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発見!日本を刺激する成長業界24 スマホ普及で開花!モバイルヘルスケアが有望業界に
通信機能を備えた医療機器で日々の身体状態をモニタリング。健康増進を図るモバイルヘルスケアが今、急成長の兆しを見せている。本格的な遠隔医療からスマートフォンを使った身近なサービスまで。開発案件もさらに増えそうだ。
(取材・文/井元康一郎 撮影/関本陽介 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:12.05.07
モバイル端末使用のヘルスケア市場、2016年に国内800億円規模に
 ITと医療機器を融合させたモバイルヘルスケアは今日、急成長期待がかかる有望分野のひとつとなっている。市場調査会社シード・プランニングは同分野の国内市場規模について、2016年には2011年の約3倍に相当する800億円に達するとの調査結果を発表している。
 現在、セルフメディカルチェックなどの健康分野、在宅医療をはじめとする見守り分野など、ビジネスがすでに立ち上がっているサービスに加え、現在はまだ実証段階にある病院や薬局におけるタブレットPC、スマートフォン利用といった医療分野のサービスも今後は急伸が見込まれている。
 また、市場成長は国内だけでなく、モバイルヘルスケアが進む欧米に新興国や開発途上国を含めたグローバルで起こると見られており、その点でも有望性はきわめて高いと言えそうだ。
モバイルヘルスケアサービス市場の推移 (グラフの出典)出典:(株)シード・プランニング「2012年版モバイルヘルスケアサービスの現状と将来展望」
A&D/被災者健康管理でも威力発揮、ITと医療機器の統合技術でリード
 今や身近なものとなった血圧計、体重計、体脂肪計などの生体情報モニター。だが、それらの機器に情報通信技術を組み合わせると、にわかに医療、健康管理の未来形が見えてくる。その新アーキテクチャ作りで存在感を見せているのが、生体情報モニターの老舗、株式会社エー・アンド・デイ(A&D)だ。
期待高まる! 遠隔医療から病気予防まで世界に膨大なニーズ
Bluetooth内蔵の血圧計「UA-851PBT-C」と体組成計UC-411PBT-C」(個人向け)
Bluetooth内蔵の血圧計「UA-851PBT-C」と体組成計「UC-411PBT-C」(個人向け)
 地震と津波で多くの人々が一瞬にして生活の根拠を奪われた東日本大震災。避難所では過密さや、また身内・友人の死などのさまざまなストレスによって命を落とす人がいた。自治医科大学の苅尾七臣教授はストレス死を何とか防ぎたいと考え、インターネットを通じて被災者の血圧を監視する遠隔医療システム「災害時循環器リスク予防ネット」(DCAP)を急きょ張り巡らし、積極ケアで死亡リスクを減らすことに貢献した。
 システム開発に要した時間は震災発生からわずか3週間。作り上げたのは血圧計、体重計など生体情報モニター機器世界大手のA&Dだった。
「われわれは有線の時代から生体情報モニターのネットワーク接続の実現に取り組んできました。その後、無線方式を経て2005年にはインテルが提唱した通信標準規格、コンティニュア・ヘルス・アライアンス(CHA)に準拠した、Bluetooth方式の血圧計を世界で初めてリリースしました。そうした技術の蓄積から、避難所向けのヘルスモニタリングシステムを短期間で開発できたのです」

 メディカル事業推進部の尾崎忍部長は、開発の背景をこう語る。被災者は避難所に設置された血圧計で定期的に血圧を測る。測定の際にIDカードを機器に通すことで個人の血圧データが識別され、自治医科大学に送られる。その血圧の変化から被災者のストレスを予測し、ケア担当者が現地で声掛けを行った結果、水分補給が足りないことが判明したなど数々の成果があったという。
 DCAPはネットワーク医療機器が威力を発揮した端的な事例となったが、市場可能性は災害対応にとどまらない。少子高齢化が進む中、高齢者の疾病や孤独死が社会問題化しているが、ネットワーク医療機器はそうしたリスクを軽減するのに大いに貢献しそうだ。
「医療対応だけでなく、普段の健康管理もネットワーク化で変わる。CHAに対応したわれわれの次世代ウェルネスコネクテッド血圧計で得られたデータをPC、スマートフォンなどでNTTレゾナントの健康管理サービス『gooからだログ』に送信すれば、血圧や心拍などの日々の変化がひと目でわかります」
 さらにこうしたデータが多数集まれば、時間生物学の観点から、例えば「太陽の黒点活動の変化によって血圧に起因する死亡リスクが高まる」といった学説に合わせて、「この時期には生活に注意が必要」などの予報が出せる可能性もあるという。また、ネットワーク医療機器の市場拡大は日本だけにとどまらない。グローバルでの成長余力には大いに期待できるという。

「ケーブル接続の黎明期に、われわれのネットワーク医療機器がまず注目されたのは北米でした。国土が広く、病院に簡単に通えない地域がたくさんあるからです。現在も先進国に限らず、いろいろな国から引き合いがある。途上国では医療予算が乏しいため、モバイルヘルスケアをはじめ、予防を重視した施策が取られたりするからです。実際、われわれのビジネスは現時点ですでに8割が海外向けです」
 環境・エネルギー、生命科学などと並び、21世紀型産業の主役と言われる健康・医療。その高度化、モバイル化に欠かせないネットワーク医療機器の動向については今後も要注目である。
尾崎 忍氏
株式会社エー・アンド・デイ
営業本部 メディカル事業推進部
部長

尾崎 忍氏
単なる情報送信機能付きではない、ネットワーク医療機器開発の面白さ
Bluetooth内蔵の血圧計「UA-767PBT-C」と体組成計「UC-321PBT-C」(法人向け)
Bluetooth内蔵の血圧計「UA-767PBT-C」と体組成計「UC-321PBT-C」(法人向け)
血圧を測る様子
血圧を測る様子
 遠隔医療に使う血圧計と聞くと、得られた生体情報をスマートフォンやPCでアクセスポイントに送り、データサーバーに蓄積し、さらにその情報を医療ソリューションを提供するサービスシステムに転送するといったものがイメージされる。一見、大して難しくなさそうに思える。
「そう思うでしょう。ところが実は、ネットワーク医療機器作りはとても難しいんです。医療システムは血圧や体重、体脂肪の測定だけで構成されているわけではなく、いろいろなパラメータを測る機材が混在する世界。また、得られた生体情報をもとにどんなサービスを提供するかも医療プラットホームによってまちまちです。常にデータを受ける側、周囲の機器、サービスシステムなどとの親和性を考え、世界のエンジニアともコミュニケーションを取りつつ、常にネットワークの全体像をイメージしながらの開発が求められるんです」
 Bluetoothを使ってネットワーク端末にデータを送信する機能を持つCHA準拠の最新鋭血圧計、体重計をはじめ、A&Dのネットワーク医療機器開発を手がける第3設計開発本部の野添由照氏は語る。
 掲載写真のモデルはいずれもCHA準拠品。白地に青の製品は在宅・遠隔医療や健康管理を主眼とした法人モデル、銀地に黒の血圧計はインターネットとの連携性を高め、NTTレゾナンスが提供するサービス、「gooからだログ」上で楽しみながら健康管理を行うことができる、個人ユーザー向けの新世代品だ。
「人間の生体情報は、機械などと異なり、実に不確かなものです。血圧の場合、人によって腕の太さや脂肪の付き方がまちまちなうえ、測定中に全く動かないということはまずない。われわれは医療用や家庭用の血圧計を長年手がけてきているため、血圧の波形の変化をはじめ、測定データに関する膨大な知見を持っています。それらが持つ意味をデータの受け手となるサービス開発者に伝え、サービスの質を向上させる作業が不可欠なんです」
 血圧のみならず、生体情報は単なる瞬間数値だけでは意味をなさないものが多いという。体重や体脂肪率もBluetoothを通じてデータ送信できる時代だが、データの意味付けが的確になされないと、測定者がダイエットしているのか病気で痩せ気味なのか、はたまた測定精度が悪いのか、的確に分析できない。
「何を食べたか、運動直後かといったアンケート項目を設けるとデータ分析の混乱を避けられます、といったアイデアの提案も重要。機器の開発以外にそうしたイメージを豊かに持つことが要求される。ここが大変なところでも、面白いところでもあります」

 機材への通信機能実装も、単に通信モジュールを付けて終わりではない。
「多くの機器がランダムに連なるのが医療システム。そこで避けて通れない問題のひとつとなるのが競合です。われわれは北米や欧州での有線、無線通信を用いた医療機器開発を行っていたことから、CHA構想がスタートしたときに仕様作りに加わってほしいという要請を受けました。そこで、共同でネットワーク体系を作ったのですが、当初は機器の認証で不具合が頻発。通信規格というものはグレーゾーンが含まれているのが常で、その解釈の違いが不具合の原因になる。そうした不具合を機材とネットワークの両方でひとつひとつ潰して、ようやく形にすることができました」
 技術立国を自認する日本だが、医療機器分野では内視鏡やMRIなど一部を除いて、海外勢に圧倒されているのが実情だ。その中でネットワーク医療機器関連は日本が得意とする分野で、CHAへの日本の参画企業は約60社と、世界の4分の1を占める。野添氏は現在、テクニカルワーキンググループのトップを務める。
 そんなA&Dの開発部門に在籍するエンジニアは約60名。一体どんな人たちなのだろうか。

「いろいろな人がいますよ。私自身はもともと応用物理学専攻ですが、人間の健康に関する仕事に興味があってこの会社に入りました。微妙な圧の変化から血圧を読み取るセンシング技術などノウハウの塊であるため、最初はわからないことだらけでしたが、勉強すれば技術については何とでもなる。現在の陣容を見ると、電気系、センサー系、機械系、物理系などが多い。生命科学を専攻していたエンジニアもいます」
 生体情報を取得する機器には極度に専門的なものもあるが、同社の血圧計、体重計、体脂肪率計などは、コンシューマ向けにも使われている技術や知識は結構生かせるという。
「スキルに劣らず重要なのは人間性ですね。世界を広く見る目を持っていること、そして負けず嫌いであることだと思います。何しろこの世界は困難なことだらけ。問題を常に突破することが求められるわけです」
 ネットワーク医療機器分野で技術のリーダーシップを取り、より創造的な医療システム作りを実現させたいという野添氏のチャレンジは、まだ始まったばかりだ。
野添由照氏
株式会社エー・アンド・デイ
第3設計開発本部 第2部
課長代理

野添由照氏
医療・健康分野の新主役、モバイルヘルスケアの市場成長を見逃すな
多様な業界、ハードからアプリまで、多くのプレーヤーが参入
 ネットワーク端末を利用した新しい医療サービス、モバイルヘルスケア分野の業界地図は、従来の医療機器分野のものと大きく異なる。生体情報を取得する医療機器だけでなく、インターネットを利用したネットワークシステム、データベース、サービス開発、さらにはデスクトップPCやタブレットPC、スマートフォン上で走るアプリケーション開発と、これまで医療とあまり関係が深くなかったさまざまな分野の技術が求められており、市場成長を見定めて参入する企業が続出している。

 今日、異業種で特に目立った動きを見せているのは、IT系に強い家電メーカーや通信キャリア。新規サービス投入の動きも活発化しており、モバイルトラフィックに占める健康・医療関係の割合は今後激増すると考えられている。
 アメリカではスマートフォン向けの健康管理アプリが人気を博しており、「アプリの市場規模はアメリカだけでも早くも100億円前後に達しているという情報もある」(IT業界関係者)。異業種のエンジニアは、自分のスキルを買ってもらうという待ちの姿勢でなく、自分のスキルや経験から得られた発想をどう生かせるか、どんどんその提案をしていくことが道を開くことにつながりそうだ。
関係者が多いことから、問われるコミュニケーション力の高さ
 モバイルヘルスケア分野で求められるスキルは、サービスシステム全体に求められる技術と同様に多彩。血圧計や体重計などの生体情報モニター関連では、電気・電子、機械設計などハードウェア設計に関する経験やスキルが主体。空気圧センサーや圧電素子などセンシング技術のスキルも歓迎される。
 通信機能実装ではIEEE1394、Bluetooth、無線LAN、携帯電話の通信モジュール設計などの経験があると転職に有利。単なる機能設計だけでなく、法令や標準仕様などを適切に解釈する能力があるとなお可といったところだ。

 ネットワーク部分では通信サーバー、データベースサーバー関連スキルを生かすことができる。ただし生命にかかわることでもあるだけに、プラットホームにはかなりの強固さが必要。求められるスキルレベルは高そうだ。
 一方、アプリケーション、UI関連では健康に関する情報をどのように有意にビジュアライズするかという創意工夫力が求められる。こちらはアプリ開発をひと通り経験していれば、当人のアイデア次第というところだろう。

 いずれの職種でも強く問われるのは、エンジニアとしてのコミュニケーション力。同じ医療機器でも全く異なる性質のものをひとつのシステムに仕上げるのだから、情報交換は生命線だ。エンジニアだけでなく、医療関係者や機材担当者と密にコミュニケーションを取り、よりよいヘルスケアサービスを考察する必要も出てくる。難しくも面白い、チャレンジしがいのある分野と言えそうだ。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
モバイルヘルスケア、もっともっと日本の強みを出せる分野だと思います。市場としてもかなりの伸びが期待できるはず。連載「成長業界」も24回目を迎えましたが、こんなに成長分野はあったということ。そしてまだまだありますよ!

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100年に1度といわれる大不況下にもかかわらず、右肩上がりの業界があった!成長を支える各社の技術力、それを生み出す技術者の発想に迫ります。

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