成層圏にエアロゾルを注入、海洋に鉄を散布、バイオマスCCS… |
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SFじゃない!温暖化対策で
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成層圏に硫酸のエアロゾルを散布して、地球を冷やす
一般財団法人電力中央研究所
社会経済研究所
主任研究員
杉山昌広氏
1978年生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科卒業。米国マサチューセッツ工科大学で気候工学の博士号と技術と政策の修士号を取得。2009年に電力中央研究所に入所。専門は地球温暖化対策のモデル分析。
人は昔から「気候を変えたい」という願望を持っていた。顕著な例が雨を降らせる「雨乞い」であり、現在でも人工降雨の研究や実験は世界各国で行われている。だが、近年注目されている「ジオエンジニアリング」(気候工学)は、「地球温暖化対策」であることが特徴だ。
簡単に説明すれば、太陽から地球に入るエネルギーと地球から出ていくエネルギーが同量であれば、地球の温度は変わらない。二酸化炭素や水蒸気などの温室効果ガスが地球から放出されるエネルギーを遮っているので、気温が徐々に上がっているのだ。
そこで、気候工学は主に2つのアプローチを持つ。入るエネルギーを減らすか、出ていくエネルギーを増やすかである。
前者が、太陽光を反射させて入射するエネルギーを減少させ、地球の温度を低下させる「太陽放射管理」(Solar Radiation Management:SRM)。後者が、二酸化炭素を吸収して大気中の二酸化炭素濃度を下げ、放射エネルギーを増やす「二酸化炭素除去」(Carbon. Dioxide Removal:CDR)である。
SRMで最も研究が盛んなのが、成層圏へのエアロゾルの注入だ。気候工学のウオッチを続ける、電力中央研究所社会経済研究所の主任研究員、杉山昌広氏はこう語る、
「上空20km以上の成層圏に、半径が0.数ミクロン単位の硫酸の薄いミストのようなエアロゾルを撒く方法です。成層圏には東西によく流れる東西風があり、南北方向には熱帯域から南極と北極へとゆっくり流れる風があるので、赤道の上空辺りで散布するとこれらの風に乗って、エアロゾルが地球全体に広がります」
一般的なジェット旅客機の高度は上空10km程度。その倍以上の場所に専用の飛行機を飛ばして、機体後部などから散布するのが現実的な方法だという。ただ、こうした実験はまだ行われておらず、浮遊物質のサイズや散布の方法などの研究がようやく始まったばかり。
散布量にしても、硫黄換算で1000万トンを使えば二酸化炭素の倍増が抑制できるという試算はあるものの、確定的ではないそうだ。
特殊船で海水を吹き上げ、低層雲の反射率を高める
成層圏エアロゾル注入のベースとなっているのは、1991年にフィリピンで起きたピナツボ火山の噴火である。20世紀で2番目に大きいこの噴火で、大量の火山灰やガスが噴出し、火山灰の雲は上空35kmにまで達した。このときに二酸化硫黄や硫化水素などのガスが大気中に残り、数週間を掛けて酸化され、約3000万トンもの硫酸エアロゾルに変化したという。 「ピナツボ火山の噴火は地球の気温を下げただけでなく、降雨の変化、降雨量の減少、オゾン層の破壊なども起こしました。こうした解明は参考になるのですが、成層圏エアロゾル注入の際も同様の『副作用』が起こると予想されます。決して『魔法の技術』ではないということです」 その方法は特殊な船を製造して、海水を汲み上げ、上空に吹き上げるというもの。すると、海水は乾燥して塩分に変わり、その一部が乱気流で持ち上げられ、雲凝結核(雲の種)になる。これによりもともとある雲の反射率が高まるという。 |
フィリピンのピナツボ火山の噴火 |
鉄を散布して海を肥沃化、バイオマスとCCSを組み合わせる
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一方のCDRにおいては、鉄散布による海洋肥沃化がある。広い範囲の海に鉄の粒子を散布し、海洋プランクトンを成長させ、光合成を促進させるという方法だ。小規模な範囲での実験は成功しているものの、近年では効果が限定的だとわかってきたという。 ちなみに、コストパフォーマンスがよいのが成層圏エアロゾル注入だという。実際に行うには人工衛星を使ったモニタリングなども必要になるだろうが、飛行機を飛ばして硫酸エアロゾルを撒くだけであれば、二酸化炭素の濃度が750ppmになったときにこの温室効果を打ち消すための費用は、10億米ドル程度という。アメリカの大富豪なら私費で調達できる金額である。 「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)でもバイオマスCCSは議論され、大量導入が想定されています。SRMに比べて反対意見は出にくい方法ですが、植林するにはある程度の肥沃な土地が相当の面積で必要になります。穀物生産などの食糧問題と拮抗しますし、生物多様性への影響も考えられます」 |
気候工学は、地球温暖化による危機が迫ったときの「最終手段」
これまで見てきたように気候工学の方法には一長一短があり、膨大な資金と大規模な計画が必要で、何より「副作用」の問題が懸念される。そのため、気候工学の研究は以前からなされていたが、安易な温暖化の解決は二酸化炭素を削減しない「言い訳」になるという危機感もあり、研究への前向きな議論はタブー視されてきたという。 「大気汚染の主な原因のひとつは先の硫酸エアロゾルです。この物質は人体に有害であると同時に、上述のように太陽光を反射させる冷却効果を生みます。大気汚染がなくなれば、この冷却効果が弱まるので、地球温暖化が進むというわけです」 ただ、現在でも気候工学に反対する研究者は少なくない。気候を勝手に制御することへの不信感や倫理観、その結果として地球が変化することへの危機感を持つのは当然だろうし、各国のアンケート調査では市民も同じ感想を持っているようだ。『研究者がまじめに研究を進めることには賛成するが、実際の使用はやめてほしい』という意見が多いという。 |
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地球はひとつだから、「いつか」を想定して気候工学を追う
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近年の気候工学の特徴は、各国の研究プロジェクトや国際的なガバナンスに向けた取り組みが増えつつあることだ。例えば、2011年から始まったGeoMIPという研究プロジェクトでは、日本を含む世界10以上の研究チームが参加(参加予定含む)し、成層圏エアロゾル注入を想定した気候工学モデルのシミュレーションを行っている。 「最近ではシミュレーションの研究がきちんと行われるようになり、反対者は『科学的な論証を上げないと反論できない』という風潮になってきました。気候工学が研究対象として認識されてきたのだと思います。今後は少しずつ、小規模な実験も行われてくると思います」 ただ、人工的な地球への介入は一国だけの問題ではない。地球はひとつしかないのだ。何らかの方法を実施する場合は国連や国際会議での承認が必要になるだろうし、逆に推進国に勝手に先走られては困る。 |
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