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スカイツリーデザイン監修者・澄川喜一さんに聞く

東京スカイツリーに生かされた
時空を超えた和のかたち

下町に新たなランドスケープをもたらす東京スカイツリーには、日本古来の技術が凝縮されている。デザインを監修した彫刻家・澄川喜一さんは、日本独自の造形が持つ「不思議さ」を生かし、新たなパブリックアートの可能性を切り拓いた。

(取材・文/児玉響 総研スタッフ/松田浩美) 作成日:12.05.18

見る角度によってそったりふくらんだり!?


底部では正三角形の断面が
上部にいくにしたがって
だんだんと円形に変化する

彫刻家・澄川喜一さんがかつて初めてニューヨークで個展を開いたとき、彼の作品シリーズ名である「そりのあるかたち」は、"Curving Forms" と翻訳された。しかしソリとムクリという概念は、単に「カーブした形状」を意味するのではない。現地の図録担当者に説明するにあたり、澄川さんは日本刀の背の形状を見せて「これがソリだ」と説明したという。
私たちがソリと聞いて即座になんらかのイメージを抱くことができるのは、それが伝統的な日本文化に根ざした形状だからである。この形状に魅せられ、1979年以来「そりのあるかたち」シリーズにおいてソリとムクリ、そして木の質感と向き合ってきた澄川さんが、江戸の文化を継承する東京下町にそびえ立つ「スカイツリー=天の木」のデザインを監修することになったのは、ある種の必然だったとも言える。
 
株式会社日建設計が設計を手がけた東京スカイツリーは、東京タワーなどとはちがい、底面の形状は正三角形で、それが上部にいくにしたがってじょじょに円形に変化していく。このため、タワーの形は見る角度によって、そっているように見えたりあるいは逆にふくらんで見えたりする。このそった部分が「ソリ」、ふくらんだ部分が「ムクリ」だ。これらのカーブは、日本の建築では屋根の曲線や柱の形などさまざまなところに取り入れられているため、多くの人はソリやムクリなどという言葉を知らないまま日常的に慣れ親しんでいるものなのだ。
 
この三角形から円形へのフォルムの変化は、スカイツリーの立地条件におけるさまざまな制約が生んだものでもある。東武伊勢崎線と北十間川に挟まれた、とうきょうスカイツリー駅(旧・業平橋駅)の旧貨物ヤードの細長い敷地内で、634m(計画時は610m)の高層タワーを建築するのに最も安定した形状は何か。
 
「今までの塔は、四本足でふんばってます。東京タワーは一辺が約100m。ところがスカイツリーの敷地は細長くて場所は取れません。下には地下鉄も走っていて、条件はあまりよくなかった。そうした幅の狭いところに倍の高さのものをつくるためには、正三角形ならいちばん長い辺が取れるだろうと。一辺は68mしか取ってありません。したがって非常にスリムです。うわあ、難しいプロジェクトだなあと思いましたよ。でもね、もうこれは逆手に取るしかないとも思った。この狭い敷地に、細くて立ち姿の美しいものを建てようってね。610mという、日本人が初めて挑戦する高さのものを、浅草という外国人もたくさん来る場所のすぐ近くに建てるんだから、やっぱり日本的なものをつくらんといかんなと最初に思いましたよ」
 

五重塔の心柱がそのままハイテク技術によって蘇った


最新の建築物であるスカイツリーが
法隆寺の五重塔とおなじ「心柱」の
構造によって支えられている

実はスカイツリーの内部を、直径8m、高さ375mの鉄筋コンクリート製の円柱(正確には円筒)が貫いている。この円柱は地上125mまでは周囲の鉄骨に固定されているが、その上は250mの高さにわたって周囲の鉄骨から切り離されていて、ダンパーでわずかに接触しているだけだ。この円柱がおもりの役割をはたすため、地震が来たときにタワーの外部と内部で揺れの速度にちがいが生じ、結果として建物全体の揺れを40%ほど低減することができる。これは世界で初めて採用された心柱(しんばしら)制振といわれる制振構造で、五重塔の内部に立つ心柱を現代に再現したものだ。
「ぼくが監修に呼ばれたときには、もう構造の担当者が『心柱』って言ってたんですよ。ぼくも心柱というものを心に抱えてそこに行きましたから、まるで異口同音に……まあみんな同じことを考えてるんだなと。五重塔というのは、外国人でも誰が見てもすごくバランスのいいものだから、これを生かさない手はないだろうと、直感で思いましたよね」
 
澄川さんは戦後すぐ、岩国工業高校に通っているときに法隆寺の五重塔の美しさに魅せられ、その美しさが完璧なバランスのもとに成り立っていることに深い感銘を受けた。そのバランスの中心をなすのが、五重塔の真ん中を貫く心柱だ。
 
「日本人は聖徳太子のころに法隆寺をつくってます。そのときできた五重塔が、1300年を経た今も建ってます。これは木造です。誰が見ても美しい塔です。木造で非常に美しいというのは、バランスがとてもいいんです。いちばん上に立ってる九輪(相輪のうち9つの輪っかが重なった部分)はグッド・デザインなんですよね。この相輪につらなる心柱は、ちょうどこうもり傘のように、頂点で屋根を支えているんです。こうした近世以前に建てられた五重塔は、今22塔残ってます」
 
日本に残る五重塔には、地震や台風で倒壊したものはひとつもないという。なぜ倒れないのかはまだ完全に解明されてはいないというが、1本の心柱で全体を支え、各階は通し柱を持たず、下の階の柱の少し内側に新たな柱を立て、各階の屋根を天秤のようにしてバランスをとっていることが揺れに強い構造を生んでいるのではないかといわれている。そうした五重塔に負けないぐらい美しいものをここにつくるべきだ──澄川さんはそれをデザイン監修のコンセプトとした。
 
日本的であること。東京スカイツリーにおいては、それはソリやムクリを生かした外面的な形状にとどまらず、塔の基本構造そのもの、あるいは塔のあり方そのものにまで及んでいる。澄川さんは、東京スカイツリーは祈りの塔であるとも言う。
 
「墨田区というのは浮世絵の北斎がいたところですね。浮世絵をつくるために、絵師がいて、彫師がいて、刷り師がいて、紙すき師がいた。あるいは江戸切子や砂時計といった、大変高い技術のものづくり文化が生まれたところです。同時に、歴史的には安政の大地震や大正時代の関東大震災、それから終戦の年の米軍の大爆撃によって、たくさんの犠牲者の出た場所でもある。今回も建設の最中に東日本大震災という大変なことが起きたわけです。タワーも大きく揺れました。これはやはりひとつの時代の変わり目で、そういうときにこういうものをここにつくれと、神様が言ってくれたんではないかなあと、個人的には思っています。五重塔も祈りの塔ですが、スカイツリーのてっぺんは五重塔にそっくりなんです。あのゲイン塔というのはデジタル放送のアンテナですが、昔の人があれを見たらみんな手を合わせたはずです」
 

聖徳太子の時代から培われた、日本人技術者の底力


職人たちの技術力と士気の高さが
そそぎこまれ、地元住民からも
愛されるランドマークとなった

三角形の底面から円形の上部に移行するという形状のために、外部構造のパイプ(鋼管)の溶接は困難を極めた。しかしそこに、技術立国・日本の底力を見たと澄川さんは言う。
「パイプはいちばん太いのは直径2m30c mあります。鋼板の厚みは10cm。その板をぐるっと丸めて、溶接でパイプにしました。円形の鋼管を斜め45度に溶接する場合、断面が非常に複雑な面になるんです。いくらコンピュータがあるといっても、実際にグラインダーで削って合わせるんだからね。それが何箇所もあって、現場で実際に溶接するんだから……。日本の溶接技術は世界最高峰らしいです。溶接工は弁当と携帯トイレをもって、だんだん上にあがります。そういう職人の素晴らしい根性と精度で、あれを完成させたんですね。私もときどき現場に入ってたんですけど、非常に緊張した現場でした。おかげで無事故。1日平均500人ぐらいの職人が入ってましたが、いろんな職種の人がいるわけです。ところが全員が挨拶をしてました。それから、ゴミを落としたら誰かが拾っていました。ほんとに清潔で、きちっとしてました」
 
スカイツリーの建設現場では、北十間川に面した側には塀が立てられなかった。そのため、周辺住民はスカイツリーの基礎工事から完成までを、リアルタイムで観察することができたのだという。
 
「現場はまるでオペラのステージのようなもので、職人は歩きまわって作業しているところを、地域の人に毎日見られてるわけです。それで、見てる側も大変な工事をしてるな、よくやってるなと思うだろうし、つくる側もいいかげんなことはできない。そうした、地元住民と工事の人との協力体制みたいなものができたんじゃないかな。危険で難しいものを組み立てるのを間近で見て、近所の人は楽しかったと思うよ」

見る場所によってさまざまな形に見える、不思議な魅力


「建築物の魅力の8割は不思議さ」と
 自身の個展会場にて語る澄川さん

今回東京スカイツリーを建設するにあたって、周辺地域で反対運動はほとんど起こらなかったという。それは、こうした地域へのオープンな姿勢があったとともに、町おこしをもたらすランドマークとしてのスカイツリーに、住民から大きな期待が寄せられていたからでもある。
「スカイツリーはどこから見るかによって、そって見えたりふくらんで見えたりするでしょう。正三角形を上にいくにしたがって丸にしていくと、そういうふうになるんです。建設途中はまだ全体のバランスが見えないから、傾いて見える場所もあったんです。今はまだ中に入れないから、橋の上に寝っ転がってみんな写真撮ったりしながら、不思議だなーってタワーのまわりを一周する人たちがいる。そういう不思議さを感じて、興味を抱いて、注目してくれる。それで、はっと気がついたらけっこうきれいだよ、と。あれ、傾いてるんじゃない?、あ、やっぱりまっすぐ建ってるわ、みたいな感じで、視覚的に参加できるじゃないですか。それじたいが総合的な町おこしみたいになって、あんまり反対がなかったんじゃないかな」
建築物の魅力の8割は「不思議さ」だと、澄川さんは言う。それは少年時代に錦帯橋や五重塔の魅力にとりつかれて以来の、彼の長年の持論だ。錦帯橋の美しいカーブや五重塔の見事なバランスにたいして澄川少年が抱いた「不思議だ!」という感銘を、このスカイツリーを見る人びとにも味わってほしいという。
「日本は昔から、ソリとムクリという素晴らしい造形の美しさを持っている国ですから、それをスカイツリーに生かしたかった。それによって、建物に表情が出ます。立ち姿が美しければ、それだけで見てみようという気持ちになります。そういうとこも含めて、魅力というのは不思議さが80%だろうと思います。どうやってこういうものをつくったのかという技術的な不思議さ、そして、詳しいことはよくわからんけどつくった人はおもしろいこと考えてるんだなと納得する。そうやって、うちからはこう見えるよ、このビルの間から見たらこんなふうに見えたよと、みなさんそれぞれの物語をつくっていただく。ランドマークが、そうやってパブリック・アートになればいいなと思っています」

プロフィール: 澄川喜一(すみかわ・きいち)


1931年島根県生まれ。彫刻家。東京藝術大学名誉教授。岩国ですごした少年時代に錦帯橋に感銘を受け、彫刻家を志す。東京藝術大学専攻科修了後、1961年に彫刻家として独立、79年からライフワークである「そりのあるかたち」シリーズの制作を開始。「TO THE SKY」といった野外彫刻のほか、東京湾アクアラインの「風の塔」など環境造形も多く手がける。
http://www.sumikawa-art.com/

澄川喜一彫刻展
東京スカイツリー×そりのあるかたち

会期:2012年5月16日(水)〜5月22日(火)
場所:高島屋大阪店6階美術画廊 
時間:午前10:00〜午後8:00(最終日は午後4時閉場)入場無料

会期:2012年6月6日(水)〜6月12日(火)
場所:JR名古屋タカシマヤ10階美術画廊
時間:午前10:00〜午後8:00(最終日は午後4時閉場)入場無料
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