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ヒット製品の裏側には、必ず現場の執念がある!

底力

業界の常識を破った!
    自立自走エンジニアの底力

日本の製造業は停滞が目立つが、ヒット製品は確実に生まれている。その中にはエンジニアが企画に参加したり、主導的な立場でプロジェクトを進めたケースもある。ここでは特に「ヒット商品を生み出した中小メーカー」を紹介する。

(取材・文 総研スタッフ/高橋マサシ 撮影 平山 諭) 作成日:12.11.14

男前アイロン 中堅メーカーが奮闘した、早くて強いアイロンの開発

一念発起で「廉価品」から脱出!初の市場調査で意外な事実が

石崎電機製作所

株式会社石崎電機製作所
リビンググループ
グループ長
小林康司氏

アイロン

男前アイロンの最上位機種「SI-300LM」

掃除、洗濯、料理、買物…家事の好き好きは人によりわかれるが、株式会社石崎電機製作所の小林康司氏はこう語る。
「嫌われる家事の1位か2位は、アイロンがけのようです」
石崎電機製作所は「電熱はんだこて」で知られる中堅メーカー。得意の「電熱」の技術で家電分野に参入し、コーヒーメーカーやホットプレートなど大手メーカーのOEM商品を作ってきた。徐々に自社製品の開発をスタートさせ、アイロンの「廉価品」も売り出した。機能を押さえて価格で勝負する製品だ。

「こうしたアイロンを望むお客さんもいて当初は売れていましたが、大手メーカーさんの値下げ競争で売り上げが激減。一念発起して、企画段階から念入りに進める商品開発に切り替えました。外部のコンサルティング会社にも依頼して市場調査から始めましたが、市場調査自体が初めての経験でした」
その結果、意外なことがわかった。重労働、うまく仕上がらない、子どもに危険…などの理由から、アイロンは特に女性から嫌われていたのだ。そして、その逆のように男性ユーザーが多いことも。

「弊社のアイロン製品への問い合わせも男性、特に年齢の高い男性からが多いとわかりました。実は私も、定年退職した父にアイロンをかけてもらっているんです(笑)」
同社には工具を担当する「ツールグループ」と、家電製品を担当する「リビンググループ」がある。小林氏は技術営業の出身で、リビンググループのリーダー。その彼を中心に、2年をかけて商品化したのが「男前アイロン」である。

「立ち上がり時間」と「使用時間」のトレードオフを解決

男前アイロンは機構設計、デザイン、金型設計から製造まで、「フル投資」で開発した同社初の製品。シャープなデザインとカラーを検討すると同時に、こだわったのが機能性だ。目標にしたのは「さっさと済ませる」。アイロンを朝に使う男性向けでもあるのだが、大きなジレンマがあった。
家庭用アイロンの主流はコードレス。使用時には電源を入れて給電スタンドに通電し、上に置いたアイロンの底部(かけ面)を熱して、温まったらスタンドから外して使う。使い続けると熱は徐々に下がるので、長い時間使うためには「蓄熱」の量を増やす必要がある。しかし、スタンドで熱する時間は「待ち時間」となるので、これが長いと「さっさ」とは使えない。

「まず決めたのはこの『立ち上がり時間』です。業界トップクラスの90秒を目指しました。大手メーカーさんでは蓄熱量を上げるために、アルミなど底部の金属を厚くすることが多いのですが、これでは時間がかかってしまう。そこで弊社では、通常1200Wの出力を1400Wとしました。最終的にスチームの持続時間は約150秒になりました」

簡単なことではなかった。かけ面の内部にはその外周に沿って、巻かれた電熱線が入っている。これがヒーターとなり、タンクの水を熱してスチームを出すのだが、1400W分の量を巻くとコイルの間隔が狭くなり、断熱の危険が高まるという。この問題を解決したのが、培ってきた「電熱」の技術力だった。
同社の家電製品は中国の工場で生産しており、開発拠点も一部中国にある。そのため、こうした開発は中国チームともやりとりしながら進めたという。

アイロン

「SI-300LM」の上部

アイロン

「SI-301L」

スチームショット、大容量タンク…予想を上回るヒットに

アイロン

「SI-300LM」のかけ面

スチーム

「SI-300LM」のスチームショット

スチームにも工夫がある。普通に使う場合はかけ面両脇にある12のスチーム孔から蒸気を出すが、ハンガーで吊るした服などに使う場合は、先端部の7つの「ショット専用孔」から強い蒸気を出すようにした。
「他社の製品はほとんどかけ面全体の孔から噴射させていますが、この『スチームショット』は狙った箇所にあてられるので、細かなしわも簡単に伸ばせます」
また、給水回数を減らすため、一般的には120 mlが多い給水タンクを200mlの大型にした。ただ、これは苦肉の策でもあったという。最近の給水タンクは取り外しができるカートリッジ式が多いが、男前アイロンでは一体型だ。

「金型が高いんです(笑)。そのため、部品点数を増やさずに機能性を高めた結果が大型タンクになりました。大手さんの強みは弊社ほど金型にこだわらなくてよいことと、材料から入れる点ですね。アルミの質や量を決めたり、塗装を何度もやり直してもらったり、結構大変でしたから」
素早く立ち上がり、長く使えて、スチームショットも装備。基本性能に絞った男前アイロン「SI-300LM」が発売されたのは今年の3月。下位機種の「SI-301L」と「SI-302S」を加えた3台のラインナップである。
「売れ行きは目標を上回り、一時は生産が追いつかない状態でした。これからはフィルターをつけてタンクの水をろ過するなど、わかりやすい機能を追加していきたいですね。男前アイロンのシリーズ化も考えています」

男前アイロンが生まれたきっかけは、小林氏をはじめとする現場の危機感にあった。廉価品では一時は売れても、低価格という優位性が落ちればじり貧になる。そこで「付加価値」での勝負を考えた。綿密な市場調査からニーズを汲み取り、主流の「多機能」をあえて目指さず、基本性能に大きな特徴を持たせた。その裏側にあったのが得意技術の活用だ。金型の点数を減らす工夫から大容量タンクが生まれるなど、数々のアイディアも出された。
 常識破りの男前アイロンの勢いは、家電量販店のバイヤーが小林氏に語った、こんな言葉にも表れている。
「アイロン売り場は大手さんや海外メーカーの製品で『固定化』されているけど、この製品はすごいね。市場に一石を投じたよ」

フェルトーン フェルト素材を商品化した世界初の吸音ブラインド

4年を掛けて、燃えやすいフェルトを防炎加工

東京ブラインド工業

東京ブラインド工業株式会社
代表取締役 社長
櫻井武志氏

ブラインド

板となるフェルト

レストランや会議室で、周囲の声がうるさくて話ができない。オーディオルームを作ったのに、思ったより音が悪い。これらの原因は主に「音の反射」だと、東京ブラインド工業株式会社の櫻井武志社長は語る。特にガラス窓、フローリング、大理石や石などは音を反射させて反響音を生み、その音が反対側の壁などに当たると再び反響音となって、「残響音」が続いてしまう。
こんなときには世界初の吸音ブラインド「フェルトーン」が役立つ。このブラインドの板には不織布であるフェルトが使われている。音がフェルトの繊維を通過すると、摩擦や空気抵抗でその振動が熱エネルギーに変換され、吸音効果が生まれるのだ。電気信号でコーン紙などを振動させて音を出す、スピーカーとは逆の原理である。

「12年ほど前に材料メーカーさんから、フェルトでブラインドがつくれないかと提案がありました。ただ、商品化以前に多くの課題があり、その最大のものは防炎でした。フェルトはよく燃えるのです」
ブランインドが燃えやすくては困る。加えてカーテンや布製ブラインドには、バーナーで着火する「防炎物品性能試験」が義務づけられているのだ。しかし、農学部出身の技術屋社長には、フェルトや音に関する知識がほとんどなかった。これらを独力で覚えながら、協力会社と開発を進めていく。
1〜2年を掛けて、綿状のフェルトを圧縮して板状に固めた素材を完成した。ただ、火をつけたところ、タバコの火のように赤く残って燃え続けたという。防炎の試験に通るはずもない。

「その後は材料を入れ替えて、テスト、テストの繰り返しです。数十回は試したと思います。その結果、ようやく試験に通るフェルトができましたが、素材や製法については語れません。企業秘密なのです」
開発を始めてから4年後、ようやく「防炎フェルト」が完成した。しかし、2009年の商品化までには、さらに5年が必要だった。

重量対策、耐久性、カラー…商品化までさらに5年

ブラインド

吸音ブラインド「フェルトーン」

カーテン

カーテンの素材で包んだフェルトーン

商品化に向けた壁のひとつは板の重さだった。
「一般的な布製ブラインドの素材はポリエステルが多く、厚みは0.2〜0.5ミリ。しかし、最適な吸音効果を考えたフェルトーンの厚みは5〜6ミリとなったため、重さは5倍になりました」
フェルトーンは縦型ブラインドで横型はない。横型にした場合、引き上げて畳むと重みで板がたわんでしまうのと、板が厚いので窓の上部にたまってしまうのだ。そして、縦型の板の重量を受けるのが、板とレールをつなげる「ランナー」という部品。従来品では耐えられないので金属の素材を変えるなどした。また、ブラインドの減価償却(寿命)の6年を想定して、各種の耐久試験も行った。

「こうして完成したフェルトーンを、あるデザイン事務所に使ってもらいました。試用の評価を聞くためですが、『地味だし、カーペットが窓に付いているみたいで暑苦しい』と言われました。吸音材に着色するのは難しく、色はグレーしかなかったのです」
それでも開発を続けて、ホワイト、ブラック、アイボリーを用意する。一方、取引のある縫製所から、フェルトをカーテンの生地で覆う特殊加工ができるとのアイディアをもらった。ある程度の通気性は求められるものの、これにより多種類の色やデザインが使えるようになった。

2009年8月、残響音を40%減らす世界初の吸音ブラインド「フェルトーン」が発売。ブラインドメーカーは国内に大手が2社あるが、同社はパートを含めて従業員30人程度の中小企業である。

これからは「音環境をよくする提案」を世界に打ち出す

ブラインド

フェルトーン

ブラインド

木材のブラインドを挟んだハイブリッド型

フェルトーンが使われているのはレストランや企業の大会議室など大人数が話す場所。櫻井氏によれば、人の声はおよそ男性が80〜3000Hz、女性は230〜4000Hzであり、フェルトーンは主に800Hz以上の中高音を吸収するためだという。一方、学校の音楽室、ピアノ練習室、オーディオルームなど、音楽を聴く場所でも利用されている。
「反響音が減ることで、1音1音がよく聞こえるようになります。そのため、演奏者やオーディオマニアの方にも人気があります」

このようにフェルトーンは「音に悩む人」が対象なので、顧客に合わせたオーダーメードが中心だ。設置場所の図面から吸音効果をシミュレートし、配置場所を提案する。
また、「フェルトーンスクリーン」という、ブラインドではない一枚板の据え置きタイプを販売した。オフィスのパーティーションやサーバーなどの騒音対策などその用途が広がっている。
「フェルトーンの間に木の板を挟んだ、『ハイブリッド』型も考えています。木は音を反射するので、吸音材と組み合わせることで、お客様が自分専用の『音環境』を作れます。素材の開発も続けていますし、10年以上にわたって防炎や音のノウハウが蓄積できました。今後は『音環境をよくする提案』を積極的に進める予定です」

ブラインドで音を吸収させるなどと考えた人がいるだろうか。実は櫻井氏はアイディアマン。これまでにも、使わないときは蛇腹部分を畳める「アコーディオンスクリーン」や、高さ4メートル以上の「一枚板木製ブラインド」などを開発してきた。
何かの端緒をつかめば、その対象を熱心に勉強し、実験を繰り返す。しかし、当初から商品化までは考えていないという。フェルトーンについても同様だった。

「商品化できるのは10のうち1つくらい。フェルトーンなら板状化や防炎など、まずは目の前の課題を解決するだけでした。やってみないと始まりません」
思いついたらやってみる。それは現場を知る経営トップでなく、まさに現場のエンジニアでもできるはずだ。
今年2月にドイツで開催された「国際シャッター・ブラインド・門扉専門見本市」にフェルトーンを出品したところ、たちまち各国から引き合いがあったという。

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