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超こだわりの“一筋メーカー”探訪記 この分野なら任せなさい!

箒

江戸箒一筋182年!
シンプルで奥深いほうきの世界

「江戸箒(えどぼうき)」を知っていますか? 軽く、しなやかで、さっと掃ける、江戸でつくられた箒のこと。開発したのは天保元年(1830年)創業の白木屋傳兵衛。現在は7代目が社長を務める白木屋中村傳兵衛商店です。

(取材・文・撮影 総研スタッフ/高橋マサシ) 作成日:12.12.17

料理人から箒職人へ、天保元年創業の老舗で江戸箒をつくる

軽くて、簡単に使えて、装飾が少ないことが「江戸の粋」

箒

売れ筋商品のひとつである「極上」の手箒

「取材のときには経歴を説明するのがちょっとね。『父親が箒の職人でずっと見てきました』とか、『昔からこの道しかなかったんです』みたいなことを期待されるでしょ。僕は『箒って売れるのかよ』と思いながら入ってきましたから(笑)」

こう語るのは白木屋中村傳兵衛商店の箒職人、神原良介氏だ。東京・赤坂生まれの33歳。父親は草履のすげ(鼻緒の調整など)の職人で、モノづくりには昔から興味があったが、大学卒業後は主に居酒屋で料理人として働いた。神原氏は「ね、普通の兄ちゃんでしょ」と微笑む。
あるとき、父親と仕事でつながりのある白木屋中村傳兵衛商店に「やってみないか」と誘われて、3年半前に「そのままなんとなく」入社したという。

同社の箒は「江戸箒」。天保元(1830)年創業の白木屋中村傳兵衛商店が、江戸後期に「開発」した。「ホウキモロコシ」という草の穂を使い、柔らかくて、コシのあることが特徴。力を入れずにササッと掃ける。
「箒には地方ごとに文化があって、幅が広かったり、きらびやかな材料を使うものもあるのですが、江戸箒の特徴は軽くて、ちゃちゃっと使えて、装飾が少ないこと。これが江戸の『粋』だったのかもしれませんね」

対面販売も仕事の魅力、お客さんに箒のよさを伝えたい

伝統

株式会社白木屋中村傳兵衛商店
神原良介氏

同社の箒職人は頭(かしら)の高木清一氏を筆頭に、若い女性職人2人と神原氏の合計4人。普段は作業場で箒をつくっているが、デパートの催事場などで実演する対面販売にも出向く。1年に20〜30回あり、1回の実演が約1週間。神原氏も北海道から九州まで回ったという。
「モノづくりもそうですが、お客さんと接することも好きです。部屋にこもって作業したいという職人もいるでしょうけど、僕がこの仕事を選んでよかったと思う理由には、対面販売もあります」

箒の質の差は写真に出にくく、文章でも伝わりにくい。実際に手にして掃いてもらうのが一番だと神原氏は語る。そのため、実演の際に小さな畳板を用意して、お客さんにその場で使ってもらっている。
電気掃除機が一般的になって箒のニーズは減ったものの、近年では再評価され始めている。畳だけでなくじゅうたん、カーペット、フローリングなど多様な場所で使えて、出し入れも取り扱いも楽。当然だが停電のときにも使え、音を立てないので夜でも家族が寝ているときでも使用可能。
「箒職人になって、入社前とは真逆の感想を持ちました。『箒は売れる!』と思いました」

職人が「手箒」づくりを実演、手足を使って編み上げる

穂の「草選り」から始まる箒づくりの工程

先のように箒の素材には「ホウキモロコシ」を使う。茨城県の特定の農家に委託して栽培してもらっている貴重品だ。一方、日本の種をタイへ運んで栽培し、輸入したものも使用している。タイには雨期が何度かあるので年間を通して収穫できるが、国産品の収穫は年に一度なので、どうしても量が少なくなるという。
「天候などに左右されるので、質の悪いものが多くなる場合もありますが、こうした素材は使いません」

収穫した穂を天日で3〜4日乾燥させて、「草選り」(くさえり)をする。使用する材料を選ぶのだが、その基準は「柔らかさ」と「コシの強さ」。箒づくりに草選りは非常に大切な作業であり、頭である高木氏にしかできないそうだ。
「僕らは頭の作業を脇で見て勉強しています。また、選ばれた穂を編み上げていくときに触りますから、ここで柔らかさやコシの強さなどを覚えていきます」
昔は20等級くらいに分けていたというが、現在は5段階くらいにグレード分けをしているそうだ。この選別で「極上」「特上」「上」といった製品に使われる穂が決まる。自然栽培なので、必ずしも上のランクの穂が少なく、中程度が多いなどとは限らない。場合によっては上質の穂が多く収穫される場合もあるという。

次は、穂の茎の部分を3時間ほど水に浸して柔らかくする。乾燥したままで作業すると穂が折れてしまうからだ。穂を編む麻糸にも霧吹きで水を含ませる。作業中にも乾燥していくし、自然な状態のほうが草にもよいので、なるべく早く編み上げるようにしているという。
「そのため、作業場ではエアコンや暖房器具は使いません。だから、夏は暑くて汗まみれになり、冬は厚着をするのですが、動きにくいので脱いじゃって寒かったりします(笑)」

箒

草選りされた後にまとめられた穂

箒

麻糸を編み上げて「玉」をつくる

箒

紐で玉を縛る「胴締め」

「玉」は「耳」が重要、できないと「長柄箒」にいけない

箒

4つ玉がある手箒。右端の大きめの玉が「耳」

箒

両端にある長柄箒の「耳」

芯となる中心の穂を決めると、その周囲に別の穂を巻くようにして全体を編み上げていく。糸は常に張った状態にしておき、しっかりと巻きつける。そうしないと完成後に緩んでくる場合があるという。そのため、麻糸は小さな柱に巻き付けて引き出し、手と同時に脚も使い、場合によっては体重を掛けて巻く。
こうして少しずつ穂を束ねたものをいくつか合わせて、ひとまとまりの「玉」に編む。中腰で使う短い「手箒」の場合は、玉を4つ使うことが多いのだが、最初につくるのは太めの「耳」。箒の端にあり、少々形状が変わったこの部分が一番難しいという。
「裏と表を同じようにつくるのが大変なんです。材料の穂は毎回異なりますし、草選りをしても各々が微妙に違うので、手と頭で瞬時に判断しながら作業しています」

もうひとつ大切な理由は、手箒で耳がつくれないと「長柄箒」へといけないこと。なぜなら、手箒は耳がひとつだが、長柄箒は両側に2つあるからだ。
短い手箒は腰をかがめて使う。そのため、掃くときには箒を斜め下方に出すようになる。この角度が付くために、使う際の箒の上部に耳があるようにして、斜め上からの力をしっかりと柔らかく受け止める。
一方、長柄箒は文字通りに柄が長く、立った姿勢で使うものだ。垂直に立てて使用するので、力は斜めではなく上方からかかる。その力をバランスよく使うために、耳は両端についているというわけだ。

今は「特上」までを担当、草選りができてやっと頭の半分

最初につくった箒は取ってあるが、「誰にも見せません」

耳が終わったらほかの玉を編み上げ、全部を太めの紐で縛る「胴締め」を行う。その後は根元の茎の中心部分を削って、先を尖らせた竹の柄を差し込み、ハンマーで打ち込む。周囲の茎を柄に巻きつけるようにして紐で縛り、穂と柄を固定させる。
不要な茎を切り取ったら、糸を横に編んで、穂を固定させる。最後に穂先を裁ちバサミで切りそろえたら完成だ。
「箒の穂先はほとんど同じ仕上がりになっていますが、何ミリに合わせて切るなどは決まっていません。職人の勘での作業です。箒づくりに教科書はないので、つくり方は体で覚えていきました」

神原氏は当初、高木氏から箒づくりの手順を教えてもらった後で、『とりあえずつくってみろ』と言われたそうだ。作業はシンプルでも勘をつかむのに時間がかかるので、数を重ねるしか上達の道はないということだ。
そして、入って1年半ほどがたち、「そろそろやってみるか」と手箒を任せてもらえるようになった。ただ、彼が担当できるのは「特上」まで。2人の女性職人は「極上」の手箒までをつくり、国産の草を使って最高ランクの箒をつくれるのは頭の高木氏だけという。
「力の入れ方、バランス、扱う角度などは職人によって違いますから、出来上がりも異なります。ですから、ここに並んだ箒を見ると、ほかの職人がどれをつくったかわかりますよ。頭の箒の特徴ですか? う〜ん、『やさしい』ことです」

その高木氏からは、「自分の箒の形を出していけ」と言われているとのこと。神原氏は、「一番下なので逆に学べることが多い」と語る。
「僕は頭の腕の半分にもなっていません。草選りができてやっと半分に届くくらいでしょうか。今でも、最初につくった箒は家に置いてあるんですよ。それはそれはひどい出来で、誰にも見せません(笑)」

箒

竹でできた柄を差し込む

箒

横糸をつけていく

箒

店内の壁にかけられたさまざまな箒

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