超こだわりの“一筋メーカー”探訪記 この分野なら任せなさい! |
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染物一筋104年!
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日本に数少ない「阿波藍+木灰水発酵建て」の藍染工房
盛岡市周辺の伝統工芸が集まる「盛岡手づくり村」
盛岡手づくり村の中の染屋たきうらのショップ
「東京の服飾専門学校を卒業して、地元の岩手に戻ってきました。知人の紹介で『染屋たきうら』に就職したのですが、自分がまさかここ、盛岡手づくり村で働くとは思っていませんでした。だって母が販売センターでずっと働いていて、私も子供のころからちょくちょく来ていたんです(笑)。いろんな体験学習もしていました」
こう語るのは藍染職人の大場久美子さん。染屋たきうらは、タデ科の藍草「タデアイ」を発酵させてつくった「すくも」を「木灰水(あくみず)発酵建て」という日本古来の技法で染め液をつくる、日本でも数少ない「本藍染」の工房だ。明治42(1909)年の創業で、1986年の盛岡手づくり村オープンと同時にこの場所へ工房を移した。
盛岡手づくり村は、盛岡市周辺の伝統工芸品や特産品などの作り手が集まるテーマパークで、同社のほかにも南部鉄器、陶器、竹細工、わら細工、玩具、冷麺、駄菓子などの工房が合計14軒ある。販売に加えて実演や「手づくり教室」を実施する工房も多く、観光バスが連なる人気スポットだ。
「もともとモノづくりは好きで、得意でもありましたが、染物職人になるつもりはなかったです(笑)。それが、続けるうちに面白くてたまらなくなり、もう15年が経ちました」
天然のすくもと灰汁水で発酵させる藍染の液
有限会社染屋たきうら |
原料のすくもをつくるのは「藍師」と呼ばれる職人。日本には5軒ほどしかなく、徳島県に集中しているため、すくもは「阿波藍」とも呼ばれている。また、同社のようにすくもを使って灰汁水で藍染をする工房は「紺屋」と呼ばれる。藍師は阿波藍を全国の紺屋に出荷しているのだ。 仕入れたすくもは足で練り、工房にいくつも置かれた瓶に入れる。瓶は深さが120cmほどで、工房の地下に埋まっている。すくもと一緒に灰汁水と熱湯を入れ、かき混ぜて発酵させる。発酵にはアルカリ性水溶液が必要なので、藍染には従来から灰汁水が使われており、石灰を入れる場合もあるという。瓶の中をかき混ぜるのは朝と夕方の30〜50回ずつだ。 |
色合い、液の状態、布地の種類……微調整を施す職人の技
「手づくり教室」でTシャツの藍染に初挑戦!
1回(1番)につき2日ほど置くので、順調にいけば10日で完成することになる。発酵してくると液の色や華(泡のこと)が変わり、匂いも出てくるという。色、華、かき混ぜたときの変化などに加えて、温度やpHを計測して液の調整を行う。こうした作業は「藍を建てる」と呼ばれるが、建てた回数が職人の経験につながるという。 |
工房の中にある瓶 瓶の中の藍染の液 |
ウールは脅威、絹は早目、綿が一番……すべてを手で調整
瓶の中をかき混ぜる様子 大きなサイズの布を染めるための瓶、深さは2mほど |
話を元に戻すと、特に「ムラなく」が至難の業という。瓶の中で手を動かしながら染めていくのだが、空気が入るとムラになるので空気を逃がすように回したり、薄く仕上げたい場合は漬けっぱなしもいけないので、瓶の中でゆっくり広げたりするという。 「染み込みがいい瓶やムラになりやすい瓶もありますから、瓶によっても染め方や時間を調整します。薄い液で薄い仕上げなら、10分染めて、一度取り出して10分ほど酸化させて、再び染めて……を3回ほど繰り返して1日で終わりますが、濃い仕上げで液の状態がよくなければ1週間ほど掛かる場合もあります。調整は薄いほうが難しいですね」 布地の材質によっても染まる度合いが異なるという。 |
天然素材と職人の手間から生まれる、本当の藍染
布地を煮てすすぎを繰り返す、染める前の下準備
染物職人はまさに染めることが仕事だが、実はそれまでの下準備にも時間がかかるという。天然の藍には天然の素材。繊維が天然の状態でないと染まらないため、不純物などを取る作業をするのだ。 |
精練と糊抜きをした太めの糸 いつも藍色に染まっている大場氏の両手 |
地球に生まれて地球に帰る、天然素材のサイクル
藍染の帽子 指導していただいた女性職人さん |
すすぎは染めた後も行う。水がある程度きれいになるまで、つまり藍の色が流れなくなるまで、何度も水を変えてすすぐ。その後で2日ほど干すのだが、干しているときに黄ばみが出てくるので、再び熱湯で煮て、すすいで、最後に張り干しをする。ここでようやく藍染の工程が終わるのだ。 ただ、現在ではこうした伝統的な製法ではない、薬品を使った染め方が主流となっている。それでも「本藍」に根強いファンが多いのは、その色合いはもちろん、肌触りのよさ、匂いのなさなどが理由で、何から何までが天然でつくられていることによる。 |
このレポートの連載バックナンバー
超こだわりの「一筋メーカー」探訪記
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