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コード採用、モックプランコンテスト、エンジニアアカデミーetc.
サイバーエージェントがIT業界“採用の常識”を変える
ITエンジニアの大量採用に向けたさまざまな施策を繰り出すサイバーエージェント。人事本部長の曽山氏に、エンジニア採用にかける想い、IT業界全体を見据えた理想のエンジニアの転職スタイル、働き方などを語ってもらった。
(取材・文/広重隆樹 編集/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:12.07.18
加速するスマートフォン事業。来期にはエンジニア1600人体制へ

 企業の採用戦略が多様化している。中途採用は言うまでもなく、新卒採用でも通年化が進み、国籍不問の採用、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアを活用した採用も始まった。新卒と中途採用を区別しない会社説明会などを実施する企業も増えている。

 つまり、可能な限り属性・条件を緩め、真の実力者だけを選抜する方向に、採用は限りなくボーダーレス化しているのだ。伝統的な大手企業がこうした取り組みを始めるとニュースになるが、インターネット・Web業界ではそんなことは当たり前。日本の企業の採用戦略ボーダーレス化を推し進めてきたのは、むしろこうした若い企業群なのだ。

 中でも注目したいのは、サイバーエージェントだ。もともとインターネット広告業としてスタートした同社だが、「Ameba」などのサービス運営を通してインターネット・メディア企業としても存在感を示すようになった。さらに昨年からは、サーバ・インフラからアプリケーション開発、UI/UX設計に至るまで、エンジニアの力を重視する「エンジニア企業」であることを宣言している。優れたエンジニア人材を採用するため、経営トップ自らがエンジニア採用に強くコミットしており、その採用戦略も採用数と採用方法の両面でユニークだ。

曽山 哲人氏
取締役 人事本部長
曽山 哲人氏

 まずその採用人数だが、エンジニア採用意欲は昨年以上に旺盛。今期(2012年9月期)中には中途採用で400人を採用し、来期も500人程度を採用する。こうして現在の技術職の1.5倍に当たる1600人のエンジニアリング体制を目指している。

 この大量採用の背景にあるのが、スマートフォンシフトだ。
「スマートフォンユーザーが伸びていることで、私たちのネットサービスの利用も携帯からスマートフォンへ大きくシフトしています。スマートフォンはフィーチャーフォンに比べて表現力が豊かですから、その分技術力が問われます。優秀なエンジニアの活躍の場、可能性を開くチャンスが広がっています」
 と言うのは、サイバーエージェントの採用戦略全体を統括する人事本部長の曽山哲人氏だ。

 技術者が関わるスマートフォン関連の仕事としてまず挙げられるのが、これまでは主にPCやフィーチャーフォン向けに提供していた「Ameba」などの各種Webサービスを、スマートフォンのブラウザからもきちんと利用できるようにすること。ひと言でいえばスマートフォン向けWebアプリの開発がある。もう一つは、iPhone、Androidなどのスマートフォン向けのネイティブアプリの開発だ。

 こうした開発をスピードアップするため、これまで社内でPC・携帯向けのサービスを手掛けていたエンジニアが一斉にスマートフォン仕様に移行しているが、それでも人材が足りないのが現状だ。しかし、サイバーエージェントが求めるのは単なる「移植」作業のための技術者ではない。

 同社は昨年4月に、今後1〜2年の間にスマートフォン向けの自社アプリ・自社サービスを100個リリースすることを宣言した。
「100個サービスをつくるというのは、100個の社内ベンチャービジネスをつくるのと同義です。単なる自己満足のアプリ開発ではダメ。どういうサービスならユーザーに使えってもらえるか、エンジニアであれクリエイターであれ、全員が真剣に知恵を絞らなければなりません。技術力があって、かつサービスにも関心があるというエンジニアの方々はたくさんいると思うのですが、みなさんが常に転職活動しているわけではありません。そうした人々と出会うチャンスを増やすために、私たちも一生懸命、エンジニアの心に届く採用手法を考え出しているのです」

社内エンジニアが発案した「コード採用」。腕に覚えのあるエンジニアよ、来たれ

 サイバーエージェントの採用手法でユニークなのが、「コード採用」だ。これは2014年度卒の新卒エンジニア職を対象にしたもの。採用試験は、一つの課題についてJavaを使用してプログラムを組み、そのソースコードを提出するだけ。面接は採用の条件になっていない。Javaは同社の開発で最もよく使われる言語であり、その技術力とセンスを問うものだ。

「もともとは社内のエンジニアたちのアイデアで始まった採用手法。腕に覚えのある技術系の学生なら、会社やサービスの事はよく知らなくても、自分の力がどこまで現場で通用するか腕試しをしたくなることがあります。そうした学生の応募意欲を高めてもらうために、面接などの就活にまつわるハードルを可能な限り取り除きました。『面接もしないで大丈夫か』という声もありますが、実際は内定を出す過程で、応募者のほうから社内のエンジニアと会いたいと言ってくるはずです。だから、もちろんそういう機会は提供しますよ」(曽山氏)

「コード採用」で採用するのは若干名で、すべての新卒者をこれで採用するわけではない。しかし、そこで優れた技術者の卵たちと出会うことができれば、いずれは中途採用にも適用する可能性もあるという。
「モックプランコンテスト」も面白い試みだ。スマートフォン向けのサービスアイデアをモックアップ(試作品)により競い合うコンテスト。一般社会人向けと学生向けにこの4月から募集が始まり、現在選考が進む。金賞200万円など、賞金総額は500万円にもなり、さらにサイバーエージェントに入社を希望する受賞者は就・転職内定の権利も与えられる。

 このコンテストは社外だけでなく、社内のエンジニア・クリエイター向けにも実施。4月には優勝者が決定した。社内向けの場合は「内定」の替わりに、優勝賞金200万円と応募作品を事業化するチャンスが与えられる。すでに今期内のサービスリリースに向けて新しいプロジェクトがスタートしている。自分のアイデアがコンテストという形の評価システムにかけられ、そこで勝ち残ったアイデアが即事業化される。発案者は意欲さえあれば、自らが事業をマネージメントすることができる。

 新規事業を生み出すための仕掛けづくりは、どこの企業でもやっていることだが、その多くはアンケート形式のような単なる思い付きを書き出すものだったり、実際に新規事業を始めるまでに、長期間に渡って社内の根回しをしなければならないものだったりする。そんな手間をかけている間に、マーケットは変化する。大手企業の新規事業がたいてい失敗するのは、このスピードが遅かったり、事業についての当事者意識が希薄なまま、適当に人員を割り当てて強引に進めようとするからだ。

 その点、サイバーエージェントでは、社員の当事者意識を高める仕掛けや、スピード感をもって事業化を進める体制が早くからできていた。全社員から募集する新規事業プランコンテスト「ジギョつく」などはその一例だ。新規事業案を役員間で対戦し、実施する事業を決める「あした会議」、2年毎に原則2名の役員を入れ替える“内閣改造型”の役員交代制度「CA8」など、コンテスト型の事業創造スタイルは、役員クラスにも徹底している。あえて言えば、ゲーム感覚でビジネス創造を楽しむ雰囲気がある。いま流行りの言葉で言えば「ゲーミフィケーション」型の人材活性化策と言えよう。

情熱とコストを傾けて、エンジニアとの出会いを増やす

「社内の隅々にチャレンジを応援する風土が根付いています。、意欲と才能のある人はチャレンジするほど得をする、そして誰もそれを邪魔しないという風土があるからこそ、外部からのエンジニア採用でもいろいろな手法的な冒険ができるのだと思います」と、曽山氏。

 ただ、この体制は一朝一夕にできたわけではない。「ジギョつく」でも、最初の応募はわずか14名。それぞれ現場で多忙な仕事を抱えているため、時間を割いてコンテストに応募することはそう簡単ではないのだ。人事本部では応募数を増やすため、応募してくれそうな人にアプローチするなど、応募気運を高める地道な努力を続けた。給料やボーナスなどの金銭的報酬は重要だが、コンテスト入賞などの名誉も得難いもの。「金銭と非金銭のバランスをとりながら、応募者の意欲に応えていく」ことで、次第に制度は根付き、現在は毎回800名規模の応募が出るまでになった。

 とりわけエンジニアには、「非金銭的な」インセンティブが重要だったりする。人よりもきれいなコードを書きたい、国内では誰も知らない先端的な技術をプロダクトに導入したい、国内最高レベルのアクセスにも決してダウンしないような堅牢なサーバーシステムを構築したい……こうした技術者的な向上心をどのようにサポートしていくかは人材採用や教育では重要なテーマになる。

エンジニアアカデミー
エンジニアアカデミー

 その試みの一つが、「エンジニアアカデミー」「クリエイティブアカデミー」だろう。昨年から始まった若手エンジニア・クリエイターの技術力向上支援を掲げた無料講座。休日開講のため、現在の仕事を続けながらの通学が可能だ。サーバーサイドWebアプリケーション、iPhoneアプリ、HTML5/CSS3/JavaScriptなどの講座がこれまで開かれ、一刻も早くWeb技術やスマートフォン技術を自分のものにしたいという技術者のニーズに応えてきた。受講者数はのべ100人以上、うち半数以上が講座修了後に同社に入社している。

「採用効率が高いと言われますが、セミナーは無料でも、そのレベルや質を高く保つ必要がありますし、社内の優秀なエンジニアも参加してサポートをするので、採用コスト・労働コストという意味では決して安くありません。しかし、このアカデミーを通して出会ったエンジニアは優秀な方ばかり。私たちは、他社に先駆けてこうした採用モデルを確立できたのではないかと大いに自負しています」

人事担当者も最新技術用語を勉強。エンジニアとの距離を近づける

 これ以外にもサイバーエージェントは、国籍を問わない採用を強めるなど、ダイバーシティ採用でも先進企業の一つだ。現在は東京本社には20カ国60名の外国人エンジニア・クリエイターがいる。中国、韓国、アメリカはもちろん、スウェーデン、ボリビア、ポルトガル、南アフリカなど国籍の多様性にも注目だ。先の「モックプランコンテスト」ではついに、全員外国人のチームが登場、英語でプレゼンテーションを行った。将来的にはエンジニアのうち外国人の比率を2割程度まで高めたい考えだ。

 女性社員採用とその長期的活用を進めるため、育児休業制度の充実も見逃せない。「女性社員にとっては、育児期間が終わってからの復帰のタイミングが難しい。制度以上に彼女たちを迎える職場の雰囲気も大切。この点、すでに復帰した女性社員が当社には30人以上いるので、復帰しやすい環境があるといえるのではないでしょうか。また、強みを生かす、という点では、女性向けサービス開発に取り組む女性だけで構成されたチームをつくるなどの試みも行っています」(曽山氏)

 人材活性化のためにさまざまな人事制度を設計することは重要だ。しかし、制度設計とその運用・定着はまた別の問題。
「私たちにとっては、制度は浸透し、流行らなければ意味がありません。例えば『ウチには“ジギョつく”という制度があって、内定者でもチャレンジして入賞することもできるんだよ』と、社員のナマ声で外部の人に自慢してもらいたい。そのためには、どうやったらその制度が社員に迎え入れられ、定着していくか、実際の運用状況をイメージしながら、アイデアをひねります」と、曽山氏は人事制度設計者としての苦労を語る。

 最後に、エンジニアと人事の関係を聞いてみよう。エンジニアは専門職、人事部はたいてい文系学部の出身者が多く、相互に「言葉が通じない」という問題は各企業に潜在している。同社ではこの点もよく認識していて、「技術のサイバーエージェント」宣言後は、エンジニア出身の社員を人事部門に異動させる一方で、「アメーバ事業本部」など各事業部門に部門付きの人事担当者を置くなど、できるだけ現場のエンジニアと人事の間の距離を縮める施策を採ってきた。

「私は前職の百貨店でeコマースのサイト構築に関わっていたことや自分でもホームページを作るなど、Web技術に触れる機会は当時の文系の仲間よりは多かったです。それでも技術のトレンドの変化は早いため、人事本部では全員に最新技術キーワードや内容などを学ぶ、『技術キソテコ』と呼ばれる取り組みを実施し、勉強会やテストを通してメンバーみなで知識レベルをアップするようにしています。一つでも多くエンジニアのことを理解し、少しでもコミュニケーションを深めたい。そんな気持ちからの試みです」

 エンジニアの視点に寄り添いながら、彼らがよりよく働けるように趣向を凝らす。市場に隠れたエンジニアを、業界先端ともいえるさまざまな手法で刺激し、複数のチャネルを使って彼らとの出会いを増やしていく。エンジニア採用に向けた本気度が伝わる、最近のサイバーエージェントである。

取締役 人事本部長 曽山 哲人氏

1974年神奈川県生まれ。上智大学文学部英文学科卒業。大手百貨店を経て、1999年にサイバーエージェントに入社。インターネット広告事業本部統括を経て、2005年に人事本部人事本部長就任。2008年より現職。著書に『サイバーエージェント流 成長するしかけ』(日本実業出版社)『サイバーエージェント流 自己成長する意思表明の仕方「キャリアのワナ」を抜け出すための6カ条』(プレジデント社)などがある。

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