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Tech総研10周年企画『私の10年間の軌跡』

高橋智隆が悟った
“人とロボットの理想の関係”

2003年3月にスタートしたTech総研も10周年。そこで10周年企画として2名の著名エンジニアが歩んできた「10年間の軌跡」を振り返りながら、何が変わり、何が変わらなかったのかを検証したい。今回はロボットクリエイター・高橋智隆氏が語る、ロボットと人との関係。

(総研スタッフ/山田モーキン 撮影/勝尾 仁) 作成日:13.03.08

2003年「ロボ・ガレージ」設立から10年。高橋氏が語るロボットと共に歩んだ軌跡


株式会社ロボ・ガレージ代表取締役 ロボットクリエイター 高橋智隆氏

日本を代表するロボットクリエイター、高橋智隆氏。今から10年前の2003年4月、奇しくもTech総研とほぼ同じタイミングで自ら代表を務める「ロボ・ガレージ」を設立。特許も取得した、中腰にならずに二足歩行を実現させた技術力や愛くるしいデザイン等、これまでのロボットの常識を覆す数々の画期的な取り組みで注目を集める。その後、ロボカップ世界大会5連覇や電池だけで東海道53次走破やル・マン24時間耐久走行に成功する等、数々の偉業を達成した「EVOLTA(エボルタ)」といった、これまで多くのロボットを、企画・開発・デザイン・設計・制作まですべて高橋氏一人の手で生み出してきた。

そして2013年、2つの大きなチャレンジを仕掛けようとしている。
ひとつは国際宇宙ステーションに初めてヒト型コミュニケーションロボットを打ち上げること。
もう一つは、パーツ付き組み立てマガジンとして知られるディアゴスティーニ・ジャパン社から、高橋氏監修のロボットを組み立てる週刊『Robi(ロビ)』の創刊。
両者のチャレンジには、大きな目的があると高橋氏は語る。この10年間で高橋氏が挑んできたロボット開発によって、何が変わり、何が変わらなかったのか。ご本人に振り返ってもらった。

2005年がピーク。そこから下り坂を得て今、再び注目を集める


この10年を振り返ると、ロボットに対する世の中の注目度には大きな波がありました。ピークは2005年、日本で開催された万博「愛・地球博」。夢のビジョンを描く万博の世界観の中で、さまざまなヒューマノイドロボットのデモンストレーションが脚光を集めました。
しかしこれまでもそうなんですが、いざ夢のイベントが終わり現実世界に戻った後、待てど暮らせど、万博で見たようなロボットたちが自分たちの生活にはやってこない。実はまだ技術的にも商業的にもロボットにも未熟であることを感じ、関心が一気にしぼんでしまうんです。
一方、消費者の側もロボットを受け入れる心の準備ができていない。それがどんな風にわれわれの暮らしの中に入ってくるのかイメージできず、皿洗い程度の稚拙なアイデアしか思い浮かばないのです。

例えば自動車にも同じことが言えます。電気自動車がなかなか普及しないのは、インフラ整備や車両価格などの問題もありますが、それ以上に実際の生活で電気自動車を受け入れる心の準備がまだできていないから。そのメリットを想像できないばかりか、デメリットへの不安が過度に増長される。その点、ハイブリッドカーは理想と現実をまさに“ハイブリッド”している点で、賢い手段だと感じますね。
人間は本能的に今の生活を維持したい、という保守的な考え方を持つから、どんなにいいものでも新しいものを受け入れるには、時間はかかります。

その点、お掃除ロボットに関してはかなり工夫されていて、実はその販売戦略が面白い。それは登場時、家電ではなく安価な「おもちゃ」として販売されたんです。米国のクリスマスギフトとして、ある意味ジョークグッズ的な立場。でも意外にもちゃんと掃除ができることを消費者が気付く。そんな頃合いを見計らって、掃除機能強化や自動充電などを備えた本格的な製品が、3倍ほどの値段で発売になったんです。もしこれが最初から家電として販売されていたら、違う結果になっていたかもしれません。実は、今年発売された「週刊ロビ」も同じ戦略で、おもちゃのふりをして、ロボットの可能性に気付いてもらおうという算段です。

ロボットは世界的にまた注目を集めてきている印象を受けます。「バーチャルや画面の中の世界」に過度に傾倒した反動で、急激に「リアルな世界」に世の中の関心が回帰している実感があります。

「ヒューマノイドロボットは何のためにある?」自問自答を繰り返し見つけた答え


小型ヒューマノイドロボット『ロビ』

実はこの10年間で、ロボット技術が劇的に進歩したということはなくて、もうすでに以前から、実用化するためのハードルはほぼなくなっていたんです。もちろん音声認識技術や各種要素部品の性能向上等、一つ一つを見ればそれぞれ進歩はしていますが。
「そもそもヒューマノイドロボットは何のためにあるんだろうか」という疑問が解消されないまま、その方向を模索していたのかも知れません。

その結果たどり着いたのは、「人とのコミュニケーションの為に人型をしている」という答えでした。今、われわれは多くの高機能機械製品と膨大な量の情報とに囲まれ、もはやコントロールしきれない状況にあります。そこで小型ヒューマノイドロボットが日常的にユーザーとコミュニケーションすることでユーザーの好みやライフスタイルを把握。それを元に家電製品のネットワークをコントロールしたり、ネット上から必要な情報を選んで提供してくれるようになるのです。
イメージとしては「目玉のおやじ」。敵を倒す訳じゃないけど、敵の弱点を教えてくれたり、普段の話し相手になってくれたり。スマートフォンに手足と顔が生えたようなものだと考えてください。われわれはスマホの音声認識機能をあまり使っていませんが、それは四角い箱に話しかける事に心理的な抵抗感があるから。もしそれが人型で、人のような動きや反応をしてくれるならば、われわれは自ら話しかけて良質な情報を提供し、それに応じた価値ある情報が返ってくるはずなのです。一人一台、小型コミュニケーションロボットを持ち歩く時代が15年後には実現すると考えています。

コミュニケーションの重要性に気づいた今、人の感性に大きな関心を持つように


私自身がロボット開発と向き合う気持ちや姿勢自体は、10年前から一切変わっていません。今でも自ら企画し、デザインを考え、自分の手で制作する。それはやっぱりロボットを作るのが純粋に好きだからだし、いつでも自分が好きなものに関してすべて、自分自身でハンドルしたい思いが強いから。それに自分が理想とするロボットに至るまでにはまだ遠いし、だからこそ今も、これからも自分の頭で考え続け、手を動かし続けていきたいと思っています。

その一方、この10年で変化してきたこともあります。それは先ほど触れた、ロボットの本当の存在価値に気付いた時から。つまりロボットが人とコミュニケートすることの重要性に気付いた時、「人の感性」により興味を持つようになったことです。
人はどう感じているのか。例えば自分の開発したロボットが話したり、動作をしたりすることでそれを見た人のリアクションをよく観察しています。ちょっとした動作であっても予想以上の反響があったりして、その理由を探ってみると面白い。

「宇宙」と「Robi」で上と下から攻める。これからも自らの手でロボットを生み出し続ける


人とロボットが理想の関係を築く。その具体的なイメージをもっと多くの方に実感してもらうために今年、2つのプロジェクトを実施します。
ひとつは今年の夏に予定している、「宇宙にロボットを打ち上げる」プロジェクト。国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟内で、宇宙飛行士との共同作業や地上に向けて情報発信する等、宇宙を舞台にロボットと人が密接なコミュニケーションを図る姿を広く知ってもらうことが、目的の一つです。
そしてもう一つは、先日発売されたばかりの週刊『Robi(ロビ)』の創刊。毎週、雑誌と共に届くバーツを組み立てると最終的に小型ヒューマノイドロボット『ロビ』を完成させることができます。このロボットは200語程度の言葉を認識して会話したり、テレビの操作をしてくれたりと、限られた機能でありながら、コミュニケーションロボットの未来を体感できる。先ほど話したように、そこで「ロボットのある暮らし」を理解してもらえれば、より実用的なロボットの市場ができ上がると期待しています。

このように「上」と「下」からロボットと人の未来像を伝えることで、ようやくロボットが本格的に世の中のライフスタイルに入りこんでいく大きなきっかけになると私は考えています。
10年前、私一人で始めたロボット開発も、気がつけば多くの企業やみなさんが協力していただいたからこそ、ここまで来られた。これからも理想のロボット開発を通して、当たり前に、一人一台、ロボットと共生する未来を実現するのが、私の夢です。

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