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超こだわりの“一筋メーカー”探訪記 この分野なら任せなさい!

ガリガリ君

アイス一筋81年!
ガリガリ君コーンポタージュ化計画

定番の「ソーダ」、季節限定の「梨」など、アイスキャンディーの定番「ガリガリ君」はエンジニアも大好き。今度は“コンポタ”が登場だ!「ガリポタ」を開発したのは若手エンジニアの2人。その味は……うまいです!

(取材・文・撮影 総研スタッフ/高橋マサシ) 作成日:12.08.21

「ガリガリ君リッチ」に9月、「コーンポタージュ」が登場!

メイン担当の若手2人が「オススメの食べ方」を教えます

ガリガリ君

ガリガリ君の「コーンポタージュ」(9月4日発売予定)

「まずは普通に食べてみてください。そしてその次、僕のお勧めの食べ方はすりおろす。カキ氷をつくれるおもちゃ『おかしなカキ氷』(タカラトミーアーツ発売)でも、おろし金を使ってもらってもOKです。それを少し置いて少し溶けた状態にすると、コーンポタージュの冷製スープみたくなるんです。かなりうまいです」
こう語るのはガリガリ君「コーンポタージュ」を開発した、赤城乳業株式会社の開発本部開発部応用研究チームの岡本秀幸氏だ。企画から原料の選定、最終的な味づくりまで、まさに開発全般を行うが、ガリガリ君の新商品開発担当は実は彼ひとり。入社4年目、弱冠26歳の若手社員である。

「試作の段階で味や触感などを知るために何度も食べたのですが、食べれば食べるほど病みつきになりました。僕のお勧めは3本目。1本目はチャレンジ。最初は『え!』と思う人もいるでしょうから。2本目は確認。もう一度味を確認してください。そして3本目。すでにコーンポタージュ味にハマっています(笑)。それと、疲れが残る朝に食べると、元気が出ますよ」
技術部技術課で副主任を務める岡村哲平氏はこう語る。岡本氏の開発した「コーンポタージュ」の試作やライン化を担当しており、「開発と製造をつなぐのが僕の仕事」と語る。彼も入社6年目、28歳の若手社員である。

出来レース?10回以上の作り直しで納得できる味を試作

赤城乳業

赤城乳業株式会社
開発本部
開発部
応用研究チーム
岡本秀幸氏

ガリガリ君

ガリガリ君の「コーンポタージュ」

ガリガリ君の商品開発はプロジェクト体制を取る。岡本氏の応用開発チーム、岡村氏の技術課のほか、資材を調達する購買部門、品質保証部門、マーケティング部門、パッケージデザインなどを請け負うデザイン会社が連携して商品を開発し、社内のプレゼンに合格すれば商品化が決定する。
この「コーンポタージュ」は岡本・岡村コンビが中心となって完成したが、これまでのガリガリ君シリーズとは別の意味で困難が続いた。理由は今あなたが想像した通りで、周囲に「売れるのか?」と思われたからだ。しかし、岡本氏には腹案があった。

今年の春、ガリガリ君のプロジェクトメンバーは、新フレーバー商品のディスカッションを重ねていた。皆で案を出し、最終的に30〜40種類のアイデアが集まった。ここから5〜6種類を絞り込み、試作品で「予選会」を行い、最終的にコーンポタージュ味が選ばれた。
この予選会のための試作品をつくったのが岡本氏だったのだが、他のメンバーは知る由もなかったのである。そこに「えこひいき」が介在していたことを……。
「予選会の試作は1回目で思った味が出ることはまずないので、大抵2回でつくります。他の種類はこうしたのですが、採用してほしかったので、『コーンポタージュ』は10回以上作り直して完成度を高めました。後から岡村さんには、『それって出来レースだろ』と言われましたけど(笑)」

実は岡本氏は、企画会議の前から密かにコーンポタージュ味の試作をしており、以前から世に出したいと思っていた。通常のガリガリ君より価格の高い「ガリガリ君リッチ」なら、子供だけでなく大人もターゲット。大人にとって「懐かしい味」を提供すれば、喜んで食べてくれるだろうし、売れると感じてもいた。
そこで閃いたのが「うまい棒」やスナック菓子のコーンポタージュ味。「大学時代は菓子ばかり食べていた」という岡本氏の好物でもあり、温かい飲み物を冷たく食べるという発想も斬新に思えた。
「チャレンジしたいと思いました。今年でガリガリ君は31周年なのですが、実はこうした『歴史』や『伝統』を僕はあまり知らなくて、その意味ではしがらみがなく、つくりたいものをつくれたと思います」

コーンの浮上の問題発生!前代未聞の製造ラインを止めたテスト

「従来のレシピ」では完成しなかった、新しい味

まずは原材料の選定。コーンポタージュの100%粉末だとダマになるとわかり、スープタイプや顆粒タイプを選んだ。メーカー数社から合計十数種類を購入して味づくりを試す。また、アイスの中にコーンを入れることを思いついたが、しっかりした味を出したいとフリーズドライのコーンと決めて、複数社からさまざまなタイプを購入した。
もちろん、何でも選べたわけではない、食品衛生法などの規格や自社基準に合格した材料であり、かつ価格やロット数などの条件に合うことが前提条件となる。目指した味は「スナック菓子とコーンスープのそれぞれのよさ」を共存させること。

「簡単に言ってしまうと一般的なアイスは、果汁などの風味原材料、乳製品、砂糖をベースにして、香料で味出しを補ってつくりますが、こうした従来の方法ではコーンポタージュの菓子やスープの味は出ませんでした。そこでコーンの粉末に加えて、数種類の塩を混ぜ、調味料であるブイヨン入りの粉末を使い、砂糖も何種類かを組み合わせました。コーンは北海道産の質のよいものを使っています」
アイスにする前段階で味を確かめていくのだが、岡本氏が決め手とするのは「第一印象」。上記のように配合する原材料が多くなると試作のパターンも増えていくのだが、「第一印象」を見極めれば判断はぶれないという。

こうした試行錯誤を続け、1〜2カ月を掛けて納得できる「コーンポタージュ」が完成した。だが、工場の設備の1000分の1スケールの試作機でアイスにしてみると、思わぬ事態が発生した。
アイスキャンディーをつくるには、原材料となる液体を充填機に入れ、冷やして少し固まったところでスティックを差し込み、冷凍を続けて完成させるのだが、なぜかコーンの粒が液面に浮かんでいたのだ。

赤城乳業

赤城乳業株式会社
技術部
技術課
副主任
岡村哲平氏

ガリガリ君

アイスの中にはフリーズドライのコーン

頭を下げ続け、1分間に200個製造するラインでテスト

ガリガリ君

人気の「ソーダ」、ガリガリ君のパッケージは3種類ある

ガリガリ君

ガリガリ君の関連商品の数々

ガリガリ君

その理由は、水分のないフリーズドライのコーンの軽さにあった。だが、浮かんだままで商品化すれば、アイスの下部にコーンが集中してしまい、食べ始めても最初はコーンが出てこない。コーンが均等に散らないのは致命的な欠陥となってしまう。
岡本氏から相談を受けたのが岡村氏だった。彼は思い切った手に出る。
「小さな試作機で解決できる問題ではないと思いました。仮にここでうまくいっても、生産段階でミスが出たのでは取り返しがつきません。そこで、ラインの実機でテストがしたいと上司に直訴したのです」

1分間でガリガリ君を200個製造するという生産ライン。稼働中のこのラインを止めて、コーンポタージュのテスト専用に動かすというアイデアだ。しかも、原材料を納入するタイミングに合わせて、ラインを空けてもらうという無茶なスケジュール。
「上長はもちろん、製造現場の管理職、オペレータ、購買部門、在庫管理部門……いろいろな部署で頭を下げ続けました。私の仕事は開発と製造の橋渡しですから、『どうやって周囲の部署を巻き込むか』を常に考えています。それでもキツかった! 商品化できなかったことを想像すると、物凄いプレッシャーでした」
「実機ラインを使ったテストなど、過去になかったと思います。岡村さんだからできたことで、私が動いても無理だったと思います」(岡本氏)

2人はある程度、改良のためのポイントを絞っていた。原材料の配合レシピ、原材料を撹拌するための羽の形、タンクの大きさ、原材料に加えるクラッシュアイスのバランスなどだ。混ぜ方を変えたり、撹拌する速度を調整したり、クラッシュアイスのポンプでの送り方を調べたり……これらを実際に目で見ながら判断し、失敗すれば原因を調べ、成功すればその理由を検証した。
「試作は8パターンに絞っていました。1分で200個ができてしまうため、原材料がもたなくなるからです。テストは3〜4時間続け、原材料が合計で3000リットル、氷は1300kg以上を使いました。そして、ようやくコーンが浮かばずにすむつくり方と、満足できる味を実現しました」(岡村氏)

難関の社内プレゼン、社長の「ベリーグッド!」で商品化決定

タッグを組んだエンジニア2人、これからの夢とは?

商品化に向けた最後の難関は社内プレゼン。主に経営陣が味見をするのだが、そもそも「本当に売れるのか?」と心配されていた商品。岡本氏は「売れると思っていたのはプロジェクトメンバーだけでしょう」、岡村氏は「特に営業部門は不安がっていました」と振り返る。
実際、味見をした経営陣でも反対する人がいたそうだ。しかし、井上社長はガリガリ君「コーンポタージュ」を食べて、思わずこう言ったという。
「ベリーグッド!」
商品化が決まった瞬間だった。ガリガリ君「コーンポタージュ」は9月4日に発売予定である。

岡本氏は大学卒業後に赤城乳業に入社し、新商品開発チームに配属。約10種ものアイスの新商品を、企画、味づくり、容器のデザイン、商品名まで担当し、約1年前にガリガリ君の開発担当になった。
その後は、「シャリシャリ君」「ガリガリ君リッチのカフェオレゼリー」などを生み出し、「コーンポタージュ」を完成させた。現在は冬から来春に発売予定のガリガリ君を、3〜4品同時に進めている。
「アイスの可能性はまだまだあります。今回のように暖かいものを原材料にしたり、飲料をアイスにしたり。今までにない未知のアイスをつくることが僕の目標です」

岡村氏も大学卒業後に同社に入社し、生産ラインの管理を任された。2年目に品質保証を担当し、3年目から今の部署に配属。新商品のためのライン構築、設備の仕様決め、新しい設備の購入、納期やスケジュール管理などが主な仕事だ。
「現在は開発に合わせて設備を決めていますが、設備の技術進歩は激しいですし、アイス専用でなくてもアイスづくりに応用できる設備もあります。今後は『こんな設備を使えばこんな商品が開発できる』といった、開発チームへの逆提案をしたいですね」

私、取材の後で「コーンポタージュ」を食べさせていただきました。お世話になったから言うわけではないですが、「うまい!」。とろっとした触感で、甘みがあって、コーンポタージュの味もしっかりしている。そして、その味が全く嫌みではない。やっぱりガリガリ君はスゴいよ。

ガリガリ君

岡本氏が開発を担当した「シャリシャリ君」

赤城乳業

2人は仲良し

ガリガリ君

会社の受付で人を迎えるガリガリ君

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