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新規サービスのアイデアをモックで提案するサイバーエージェントの「モックプランコンテスト」。新規事業創出のエンジンとしてコンテストを位置付ける同社の取り組みとともに、第一回の勝者となった堀江氏の奮闘ぶりを紹介する。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:12.07.11
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社内に貼られた応募者募集のポスター
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決勝に進んだ27案・計88人が熱くプレゼン
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藤田社長ら役員がモックを片手に審査中
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「ジギョつく」などの新規事業アイデアコンテストで社内の創発性を刺激しながら、新規事業を次々に打ち出すサイバーエージェント。今春企画された「モックプランコンテスト」は、スマートフォン向けのサービスアイデアを、モックアップ(試作品)によって競い合うコンテストだ。今回は社外にも公募した。一般向けと学生向けにこの4月から募集が始まり、現在選考中。賞金総額は500万円にもなり、事業化支援がある。さらにサイバーエージェント入社を希望する受賞者(エンジニア)は就・転職内定の権利も与えられる。 それに先立って3〜4月に行われたのが、社内のエンジニア・クリエイター向けの社内モックプランコンテストだ。外部向けと同様に、キックオフイベントがあり、シミュレーターや画面遷移などがわかるエントリーシートでの一次選考を経て、決勝プレゼンでは制作したモックアップを実際に動かしながらアイデアを競った。 こちらも優勝賞金は200万円と、「ジギョつく」の2倍。一般に、企業の社内コンテストの賞金水準としてはあまり聞いたことがないほどの高額だ。作品審査のポイントは、(1)流行るか、(2)ハマるか、(3)実現できるかの3つの観点。従来の「ジギョつく」と同様に、事業可能性は審査の重要ポイントだが、少し違うのは、新事業やサービスのアイデアを言葉ではなく、より具体的な形として見せること。 「コンセプトだけを情熱的にプレゼンし、肝心なところを言葉巧みにごまかしても、最後はユーザーに見抜かれてしまう。モックというのは逃げ場のない、究極の縛りのようなもの」と藤田晋社長は、自身のブログでそう語っていた。それを受けてコンテストのキャッチも「百聞はモックに如かず」。スマートフォン向けサービスを加速するために、アイデアを具体的に動かす“駆動力”が社員には求められたのだ。 コンテストのためのコンテストではなく、優れたアイデアを即事業化するのは、サイバーエージェント流。入賞者は、そのサービスやプロダクトのオーナーとして采配を振るえるようになる。エンジニア、クリエイターの事業創造意欲を最大限引き出す仕掛けとも言える。 応募総数は123点。「ジギョつく」に比べるとその数は6分の1程度だったが、それは単なるプレゼンシートではなく、最終的にモックをつくるというハードルを考えるとかなりの数と言える。応募の内訳は、ゲーム系35案、SNS/コミュニティ系37案、写真SNS系17案、Ameba系15案、その他が19案。その中から27案が決勝に進出した。スマートフォンOS別では、iOS向けが22、Android向けが5、さらにネイティブアプリとWebアプリではだいたい半々といったところだ。 |

さて、その第一回社内モックプランコンテストで優勝したのが、堀江優氏だ。そのアイデアは即事業化が決定。現在はプロジェクトマネージャーとして年内のサービスインを目指している堀江氏に、優勝を勝ち取った舞台裏を聞いた。
──優勝したのは、どんなアイデアだったのですか?
堀江 |
スマートフォンのブラウザで楽しむ、男性ユーザー向けのソーシャルゲームです。 そこには自社やパートナー企業さんのゲームなどを、コンテンツとしてどんどん載せていく予定です。デカグラフ構想を本格化させるためには、やはりコンテンツが鍵になるでしょう。求められているのは、魅力的なソーシャルゲームだなと思ったのです。私はソーシャルゲームをつくったことがありませんでしたが、あらためてソーシャルゲームの歴史を振り返り、新しいコンセプトのゲームがプラットフォームを牽引する史実に着目しました。これまでにないコンセプトのゲームを世に送り出そうと決意しました。 |
──これまでにないコンセプトとは?
堀江 |
ソーシャルゲームにハマるというのは、人間の本質的な欲求が刺激されるからですよね。仲間と一緒に敵を倒すバトルゲームも、カードゲームも人間の本能を刺激するものでしょう。ただ、ソーシャルゲームにおける刺激というのはひとつだけじゃない。人生で「テンションが上がる瞬間」というのはほかにもあると思ったのです。例えば、人間なら誰しも人にモテたいってありますよね。モテればテンションは上がる。モテたいという欲求は人間のプリミティブな欲求ではないかと。 |
──それはよくわかります。
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堀江氏は、コンテスト応募の前までは、アバターコミュニティ「アメーバピグ」のFlash開発者。スマートフォン事業とは縁がなかった。次はぜひスマートフォンサービスのセクションに異動したかったが、その意欲を見せるためにも、コンテストはちょうどよい腕試しの場だったのだ。コンテストは単独でもチームを組んでもどちらでも応募が可能だったが、堀江氏はあえてソロを選んだ。
「一介のFlasherが、スマートフォンに取り組み、しかも独力でサービスを企画した。このストーリーって審査員受けするでしょう(笑)」──ここにも彼の“戦略性”が垣間見える。
約1カ月間黙々とモックアップづくりに励んだ。勤務時間中にコンテスト応募作品の制作に取り組んでもOKというルールだったので、時間の許す限り、作品制作に力を注ぐことができた。しかし、たった一人でのモックづくり。孤独との闘いに挑むことがまずは重要な勝因だったという。
これまではFlashアニメーションやActionScriptはお手のものだったが、スマートフォンブラウザ向けゲームとなるとJavaScriptの知識が必須となる。
「実はJavaScriptで書くのは初めてでした。最初、ここは人に頼もうと思ったのですが、自分にとってよい勉強になると思って必死で覚えました。途中、何カ所かつまづくところもありましたが、無事発表することができました」
4月18日の最終プレゼンでは、サービスコンセプトやモックの完成度もさることながら、会場をわかす話し方にも気を使った。もし決勝大会に「お笑い賞」があれば、その最有力候補でもあったと自負する。競争もとことん楽しむというのもサイバーエージェントの風土なのだ。
プレゼンのあった日の午後に結果発表。優勝者として自分の名前が告げられると、手が震えた。いったん渋谷オフィスの外に出て、深呼吸し、息を整えたという。
「社長からは“面白かったよ”と直接声をかけてもらいました。賞金の200万円はですね、まずは税金が引かれるし、それから受賞前から実家の母に半分あげると言っていたので、それを実行。もうほとんど残りがありません(笑)」
だが賞金よりも、優勝したことで、この「モテを疑似体験できるスマートフォンブラウザ向けゲーム」の開発プロジェクトを任されたことが、何よりの大きな報酬だ。
いま堀江氏が所属している第2ソーシャルゲームDIVは、社長直属の組織。現在は開発者2名、業務委託のSE1名と堀江氏の4人だが、サービス導入が本格化するにつれて、社内で人材をスカウトしなければならない。
「誰と組むか、どういうスケジュールでリリースするかも、すべて自分の裁量です。サイバーエージェントに入社したからには、一度は自分が企画したプロジェクトのマネジメントをしたかった。その夢がかないました。ただ、その分、ずっしり責任が重いです」
自分の技術力、企画力一つでエンジニア・クリエイターが面白いWebサービスを作り出すことができる、そんな時代だ。ネットに夢を注ぎ込むクリエイティブなエンジニアに、あらためてスポットライトが当たっている。ただ、遊びではなく事業でそれを実現するとなると、中途半端は許されない。会社の組織としての後押しがなければ不可能だし、同時に会社から言われてやるのではない、自発性と創造性に富む個人のやる気がなければ、夢はいつまでも形をもたないままに終わるだろう。
サイバーエージェントは、そうした個人と組織の夢が理想的な形で合体している会社だ。
「こんなのを作ってみたいという開発者の夢、そのサービスで会社はこれだけの収益を上げられるというマネタイズの見込み、それが一致したら、『はい、君がやりなさい』とすぐ任せてくれる会社です。夢をもっているエンジニアにはよい環境。今回のモックプランコンテストに限らず、夢を実現するチャンスが社内のあちこちに転がっている」──堀江氏は社内の雰囲気をそう描写する。
モックプランコンテストは今後も続く。社外向けにも公募していることもあり、これからは社外応募の優秀作と社内の作品が比べられ、いい意味での競争が始まることだろう。コンテストをきっかけに、自らの隠れた才能を開花させ、一気にリーダーに駆け上がるツワモノたちの群れがそこにはいる。

1983年生まれ。前職は広告会社で、BtoBのWeb広告をFlashで開発していた。2010年7月サイバーエージェントに転職。「アメーバピグ」のFlashディベロッパーとして仕事をしながら、スマートフォン事業への異動を申請中に、モックプランコンテストに応募し、見事金賞を受賞。現在は、受賞作品を事業化したプロジェクトのマネージャーを務める。
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