジャンルを開いたKONAMIが、シリーズとして展開する音楽ゲームの統一ブランドだ。 2004年に入社した西村氏はDTM(デスクトップミュージック)の腕を買われ、BEMANIシリーズのサウンドクリエイター、サウンドディレクターとして活躍。2010年にはゲームディレクターとして「REFLEC BEAT」をヒットさせ、さらに2012年には「SOUND VOLTEX」の開発を指揮した。2つのヒット作を通して、西村氏が試みたチャレンジは、音楽ゲームの新機軸を開いたと言われる。
「私が考える継続的なサービスにおけるヒットの背景にあるのはユーザーモチベーションの変化を見逃さないことと新たなモチベーションをタイミングよく提供することの2点だと思います。ユーザーが求めるものは常に変化するのでその流れを掴み素早くアクションしなければいけません。また、97年以来BEMANIシリーズとして培ってきた音楽ゲーム制作のノウハウや実績からくるブランド力も非常に大きな要因となっています。BEMANIの商品だからオペレーター様も安心して導入して頂けるし、ユーザーさんも高いロイヤリティを持って楽しんでくれる。先輩方が培ってきたブランドを更に大きく広くしていくのが私の使命ですね」 |
西村氏のゲームディレクターとしてのデビュー作「REFLEC BEAT(略称:リフレク)」の話を聞こう。「リフレク」は、「新感覚対戦型リズムアクションゲーム」と銘打たれ、2010年11月にリリースされた。BEMANIシリーズとして初めてインターフェイスにタッチパネルを使用、さらにユーザー同士がオンラインで対戦できるところに新しさがあった。
「リリース当初によく言われたのは、エアホッケーのような感覚で遊べる音楽ゲームということでした。プレイしていただければすぐわかりますが、ホッケーでパックを打ち合うようなリズム感があるんです」
タッチパネルの採用でユーザーのすそ野を広げた功績も大きい。それまでBEMANIを高度に遊ぶためにはブラインドタッチのスキルが必須とされたが、「リフレク」はタッチパネルなので落ちてくるオブジェクトに直接タッチすればよい。初心者も簡単に遊べることから、楽曲自体も一般になじみのあるJーPOPを中心にライセンスを獲得した。
オンライン対戦については、すでにユーザーがアミューズメントゲームで遊んだ成績などを記録できる「e-AMUSEMENT PASS」が導入されていて、音楽ゲームにも対戦型はすでにあったが、「リフレク」ではプレイ中に相手のオブジェクトに干渉できるというところが新しかった。
「企画当初は私がサウンドディレクターとゲームディレクターを兼ねていて、さらにデザイナーとプログラマが一人ずつという3人体制でプランニングと実装イメージを固めました。最初はこの人数で十分です。2人の実績を見込んでプロジェクトへの参加を依頼しました」
ゲームディレクターに必要な知識とはどのようなものだろうか。「リフレク」の場合、西村氏はサウンドディレクターも兼ねていたため、まずは自ら楽曲をつくったり、あるいは最適のサウンドクリエイターに作曲を依頼しなければならない。それだけでなく、楽曲ライセンスの知識など、音楽業界に精通していることも求められる。
「どんな楽曲をどのぐらい搭載するとライセンスフィーがどのぐらいになるか、場合によっては音楽事務所を訪ねてタイアップの交渉をしたりすることもあります」
さらにアミューズメント機ならではの独特の知識も必要だ。例えば筐体製作。
「最終的にはマシンとしての性能が重要になります。わかりやすく言うと例えば設計側から『筐体を留めるのにどのネジを使いますか』というような相談が持ち込まれることもある。『このネジだと納期がかかるので、生産に間に合わないが、どうします?』といった判断を迫られることも。筐体の品質試験の立ち会いもディレクターの仕事ですね」
まさに楽曲からネジ一つまで、仕事の範囲は広い。当然、プログラミングについてもある程度の知識が必要になる。
「アミューズメントゲームでは、製品ごとにインターフェイスが異なります。ボタン、レバー、タッチパネル、さらにそれらがどのように配置されているか、さまざまな仕様があります。ゲーム本体のロジックだけでなく、プログラマはそうした入力デバイスを制御するためのコードも必要に応じて書かなければならない。もちろん、私はコーディングするわけではありません。だからこそプログラムリーダーは信頼のできる人材を任命しています。報告内容が的確でわかりやすく他職種の人に対してもしっかり説明できるスキルを持った人材ですね」
音楽ゲームはサウンド(音)とデザイン(絵)とプログラム(脳)が一体となって、ユーザーと対話する装置と言い替えることができる。開発チームにもまたこの一体感が求められたのだ。もちろんゲームディレクターの最終的な役割は、開発した新機種をヒットさせることに尽きる。「リフレク」の開発時期は、KONAMIのアミューズメントビジネスのモデルが大きく変わろうとしている時だった。
2011年11月、KONAMIはアーケードゲーム事業者(オペレーター)に向けて、レベニューシェアによる新ビジネスモデル「e-AMUSEMENT Participation(パーティシペーション)」を同社のタイトルに順次導入することを発表した。簡単に言えば、これまで機器の売り切りビジネスだったのを、メーカーとオペレーターとの間で利益をシェアする方式に変えたのだ。
オペレーター側は新規タイトルの導入コストを抑えることができる一方、メーカー側は継続的に稼働率を上げられるようなゲームをつくらなければならなくなる。稼働率を高めるために、オンラインアップデートによる定期的なイベント配信や、ゲームモードやキャラクターの追加など、オンラインゲームやソーシャルゲームに近いサービスが不可欠になったのだ。
「『リフレク』も、colette(コレット)というシリーズからこのビジネスモデルに対応しました。四季に応じて楽曲や画面、隠し要素、さらには筐体の装飾素材、POPの雰囲気までガラッと入れ替えるんです。ここまでやるのはBEMANIシリーズでは初めて。結構大変な作業なのですが、こうしたユーザーを飽きさせない試行錯誤が、ヒットの要因になっていることは確かです」
西村氏の話を聞いていると、KONAMIのアミューズメントゲーム制作の蓄積を踏まえながらも、あえて新しいチャレンジに取り組んできたことがわかる。ゲームディレクターとして2作目の「SOUND VOLTEX」では、主にネットで活躍するクリエイターたちのオリジナル楽曲やリミックスを大胆に採用した。いわゆるUGC(User Generated Content)との連携だ。 さらに、これまでの音楽ゲームが基本的には「正しく演奏して音を奏でる」ことが主目的だったのに対して、「VOLTEX」は「デバイス操作でさまざまなエフェクトをかける」ことにゲームの主眼が置かれている。BEMANIの“伝統”を踏まえながらも、発想の大転換が行われているのだ。
それができたのは、西村氏個人の才覚ゆえとも言えるが、同時にKONAMIという組織の中にそうした自由で新しい発想を推進する風土があったということだろう。 レベニューシェアモデルは、KONAMIだけではなく、他社も採り入れており、今後のアミューズメントゲームの潮流だ。その流れは速い。それに応じて、制作スピードを上げること、オンラインアップデートの頻度を高め、随時イベントなどを行い、ユーザーのゲーム体験を絶えず更新し続けることが、これからの課題になる。 |
JAEPO2013で制作が発表された現在開発中の新バージョン
※画像は開発中のものを含みます |
「ただ、私たちが見失ってはいけないのは、あくまでもゲームがプレイされる現場です。確かにオンライン化によってゲームの稼働状況はデータで掴めるようになりました。しかし、データだけに頼っていると判断を間違うこともある。ソーシャルゲームとは違って、アミューズメントゲームの利点は、ユーザーがプレイする姿を後ろから横からじっくりとリアルに観察できるということ。
このアナログな観測値は貴重です。ゲームセンターに足繁く通えば、どのマシンに人だかりができているか、どんなユーザーがプレイしているのか、彼らはどんなタイミングでボタンを押すのか、それが一目瞭然。そこからヒットの要因を掴むことができる。デジタルデータを見て仮説を立て、それを現場に確認に行くという感じです。だから私たちのモットーは、“答えは常に現場にある”ということなんです」
ライトユーザーを狙った「リフレク」でも、初代機は日中の稼働率が想定以上に低かった。不思議に思った制作者が、ゲームセンターを訪れると、若い学生たちがほとんどプレイしていないことがわかった。
「私にとっても最初のディレクションでしたから、カッコイイものをつくりたかった。ところが、その格好よさがあまり伝わっていなくて、むしろ近寄りがたいと敬遠されていたんですね。その感覚が現場を見てわかった。それからは、もっと学生にも馴染めそうなPOPや音源に入れ替えたりした。すると次第に、人気を集めるようになりました」
最後にプロデューサーの立場から、ゲームエンジニアへの期待を聞いた。
「プログラマは、不可能を可能にする人たちだと私は考えています。私などにはとうてい解決できない問題を、プログラムを書いてさらっとやってしまう人を見ると、すごいなと率直に思います。私たちの仕事では人の書いたコードを引き継ぐことも多いのですが、当たりさわりのないように改修するだけの人もいれば、ばっさり書き替えたいという人もいる。そうすることで、高品質のプログラムが効率よく書けるというのであれば、私はその提案を素直に受け入れます。これまでの常識にとらわれることなく、新しい仕様を切ることができる人、そんな人たちと一緒に仕事をしたいですね」
もちろん、音楽ゲームが好きで、できればプレイも上手いことは、採用ではアドバンテージになる。ユーザーとしてゲーム好きであることは、開発者としても新しいアイデアを生み出す素地になる。C++言語はプログラマとして必須。Windowsでのゲーム開発経験、サウンドファイルの扱い、ツール制作のスキルがあればベストだが、最も重要なのは、面白さを生み出そう、楽しんでもらおうという想いだ。
国内だけでなく、海外にも販路を広げるKONAMIのアミューズメントゲーム。常識を突き抜けた発想でその将来を担う人材が、いま求められている。
大学は経済学部。2004年、コナミデジタルエンタテインメント入社。DTMの才能を買われ、BEMANIシリーズのサウンドクリエイターとして活躍。2010年からは「REFLEC BEAT」「SOUND VOLTEX」のディレクターとして制作の指揮を取り、ヒットを呼び込む。今期から現職。
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