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ギークエンジニアたちの哲学 vol.2
仕事で不幸な人をなくしたい─ウォンテッド仲暁子
優秀な人材を求めようとクックパッドやカヤック、はてななど多くのITベンチャーが利用する話題の採用サービス「Wantedly(ウォンテッドリィ)」を立ち上げた仲暁子氏。「仕事が一番の楽しみ」と語る27歳の女性起業家の素顔とは?
(取材・文/上阪徹 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/栗原克己)作成日:12.05.11
子どものころは、漫画家になりたいと思っていた

 父も母も大学の教員でした。父が情報系だったので、子どものころから家にPCがたくさんあったんです。お下がりの古いMacをもらったのは、小学校高学年のとき。Visual Basicで遊んだりして。中学に入るとLAN環境が整って、HTMLでサイトを作ってアップしたりもしました。素材集やアイコンを作るのが楽しくて。モノづくりが好きだったのと、テレビもあまり見せてもらえなかったし、ゲームや漫画も禁止だったので、やることがなかったんですよね。あ、でも同級生でこんなことをしている子はいなかったです(笑)。

 一時、アメリカに住んでいたり、小さいころから両親の海外出張や彼らの趣味だった貧乏旅行によく連れられていて、海外への憧れが強くありました。それで、高校から日本を離れるんです。ちょうどアメリカで治安が不安定だったころで、選んだのがニュージーランド。でも、本当に何もないところで(笑)。おまけにネット環境も当時はなかった。それでPCとはすっかり離れて勉強ばかりしていました。

 子どものころから絵を描くのが好きで、実は漫画家になりたいと思っていたんです。なのに大学で経済学部を選んだのは、どういうわけか経済を理解していないと搾取される、という恐怖をずっと持っていたから。好きな気持ちや情熱を利用されて、不当に働かされるんじゃないか、と(笑)。漫画を描くにしても、ほかの仕事をするにしても、搾取されないためには、経済の仕組みを理解しておく必要があると思っていました。

仲 暁子氏
ウォンテッド株式会社
代表取締役CEO
仲 暁子氏

2007年、ピース・ボートで世界一周(左/ベトナム、右/エジプト)
コーディングがどうしてもできなかった大学時代

 高校時代は離れていましたが、PCは私にとって空気みたいな存在でした。だから、大学に入学してすぐに入ったのが、PCサークル。これが、京大の過激な掲示板を作っていた、それこそギークみたいな人ばかりの場所で(笑)。女の子なんていませんから、驚かれて。ただ、小学校から父に連れられて秋葉原に出入りしていた私には、全然OKだったんですよね。

 このころは、先輩がつながっていたシステム会社に入り浸っていました。IllustratorやCSSなどを使い始めましたが、プログラミングだけはどうしても挫折してできなかった。適性がないのかな、と思いました。

 それでも、受験時代に知り合った帰国子女のコミュニティにCGIを使ってSNSを作って掲示板に組み込んだりして、友達に喜ばれたりしました。サイトを作ったり、デザインしたりするのは好きでしたね。いまから思えばショボイものでしたが、Yahoo!のお勧めサイトに載ったこともあって、CGIカウンターがガンガン上がっていくのに驚いたりして。でも、このSNSもmixiができてからは、自然消滅してしまいました。

人からすごいと思われたい、と選んでしまった会社

 就職でゴールドマンサックス証券を選んだのは、帰国子女コミュニティの存在も実は大きかった。名の知れない小さな会社でいいから、本当に自分のやりたいことを貫けるところに行くべきだ、という気持ちがある一方で、コミュニティはじめ、まわりの人からよく見られたい、すごいと思われたい、という気持ちが強くあって。そんなときに、ゴールドマンのカッコイイ先輩を見て、「ここだ!」と思っちゃったんですよね。

 だから、実は一番幸せだったのは内定者時代。まだ仕事を始めていないのに、ブランドは自分について、みんな驚いてくれる。でも内心は焦っていました。本当はゼロからイチを生み出す仕事が好きだったので、証券業務を楽しんでできるのかどうか不安でした。実際、入社して担当したのは日本株のセールス。最初は少し戸惑いましたが、やっているうちに仕事も慣れてきて、先輩にも恵まれて、そこそこ楽しくやっていけるんじゃと思ってきました。そうした矢先、リーマン・ショックが起きて。憧れの先輩も職場を去っていきました。

 1年半での退職はまわりからも反対されました。ゴールドマンの肩書があるから、友人たちは付き合ってくれているんじゃないか、という不安もあった。実際にはそんなことはなかったんですけど。でも、辞める決断をして。

 背景にあったのは、内定時代からずっと漫画を書き続けていたことでした。4年生の夏には賞で惜しいところまでいったんです。ところが、もうちょっと、というときに、どうしても世界一周がしたくて4カ月ピースボートに乗っちゃったけど(笑)。もう一回、やってみようと思いました。でも、やっぱり漫画はうまくいかなかったんです。

帰国子女のコミュニティを通じて友人たちと交流を深めていた
プロを目指して描いていた仲さんの漫画
さまざまな偶然が重なったFacebookとの出会い
マンガを世界に紹介するサイト「Magajin」

 賞に出してもダメで、漫画の才能はないんだなぁと思いながら、ふと思ったことがありました。賞は1000件くらいの応募から、数点だけが選ばれる。でも、中にはそれなりにクオリティの高いものもあるはず。でも、二度と賞には出せないボツ原稿なんです。それが日本全国に山のようにあることに気がついて。それを翻訳してオンラインで世界に紹介できたら面白いと思ったんですよね。それで「Magajin」というサイトを立ち上げるんです。

 このとき、ユーザー集めに活用したのが、当時まだ日本ではほとんど知られていなかったFacebookでした。実は偶然、ピースボートで写真を共有するのに必要だからと強制的にFacebookさせられていて。漫画好きの外国人に向けて、ピンポイントで広告できる仕組みに驚きました。

 そんなとき、IT関係者が数多く集まるIVSに、通訳として参加する機会を得ました。本当は「Magajin」のプレゼンテーションをする予定が、ローンチが間に合わなくて。それで、たまたまFacebookのジャンパーを着ている人がいたので、話しかけたんです。私、広告主なんですよ、と(笑)。これをきっかけにFacebookで働かないか、ということになって。当時の日本法人は、日本人2人、アメリカ人3人の5人ほど。ただ、私は「Magajin」をどうしても立ち上げたくて、二足のわらじでいいのなら、と入社を決めたのでした。

エンジニアは搾取の対象ではなく、神だった

 PCは空気のような存在だったのに、就職のときにどうして情報系を選ばなかったのか。実はここにも激しい思い込みがありました。エンジニアは搾取される対象だと思っていたんです(笑)。ところが、Facebookでそうじゃないと初めて知りました。搾取の対象どころか、エンジニアが「うん」と言わないと何も始まらない。ザッカーバーグもエンジニアですし、エンジニアはピラミッドの頂点に位置する神だったことを知ったんです。

 そしてもうひとつ、驚いたことがありました。私より年下で、大学にも行っていない会社の若い男の子たちが実はこっそりビリオネアだったりするわけです。持っていた株式を売却できる仕組みがあって、上場はしていないけどすでに億万長者で。リタイヤして世界一周の旅に出るエンジニアもいました。もちろん仕事はできましたが、わずか数年、勤務しただけ。ITの世界はとんでもないキャリアが描けるんだと思いました。知らなかった世界を知って、Web系のパワーというか、熱量を実感したんです。

 実は「Magajin」は、Facebook在職中にあきらめてしまうんですが、ソーシャルネットワークを使えば、何かができるんじゃないか、と思いました。巨大企業が数億円をかけてプロモーションする商品がある一方で、ソーシャルの口コミ力だけでお金をかけずに大量に売れていく商品も出てきていた。これはとんでもないことになった、世の中が大きく変わるぞ、と思いました。そのころFacebookに出入りしていた人たちも、過去にない大きな波が来るとみんな興奮していました。そして人のつながりを使ったサービスが、この先、一気に生まれていくだろうと予想したんです。その波に乗りたい、と思いました。

金融出身の素人がRuby on Railsでサイトを

 最初は、モノ、店、人について、誰でも問いが出せるQ&Aサイトを考えました。でも、友達に聞くと、何でも質問ができちゃうと、逆に何を質問していいかわからないし、実は特に質問することもない、と指摘を受けてしまって。何かに絞ったら、とアドバイスをもらったんですね。それで、人に決めました。直感でもあるんですけど、実は私自身が使ってみたいと思ったからです。一人だと、できることは限られます。でも、もしWebサービスで、いい仕事チームが作れる機能があったりしたら、すごくいいな、と。可能性が大きく広がる。

 最初はサイトも自分で作りました。何度もチャレンジしてうまくいかなかったコーディングに、なぜか成功して。たまたま体調を崩して家にいるしかない時期があって。Ruby on Railsのテキストを開いて、ステップ通りに進めてみたらできてしまったんです。Facebookのログイン機能もWeb上にたくさん記事がありましたし(笑)。

 金融出身の素人が自分でサイトを作ってしまったのは、珍しかったんだと思います。リリースすると、有名なWebサイトが取り上げてくださって。これでユーザー数が爆発的に増加して、1万人を超えるほどになりました。

応募できるのは、社員とつながっている人のみ

 当初は、誰でもヘッドハンティング、みたいなサービスだったんですが、投稿が一気に増えてしまって、クオリティのコントロールがうまくいかなくて。結果的に、何ができるかわかりにくくなってしまいました。うまく整理する術があればよかったんですが、もうこの時点で「ハウルの動く城」状態で。普通に見えても、わかる人が見れば、拡張性はないし、かなり危なかったとバレたでしょうね(笑)。それで1回閉じて、ゼロからプロに作り直してもらうことにしたんです。そうやって「Wantedly(ウォンテッドリィ)」はできました。

 このとき、ビジネス化をあらためて真剣に考えました。「Wantedly(ウォンテッドリィ)」は、Facebookでつながっていることが、一緒に仕事をする人を判断する上での重要な担保になるという発想をしています。そして、人材を求める人が直接会う場であるミーティングを提案できる。以前は誰でもこれができたんですが、そうすると際限がなくなってしまう。そこで当初は、法人の資格を、ミーティングを作る条件にしました。現在では、Wantedlyの「ソーシャル・リクルーティング」のブランディングが定着したので、2012年4月24日付けで法人資格がなくとも求人可能になっています。

 クライアントとなる会社では、事前に社員をFacebook登録しておいてもらいます。そして例えば「××社のエンジニアとWeb技術について話したい人ウォンテッド」というミーティングを提案する。ミーティングに応募できるのは、社員とつながっている人のみ。(2012年4月24日の変更でオプション制となり、つながり制限をなくすことも可能になった)このつながりが、応募者の信頼担保になる。社員とつながりを持っていて、自社に興味を持っている人材との縁を作ることができるということです。

Wantedly(ウォンテッドリィ)
忘れられてから、いかに努力できるかが大事

 試行錯誤をしながら、模索しながらのビジネスモデルづくりでした。アメリカで流行っているサービスを日本に持ってくる、というものではないので、参考にできるものがありませんでした。未知数である一方で、海外にはないということも、一つの可能性だと思っています。

 最初にリリース以来、いろんなサイトに取り上げていただいていて、本当にありがたい限りです。でもそれは、Facebookにログインしてコネクトするサービス自体がまだまだ少なかったからだと思っています。物珍しいと多くのメディアに取り上げてもらえる時期が、Webサービスにはあるんですね。でも、それがずっと続くわけではない。アメリカで高い人気を誇っているサイトも、最初は騒がれて話題になって、それから本格的にビジネスになるまでに何年もかかっているものが少なくありません。

 取り上げられて話題になってアクセスが増えても、すぐにみんな忘れてしまうもの。大事なことは、その後、人から見えなくなったときにいかに努力するか、だと思っています。日々、ファインチューニングをしていく。いい体験をしてもらって、このサービスはいいな、と思って長く使い続けてもらえるクライアントや会員を着実に増やしていく。それが大事だと思っています。いまはユーザー数が約15000人、クライアントは約250社です。当面の目標は、単月黒字化と、クライアント1万社です。

仕事を楽しく。仕事で不幸な人をなくしたい

 たくさんの方々のご協力や好意があって、いまがあります。どうして応援をしてもらえたのか。私がまだ若くて、女性の起業家だということもあるかもしれません。人は楽しく働きたいもの、だから仕事で不幸な人をなくしたい、という「ウォンテッド」の理念に共感していただいたのかもしれません。私にできることは、結果を出すこと。それしかありません。それまでにできることは、小さなことでも信頼を裏切らないことです。例えば、メールの返事は速攻で出す。こまめに伺って話を聞く。

 結局、仕事って誰かのためにしているんです。実はそれが大きなパワーになる。どの会社もいま、いい人が採れない、と困っています。そこで少しでも力になりたいという思いが、やっぱり今の私の大きな原動力の一つになんです。大きな理念も大事だけれど、目の前で困っている人の役に立てることこそ、とてもうれしいことだと思うんです。

 ほとんど休みなしのハードワークで過ごしてきました。でも、やめようと思ったことはないです。だって、仕事が一番の楽しみですから。やめたら、その楽しみを取られてしまう(笑)。その意味では、仕事と思ってやっていないのかもしれません。仕事を楽しく、をまずは私から実践しないといけないんです(笑)。

愛せる仕事を見つけるには、時間がかかる

 仕事のモットーですか?まず動く、ということでしょうか。私は岡本太郎さんがすごく好きなんですが、彼がこんなことを言っています。情熱があるから人は動くのではない。動いているうちに情熱が出てくるのだ、と。世界をこうしたい、なんて思いは、最初からある人のほうが珍しいんじゃないでしょうか。なくて普通。それより目の前にあってできることをやっていくことのほうが大事。仰々しく考え過ぎたらいけないと思うんです。遊びでもいい。お金を儲けたい、モテたい、でもいい。深く考えずに一歩を踏み出してみる。とりあえず始めてみる。そのうちに情熱に火が付いていく。あれやこれやと考え過ぎると、そこまで行かなくなってしまうんだと私は思っています。

 スティーブ・ジョブズがこんなことを言っています。人生のほとんどは仕事。それが楽しければ人生も楽しくなる。でも、自分が愛せる仕事を見つけるには時間がかかる。だから、妥協しないで探し続ける意味がある、と。一つの仕事にフォーカスしろ、という人もいますし、そういうことが大事な時期もあります。でも、私はいろんなものをつまみ食いする時期があってもいいと思っています。それがなければ、火が付くものに気づけない可能性もあるから。柔軟に、大胆に動くこと。大事なことは、やっぱり楽しく仕事をすることですから。

PROFILE
ウォンテッド株式会社 代表取締役CEO 仲 暁子氏

1984年、千葉県生まれ。京都大学経済学部卒業後、ゴールドマンサックス証券入社。1年半で退職。Facebook日本法人に在籍しながら、Webサービス「Magajin」の開発に挑むも挫折。退職後、在職中に設立したウォンテッド代表取締役CEOとして新たなWebサービスの開発に挑戦、Facebookのソーシャルグラフを活用して採用活動を支援するソーシャルリクルーティングサービス「Wantedly(ウォンテッドリィ)」をスタートした。

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