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海外に転勤・出張するとき、どうやって身を守ればいいのか?

小川和久氏が緊急提言!
    海外エンジニアの危機管理術

アルジェリアの人質事件はエンジニアに衝撃を与えた。転勤や出張で海外に滞在するエンジニアは少なくないし、新興国においては今後も増加が見込まれるからだ。軍事アナリストの小川和久氏に、海外勤務の危機管理術を聞く。

(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ 人物撮影/三浦健司) 作成日:13.02.21

あなたは見られている、日本人とわからないようにする


静岡県立大学特任教授
国際変動研究所理事長
軍事アナリスト
小川和久氏
陸上自衛隊生徒教育隊・航空学校修了。同志社大学神学部中退。新聞・雑誌記者を経て、1984年に日本初の軍事アナリストとして独立。外交、安全保障、危機管理の分野で政府の政策立案にかかわる。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、内閣官房危機管理研究会座長、日本紛争予防センター理事などを歴任。

―― アルジェリアでの人質事件では日本人のエンジニアが犠牲になりました。とても痛ましいことです。国によっても違うでしょうが、転勤や出張で海外に赴任するエンジニアは、どのようにして身を守ればよいのでしょうか?

小川 テロリストによる人質事件や乱射事件、爆弾テロなどは、いつ起こるかわかりません。ある意味で防ぎようがない。だから、まずは普通の犯罪者に襲われないレベルの、危機管理能力を備えることに留意すべきです。

そのための危機管理とは、どの国においても言えることですが、まず日本人に見られないこと。海外の国際空港で足早に歩くビジネスマンの中で、日本人と韓国人は一目でわかると言います。
身のこなし方がスマートさに欠けて、柔道家のようなのしのしとした歩き方なのですね。中国人は少し細身の人が多いせいか、身のこなしが違って、そうは目立たないようです。

―― 日本人はお金を持っていると思われがちですね。

小川 実際に金がありそうな身なりをしているのが間違いのもとです。ブランド物の服を着たり、高価な持ち物を身につけていたり。私も若いころに経験がありますが、外国の空港で現地の人が寄ってきて、「シャチョウ!」などと日本語で話しかけてくる(笑)。
日本では安価なファストファッションでも、新興国の人には高価な場合もあります。あまり新品の服は着ず、ブランド物は持たないことです。

横柄で見下した態度を取るな、一緒にメシを食おう

―― 新興国に行くエンジニアが増えています。中国、タイ、インドネシア、シンガポール、インドなどです。

小川 旅の恥はかき捨てと思っているのか、会社生活でストレスがたまっているのか、海外で横柄な態度を取る日本人が実に多い。特に新興国では、現地の人を見下した態度を取りがちです。当然ですが、相手は気分を害します。

海外に赴任したら、身近な現地の人とコミュニケーションを取って親しくなりましょう。情報が集まるし、生活も楽しくなります。そのためには威張らない。金に物を言わさない。接していれば相手の生活水準がわかりますから、「気持ちだけだけど、これ奥さんに」と、ちょっとした品を渡すのはよいでしょう。「気は心」は世界共通です。

子供の頭をなでていい国といけない国があり、何かの仕草が特別な意味を持つ国もあります。接していけば現地の習慣もわかりますから、それまではあまり派手な動きやジェスチャーは控えたほうがよいと思います。

―― 現地の人と親しい関係になる、うまい方法はありますか?

小川 日ごろから対等の付き合いをすることです。私が勧めるのは、「一緒にメシを食おうよ」と誘うことです。欧米の企業の社員は現地の従業員と一緒に食事をせず、彼らだけで幹部食堂で食べることも多いのですが、真似する日本企業も少なくありません。しかし、現地の従業員はそれを見ています。

「同じ釜の飯」ではないですが、一緒に食事をすると自然と仲良くなれますし、彼らの悩みを聞いたり、こちらの相談に乗ってくれる機会も生まれます。率先して食事に誘いましょう。また長期滞在なら、現地雇用の従業員の家に「下宿」をするのもいいと思います。

―― ホテルや賃貸ではなく、下宿ですか?

小川 単身者に限られるでしょうが、現地の信頼できる人に下宿させてもらうのです。ホテルよりは不便でしょうが、その家族や周囲の人たちとも親しくなれます。そうしておくと、本当の危機が起きたときに貴重な情報を教えてくれるかもしれません。
そして、現地の人と親しくなる、何よりの危機管理術は「笑顔」です。




イラク・サマワで実行した自衛隊の「笑顔作戦」



―― ただ、慣れない外国で笑顔を振りまくのは、日本人には難しいのでは?

小川 2004年に陸上自衛隊が、イラクのサマワに復興支援に行きました。そのときの例を紹介しましょう。世界の軍隊の常識ですが、部隊は最初に「こうした場合には、こう行動する」という「継続的命令」を出します。
例えば、「村の中を通るときや夜間は、道路に人がいてもいなくても、安全のために時速80キロで走行する」などです。遅いスピードだと襲われたり、狙撃されたりしますから。

そして、交通事故を防ぐために、人や家畜が道に出ないように現地の人に警告します。最初に伝えておいて、その行動を繰り返すから「継続的命令」です。仮に人が飛び出して事故が起こっても、「事前に言ったじゃないか」となる。

―― なるほど。日本の自衛隊もこうしたわけですか?

小川 いえ、自衛隊は逆をいきました。装甲車などの車両をゆっくり走らせて、乗っている隊員たちは防弾チョッキとヘルメットに身を固めはていましたが、外に向かって笑顔を振りまいたのです。左手を大きく振って、人を見たら笑いかける。ただ、すぐに応戦できるように、右手の指は安全装置を外したライフルに掛けておく。

問題は、ヘルメットをかぶって、イスラム圏の習慣に合わせてひげを生やしているため、笑顔をつくってもそうだとわからないこと。そこで、わざと大きく歯をむきだしにして、遠くからでも笑顔だとわかるようにしました。

―― この行動はどんな効果を生んだのでしょうか?

小川 最初に、子供たちが手を振るようになりました。次に大人たちが手を振るようになった。そして、食事に招待された場合などは防弾チョッキなしで歩けるようになり、自衛隊は銃弾を一発も撃たずに任務を遂行できました。
ただ、歯をむき出して笑い続けると、塩分濃度が高くて粒子の細かい砂がむき出した歯にびっしりと張り付いて、それを飲み込んだ自衛隊員たちは下痢に悩まされましたが(笑)。

この「笑顔作戦」の効果は、自衛隊の警備を担当していたオランダ軍が高く評価し、アフガニスタンで実行しました。その結果、国際治安支援部隊(ISAF:アイサフ)の中で、オランダ軍だけが一桁の死亡者ですんだのです。これが笑顔の力です。日本人にもできますよ。

外務省や企業に頼らず、積極的に情報入手に動け


小川 私が実際にしたことですが、マスコミの支局を1軒ずつ訪ねて、記者にランチをおごりました。また「メシ」なのですが(笑)、食事の場で現地の情報を仕入れるのです。記者の経験が浅ければ、現地雇用の従業員などを紹介してもらって話を聞く。

そうしていくと、「この地域は安全だ」「あの通りは危ない」などの具体的な情報が取れます。誰が正確な情報を把握しているかわかりませんから、徐々に輪を広げて、情報をクロスチェックしていくのです。特に新聞社と通信社は、何十年も前から同じ場所に支局があるケースが多いので、間違った情報は少ないと思います。

―― 自分の会社から有益な情報を得ることはできるものでしょうか。「日本企業の危機管理」という話にもなりますが。

小川 ちょっと難しいでしょう。大手企業を含めて、日本の企業の危機管理は非常に形式的です。
一般的な大手企業は、アメリカやイギリスの危機管理会社の会員になって、年間1千万円といったレベルの会費を支払っています。しかし、その提供サービスは電話やメールによる相談、簡単な研修、講演会への招待やニュースレターの送付が主です。現地で危機的な事態が発生した場合に、その会社の社員を救出する契約ではありません。

自分の会社の社員と家族を脱出させようとすれば、「脱出を担当する専門家を4人スタンバイさせる」といった別の契約になります。そのための費用が仮に1カ月に900万円必要とすれば、1年で1億円くらいの出費ですね。年間1億円であれば、大手企業なら負担したほうがよいと思います。社員の士気も上がるでしょう。
こうした準備をしておけば、いざというときには彼らが飛行機を手配したり、クルマを用意するなどして、とりあえず国境を越えて安全地帯に脱出させてくれるはずです。

「日本人は危機管理に慣れてない」ことを自覚すべし



―― 何かの場合、最後に頼りになるのは日本政府ということでしょうか?

小川 う〜ん。非常に言いにくいのですが、「政府は海外の日本人を助けられないこともある」と思ったほうが無難です。2年前のリビア動乱で、各国は自国の国民をリビアから脱出させましたが、日本政府はできなかった。
他国は軍の航空機を飛ばしたり、航空機や船をチャーターしたり、クルマで国境を超えさせたりして、万単位の自国民を国外に出した国もある。一方、日本政府はわずか20人程度の邦人を脱出させられなかったのです。

私が思うに、日本は危機管理に未熟で、いろいろな判断が遅い。もちろん、政府は国民を守れるような体制にすべく努力していますし、私もアドバイスをしてきました。ただ、まだ満足できる域には達していないと感じます。
最初にテロや内乱は防ぎようがないと言いましたが、それでも現地の人たちと信頼関係を築き、情報のやり取りをすれば、自ずと見えてくるものはあります。国も国民も危機管理に慣れていないだけです。

―― 危機管理に慣れていないとはどういうことですか?

小川 日本は島国で、海に守られてきた。危機に遭遇したことがありません。植民地支配されたこともなく、第二次大戦の敗戦でアメリカ軍に占領されたのが初めての「危機」と言えます。
だからこそ素晴らしい文化も花開いたわけですが、危機に対するセンスはDNA的といってよいほど欠けており、どんな秀才でも外交、安全保障、危機管理が苦手なのです。

そのことを自覚して海外で行動してください。恥ずかしいと思うことはありません。日本人は、危機管理に慣れていないだけなのです。そして、まずは信頼できる現地の友人をつくることに、全力を挙げてください。間違いなく、あなたの安全は確かなものになります。

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