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超こだわりの“一筋メーカー”探訪記 この分野なら任せなさい!

藍染

染物一筋104年!
 「藍染」の伝統を受け継ぐ女性職人

岩手県盛岡駅からバスで約1時間。盛岡手づくり村にある藍染工房「有限会社染屋たきうら」では、日本古来の方法で藍染を続けています。藍染の体験学習も行っており、私もTシャツを染めました(右の写真)。結構いい感じでしょ?

(取材・文・撮影 総研スタッフ/高橋マサシ) 作成日:13.04.26

日本に数少ない「阿波藍+木灰水発酵建て」の藍染工房

盛岡市周辺の伝統工芸が集まる「盛岡手づくり村」

藍染

盛岡手づくり村の中の染屋たきうらのショップ

「東京の服飾専門学校を卒業して、地元の岩手に戻ってきました。知人の紹介で『染屋たきうら』に就職したのですが、自分がまさかここ、盛岡手づくり村で働くとは思っていませんでした。だって母が販売センターでずっと働いていて、私も子供のころからちょくちょく来ていたんです(笑)。いろんな体験学習もしていました」

こう語るのは藍染職人の大場久美子さん。染屋たきうらは、タデ科の藍草「タデアイ」を発酵させてつくった「すくも」を「木灰水(あくみず)発酵建て」という日本古来の技法で染め液をつくる、日本でも数少ない「本藍染」の工房だ。明治42(1909)年の創業で、1986年の盛岡手づくり村オープンと同時にこの場所へ工房を移した。

盛岡手づくり村は、盛岡市周辺の伝統工芸品や特産品などの作り手が集まるテーマパークで、同社のほかにも南部鉄器、陶器、竹細工、わら細工、玩具、冷麺、駄菓子などの工房が合計14軒ある。販売に加えて実演や「手づくり教室」を実施する工房も多く、観光バスが連なる人気スポットだ。
「もともとモノづくりは好きで、得意でもありましたが、染物職人になるつもりはなかったです(笑)。それが、続けるうちに面白くてたまらなくなり、もう15年が経ちました」

天然のすくもと灰汁水で発酵させる藍染の液

藍染

有限会社染屋たきうら
大場久美子氏

原料のすくもをつくるのは「藍師」と呼ばれる職人。日本には5軒ほどしかなく、徳島県に集中しているため、すくもは「阿波藍」とも呼ばれている。また、同社のようにすくもを使って灰汁水で藍染をする工房は「紺屋」と呼ばれる。藍師は阿波藍を全国の紺屋に出荷しているのだ。
染屋たきうらの藍染職人は4人。数多くのコンクールで受賞歴を持つ3代目社長の滝浦輝夫氏以外、3人の職人はすべて女性だ。
「藍染の職人に女性が多いということはないと思います。偶然です(笑)」

仕入れたすくもは足で練り、工房にいくつも置かれた瓶に入れる。瓶は深さが120cmほどで、工房の地下に埋まっている。すくもと一緒に灰汁水と熱湯を入れ、かき混ぜて発酵させる。発酵にはアルカリ性水溶液が必要なので、藍染には従来から灰汁水が使われており、石灰を入れる場合もあるという。瓶の中をかき混ぜるのは朝と夕方の30〜50回ずつだ。
「酒造りの杜氏さんと同じような工程ですね。菌が繁殖できないので、あまり混ぜすぎないようにしています」

色合い、液の状態、布地の種類……微調整を施す職人の技

「手づくり教室」でTシャツの藍染に初挑戦!

1回(1番)につき2日ほど置くので、順調にいけば10日で完成することになる。発酵してくると液の色や華(泡のこと)が変わり、匂いも出てくるという。色、華、かき混ぜたときの変化などに加えて、温度やpHを計測して液の調整を行う。こうした作業は「藍を建てる」と呼ばれるが、建てた回数が職人の経験につながるという。

「菌はとてもデリケートですから、同じように作業しても瓶によって様子が違ってきたり、色素がたくさんあっても染まらないなども起こります。私も最初の5年は何が何だかわからなかったですよ(笑)。『何となくこうかな』という気持ちになってきたのはこの5年くらいです」
こうして染料が出来上がると布を染める。瓶の底のほうにはすくもが沈殿しているので、瓶の内部にカゴを取り付けて、瓶の上の部分の液で染める。大場氏は「ただ染めるだけなら誰でもできる」という。ムラなく、薄く、均等になどの条件があるから難しいのだ。

実際、私も「手づくり教室」をお願いし、Tシャツを染めた。もちろん初体験。若手の女性職人さんの指導のもと、まずは白いTシャツにデザインを施す。まとめた布地を輪ゴムで結んだり、割りばしを挟んだり、プラスチックのキャラクターを洗濯バサミで留めたり……。
その後、藍の液にしばらく浸して、引き上げ、空気にさらす。私というより女性職人さんがほとんどやってくれたのだが、これを4〜5回繰り返した。
最後に輪ゴムなどを取り、洗濯機でしっかりとすすいで、干して完成。できあがったのが一番上の写真。すごい達成感から思わず「おおっ!」と叫んでしまった。

藍染

工房の中にある瓶

藍染

瓶の中の藍染の液

ウールは脅威、絹は早目、綿が一番……すべてを手で調整

藍染

瓶の中をかき混ぜる様子

藍染

大きなサイズの布を染めるための瓶、深さは2mほど

話を元に戻すと、特に「ムラなく」が至難の業という。瓶の中で手を動かしながら染めていくのだが、空気が入るとムラになるので空気を逃がすように回したり、薄く仕上げたい場合は漬けっぱなしもいけないので、瓶の中でゆっくり広げたりするという。
染める時間は出したい色、布のサイズ、染料の状態にもよるが、薄い色なら最低10分、長くて濃いものだと朝から夕方まで置く場合もあるという。

「染み込みがいい瓶やムラになりやすい瓶もありますから、瓶によっても染め方や時間を調整します。薄い液で薄い仕上げなら、10分染めて、一度取り出して10分ほど酸化させて、再び染めて……を3回ほど繰り返して1日で終わりますが、濃い仕上げで液の状態がよくなければ1週間ほど掛かる場合もあります。調整は薄いほうが難しいですね」
ちなみにひとつの瓶で一反(幅38cmほど、長さ12.50mほど)の布が染められるという。昔から伝わる製法だけに、瓶のサイズも理にかなっているのだ。

布地の材質によっても染まる度合いが異なるという。
「麻が染まりやすく、ウールはフェルト化するので難しいです。ウールのセーターなどのオーダーが入ると皆顔色が変わります(笑)。絹はアルカリ性のために生地が痛んでくるので、早目に染めるようにしています。一番いいのは綿ですね。丈夫で染まりやすいですから」
ただ、同じ綿でも素材の質により染める時間や回数が違ってくるというから、どれだけ微妙な調整が必要なのかわかろうというものだ。

天然素材と職人の手間から生まれる、本当の藍染

布地を煮てすすぎを繰り返す、染める前の下準備

染物職人はまさに染めることが仕事だが、実はそれまでの下準備にも時間がかかるという。天然の藍には天然の素材。繊維が天然の状態でないと染まらないため、不純物などを取る作業をするのだ。

「お客さんの持ち込みを染めることもあるのですが、縫い糸が化繊ですと染まらず、そこだけが白いままになります。染物職人はただ染めるのが仕事のように思われがちですが、仕事の4割は『精練』や『糊抜き』です」
繊維の不純物を取る精練、名の通り糊を取る糊抜き。熱湯に洗剤などの薬品を入れて布地を煮て、45度くらいのお湯ですすぎを何度も繰り返す。すると、生地本来の素材が姿を現し、同時に柔らかくなってくるという。もともと精練された布地を使う場合でも、煮沸だけはするという。

「精練と糊抜きの場合は2時間ほど煮ますね。それから洗濯機でお湯を変えて3回すすいで、たらいで2回すすぎます。こうしないとムラにもなりますから、とても大事な作業になります。すすいで、すすいで、すすいでます(笑)」

不純物

精練と糊抜きをした太めの糸

藍染

いつも藍色に染まっている大場氏の両手

地球に生まれて地球に帰る、天然素材のサイクル

ショップ

藍染の帽子

藍染

指導していただいた女性職人さん

すすぎは染めた後も行う。水がある程度きれいになるまで、つまり藍の色が流れなくなるまで、何度も水を変えてすすぐ。その後で2日ほど干すのだが、干しているときに黄ばみが出てくるので、再び熱湯で煮て、すすいで、最後に張り干しをする。ここでようやく藍染の工程が終わるのだ。
染め上がった布地は、花巻市石鳥谷町にある同社の別の工房に運ばれ、ブラウスやTシャツ、バッグ、アクセサリー、帽子、ハンカチなどさまざまな商品となる。

ただ、現在ではこうした伝統的な製法ではない、薬品を使った染め方が主流となっている。それでも「本藍」に根強いファンが多いのは、その色合いはもちろん、肌触りのよさ、匂いのなさなどが理由で、何から何までが天然でつくられていることによる。
「薬品を使うと捨てるときに処理が必要ですが、染まらなくなった藍の液は畑に撒けます。地球で生まれて地球に帰るという環境のサイクルも、藍染の気に入っているところです」

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