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3,500万人超「LINE」、月間65億PV「DECOLOG」

激増する通信インフラを支える
エンジニア舞台裏

この1年で爆発的に普及したスマートフォン。その普及に比例してアプリ開発も活況を呈しているが今回注目したのはインフラ領域。爆発的なユーザー数の増加に対応するための、モバイル向けサーバ・ネットワーク構築ならではの特徴について探ってみたい。

(総研スタッフ/山田モーキン) 作成日:12.05.23

リリース1年弱で登録ユーザー数3,500万人突破した無料通話・メールアプリ「LINE」を支えるインフラ開発 NHN Japan 株式会社

予測できないキャパシティ&デリバリーと、開発スピードへの対応


NHN Japan 株式会社
ITサービスセンター
IT運営室 システム運営チーム
佐野 裕氏(写真左)

ITサービスセンター
IT運営室 システム運営チーム
趙 根弼氏(写真右)

昨年リリースされた無料通話・メールアプリ「LINE」。その名の通り、無料で通話やメールができるアプリとして世界中で爆発的に普及した結果、2011年6月にサービス開始以降、登録ユーザー数が国内約1,500万人・世界約3,500万人を突破(2012年5月14日時点)、史上かつてないスピードで普及しているアプリだ。

「昨年まで当社では主に日本市場向けに“ハンゲーム”などのサービスを展開していたのですが、全世界に向けて発信するLINEの登場で、さまざまな点で大きく変化しましたね」と語るのは、同社のサーバ部門のマネジメントを担当する佐野氏。
例えばハンゲームの場合、ユーザー数が1,000万人に到達するまでおよそ4年、2000万人まで6年かかったものが、今回のLINEではその10倍以上のスピードで普及したことからも、その大きな変化が見て取れる。

また同じインフラ領域を担当している趙氏にLINE登場後の変化について聞いたところ、スマホ向けアプリならではの特徴や運用面での難しさについてこのように語る。
「世界中、どこでも誰もがいつでもダウンロードしてすぐに使うことができる環境がある。それはユーザーにとって非常に便利な半面、私たちインフラ領域を支えるメンバー側にするとサーバやネットワークを構築する時、キャパシティやデリバリーがどのように推移していくのか、シミュレーションがかなり難しいという側面がありますね。
しかもLINEのようなアプリの場合、毎週のように機能改善や新機能の追加リリースが行われるので、その“スピード感”に対応していくことが求められるのも、スマホ向けのインフラ開発ならではの特徴ではないでしょうか」

リリース1年弱で3,500万人突破しても、インフラ領域のメンバー数に大きな変化がない理由


このようにスマホ対応アプリならではの苦労、さらにLINEのように史上かつてないスピードで普及が進むアプリのインフラを支えていくことはエンジニアにとって難易度の高いテーマである。
しかし驚くことに、わずか1年弱で3,500万人を超えたサービスを支えるインフラ領域のメンバー数自体に大きな変化はないという。その理由は「ハンゲームのインフラ」「開発スピードアップ」「プロセス改善」の3点に代表されると言う。

1.ハンゲームのインフラ活用
「これまで当社はハンゲームでPC向けのインフラ開発や運用を10年以上手掛け、数千万人のユーザーからのリクエストを効率的にさばくインフラを構築してきました。PCに比べてスマホ向けのインフラでは、ユーザー一人当たりのリクエストやトラフィック量が大きくないので、今までの経験や設備を生かすことでほぼ変わらないメンバー数で対応できていますね」(趙氏)

2.開発スピードアップ
「スピードと柔軟性を両立させるために、『今やること』『1カ月後』『3カ月後』というようにグループ分けして、それぞれでインフラをどのように構築・運用していくべきか対応できる体制にしています。またデータセンターやベンダー等の外部の協力企業に対して、当社と同じスピード感に対応してもらえるよう頻繁に協力要請していくことも、重要です」(佐野氏)

3.プロセス改善
「LINEの場合は特に事業計画に合わせてインフラ構築計画を立てても、すぐに計画が変更になってしまう。そこで厳密なインフラ構築計画を立てる代わりにサーバ、ネットワーク機器、データセンターラックなどのリソースをある程度確保しておき、必要なときにすぐに投入できるようなプロセスを構築しました。例えばサーバに関しては標準スペックサーバをある程度確保しておき、必要に応じてパーツを増減させてすぐに本番環境に投入するような仕組みです。ただし無尽蔵に各種リソースを確保できるほどの予算もないので、資産管理やオペレーターの作業スケジュール管理を高度化することで、無駄な投資が発生しないように日々最大限努力しています。」(佐野氏)

こうして現在、「今年度ユーザー数1億人」を目標にアプリ開発側と一丸になって、さらにそのスピードを上げて理想のインフラ環境構築を目指して突き進んでいくという。

月間65億PV国内最大級のブログサイト「DECOLOG」 を支えるインフラ開発 ミツバチワークス株式会社

限られた予算で、アプリ開発とインフラ開発運用を兼務するエンジニアがスマホ向けインフラ構築に挑む


ミツバチワークス株式会社
取締役/ディベロップメントディレクター
諸富 洋氏

10代〜20代女性に圧倒的な支持を受けているブログサービス「DECOLOG」。2007年にまずフィーチャーフォン向けにリリースされた後、一昨年から本格的にスマホ向けにも展開。昨年の段階で月間PVが約65億、月間想定訪問数約1000万人、ブログ開設数280万件以上という、どれも国内最大級の規模を誇る。

スマホに対応することを検討し始めた時、これまでと比べてインフラ領域における数々の懸念点が浮かび上がったと、同社の諸富氏は振り返る。
「とにかくトラフィックが劇的に跳ね上がることが予想されました。スマホになれば画面は大きくなるし、デコメ用のデザイン等もより動きも含めて多様な表現が可能になります。特に画像はフィーチャーフォンに比べ画質が格段に向上した分、容量も場合によっては10倍以上に上がります。それが数百万単位で置き換わったと考えたら、膨大な額のインフラ投資が避けられません」

しかも大手企業と違い、同社は少数精鋭でインフラ投資にかけられる予算が限られている上、同社のエンジニアはすべてアプリ開発とインフラ開発運用を兼務している。こうなるとスマホに対応していくためには、さらに低コストかつ高効率なインフラ構築・運用が求められるのは自明の理だ。

徹底的な優先順位付け&定常作業の自動化&アプリ知識を活用してスマホ対応インフラを構築


そこでまず諸富氏が取り組んだのは「徹底的な優先順位付け」と「定常作業の自動化」だ。
「例えばインフラ運用を守るために、“絶対にサイトを落としてはいけない”と考えがちですが、決してそうではありません。かけるコストに見合うリターンがないと判断されれば、ある程度のダウンタイムを許容した設計が正しいというケースが多い。それもアプリ側の知識やスキルも含め、ビジネス的な視点でインフラをチェックすることが必要になってきます」
「またもうひとつの定常作業の自動化に関しては、『Chef』という、システム管理を自動化するために構築された、オープンソースのシステム統合フレームワークを導入しました。このChefの導入による自動化は、3名でDECOLOGを運用している当社にとって大きなメリットを得ています」

この徹底的な優先順位付けと定常作業の自動化に加え、さらに同社がスマホ対応に適したインフラを構築していくために大きな役割を果たすのが、先ほどから紹介している「アプリ開発を兼務している」と言う点。
サーバやトラフィックに負荷のかからないアプリ開発を、エンジニア全員が意識して取り組んでいることが、アプリ開発を兼務する当社のエンジニアの強みにもなっているという。
「トラフィックやサーバへの負荷対策は、そもそもインフラ領域だけで対応することは困難。例えば同じ負荷を軽減するにも、インフラ領域だけで対応しようとすると10日かかるところ、アプリ側であればちょっとした修正で同様の効果を得られることもあります」
元来、アプリとインフラは切っても切れない深い関係でつながっている。そこでまずPV数やトラフィック増加率などのデータを活用して今後の動向を予測し、そこからアプリ開発と効率的なインフラ構築をセットで考え実行していくことで、スマホに対応したインフラを構築できるという。

少数精鋭企業が抱えるリスクやデメリットを、逆にうまく活用して対応していく。それが同社ならではの、スマホ対応インフラ構築ノウハウとなっている。

パブリッククラウド導入の活発化で必要とされる「プログラミングスキル」


株式会社ハートビーツ
取締役
技術統括責任者
馬場 俊彰氏

スマホの普及によるインフラ環境を取り巻く変化について、現場エンジニアの声から紹介してきたが、インフラ領域のコンサルティングや、インフラエンジニア向けの勉強会を主催している馬場氏に話を伺ったところ、スマホ普及による最大の変化は「画像」にあるという。
「ソーシャルメディアの普及や、スマホ対応のキャンペーンを昨年ごろから急速に流行り出したことで、ユーザー側が自分で撮影した画像をアップすることが格段に増えました。1枚数メガする画像を一斉にアップすれば、サーバやネットワークに大きな負荷がかかるのは目に見えています」

そこで昨年から、急速に普及し始めたのが「パブリッククラウド」の相次ぐ導入。中小企業や期限付きキャンペーンの実施で一時的にインフラの強化を図りたい企業を中心に導入が進み、「当社に寄せられる案件の9割は、クラウドや仮想化に何らかの関わりを持つ」(馬場氏)との情報もある。
そこでそうした動きにインフラエンジニアが対応していくために馬場氏が指摘するのは、「プログラミングスキル」。クラウドを活用するためには、APIを操作して企業のニーズにマッチしたカスタマイズが必要不可欠。

「スマホ普及も含め、今後インフラ環境はクラウドや仮想化の動きがさらに加速されます。またそれに伴い、『インフラ管理効率化・スピードアップ(quickness的な意味で)→自動化』という流れも顕著になっています。chefやpuppetのような構成ツールや、仮想化を利用したマシンイメージ流用などにより機敏に動けるようになるようになってきました。そうした時勢の急激な変化に対応しつつ、インフラエンジニアがキャリアアップしていくためには、クラウドを活用するためのノウハウや、自動化するためのプログラミングスキルが重要になってくるはずです」

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