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サイバーエージェント福岡発信の新感覚コミュニティサービス
1日20万件ひとり言が投稿される「きいてよ!ミルチョ」
サイバーエージェントAmebaからまた新しいサービスが生まれた。不思議なキャラを相手に“どうでもいいひとりごと”をつぶやく「きいてよ!ミルチョ」。会員40万人を超えるヒットを支えるのは、福岡在住のエンジニアたちだ。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:13.01.11
キャラクター相手に本音のつぶやき。それを聞いてくれる仲間がいる

 ネット上で人と人がコミュニケーションするソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)。PC、携帯電話、スマートフォンへとアクセスデバイスの変化はあったものの、いまやすっかり人々の生活に根付いている。だが一方でフォロワーに業務上の知人もいることなどで、「仕事の愚痴がつぶやけない」「プライベートの話がしにくい」などと嘆く人も増えている。SNSが少し窮屈になったり、SNS倦怠感、SNS離れもささやかれている。

 サービス提供者側もそのあたりは敏感だ。コミュニケーションの原点とは何かを考えながら、従来の窮屈さや敷居の高さを脱した、よりカジュアルな新しいSNSサービスを企画している。その一つが、サイバーエージェントがこの8月、スマートフォンプラットフォーム「Ameba」においてリリースした「きいてよ!ミルチョ」だ。

「きいてよ!ミルチョ」は、簡単に言えば、SNSでは言えないようなどうでもいいひとりごとを、ゆるキャラの「ミルチョ」に対して気軽につぶやく新感覚のコミュニティサービスだ。ひとりごとをつぶやけば、ミルチョが返答してくれる。ほかの利用者のひとりごともタイムラインを通して聞くことができる。ユーザー間のやりとりがあると、そのコミュニケーションを糧にミルチョが約50段階にわたって成長・進化する。

 土からムックリと生まれたことだけはわかっているが、種別・性別・年齢不詳のミルチョは、なんとも“キモかわいい”生き物。そのコミカルな表情と、少し見当外れの返答にハマるユーザーは、1月初旬時点ですでに40万人を突破している。特徴的なのは女性の恋の悩みが多いこと。また男女問わず、日々の仕事の息抜きに書き込む人が多いことだ。
「ああ、今日の仕事がやっと終わった」とつぶやけば、ミルチョが「お疲れさま」と対応してくれる。他ユーザーから「きいたよ!」という挨拶も寄せられる。一人でつぶやいているのに、なぜか癒され、明日への活力が湧いてくる。これこそ、もしかしたらSNSの原点にあるものなのかもしれない。

FacebookでもTwitterでもない、新しいSNSコミュニティの可能性

 サービスを企画したのは、新卒プロデューサーの一期生として2007年アメーバ事業本部に配属となり、「アメーバピグ」の立ち上げにかかわった、山崎ひとみさん。同社のテレビCMにも登場している女性だ。
「『お腹減った』とか『寒い』とかFacebookで投稿することははばかられる、でもTwitterに投稿して誰からも見られずに流れてしまうのも悲しい、くだらないけど誰かに聞いてほしいひとことを投稿できる唯一のサービス」と、同サービスを位置付ける。FacebookとTwitterというSNSの世界的ガリバーを意識しつつも、その谷間に新しいSNSサービスが成り立つ余地を感じていたのだ。

 もともと、「ミルチョ」は同社の他のソーシャルゲームの中に住む一キャラクター。これを使って何かできないかと企画のアイデア出しの中で思いつき、唐突に口をついて出てきた言葉が「きいてよ!ミルチョ」だった。キャラクターに話しかけ、それを育てるサービスの原型が生まれた。

 むろんコンピュータやネット上のキャラクターとテキストで会話するサービスは、古くからある。背景には人工知能科学の下支えがあるが、そのロボットのナンセンスな応答ぶりは、いまで言う“ゆるキャラ”のようである。人工無脳との会話は、コンピュータエンジニアたちのささやかな癒しの時間でもあった。そういう古い話を知ってか知らずか、山崎さんの話を聞いて、エンジニアたちも、これは面白いと飛びつき、せっせと実装に向けた開発に取り組んだのだった。

わずか3カ月で、HTML5/CSS3/JavaScriptを習得・実装
奈良 一樹氏
Amebaスマートフォン福岡開発局
リーダー
アメーバ事業本部
メディアクリエイティブDivision
奈良 一樹氏

「きいてよ!ミルチョ」は基本的にミルチョに対してユーザーがつぶやく仕組みだ。ただ、そのつぶやきはパブリックなタイムラインにも流れる。40万人ものユーザーがいるので、そのタイムラインは秒速で流れるが、ふと気にかかったつぶやきがあれば、それを「きいたよ!」ボタンで応答することができる。それに対してさらに相手が「ありがとう」と返信してくれれば、「ありがとうの実」が届き、それをミルチョに食べさせることで、ミルチョが変身していく。メンバー間のソーシャルグラフを分析すれば、かなりゆるいつながりであることがわかる。それだけにまず“炎上”する心配はない。

 キャラクターの存在感はサービスの眼目だ。これを表情豊かに演出するために、動きは基本的にHTML5、CSS3、JavaScriptで実装されている。だが、この開発を担当した奈良一樹氏は、それまでサーバサイドの経験はあるとはいうものの、HTML5、CSS3、JavaScriptでWebアプリを書くのはほぼ初めての経験だったという。
「プロジェクトの開発スタートが2012年5月のこと。それから急いでJavaScriptの専門書に挑戦し、社内の詳しい人に聞き、社内のリポジトリに蓄えられている他のプロジェクトのソースを読み、大急ぎで知識を積み上げていきました。デザイナーの要求をどうやって実装するか。最も困ったのは、同じHTML5/CSS3といっても、クライアント側のiPhoneとAndroidでは挙動が微妙に違うこと。あるライブラリを使うと、Androidでは動作が速くなるけれども、iPhoneでは逆に遅くなるということもあって悩みましたが、いろいろな場面で社内メンバーの温かいサポートもあり、無事リリースにこぎつけました」

 リリースが8月のことだから、Webアプリ実装経験がほとんどゼロの状態から、わずか3カ月でサービスインまでこぎつけたことになる。もともとエンジニアとして能力の高い人だったのだろう。その馬力もすごいが、社内のリソースをふんだんに活用できる環境も注目に値する。

RESTful Webサービスとしてアーキテクチャを設計

 もう一人のエンジニア、安松昇氏は専門としてはサーバサイドの担当だ。今回のWebサービスの設計にあたっては、アプリケーション連携アーキテクチャとして「RESTful Webサービス」を活用。さらにその実装を支援するオープンソースのソフトウェアフレームワークとして「Google Guice」と「Jersey」を利用した。環境設定と定義づけさえきちんと行っておけば、あとあと面倒な設定ファイルが要らないなど、システム開発のスピードをアップすることができるからだ。
「リリース予定まで時間がないので、あれこれ迷うだけの余裕がありませんでした。GuiceもJerseyも私自身は使うのが初めてでしたが、結果的には開発もスムーズに進行し、サーバとクライアント側でも大きな問題は発生していません」

 こうした新しいアーキテクチャをあえて採用したのは、開発スピードの向上という狙いに加え、今後のトラフィック増加に対応して、あらかじめアプリとサーバとの連携を柔軟な設計にしておこうという配慮からだ。ユーザーが少ない間はあまり心配する必要はないが、5カ月で40万人まで伸びた会員数は今後どこまで拡大するかわからない。

 ユーザーのつぶやきのポスト(送信)処理にたとえ時間がかかっていても、裏側の非同期処理を進める間、ミルチョは微妙に動いて、ユーザーを飽きさせない。アプリ間のHTML連携がうまく働いている。それでもトラフィックが集中し、処理が滞るような事態になれば、サーバ資源を柔軟に追加できるよう仮想化の仕組みも採り入れている。このあたりは、社内のインフラチームとの協業作業だ。

安松 昇氏
Amebaスマートフォン福岡開発局
アメーバ事業本部
メディアクリエイティブDivision
安松 昇氏

 実際、リリース後1カ月経ったころ、サーバサイドにボトルネックが発見された。システムダウンの危機を事前に察知し、インフラチームの応援でサーバを増強。対応が素早かったため、危機はなんなく通り過ぎていった。

 ミルチョの表情はまことに愛らしいが、その裏では、エンジニアたちがせっせと日々のシステムメンテナンスに励んでいる。その努力の上で新感覚のコミュニティが日々成長していく。

効果が表れた福岡拠点でのエンジニア採用

 安松氏も奈良氏も、開発拠点はともに福岡だ。サイバーエージェントは2012年4月にスマートフォン向けアプリサービス開発を専門にした拠点を大阪と福岡に開設したが、その際、採用されたエンジニアなのだ。いま福岡にはスマートフォンアプリ開発、Web系プログラム実装、ゲーム開発、社内インフラ構築などのエンジニアが約10名いる。

 安松氏の前職は、全国に12拠点を展開する大手SIer。その大分支社に採用され、サーバエンジニアとして14年間にわたって、BtoB向けのシステム構築やミドルウェア開発に従事してきた。
「学生時代はゲームを作りたいと漠然と思っていたのです。ただ、就職先では「生」のコンピュータに近い開発が多かった。サイバーエージェントの伸張ぶり、とりわけスマートフォン上でのアプリ展開はメディアを通して知っていました。そういえば、俺ってゲームつくりたかったんじゃなかったっけと思い出したとき、地方採用を知り、矢も盾もたまらず面接会場に飛び込みました」
 スマートフォンアプリはつくりたい。しかし、長年過ごした地元は離れたくない。そういうエンジニアにとって、絶好の採用チャンスだったのだ。

 奈良氏も同様の経歴。ただ元々はエンジニアではなく、最初の仕事はPC雑誌の編集者。雑誌にテクニカルな記事を書くうちに、自分もプログラムをつくりたくなり、27歳で東京のSIerに飛び込み、そこで技術を覚えたという“遅咲き”だ。3年前に出身地の福岡にUターン。ガラケーのデコメールを開発する会社で携帯アプリのスキルを磨いた。その会社が初めてのAndroid、iPhoneアプリをリリースできたのも彼の力だ。
「ただ、当時の環境では、使えるリソースも限られていました。福岡でAndroidエンジニアのコミュニティに参加して情報交換などはしていましたが、もっと大きなフィールドで自分の力を試したかった。サイバーエージェントの開発者募集は、またとないチャンスでした」

東京と福岡で情報を共有。日々の積み重ねがヒットを生む

 両人とも採用後は、福岡拠点の整備が整うまでの間、東京本社に勤務。プログラム開発だけでなく、会社の意思決定や業務フローがスピーディーに動く様子には、あぜんとしたという。その流儀に慣れたころ、福岡勤務へ。「きいてよ!ミルチョ」プロジェクトのメンバーは東京と福岡に分散することになるが、チームメンバーとは、もっぱらSkypeのグループチャットや、iPadのFaceTimeで毎日やりとりしており、意思疎通は密だ。

 チームでは毎朝、前日のユーザーの利用状況を共有している。そこで早急に解決しなくてはいけない課題が見つかったら、ほかの項目を差し置いても、優先度を高く設定する。プライオリティをいかにつけるかは、Webサービス改善では決定的に重要なことだ。

 さらに福岡メンバーは定期的に上京し、東京のメンバーと食事や飲み会を含むコミュニケーションをとるようにしている。こうしたフェイス・トゥ・フェイスのミーティングを交えることで、場所が離れていてもチームとしての一体感が保てるという。

「スマホ・サービスのライフサイクルは速く短い。ユーザーに飽きられないために、地道な努力を重ねていくしかありません。現在も1週間に1度は新機能の追加やバグ修正、パフォーマンスの改善といったメンテナンス・リリースを継続しています。スマートフォンアプリで重要な画面タップ時の見た目上の変化などは、リリース後たびたび改善されています。こうした地味な改善とは別に、新機能を追加すると、そのたびに、ユーザーからびんびんと反応があります。それがスマートフォン・サービスの面白いところ。ミルチョと同様にこのサービス自体が日々成長を続けているのです」(安松氏)

 2人とも、30代半ばで、同社のスタッフの中では比較的高い年齢層に属する。
「新しいことを始めるのに、年齢は関係ないし、プログラマに年齢の壁があるとも思っていません。ユーザーに若い女性の多い『きいてよ!ミルチョ』が、ユーザーの関心と真剣に向き合えば、僕らでも十分にいいサービスが開発できると思っています」(奈良氏)
 最初は、ミルチョのキャラを奇妙だと感じていた奈良さんだが、次第に可愛く思えるようになってきた。ミルチョは、30代エンジニアのハートをも魅了しているのである。

Amebaスマートフォン福岡開発局 リーダー アメーバ事業本部 メディアクリエイティブDivision 奈良 一樹氏(37歳) Amebaスマートフォン福岡開発局 アメーバ事業本部 メディアクリエイティブDivision 安松 昇氏(34歳)

雑誌編集者、SIer勤務、携帯アプリ開発などを経て、2011年12月サイバーエージェントに入社。「きいてよ!ミルチョ」ではシステム全体、特にクライアント・アプリ開発を担当。

SIerの大分支店に12年間勤務後、2011年10月サイバーエージェントに入社。「きいてよ!ミルチョ」では特にサーバサイドを担当。

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