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クルマの快適な未来をスマートフォンと情報通信でつなぐ
デンソーが仕掛けるソーシャル化するカーライフの魅力
カーナビゲーションシステムに代わる新たな情報通信手段として、デンソーが提唱するスマートフォン・カーナビ連動型の新たなカーライフ。それは「ソーシャル化する」クルマの未来形だ。同社のスマートフォンアプリ開発現場を追った。
(取材・文/広重隆樹 編集/宮みゆき 撮影/早川俊昭)作成日:12.04.25
スタンドアローンからクラウドへ。スマートフォンを介した多彩なサービスを実現

 ドライブ中の経路探索や施設検索、誘導案内に欠かせないカーナビゲーションシステム。最近はデジタルテレビや携帯音楽プレーヤーとの連携、「プローブナビ」と呼ばれる渋滞回避機能の搭載など進化を続けている。しかし、基本的には、多くの機能やコンテンツをスタンドアローンで提供しているため、情報の鮮度と量には限界がある。新しいサービスが登場しても、それに対応するまでには、時間がかかってしまうのだ。

 一方で現在は、スマートフォンの急速な普及が進んでいる。GPS機能を搭載しているため、手軽なナビとして使うことも可能だ。レストラン検索から行楽情報まで、ドライブに向いたアプリも多彩に提供されている。コンテンツの多くをクラウド側に持つため、情報は常に新鮮さを保つ。

 スマートフォンを介してクラウドサービスとつなぐことで、ダイナミックで多彩なサービスをクルマからも手軽に利用できないか。「カーライフにスマートフォンを」。そのアプローチを真っ先に始めたのがデンソーだ。

 情報通信事業部・情報通信サービス開発室・担当次長、安保正敏氏はこう語る。
「現在ドライバーにとってクルマの価値そのものが大きく変わりつつあります。かつては動力性能が重視されていたが、2000年代に入ると燃費やCO2排出などの環境性能に重点が移り、そして今は情報性能が重視されるようになってきた。クルマの“ソーシャル化”が始まっているという言い方もできると思います。
 これまでクルマの情報化ではITS(高度道路交通システム)があり、車車間、車路間での情報のやりとりを通して快適なドライビングを支援してきたわけです。しかし最近ではそれだけではなく、クルマが、スマートフォンのようなデバイスで直接世の中とつながる可能性が生まれてきました。カーライフと普段の生活が、ITを介して一体となっていく、そんな時代が訪れようとしています」

 スマートフォンが注目されるのは、それ自体がかつてのパソコン並み、現在のカーナビ以上のCPUやストレージ性能を持つからだ。さらに光センサやコンパス、マイクまで搭載し、ある面ではカーナビよりも賢い。さらに、常時ネットとつながることで、クラウド型のサービスを自在に利用できるようになっている。それこそ、歩いていても、食事のときも、テレビを見ながらでさえ、私たちはスマートフォンを手放すことができない。
「四六時中使っているのに、なぜかクルマに乗るときはスマートフォンが使えない。ハンズフリーのイヤホンで電話を受けることならできますが、運転しながらFacebookにアクセスすることはできませんね。しかし、クルマに乗っているときにこそ、使いたいスマートフォンの機能やアプリってあると思うのです」

 もちろんわざわざスマートフォンを使わなくても、カーナビをさらに多機能化すればいいという考え方もある。
「カーナビにさまざまなソーシャル機能を詰め込むことは可能ですが、その作り込みは膨大な手間とコストがかかります。そもそもユーザーが使いたいサービスはどんどん変わるもの。それにすべて対応していくのは、ソフトウェア組込み型のカーナビでは難しい。スマートフォンの豊富なアプリと、車載機器のユーザーインターフェイスをうまく組み合わせたソリューションのほうが、より現実性が高いと考えました」

 もとより、デンソーは車載機器のメーカーだ。カーエレクトロニクス技術によってクルマがコントロールされる今、ソフトウェアの信頼性は極めて重要で、決してバグを許さない「堅い」モノづくりが身上だ。カーナビも然り。ナビのバグによって、道のないところにクルマを誘導したのでは元も子もないのだ。
「堅いシステムやサービスは我々がきっちり作り込む。ただ、Webやクラウド型のサービスのような柔らかいものはスマートフォンでサービスを展開されている人たちと組んで、それをクルマで使えるようにしていく」というスキームがこうして生まれた。

安保 正敏氏
情報通信事業部
情報通信サービス開発室
担当次長
安保 正敏氏
スマートフォンの施設検索をカーナビへ。アプリベンダーとの“仲間づくり”が鍵に
桑原 裕司氏
情報通信事業部
情報通信サービス開発室
担当係長
桑原 裕司氏

 デンソーが提案するスマートフォンカーライフの一例が、同社が2010年5月にリリースしたiPhoneアプリ「NaviCon」だ。
「NaviCon」は、スマートデバイス(スマートフォン、タブレット端末等)とカーナビをBluetoothやUSBで接続し、スマートデバイスからカーナビの地図操作や目的地設定をするためのアプリケーションだ。BluetoothやUSBに非対応のカーナビでも、NaviConに表示されたマップコードをカーナビに手入力することで、検索した地点を目的地に設定することができる。

 基本的な使い方は、スマートフォンに地図を表示した状態でピンをドロップし、その位置情報をカーナビに送信する。自宅で外出プランを立てながらスマートフォンに目的地をブックマーク。それをクルマに乗り込んでからカーナビに登録するという使い方も可能だ。

 元々はカーナビの地図をスマートフォンから操作するリモコンとして企画されたものだが、開発中にそのスキームは発展し、位置情報を扱うさまざまな他社製アプリと連動・連携しながら、キメの細かい位置情報サービスを提供するためのハブを目指すようになった。それにより「NaviCon」の「Con」は、ControllerからConnectionへと意味が変わってきた。

「NaviCon」のAPIを取り込んで連携するサードパーティのアプリは、4月時点で90個に及び、その数は近いうちに100個を超すという。例えば、「Famire's 牛丼・定食検索」というアプリ。全国34チェーンの牛丼店やレストランを1万店以上登録している。これで近くの牛丼店を検索し、お目当ての場所のピンに触ると、「NaviCon」連携のボタンが現れるので、それを押すことでカーナビに転送という仕組みだ。

 連携アプリは、大阪、東京、京都など主だった観光地のガイドマップから、病院、ホテル、ゴルフ場、温泉、図書館、動物園、お城など検索対象を特化させたものまで、さまざまだ。カーナビだけではカバーしきれない施設固有の詳細情報を網羅したものもある。

 情報通信サービス開発室で「NaviCon」開発を担当するのが、桑原裕司氏だ。前職は、クラウドのストレージ・サーバーの開発者。昨年7月にデンソーに転職してきたが、自動車周りのシステム開発は初めての経験だ。
「アプリベンダーやカーナビメーカーと連携するため、『NaviCon』の仕様書や技術資料の整備をしました。さらに、連携先への技術サポートや世界会議での技術発表、『NaviCon』のサービス基盤として利用するためのWebシステム構築という作業も私の担当でした。いわば『NaviCon』の仲間作りとサービス提供のための基盤づくりです」

 当初は、App Storeで上位ランキングされるアプリ開発者に片端からメールを送って、「NaviCon」と連携しませんかと呼び掛けた。足の速いスマートフォンアプリの世界。すぐにOKの返信があり、一度も開発者と顔を合わすことなく、3日後のバージョンアップで連携機能が実装されたものもある。
「そのスピード感には驚きましたね。このスピード感に負けない速さを自身の仕事にも求められます」

 これはデンソーの中でも特殊な世界かもしれない。一般に車載組込みシステムでは、数年後に出る次期車をターゲットに開発するというのが普通。開発に1カ月、更新は毎日というようなスマートフォンアプリの世界とはスケジュールの単位がまるで違うのだ。ストレージとも車載機器とも異なる、スマートフォンの世界にいきなり飛び込んで、最初は面食らった桑原氏だが、今は日々、ソーシャル化するクルマの面白さを感じている。

スマホとカーナビを繋ぐハブアプリ「NaviCon」
車載機のインターフェイスでいつものアプリを操作。女性視点も重要に
アルペジオ
アルペジオ(ARPEGGiO)
東 杏美氏
情報通信事業部
情報通信サービス開発室
東 杏美氏

 もう一つ、スマートフォンとクルマの連動を実現するサービスが、年内に開始予定の「アルペジオ(ARPEGGiO)」だ。例えば、クルマに乗る前にスマートフォンで聞いていた音楽は、クルマに乗り込んだ後はどうするか。ヘッドフォンをしたままの運転はできないので、普通はスマートフォンをダッシュボードあたりに置くことになるが、これでは音響もよくないし、ドライブ中のスマホ操作は危険だ。最近はスマートフォンと連携したAVナビも登場しているが、その機能は限られている。

「アルペジオ」はその連携をもっとスマートに拡大する。ユーザーが普段利用しているスマートフォンアプリの中から、デンソーが車内利用における親和性の高いコンテンツをセレクトして、「アルペジオ」に取り込んでおく。例えば、インターネットラジオを聴くためのアプリなどだ。一度これを起動させると、そのアプリを走行中に使うのに適した操作パネルがカーナビ画面に現れる。スマートフォンでの操作と違和感なく、そして安全にラジオを楽しめ、かつカーオーディオの高品質の音声でそれを聞くことができる。

 カーナビのボタン操作がスマートフォンに伝わり、スマホアプリをカーナビから操作していることになるのだが、ユーザーはスマートフォン側ではアプリを操作することはできない。走行中の安全ポリシーに沿った操作制限をかけているのだ。

 ほかにもクラウド上で共有されている位置情報付き写真やニュースを表示するアプリ、施設などへのチェックイン情報をSNSに発信するアプリなども搭載予定だ。
「普段から使っているアプリやトレンディーなアプリを、クルマの中で安全に使っていただくというのが、アルペジオの基本的な考え方なのです。それを車載装置のUIに合わせて、アプリベンダーさんに仕立て直していただく。そこでも、デンソーとベンダーさんとのコネクションが大切になります」
 と言うのは、「アルペジオ」チームの東杏美氏。アルペジオに搭載するアプリの選定や販促活動を担当する。

「今は女性もクルマを自分で選んで自ら運転するのが当たり前。過去にカーナビの開発に携わっていた時に、やはりクルマの世界って、何だかんだ言っても男性の考え方が強く入っているなと感じたことがあります。女性もクルマや車載機器を使いこなしたいという思いはあるのですが、インターフェイスや宣伝の仕方が男性的すぎると、ちょっと……」(東氏)

 これは意外な盲点だった。女性的なフォルムやカラーリングのクルマはあるが、女性の感性に訴える車載機器は意外と少ない。東氏に言わせると、「男性はどちらかというと、機能やスペックで評価しがち。多機能であればいいというような志向があります。しかし、女性はいろんなことができるよりも、見た目の可愛さや、これ一つあればとても便利だなと感じる機能など、女性が喜ぶポイントを突かれるとやっぱり嬉しい。その商品を通じて自分の生活がどう豊かに幸せになれるかイメージできることが重要なんです」とのことだ。

 かつてのカーナビの企画開発では、「Love Pro」という営業、広報、デザイン、技術もすべて女性で固めた社内プロジェクトチームがあり、東氏がチームリーダーとして活動した経験がある。可愛らしいアイコンデザインで、パネルも着せ替えができるカーナビがそこから生まれた。そこでの経験を活かして、今度は「アルペジオ」にも、女性視点ならではの優しい気遣いをもたらしたいという。

「Love Pro」とは
オンラインとオフラインをつなぐ、新しいサービス開発とモノづくり

 かくして、スマートフォンとクルマの関係はだんだんと親密になっていく。この先にはどんな技術が待っているのだろう。誰もが考えるのは、スマートフォンの音声認識を活かした、クルマからの情報発信だ。ステアリングを握ったまま、「ゲートブリッジが混んでるぅ」などと呟くと、それが「カーナビ→スマートフォン→クラウド」の音声辞書を経由して、Twitterにツィートされ、地図の渋滞情報に反映される、というような日がいずれやってくるだろう。

 むろん最近のカーナビも音声認識できるようになっているが、カーナビ用の音声辞書には限りがあって、そのままではSNSでは使えないという。
「SNSになると、人が何を呟くかわからないので、それをナビの辞書の中に搭載するのは得策とは言えません。音声認識自身もクラウド上で行うセンター型のものにする必要があります」と、安保氏。iPhoneの音声対話サービス「Siri」などにも当然関心はあって、そのAPIが開放されるような機会があれば、積極的に活用していきたいそうだ。

「NaviCon」アプリをリリースするようになって、App Storeでのレビューが気になるようになった。これまでのデンソーの機器開発では、エンドユーザーの声が直接は入りにくかったが、スマートフォンのアプリやプラットフォーム開発では、それを聞かないわけにはいかない。ユーザーがカーライフに何を期待しているのか、これまで以上に耳を傾けたいという。

「基本的には、クラウドサービスをいかにクルマから利用し、それをリアルなユーザー行動へとつなげていくかというのが私たちのテーマ。スマートフォンはそのための一つの手段にすぎません。スマートフォンアプリ開発に詳しい人、クラウドのサーバー上のシステム開発に詳しい技術者はもちろん必要なのですが、その人たちにもぜひ求めたいのは、今ユーザーにどんなサービスが受け入れられるかということへの想像力。サービスの企画力なのです」(安保氏)

 スマートフォンでさえ、まだ新しい世界。ましてやクルマとの連動など、ほとんど誰も手をつけていない技術分野であり、未踏の市場だ。
「今の世の中のトレンドはこうで、Googleはこんな方向に行きますよという解説は要らないのです。それを踏まえた上で、自分たちがどんなものを創り出すのか。自分たちが立っている場所を踏まえた上で、新しい製品企画ができる人が欲しいですね。カーライフというリアルな世界をより快適にするために、スマートフォンやクラウドを活用していく。オンラインとオフラインをつなぐ技術というのでしょうか。その醍醐味をここで実感してほしいですね」
 と、安保氏はIT系のエンジニアたちに呼びかけるのだった。

情報通信事業部 情報通信サービス開発室 担当係長 桑原 裕司氏

2011年7月中途入社。前任者から「NaviCon」の開発リーダーを引き継ぐ。ITS世界会議での論文発表や他社への技術供与など、製品開発と拡販の両面で主力メンバーとして活躍。

情報通信事業部 情報通信サービス開発室 担当次長 安保 正敏氏

1985年デンソー入社。長年各社のカーナビの商品企画・開発マネジメントを担当。「NaviCon」については、コンセプト段階からプロジェクトの推進役を務める。

情報通信事業部 情報通信サービス開発室 東 杏美氏

2007年入社。事務系でありながら技術部に配属された異色の経歴。カーナビの商品企画を担当し、昨年は女性向けナビの製品化を担当。現在は、女性視点での「ARPEGGiO」サービス企画開発に活躍。

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