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パソコンを自作、DTMで曲作り、ブログで震災後の市民を支援 活弁士・山崎バニラは“パソコンLOVE!”
大正琴やピアノの弾き語りで独自の「活弁」を展開する山崎バニラさん。「ヘリウムボイス」で声優としても活躍し、将棋は初段で棋士への取材経験も豊富だが、実はパソコンを自作し、DTMを扱うという技術通。ぜひ話を聞きたくて伺った。
(取材・文/総研スタッフ 高橋マサシ 撮影/三浦健司)作成日:12.04.27
自作パソコンから始まった山崎バニラさんのIT
「甥っ子の成長記録ムービー」を作りたくてパソコンを自作
山崎バニラさん 写真  バニラさんが自作パソコンに取り組んだのは2009年のこと。甥っ子(当時3歳)の「壮大な成長記録ムービー」を作りたいと思ったからだ。それまでは市販のノートPCを使っていたが、それでは動画編集ができないので自作……しかし、パソコンや周辺機器に関する知識はゼロ。秋葉原に何度も通った。

「本でも勉強しましたが、秋葉原に20回くらい行って、ショップの店員さんにいろいろと教えてもらいました。秋葉原にいる女性はメイドさんか観光客くらいで、パソコンのパーツを買いに来る人はいないみたいです。なので、普通はウィッグと着物を取ると山崎バニラだと気づかれないのに、店員さんに『あ、山崎さん、どうも』とか言われてました(笑)」

 最初に決めたのはパソコンのケース。デザインで選んだ赤いキューブ型の「Lian-Li PC-V351R」だ。ここから各パーツを選んでいった。
 マザーボードは当時で最も性能がよかったという「GA-P55M-UD4」、動画編集を考えてCPUも高性能の「Core i7-860」にした。メモリは2GB×2のDUALモード(後に増設)、グラボは「ELSA GLADIAC 998 GT SS」、CPUクーラーは「Scythe SCBSK-1000 BIG Shuriken」(メモリの増設ができないと後に「ShurikeN B」に変更)。
「当時はLEDライトの白いタイプがこれくらいしかなかったので、モニターは『BenQ V2200 ECO』にしました。昨年モニターアームを取り付けたのですが、すごく大変でした。ポイントは『力技』です」
 デュアルの赤いモニターはテレビ。YouTubeやニコニコ動画を見たり、PDFの表示などに使う。足元には足踏み式スイッチ。トラックボールと連動させてマウスの代わりにしている。これらのおかげで肩こりが随分楽になったという。
作曲を知っていても、機器に強くなければDTMは難しい
 費用は約20万円が掛かったが、当時としてはかなりハイスペックなパソコンが完成。目的だった「甥っ子の壮大な成長記録ムービー」も完成した。そのコンセプトがすごい。甥っ子が将来「大物」になり、ムービーを公の場で流すときを想定して、「権利関係をクリア」したのだ。
 BGMは既存の曲を使わずに自分で作曲、動画に付けるテキストもフリーフォントをDLして使った。それでも権利関係を確認したいと、フォント作家に「使わせていただきます」とのメッセージを送る。

 このときは楽譜ソフトで作曲したのだが、よりよくしたいとDTMの世界に入った。バニラさんは4歳からピアノを習い、中学校ではクラリネットを演奏、大学時代はミュージカル研究会で作曲もこなした。そんな素養のある人はDTMにすぐなじんだのか。
「とんでもない! DTMはかなり機器に強くないと難しいと思います。私は配線だけで1日かかりましたし、オーディオインターフェイスを通したり、MIDIの設定にも苦労しました。ちなみに、普段からオーディオインターフェイスを使うとスピーカーを酷使しすぎると思ったので、いつもは1000円ちょっとのスピーカーを使い、DTMのときは優秀なスピーカーを使うように切り替えています」
 自作パソコンの次回リニューアルはWindows8の次のWindows9(?)が出たときと考えている。そのときの課題は「徹底的に省エネ」だ。
デスクの下に収納している自作パソコン
デスクの下に収納している自作パソコン
ITで白石市を救いたい、ブログが掲示板に
山崎バニラさん 写真  バニラさんが3年前から身につけてきたITの知識は、思わぬところで役に立った。東日本大震災だ。彼女は生まれ故郷である宮城県白石市の観光大使を務めており、復興支援のチャリティなどにも積極的に参加しているが、観光大使の発表は震災の3日前だった。
 市役所の観光課や広報課などと直接のつながりがあり、また既にTwitterで白石市民をフォローしていた彼女は、震災直後からハッシュタグ「#shiroishi」での情報共有を呼び掛けた。

「ある方が白石市○町○番地の両親の状況を知りたいとコメントすると、市民の方が自転車で出かけて無事なことを返信するなどが始まり、私のブログが白石市民の掲示板になりました。お店が開店する時間なども書かれるようになり、震災後の1週間はパソコンの前から離れませんでした」

 現地から送ってもらった避難所の掲示板の写真をテキストに起こしたり、市役所のPDFデータをテキストに変換して、携帯電話しかない人に情報を流すなどもした。後に白石市長から感謝状をもらうような働きをしたのだが、震災3日前の観光大使発表だけでなく、Twitterも2月下旬から始めたばかりだった。偶然とは思えないと語る。
「私のご先祖様は、白石城城主の片倉小十郎の医師だったそうなんです。ご先祖様が『白石のために働け』と言っているのだと感じました」
活弁士・山崎バニラは秒単位でシナリオを描く
主役でなく「モノづくり」に満足する活弁という仕事
 バニラさんは大正琴やピアノを弾きながら活弁するという、独自の手法でライブを行っている。では「活弁」とは何か。今年2月の米アカデミー賞でモノクロの無声映画『アーティスト』が作品賞を受賞したが、初期の映画はこのように音声のない白黒動画だった。
 こうした映画の上映に合わせて、その内容を言葉で表現する解説者が「活弁」だ。無声映画は活動写真とも呼ばれていたため、活動弁士を略して「活弁」、あるいは「活弁士」と呼ばれている。
 落語や講談は舞台に上がる人が主役。だから自分の存在を強調し、お客の視線を集める。一方、活弁の場合は映画が主役だ。そのために活弁士は自分の存在を消そうとするという。活弁士の存在を忘れていくとお客は『映画が話している』と錯覚し、映画に集中していくのだそうだ。

「ですので、活弁士はモノづくりが好きな人が多いですね。自分が注目を浴びなくても、作ったモノ(映画)を楽しんでもらえれば満足なんです。そんな点はエンジニアの方に似ているかもしれません」
 そのための努力は相当のもの。例えば、ライブの間の「給水」のタイミングを秒単位で決めておく。喉が渇くので途中で水を飲むのだが、演奏を続けているから常に両手がふさがっている。そのため、飲めるポイントを予め設定しておくのだ。
「水を飲んだ後の数十分は飲めなくなるので、喉が渇いてなくても飲みます。楽譜も自分でめくりますから、そのタイミングも計算しています」
 通常の活弁士と違って、弾き語りをするバニラさんだからこそだ。
山崎バニラさん 写真
博物館に眠っているだけでは無声映画がもったいない
デスクの下に収納している自作パソコン
愛用している木製キーボードとトラックボール
アームレストは手拭いで自作
 バニラさんは出演と演奏だけでなく、脚本、作曲、演出、衣装もひとりで担当する。このため、俳優とは違って役にのめり込まない、のめり込めないという。
「お客さんが笑う様子で語るタイミングを変えたり、映像などのトラブルがあれば対処しますので、一歩引いて全体を眺めなくてはいけないのです。日常生活も同じで、皆でワイワイ騒いでいても、遠くで眺めている感じかな(笑)」

 そんなバニラさんは練習している姿を人には見せない。なるほど、一流の人は苦労している姿を人には見せないものだ、などと勝手に思っていると「違います」。
「同じ語りでも『しゃべりすぎ』と言う人もいれば、『しゃべりが少ない』という人もいます。こうした意見はとても参考になって、次に生かすようにしていますが、本番前に聞くとパニックになっちゃうんです。だからひとりで練習します」
 練習する姿を見てもらうことで、何らかのアドバイスが得られる場合もある。そう言うとバニラさんは、「弾き語り活弁をしている人はほかにいないんです」。彼女はひとりきりで、10年以上も試行錯誤を続けている。

「活弁を楽しんでいただきたい気持ちもあります。でも、普通なら見ない古い無声映画を活弁があることで見ていただき、映画が面白かったと思っていただくこともこの仕事の醍醐味です。博物館に眠っているだけでは、無声映画がもったいないと思いますから」
山崎バニラさん 写真
プログラマたちに取材、エンジニアへのお願いとは……
将棋に熱中! 過去を調べるのは「活弁士」だから
山崎バニラさん 写真  バニラさんにはいろいろな特技があるが、中でも「将棋」は初段の腕前で、著名な棋士たちに何度も取材をしている。今年の1月にプロ棋士の米長邦雄永世棋聖とコンピュータが対局する「電王戦」が開催されたが、「将棋もコンピュータもわかる公平な人」としてプログラマたちに話を聞いた。
 米長氏と対局するコンピュータ将棋「ボンクラーズ」の開発者、伊藤英紀氏にインタビューをしたのだが、その下準備として、他の将棋ソフト開発者たちに話を聞いたのだ。
「みなさん、それぞれのソフトを作っていて、毎年コンピュータ将棋選手権で戦っているライバル同士。それなのにとても社交的でびっくりしました。こんなこと言っては失礼ですが、ソフトの開発者は少し内向きの人が多いと思っていたので(笑)」
 取材に当たってバニラさんは下調べをしていた。本で棋士とソフトの対決を勉強したのだが、1996年くらいから現在までを調べたという。なぜなら……。
「今の状態だけでなく、歴史を知らないと理解できないと思ったからです」
 取材前に取材対象者の下調べをするのは当然としても、10年以上前まで遡る人はまれだろう。
「それは私が活弁士だからだと思います。活弁士は前説で映画の歴史や当時の時代背景を語ります。また、フィルムトラブルのときは復旧するまでフリートークで間を持たせます。こんなときには個人的な話をしても面白くないので、映画のうんちくを話すわけです。ですから、過去を調べるのは慣れているんです」
山崎バニラさん 写真
山崎バニラさん 写真  無声映画のコメディでは、クルマが人間を追い掛けたり、逆に人間がクルマを追っかけて乗るなどのシーンがある。では、当時の自動車は人が追い付けるほど遅かったのか。調べると実は、平均速度は今とさほど変わっていないとわかった。こうした内容を観客に教えるのだ。
「そのとき読んだ本に、2010年にコンピュータ将棋は人間を負かすと書いてありました。今回は米長棋士が負けてしまいましたが、2010年に清水市代女流王将が負けているんです。予測は当たってましたね」
エンジニアにお願い、もう少しアイデアと工夫を
 バニラさんは以前、テレビ番組の企画で行方尚史八段との駒落ちで対局。負けたバニラさんは1日休んで、その後4日間連続して道場に通った。やさしく教えるプロ棋士ではなく、「情け容赦のない」アマ棋士たちの特訓を受けたのだ。そしてその後、何と山崎隆之七段に勝利するのである。
「勝たせてもらったんだと思います(笑)。でも、あの4日間での『強くなりよう』はわれながらすごいと思いました。対局では、自分が研ぎ澄まされていたのがわかりました」
 ベッドには詰め将棋の本が置いてあり、それを解きながら眠るのがバニラさんの日課になっている。このように何事にも一生懸命なバニラさん。最後にエンジニアに望むことを聞いてみた。

「いろいろなソフトを使っていて、あと一歩ここが効いていればと思うことがあります。例えば、パソコンのデータをすべて読み込んで立ち上がるので起動が遅いとか、丁寧に作りすぎていて使わない機能がありすぎるとか。フリーのソフトもあるので大きな声では言えませんが、もう少し工夫してほしいなと思います。また、周辺機器はかわいいものが好きなのですが、探すと見つかるのは『萌え系』ばかり。私にとってパソコン関連はインテリアですので、もっとおしゃれなものを作ってもらいたいです。お願いしすぎですか(笑)」
板チョコ型の外付けUSBスロットと、間違えないように名前を付けた配線
板チョコ型の外付けUSBスロットと、
間違えないように名前を付けた配線
山崎バニラ
山崎バニラ

宮城県白石市生まれ。清泉女子大学文学部スペイン語スペイン文学科卒業。オーディションを受けて活弁士となり、2001年から本格的に活動。大正琴とピアノで弾き語る独自の芸風を確立する。独特の「ヘリウムボイス」で声優としても活躍。宮城県白石市の観光大使「すまiる大使」を務める。
山崎バニラさん情報
http://harumatsuri.gozaru.jp/
http://shimotakaidocinema.com/gekijo/top.html
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
カワイすぎます、バニラさん。そして、私風情がおこがましいのですが、とても頭がよい方です。取材前のメールのやり取りや電話でも感じましたが、実際にお話をさせていただいて確信。+相手を思いやる気持ちが強い。取材ではお母様ともヘア・メイクの渡辺さんとも楽しいひとときを過ごしました。楽しかった! こんな日があるから編集者はやめられません。

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