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キーワードはソーシャルゲームとコンシューマゲームの融合だ
東京ゲームショウ2012グローバル市場を牽引するグリー
昨年に続き、最多入場記録を更新した東京ゲームショウ2012。スマートフォンやソーシャルゲームに向かう最新ゲームの潮流が明確になった。この流れを牽引するグリー代表取締役社長・田中良和氏の基調講演を中心に、興奮に包まれた「TGS2012」をレポートする。
(取材・文/広重隆樹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/佐藤聡)作成日:12.10.16
3割以上がスマートフォン・タブレット向け。新しいビジネスモデルに業界全体が対応

 9月20日〜23日の4日間にわたって千葉・幕張メッセで開催された東京ゲームショウ(TGS)2012。19の国・地域から209の企業・団体が出展し、出展タイトルの数は過去最多の1043に及んだ。その内4分の1がスマートフォン向けのゲーム。タブレット端末向けを含めると全体の35%を占め、スマートフォンとタブレットが、ゲームの新しいプラットフォームとして定着しつつあることを示した。

 会場にはアジアの有望なゲーム関連企業を紹介する「アジアニュースターズコーナー」や日本と海外企業との協業を促す「国際ビジネス相談コーナー」が設置されるなど、ゲームビジネスのグローバル化志向は昨年よりもさらに強まっている。実際、会場の中でも中国語、韓国語、英語が頻繁に飛び交い、ゲーム発信地としてのアジア、さらにその中核にTGSが位置していることがよくわかる。

 ビジネスデイ初日の20日の基調講演では、まず主催者・コンピュータエンターテインメント協会(CESA)の鵜之澤伸会長がスピーチ。アーケードゲームからPCを経て、家庭用ゲーム専用機(コンシューマ機)、さらに携帯、スマートフォン&タブレットへと発展してきたゲーム・プラットフォームの変遷をたどりながら、この1〜2年のソーシャルゲームの台頭がもたらした変化を「市場の奪い合いではなく、市場拡大のきっかけになるもの」と捉えた。

 ソーシャルゲームがもたらした変化の中でも重要なものとして挙げたのが、無料ダウンロード・アイテム課金のいわゆる「フリー・トゥ・プレイ」型ビジネスモデルの台頭だ。鵜之澤氏はコンテンツ・ダウンロードやフリー・トゥ・プレイのスタイルは、最近の任天堂、バンダイナムコゲームス、セガなどコンシューマ機ゲーム大手のタイトルでも採用されているとして、いくつか実例を挙げた。

 鵜之澤氏は「これまでパッケージ型販売が中心だったゲームメーカーも、ネットワークやダウンロードコンテンツをうまく活用することで、これまでゲームに興味を示さなかった新規層を取り込みつつある」と評価。「新しいゲームシステムやビジネスモデルに柔軟に対応し、古いカラを打ち破ることで、日本のゲーム産業は今後、新たなグローバル競争を勝ち抜くことができる」と話を結んだ。

3年後は海外拠点で開発したゲームが上回る──田中社長が語るグローバル戦略

 これまでコンシューマゲーム(コンソールゲーム)とソーシャルゲームはゲームスタイルとしても、ビジネスモデルとしても、対立的に語られることがよくあったが、TGSでの展示を見る限り、対立ではなく融合の道を歩んでいることが実感できた。

田中 良和氏
グリー株式会社
代表取締役社長
田中 良和氏

 鵜之澤氏の指摘にもあったように、コンシューマゲームが、ソーシャルゲームのビジネスモデルを採り入れ始めたのと同時に、ソーシャルゲームのほうもコンシューマゲームのもつゲーム性やストーリー性を採り入れながらゲームとしての進化を続けている。そのことを強調したのは、同じ20日の、グリーの田中良和社長による講演「スマートデバイスがもたらすソーシャルゲームの進化」だ。

 田中氏のTGS登場は昨年に続いて2回目。まず田中氏は、創業8年目を迎えたグリーの全体像を紹介。約1800人の社員は1年前の3倍、世界10カ国11地点に事業拠点が展開され、サンフランシスコや中国・韓国には総勢約600人の社員が働く。グローバル企業らしく、各国のオフィスはそれぞれ規模こそ違え、オフィスのロビーなどは青と白のコーポレートカラーに統一。また、海外拠点と日本の開発チームとの交流も頻繁に行われているという。

「当面は日本で開発したものが多数を占めるが、3年後を考えると海外のスタジオで開発されたゲームが数的にも上回ることになるだろう」
 と、今後のビジネスを展望する。

スマートフォンの進化──従来のコンシューマに負けない創造性豊かなゲームが登場

 本題のソーシャルゲームの進化の方向性については、まずゲームを楽しむデバイスの変化として、スマートフォンの伸びを示し、これからは「従来のコンシューマ機、PCの機能を融合するものとしてスマートフォンが伸びていく」という認識を示した。融合が可能になるのは、スマートフォンの機能の高性能化とLTEなどネットワークの高速化がこれからも進むからだ。

 それに伴ってソーシャルゲーム自体にも変化が起こる。
「ハードウェア、ネットワークの高度化によって、ソーシャルゲームにもさらにリッチなアクションゲームが登場し、同時により深いコミュニケーションが可能になる。ゲーム性、ストーリー性の両面で、従来のコンシューマゲームにもひけをとらない創造性豊かなゲームがこれからも数多く登場するだろう」
 と、田中氏は語る。

 まさにその実例を示したのが、今回最大規模の面積を誇ったグリーの出展ブースだ。ブースでは、「GREE」のプラットフォームで提供している自社開発の17タイトルと、パートナーが開発している17タイトルの合計34タイトルのゲームを紹介。基調講演では、迫力のある戦闘シーンがスマートフォンでも楽しめる三人称シューティングゲーム「War Corps」など、開発中のプロダクトもいくつか紹介された。

 田中氏は新作ゲームの中からコナミデジタルエンタテインメント社の「メタルギア ソリッド ソーシャル・オプス」を一例として挙げ、「コンシューマ機と遜色ない表現力とアクションRPGの楽しさをスマートフォンで実現するもの」と評価した。

 グリーが狙うソーシャルゲーム市場拡大のもう一つの方向は、IP(知財)ビジネスの展開だ。「ソーシャルゲームで育ったコンテンツや世界観を、他領域のビジネスと組み合わせ幅広い市場開拓を狙う」(田中氏)のだ。グリーは同社が創出したキャラクターをグッズとして企画開発するマーチャンダイジング子会社「グリーエンターテインメントプロダクツ」を9月に設立しており、人気ゲーム「探検ドリランド」などのキャラクターグッズ化を進める。その製品例はブースにも参考出品されていた。

「今後はグリーで開発、運営しているゲームだけでなく、パートナー企業のゲームのIP化にも取り組む」と、田中氏は語る。モバイルゲームというバーチャルな市場に加え、リアル市場におけるユーザーとの接触機会を増やし、いままでリーチできなかった顧客層にもアプローチしていくグリーの戦略が明らかになった。

新興国が沸騰し始めた。「全世界共通プラットフォーム化」で市場開拓

 GREE Platformの展開により、「GREE」のゲームはいま世界最大169カ国で遊べるようになった。こうした「ソーシャルゲームのグローバル化」の流れの中で、田中氏が特に注目するのは新興国市場だ。

 スマートフォンが普及するスピード一つをとっても、新興国は先進国の数倍もの速さだ。田中氏は「2020年にはスマートフォンの8〜9割が新興国で販売されるという状況が生まれている」と予測し、「スマートフォンゲームだからこそ、新興国でのゲーム需要を掘り起こし、拡大することが可能だ」と、述べる。

 通勤・通学途中にスマートフォンにちょこっと触れて、短時間かつ多頻度でソーシャルゲームを遊ぶスタイルは、日本では当たり前だが、まだ世界的なスタイルとは言えない。しかし、スマートフォンが普及するにつれてそれは現地の人々のライフスタイルに自然に浸透するはずだと、田中氏は見ている。

 日本のコンシューマゲームが世界を席巻した先例は、田中氏の見通しに強い根拠を与えているが、ソーシャルゲームはもっと速いスピードで世界に浸透していく。ネットワークがつながっていればどこにいてもゲームをダウンロードしてすぐに遊べる利点、App StoreやGoogle Playなどデジタルコンテンツ流通網がすでに整備されている状況は、従来のコンシューマゲームにはなかったものだからだ。

 それに加えて、グリーの「全世界共通プラットフォーム化」戦略は、世界各地のデベロッパーの開発支援や販売チャンスの広がりという両面で、ソーシャルゲームのグローバル化にプラスの役割を果たすだろう。スマートフォンが世界の人々の手に渡ることで、同時にソーシャルゲームで遊ぶ楽しさも世界に広がる。グリーには世界の人々のゲーム体験を豊かにするミッションがある。

「ソーシャルゲーム、コンシューマゲームを含め、世界のゲーム市場は2020年には2010年の1.5倍に膨らむだろう。ゲームはまだまだ成長産業だ。もちろん今年ヒットしたゲームが来年も受けるとは限らないのが、ゲームビジネスの面白いところ。グリーは常に新しいゲームジャンルの開拓にチャレンジし、その先端を走り続けようと思う。全世界の人々に自分たちが開発したコンテンツを届けられる時代に、このビジネスに関わることができて、私自身が興奮している」
 と、田中氏は講演を締めくくった。

「FF」チームがスマートフォンで展開する新しい世界観──「Project Fantasm:A」
土田 俊郎氏
グリー株式会社
ディレクター 土田 俊郎氏
荒川 健氏
グリー株式会社
プロデューサー 荒川 健氏

 当日のグリーブースでは同社が開発中で2013年にリリース予定の新作ゲーム「Project Fantasm:A(プロジェクト・ファンタズマ)」の本邦初公開があった。同作品はエグゼクティブ・プロデューサーに吉田大成氏、ディレクターに土田俊郎氏、プロデューサーに荒川健氏、さらに音楽を植松伸夫氏が担当するファンタジーRPGである。

 土田氏は、スクウェア・エニックスの開発事業部部長として『ファイナルファンタジーXIII』(バトルディレクター)に関わったことで業界ではよく知られる人。今年3月からグリーに転職し、クリエイティブディレクターとして活躍している。荒川健氏も、前職スクウェア・エニックスにおける、「FF」シリーズのテスクチャアーティストや「キングダムハーツ」シリーズのメニューディレクターとしての実績で知られる。さらに植松伸夫氏は言わずと知れたFFシリーズの楽曲担当。いわば「FF」チームが、スマートフォンを舞台に新たなタッグを組んだ格好になる。

 視点を変えれば、土田・荒川の両人がグリーに転職し、新しいゲーム開発を任されていること自体が、先に述べたスマートフォンゲームが「コンシューマゲームのもつゲーム性やストーリー性を採り入れながらゲームとしての進化を続けている」証拠とも言えるだろう。

 発表会で土田氏は、「ソーシャルゲームにも遊び応えを求めるユーザーが増えている。スマートフォンの機能や表現力も向上しており、自分たちなりの本格ソーシャルRPGを作るチャンスが訪れている。コンシューマゲームに負けないグラフィックの美しさ、深い世界観などを軸に『ここまでできる』ということを見せたい」と意気込みを語った。

 もちろんこのゲームは、単にコンシューマゲームの移植ではなく、「コンシューマとスマートフォンゲームの融合を目指したもの」(荒川氏)。ゲームの主人公が武具としてゲーム中に使うのがスマートフォンという“入れ子”構造になっており、そこに表示されたカードの強度を競い合うシーンも頻繁に登場する。

 カードのイラストレーション自体が玄武・朱雀など東洋の伝統的な表象を西洋風のテイストで処理したもの。ここはグリーのデザイナーチームがこだわったところだという。東西文化の融合で、グローバル市場を獲得しようという狙いもうかがわれる。ソーシャルゲームとコンシューマゲームの「フュージョン化=融合化」が、さまざまなところで顕著に見られたTGS2012。それを象徴するゲームタイトルともいえる。

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2004年2月に、ソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS) 「GREE」を公開、日本だけでなく米国・欧州などグローバル展開を進め、世界で億単位のユーザー数を目指すソーシャルメディア事業をはじめ、ソーシャルアプリケーション事業、プラットフォーム事業、広告・アドネットワーク事業等を展開しています。続きを見る

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