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モノづくりエンジニアの魂が、現場を熱くする <後編>

東芝、IHI、旭硝子★
          プロジェクトの舞台裏

逆境の日本において、自分の信念に従い、世界に影響を与える「モノづくり」をしているエンジニアたちがいる。そんな「技術者魂で現場を熱くする」6人を紹介したい。前編の「ホンダ、三菱電機、新日本製鉄★プロジェクトの舞台裏」に続いて、今回の後編は東芝、IHI、旭硝子の3人だ。

(取材・文 総研スタッフ/高橋正志) 作成日:12.03.07

世界初の「裸眼3Dディスプレー」を開発した、研究者のアイディア
――株式会社東芝

世界が度肝を抜いた「裸眼で3D」のイノベーション


研究開発センター
マルチメディアラボラトリー主任研究員
兼エコテクノロジー推進室参事
福島理恵子氏


「3D元年」と言われた2010年のCEATEC。展示ブースの前にできた120分待ちの行列。ディスプレーを見る来場者の「判定」に、距離を置きながら恐る恐る耳を傾ける女性がいた。
「メガネ無しって、やっぱりいいね」
来場者の声を聞いて「感無量というより、安堵感のほうが大きかった」と語るこの女性こそ、東芝の「グラスレス3Dレグザ(TM)」の生みの親である、研究開発センターマルチメディアラボラトリー主任研究員の福島理恵子氏だ。裸眼でなぜ立体映像が見えるのか?

人間の目は、左右で少しずつ異なる角度で物を見ている。この角度の差を「視差」と言い、3D映像はこれを利用して脳内に再現される。専用メガネは必須だったが、福島氏は一つのアイディアを思いついた。

「ディスプレーはそのままに、ディスプレーに表示する『画像』を工夫するだけでいいのでは…」
ノートに書いた説明図をチームリーダーに見せると、「よし。すぐ実験してみなさい」。
液晶パネルに設けたレンズシートが、画素ごとに異なる方向へ光を向ける。観察者が3D映像を見るために必要な光を選んで再生するように、すべての画素の輝度情報を決めるというものだった。

「凄いぞ。3D映像が見える範囲が倍以上に広がっている」。
もうひとつの課題だった「鑑賞範囲の狭さ」も克服する方法だった。そこには、福島氏が入社後6年間取り組んだ、液晶ディスプレーに関する知識が生きていた。

娘への発表会で感無量の言葉、「ママ、頑張ったね!」

しかし、さらに高く険しい壁が待っていた。製品化だ。経営トップのGOサインが出て、5人で始まった研究チームは、事業部も横断する大きな組織へ。量産するためには、二律背反の信頼性と製造コストに折り合いをつけなければならない。製品の構造を立案し、問題を一つひとつ潰していく過程で、福島氏は研究所側のリーダーを任された。

そんな彼女を支えたのが、経験に裏打ちされた知見とともにアイディアを持ち寄ってくれるメンバー。彼女は誰よりも考え抜くという気持ちで、得られたデータと対峙し、会議の席で考察を添えて説明することで問題を共有し、解決策が出るよう努めた。そして、「グラスレス3Dレグザ」は完成。国内外で数々の賞に輝いた。

「私が得たものは、賞だけではありません。それまでは研究開発を個人戦だと思っていた自分が、団体戦の喜びを味わえたことこそが、かけがえのない大きなものでした。今後はさらに商品力を上げたいですし、医療や教育の分野での可能性も追究したい」

福島氏は産休・育休を経て職場に復帰。配属されたのが3Dディスプレーの研究チームだった。10歳になった娘さんへの「発表会」の日。福島氏がケーブル類をつなぎ終え、娘さんがスイッチを入れた。「どう?」と尋ねる彼女に元気な声が返ってきた。
「ママ、頑張ったね!」



「現場の安全」にこだわり続ける、プロジェクトマネージャーの執念
――株式会社IHI

台湾、アルジェリア、「点」ではなく「線」を最適化する仕事の喜び


電力事業部 プロジェクト部
プロジェクトマネージャー
課長
渡邉康一氏


「おまえ、海外でやりたいんだろ?」。入社5年目、ついにチャンスが訪れた。「やりたいです!」。
発電の要となるボイラの据えつけの「現場監督」。それが電力事業部プロジェクト部プロジェクトマネージャーの渡邉康一氏の仕事だった。しかし…。
「じゃあ台湾に行かせてやるよ、『所長』として」

組織の規模も責任の大きさも現場監督とは桁違いだが、「とにかく、やりきるしかない」と3年間の駐在生活が始まった。工程表を守り、コストを管理する。もはやエンジニアとは呼べないが、「組織のトップとして舵を取る」喜びを新たに見つけた。
「受注→設計→調達→製作→輸送→建設→試運転→引渡し。一連の流れの中で、建設という『点』の最適化に努めてきましたが、つなげた『線』の最適化を手掛けてみたいと思いました」

台湾の建設現場で過ごすうちに、「安全」に対する意識も大きく変わった。工事に携わる作業員をいかに事故から守れるか。「現場で死者を一人も出さないことは、実は大変なことなんだ」という、海外で所長を務めた人からの言葉の意味がようやくわかったという。

そして入社8年目。プロジェクトマネージャーとして渡邉氏は、北アフリカのアルジェリアで安全集会を開いていた。作業員は延べ1000人。言葉も宗教も文化も違う多国籍な人間たち。安全に対する意識の落差にしても簡単には埋められない。それでも渡邉氏は訴え続けた。
「安全は、私たちのためではない。あなたやあなたの家族のためにある。どうかわかって欲しい」

いつも自分に問いかけるのは、「みんなハッピーだろうか?」



回を重ねていくうちに握手を求められることも多くなり、作業員同士が笑顔で声を掛け合うシーンも増えていく。しかし、ビジネスはそれほど甘くはない。引き渡しが遅れた場合の罰金条項には「1日7000万円」とあった。「あっという間に利益が飛ぶな」(渡邉氏)という金額だ。

アルジェリアは天然ガスの輸出で世界第2位の国。天然ガスを液化するプラントが休業することは、この国の経済が立ち往生することを意味する。あるとき、「工程は1日でも短縮してほしい」と苛立つクライアントと、会議の席上でと口論になった。
「ミスターワタナベ、実現できないプランを出してこないでくれ!」

感情的になった自分を後悔しながらも、渡邉氏は想いをぶちまけた。
「資源に恵まれたあなたの国は、大きな可能性を持つ国です。ただ、今は危機に瀕している。だから私たちは救いたい。それだけです」
この出来事がきっかけで「壁」は取り払われ、4缶の巨大なボイラは期限に滑り込むように引き渡された。入社17年目の渡邉氏はこう振り返る。

「プロジェクトの目的は、全員が幸せになることです。エネルギーを必要とする人々も、供給するクライアントも、作業員やその家族も、会社も私も、みんながハッピーになれないプロジェクトはやる価値がないとさえ思います」

自動車用ウインドーガラスの新工法で歴史を変えた、エンジニアの意地
――旭硝子株式会社

「先人の夢」、ローラー制御による自動車用ウインドーガラスの製造


京浜工場
設備技術センター所長
尾形 裕氏


1997年。タイでの工場建設プロジェクトから帰国した、京浜工場設備技術センター所長の尾形裕氏を、T部長が「手ぐすね引いて」待っていた。
「エンジニアリング部の実力を世に示したい。さらなる革新的な技術開発のための武者修行に、おまえ行ってこい」

時代はバブル後の大不況だったが、T部長は「今だからこそ、未来のために外へ打って出るんだ」と会社を説き伏せた。「行きます!」「あっちで例の新工法も確立させてこい」。それはローラー制御の新工法だった。

自動車用ウインドーガラスは曲面でできている。その曲がりを精緻に出すため、当時は型でプレス成形していた。そのため製造品種が変われば、型変更の作業に丸一日を費やしていた。
理想はローラーの制御のみで熱したガラスの曲率を変えることだが、それは「夢」とされた。機構はできたとしても、そのあまりに複雑な制御を可能にするコントローラなど、当時の処理性能ではあり得なかったからだ。

尾形氏はエンジニアリング関係会社へ移り、そしてさらにパートナーシップを組む国内電機メーカーへ出向した。そこで彼は、サッカースタジアムや劇場のルーフ開閉システムを手がけることになる。
「モーションコントローラでモーター500台を完全に同期・協調制御する技術に接して、これならイケるかもしれないと思いました」

試作ラインの「屍」を越えて、ガラス製造の歴史が変わった

自動車用ガラスは人命にも関わるため、その要求品質はすさまじく高い。新工法は、各ローラーをそれぞれ独立モーターで駆動させて品種ごとのRを自由に出しつつ、ガラスの要求品質をクリアしなくてはならない。

「そのため、限界までローラー間のピッチを狭めること。つまりローラーの数を増やして、それを完璧に協調制御することが命題なのです。しかも、基本的に24時間365日稼働し続ける生産ラインで、フリーズは許されません」
電機メーカーの仲間たちは天を仰いだ。「そんなバカなコントローラどこにあるんだよ!」

現実は想像を絶していた。試作ライン。止まるコントローラ。うなだれるメンバー。同じ光景が数えきれないほどくり返された。ローラーは増加し、その速度制御は精緻化し、必然的にコントローラは複雑になってゆく。
ガラス製造技術、機械、電機、ITあらゆるものの総合芸術とも言える挑みは、技術屋の意地と未来への信念だけになり…彼らは勝った。ガラス製造の歴史が変わった瞬間だった。そして、日本と世界5カ国の工場で、言葉も文化も違う人々を助けることになった。

「品質にOKが出た晩、私は電機メーカーの仲間たちと、しこたま飲みました。企業の壁を越えて、チームがひとつになった最高の酒。そのときの地味だけど最高にカッコいいオヤジたちの背中を、私は今も追っています」



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