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「おもしろすぎる」を目指す、対談系エンターテインメント!
白石俊平氏とカッコいいやつら
が語る電子書籍の未来
「html5j.org」管理人で、HTML5のエバンジェリストとして知られる白石俊平氏が、また新しい試みを始めた。エンジニアにとって関心の高いテーマについて、その最先端で活躍する“カッコいいやつら”とのトークイベント。第0回のテーマは「電子書籍」だ。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:13.05.17
エンジニアのハートに火をつける

 イベント名は「(白石俊平と)カッコいいやつら」。プレオープン「第0回」のテーマは「電子書籍時代の寵児たち」だ。この企画はそもそも白石氏が主宰する「読書するエンジニアの会」が発端。このコミュニティの認知度を高めるために、何かイベントをやりたいというのが発端だった。その後、開催に至るまでの経緯については、同会のブログ(http://blog.bookbookbook.jp/2013/04/0.html)に詳しく記載されている。

 初回のテーマが「電子書籍時代の寵児たち」となったのは、読書好きのエンジニアたちにとって、電子書籍の現状は当然の関心事だったから。イベントは白石氏がモデレーターとなり、ゲストと対談・鼎談を行うというもの。白石氏がカッコいいと感じているゲストを呼んで開催される。

 イベントのコンセプトがエンジニアやクリエイターの「心に火をつける」(白石氏が好きなアラン・ケイの言葉)ことにあるだけに、自ら情熱をもって新しいマーケットを開拓し、そのパッションで人々を巻き込むようなスピーカーが選ばれた。

登壇者プロフィール
白石 俊平氏
白石 俊平氏
株式会社オープンウェブ・テクノロジー代表取締役として、Web標準技術に関するコンサルティングや開発に従事。日本最大(5,000名超)のHTML5開発者コミュニティ「html5j」管理人。その他HTML5とか勉強会主催、Web先端技術味見部 部長など、Web先端技術に関する情報発信とコミュニティ活動を継続的に行う。Google社公認Developer Expert(HTML5)、Microsoft社公認Most Valuable Professional(IE)。著書に「HTML5&API入門」(2010, 日経BP)、「Google Gearsスタートガイド」(2007, 技術評論社)など。監訳に「実践jQuery Mobile」(2013, オライリー)など。
藤井 太洋氏
藤井 太洋氏
1971年、奄美大島生まれ。国際基督教大学に在学中に舞台美術集団「突貫屋」の創立メンバーとして表現活動を開始。その後は草創期ののDTP制作の現場にて印刷物にまつわるあらゆる業務を行い、フリーランスのグラフィックデザイナーとしても活動を続ける。 2013年の4月に、9年勤務したソフトハウスを退職し、フリーランスとして小説の執筆、自己出版を行っていく予定。2012年7月に自己出版した「Gene Mapper」はBest of Kindle 2012の文芸部門でトップ。2013年4月には「Gene Mapper -full build-」が早川書房より刊行されることになっており、作家としての今後を嘱望されている存在である。
高橋 征義氏
高橋 征義氏
株式会社達人出版会代表取締役、一般社団法人日本Rubyの会代表理事。札幌出身。北海道大学工学部卒(情報工学)。Web制作会社にてプログラマとしてWebアプリケーション開発に従事する傍ら、プログラミング言語Rubyの開発者・利用者を支援する組織、日本Rubyの会を設立、現在まで代表を務める。2010年に前職を退職し、ITエンジニア向けに電子書籍の制作と販売を行う株式会社達人出版会を創業。「電子専業の出版社」として、Web技術のノウハウを活かした電子書籍事業を行なっている。著書に『たのしいRuby』『Rails3レシピブック』など。好きな作家は新井素子。
電子書籍で小説家デビュー。藤井太洋氏のマルチな才能に会場はびっくり

 その一人が、小説デビュー作の「Gene Mapper (ジーン・マッパー)」が、2012年のKindleストア「ベスト・オブ・2012」小説・文芸部門で売上トップとなり、話題となった藤井太洋氏だ。もともとは、90年代のDTP(デスクトップ・パブリッシング)黎明期を経験し、グラフィックデザイナーとして活躍しながら、印刷・出版工程のデジタル化を推進した人。その後、イーフロンティアで3DCGソフト「Shade」の開発を指揮していたが、4月には会社を辞め、フリーランスのライターになった。

「Gene Mapper」はSF小説。フルスクラッチで作物をつくれるほどの遺伝子工学や、現実と見分けられないほどの拡張現実が当然のものとなった2037年が舞台だ。斬新な内容もさることながら、企画から執筆・編集、各種フォーマットでの電子書籍制作、Webサイトの制作、さらにはマーケティング活動までを一人で行う“自作出版”ということでも注目された。その人気に出版社が目を付け、第2作「UNDER GROUND MARKET」は朝日新聞出版から電子書籍として刊行され、これもまた上々の評判だ。

 小説家デビューの仕方も電子書籍の時代ならではだが、執筆スタイルも変わっている。ほとんどの原稿を通勤途中にiPhoneで書き、しかもブラインドタッチでも入力できるという。「僕は歩きながらでも、小説を書けます。慣れれば誰でもできます」と、藤井氏がデモンストレーションすると、会場はどよめいた。

 紙から電子へメディアの形態が大きく変わろうとしているいま、今後、Webデザイナーやエンジニアが電子書籍の制作を実務として担う機会も増えるはず。その中でも電子書籍の各種フォーマットへの対応はわずらわしい問題だ。

白石

フォーマット変換はどうされているんですか?

藤井

原稿は最初から青空文庫記法で書きます。ルビをふるのも青空のマークアップは便利です。全体の構成や仕上げはMacのライター向けエディタ Scrivenerで行います。ScrivenerにEPUB出力機能があるので、それを使ってEPUB2フォーマットに書き出し、さらにそこに入っているXHTMLリソースをRubyで収集して、EPUB3に変換するというもの。話すと面倒そうですが、実は簡単な作業です。縦書きと横書きの変換は、第一作ではスタイルシートそのものを入れ替えていますが、次回はAlt Style Tagを使って対応リーダーで切り替えられるようにしたいと考えています。

 販売を開始すると、面白いことに気づくようにもなった。藤井氏は、Googleで検索してAmazonでお買い物をするユーザー層と、Yahoo!や楽天のユーザー層ではあきらかな顧客の質の違いがあるという。
「同じインターネットでも別の世界というべき。しかも相互交流がない。ネットでモノを売るためにはこの両方の質の違いを見極める必要がある」と、語った。

 白石氏の表現を借りれば、電子出版の世界で「藤井さんほど、マルチな才能を発揮している人は、ほかにいない」。白石氏は対談を通してその才能の広がりを引き出し、同時にそのエッセンスを聴衆にもわかりやすく翻訳してみせた。



「日本Rubyの会」の高橋征義氏がチャレンジする、電子書籍専門出版社

 イベント会場はリクルートのMTL(メディアテクノロジーラボ)が提供。ATNDの申込み受付には、70人の定員が3時間で満席、追加の10席もその日中には埋まってしまった。参加費は無料だが、スポンサーから提供されたシャンパンやビール、軽食がふるまわれ、終始リラックスした雰囲気の中でイベントは進行する。

 二番目のゲストは高橋征義氏。Web制作会社でWebアプリケーションを開発するかたわら、プログラミング言語Rubyの開発者・利用者を支援する組織「日本Rubyの会」を設立し、現在まで代表を務めている。2010年に退職し、ITエンジニア向けに電子書籍の制作と販売を行う達人出版会を創業した。

 白石氏自身、会社勤めよりはフリーランスや自営業の経験が長い。SIer、ITコンサルティング会社を経て起業し、電子書籍専業の出版社を設立した高橋氏についても、やはりその独立の経緯に関心が向かう。中でも電子本という立ち上がったばかりのマーケットを相手にするだけに、そのチャレンジは楽ではないはずだ。

白石

電子書籍に関心をもったのはいつくらいからですか?

高橋

2009年9月に「真剣にお金を稼ぐことを考えるエンジニアの集い」という飲み会に参加したんです。どうしたら儲かるか、いろんな馬鹿話を仲間たちとしました。僕がそのとき話したのは「The Pragmatic Bookshelf」というエンジニア向け電子書籍サイトでの買い物体験でした。まだ技術洋書の多くは紙で、注文しても届くまでずいぶん時間がかかるし、かつ高価な時代。これの日本語版サイトみたいなものができないかなと思ったんです。フォーマット変換や決済システムが難しいと思ったけれど、少し勉強したらなんとかクリアできそうだと。

白石

それで会社を辞めることに?

高橋

僕自身、企業エンジニアとしての将来が、あまり見えなくなっていた時期なんですね。HTML5やソーシャルアプリがブレイクする前。「Webアプリつくれます」だけではどんどん単価が下がっていくし。でも電子書籍なら、ものすごくは儲からないけれど、自分一人ぐらいはやっていけるんじゃないかと。

白石

達人出版会はどんなビジネスモデルなんですか?

高橋

著者を募り、原稿を書いてもらい、自社サイトで販売し、売り上げは経費を除いて折半という、わかりやすいECモデルです。著者もこれで儲けたいというより、自分が知っていることを知らしめたい、読んで欲しいというモチベーションが高い人たちですね。

白石

かつてはエンジニア系のブログも人気があったけれど、最近は僕自身も書き込むのはTwitterやFacebookがほとんど。あるテーマについてのまとまった知識を伝えるにしても、紙の出版は手間がかかるし、努力した割にはあまりペイしない。そういうスキマを埋める役割が、電子出版にはあるような気がしますが。

高橋

そうですね。そのあたりを私たちも狙っています。電子書籍はWebの初期の頃と似て、ビジネスモデルの混乱がある。だからこそ面白い。僕も事業スタイルを一つに固定化するというより、時代の変化に応じて常に新しいことをやっていく、そういうスタンスの会社にしたいと思っています。

白石

起業・独立を目指すエンジニアへのメッセージをぜひ!

高橋

無理に踏み出す必要はないけど、組織のしがらみに縛れるのもつまらない。起業がすべてとは思わないが、エンジニアは常にいろんなことにチャレンジし、手持ちのスキルや専門性を増やすことは必要。いざとなったら逃げ出せる準備をしておく必要はあると思います。

電子書籍で変わる出版プロセス。エンジニアの活躍の場が広がる

 イベントの最後のパートでは、白石、藤井、高橋の三氏が登壇し、会場からの質問も交えながら、あらためて電子出版の未来をめぐってディスカッションした。白石氏は、まず電子書籍マーケットの右肩上がりの成長カーブを示す。ただ、Webエンジニアとしての経験が長いだけに、Webブラウザでなくて、「なぜいま電子書籍というスタイルが受け入れられているのか」が、本質的な問いだ。

高橋

エンジニアにとって、Webは技術ドキュメントを読み書きするための基本的なプラットフォームになっているが、まとまったコンテンツを読もうとすると書籍の形態がまだ優勢ですね。ブログでの情報発信も全般的に減っているような気がする。Webだけでは全部をカバーできない限り、電子書籍が伸張する余地はまだまだ大きい。

藤井

フィクション・小説の場合、ストーリーは頭から流して読むもの。ストーリーを読み進めるためにページをめくり、あるいは途中で本を閉じるという行為は必須。Webだとそれがしにくい。本のカタチがいつまでも現在のまま続くとは思わないけど、本のメタファーを利用した電子書籍はやはり必要。

 電子書籍化に伴う出版プロセスの変化をどう捉えるかという視点も重要だ。高橋氏がこんなエピソードを語る。

高橋

この前「GitHubのプライベートリポジトリがシェアされました」という通知が来て覗いてみたら、イシューが立っていて『この原稿を出版したいんだ』といきなり言われてビックリしました。持ち込み原稿がいきなりGitHubでシェアされる、そういう時代になったんだなと。

 藤井氏が指摘するのは、組版デザインという概念の変化。

藤井

僕の出版では、従来のレイアウト・デザインというプロセスがスクリプトで動かせば、自動的に各種フォーマットが出力される。書籍デザインをすべてCSSで処理しているというイメージですね。

 こうした効率化は既存の出版社ではまだまだ遅れている。作家自らが出版プロセスを技術面でもリードする、電子出版の一シーンだ。もちろん、どのような形態の出版であれ、重要なのは著者とその内容、そして読者の存在である。

藤井

著者が良質のコンテンツを作り続けるモチベーションは、それを面白いと言ってくれる読者の数に依存する。ぜひ面白い本は面白かったよ、とフィードバックしてほしい。

 出版社の立場からは高橋氏がこう語った。

高橋

少子化時代とはいえ、紙の出版の時代に比べると、電子出版はハードルが低くなり、出版業としての生産性も高くなっている。紙の本が絶滅するとは思わないが、電子書籍は技術との親和性が高く、技術革新によってさらにマーケットが広がる可能性がある。Webエンジニアはぜひこの分野にトライアルして欲しい。

 イベントの様子はUstreamでも放映され、Twitterなどでも共有された。パネラーの発言に賛同したいときに「いいね!」を投稿できるモバイルアプリもこの日のために開発された。参加者へのアンケートによれば、全員が「とても面白かった」「面白かった」と回答。三氏への関心である「電子書籍」というテーマ、あるいはこうしたリラックスしたイベントスタイルへの関心の高さがうかがわれた。


(白石俊平と)カッコいいやつら  http://www.kakkoii.tv/
 http://www.kakkoii.tv/events/20130411/
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