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発見!日本を刺激する成長業界23 地熱発電、秘めたるエネルギー開発に技術力を使え
脱石油、再生可能エネルギーへの転換ニーズが高まる中、地下の熱エネルギーを使って発電する地熱発電が注目を集めている。世界で多くの地熱発電所建設プロジェクトが進行する一方、高温岩体発電など次世代技術の研究開発も加速している。
(取材・文/井元康一郎 撮影/関本陽介 総研スタッフ/高橋マサシ)作成日:12.03.05
輸出も含め2020年までの10年累計1兆1700億円市場へ
 脱石油、無公害、安定性といった特質を持つことから注目度が高まっている再生可能エネルギー、地熱発電。高温地下水を使う従来型のものに加え、湧出する温泉の熱を利用する温泉発電、高温高圧の大深度地下に水を注入してエネルギーを得る高温岩体発電など、多様なタイプの発電方式が登場しており、開発案件も世界で急増中。有望市場となりつつある。
 矢野経済研究所は国内の地熱発電の市場規模について、輸出を含めて2011〜20年度までの10年間累計で1兆1690億円に達すると予測(2011年12月現在)。地熱発電の新設は熱源として利用可能な場所の探索から運用開始まで10年以上を要する長期プロジェクトであり、その先さらに本格的な急成長があると見られる。そのブームを見越し、重電各社、地質調査会社、掘削会社など多くの関連企業が事業強化に乗り出している。
国内地熱発電市場の将来予測(2011〜2020年度)[予測は2011年12月現在] 出典:(株)矢野経済研究所「地熱発電市場に関する調査結果 2011」(2011年12月20発表をもとに編集部が作成)
地熱技術開発/高度なシミュレーション技術で温泉発電から高温岩体発電まで
 地球内部からの熱を利用する地熱発電。目に見えない場所の熱や水を探し、的確に掘り、熱を使いすぎないよう発電するのは、実はかなり難しい。探索からオペレーションまでの管理を可能とした、地熱技術開発株式会社のシミュレーション技術が今、注目の的だ。
多様化が進む地熱発電、コスト競争力も急伸中
新潟県十日町市にある松之山温泉の温泉発電(人物以外の写真提供:地熱技術開発)
新潟県十日町市にある松之山温泉の温泉発電
(人物以外の写真提供:地熱技術開発)
 昨年12月16日、新潟県の山間部にある松之山温泉で、新たな地熱発電の実証試験が始まった。湧出する温泉の熱から電気エネルギーを得る、温泉発電(バイナリー発電)と呼ばれる小規模地熱発電である。
 松之山温泉の泉温は70〜120度。そのままでは入浴できないため、湯冷ましをする必要がある。熱いお湯をただ大気に晒すのではなく、熱交換器を使って水よりも沸点が低いアンモニアなどの液体を沸騰させることで湯冷ましを行い、沸騰したアンモニアの蒸気でタービンを回して発電するのだ。
「バイナリー発電はまだ、熱交換器や小型の蒸気タービンなど、多くの装置のスペックが特殊なため、価格が高い。しかし、実証試験での成果をもって需要が伸びれば、量産効果でコストはどんどん下がる。松之山温泉のプラントは定格出力87kW、他の温泉地もおよそ50kW程度ですが、もっと小規模の装置のニーズも潜在的にたくさんある。利用しやすさの点で、バイナリー発電は有望な再生可能エネルギーだと思います」
 設備を設計した地熱技術開発の大里和己氏は語る。同社は1975年、政府の再生可能エネルギー利用プロジェクト「サンシャイン計画」に参画すべく設立された研究開発・コンサルティング会社だ。
 前出のバイナリー発電などの小規模地熱から、地下の熱水のエネルギーを直接利用して発電用タービンを回す一般的な蒸気フラッシュ発電、さらには地下水のない大深度地下に人工的に水を送り込んで沸騰させ、そのエネルギーを利用する次世代型の高温岩体発電まで、さまざまな方式の地熱発電を手がけている。
 地熱エネルギーの利用可能性は、技術の進化に伴って急速に高くなっているという。地熱といえば、火山脈に近いところや温泉湧出地に限られるというイメージをもたれがちだが、実情は異なる。
「火山のない安定した地殻でも3〜4kmも掘削すれば、そこは数百度という高温高圧の世界。低コストで大深度地下まで掘削することができれば、地熱発電はいろいろな場所でできるんですね」
 実際、ドイツでは火山の全くない場所で3300〜3700mほど掘削を行い、水を送り込んで沸騰させる高温岩体発電に取り組んでいるという。また、アメリカでも政府がグリーン・ニューディールの一環で、地熱発電に大型投資をしているそうだ。
「大深度地下の熱源を使えれば、ニューヨークのそばでも地熱発電が可能というマサチューセッツ工科大学のレポートもありました」

 地熱発電はもともと、再生可能エネルギーの中では安定性がきわめて高く、24時間発電が可能で、ベース電源にも使えるという特質をもっている。その地熱が改めて注目を浴びているのは、大深度地下を掘削するボーリングなど関連技術の進化もあって、コスト競争力が急速に高まっているからだ。
「世界では既に原発と同等以上のコスト競争力があるということで、開発が加速しています。日本でも国立公園における地熱発電開発の規制緩和など、追い風は吹いている。地熱発電は調査から運転開始まで10年を要するような大型プロジェクトが多く、具体的な投資はまだこれからですが、市場性は確実に上がっていると思います」
地熱技術開発株式会社 取締役 営業・事業開発部長 兼技術部専門部長 大里和己氏
地熱技術開発株式会社
取締役
営業・事業開発部長
兼技術部専門部長

大里和己氏
見えないエネルギーを探し、掘り、運用する面白さと難しさ
松之山温泉の温泉発電システム
松之山温泉の温泉発電システム
松之山温泉の温泉発電の全景
松之山温泉の温泉発電の全景
 地球が地下に膨大な熱エネルギーをたたえていることは広く知られている。その熱量を自由自在に利用できれば、世界のエネルギー事情など一発で解消するのはまず間違いないところだ。だが、実際にそのエネルギーを使うのは簡単ではない。
「地熱発電は地面を掘りさえすればいいわけではありません。もちろん掘削技術も大事ですが、それだけではなく、見ることのできない地下のどこに利用しやすい熱源があるかを探索する技術、長期間にわたってなるべく低コストで安定運用するための運用ノウハウ、不純物の混じった地下水を使ってもトラブルを起こさない発電プラントなど、多様な分野の技術の集大成なのです」
 実際、今日の地熱発電開発には多くの分野の企業やエンジニア、科学者が関わっている。どこに利用しやすい熱源があるか探索する資源工学、掘削に当たって必要となる地層や岩石成分情報などを得る地質学、タービンをはじめとする発電プラント開発では機械工学や電気工学、高温高圧に耐えられる材料工学など、非常に広範囲だ。

 それらに加えて、近年重要視されているのがシミュレーション技術。地熱技術開発が得意としているテクノロジーだ。
 地熱発電のための熱源は、前項で述べたように、深く掘れば必ず得られる。地下水があれば蒸気フラッシュ発電が可能。なくとも地上から水を送り込んで沸騰させる高温岩体発電は可能だ。
 だが、闇雲に深く掘りさえすればいいというものではない。掘削深度が深くなればなるほどコストが上がり、ほかのエネルギーと競争できなくなる。また、地熱の分布は一定ではなく、せっかく掘っても利用できるエネルギー量が思いのほか少なかったなどとなれば、資金と労力の採算が合わなくなる。
「われわれは地球の磁場を計測して、地下の状態を知る地中探査を事業のひとつとしています。そして、測定を通じて蓄積されたデータを解析して、どこでどれだけの熱が利用可能かを予測したり、ボーリングをどう掘り進めばよいかプランニングするシミュレーションソフトを開発しました。現時点でもかなり無駄を省けるようになりましたが、今後さらに多くのデータが集まれば、精度はさらに上がり、地熱のコスト削減にもつながるでしょう」

 探索や掘削ばかりでなく、運用においてもシミュレーション技術は重要だ。例えば、地熱で利用する高温高圧の地下水には、多くの鉱物が溶け込んでいる。その鉱物が配管の中で結晶化し、管を狭めてしまうといったトラブルも地熱発電には存在する。困ったことには、地熱を採る場所によって起きるトラブルも違ったりする。地熱技術開発のソフトは配管腐食や再結晶化、地熱性ガスの発生なども予測できるという。
「このように、地熱発電はさまざまな分野が手を組むことで進化するエネルギーです。人材ニーズは既に事業を手掛けている企業を中心に立ち上がっていますが、若手の人材は不足気味で、ニーズは今後さらに増えると思います。
 新しい場所に地熱発電所を建てるたびに新しい問題が起こり、新しい知見が得られる。火力などの人たちからは『大変だね』などと言われますが、私にとってはそこがまさに楽しいところ。同じ仕事をルーティンでするのではなく、常に新しい課題に向かっていきたいエンジニア、サイエンティストには、ぜひ地熱の門戸を叩いてほしいところです」
地熱技術開発株式会社 取締役 営業・事業開発部長 兼技術部専門部長 大里和己氏
地熱技術開発株式会社
取締役
営業・事業開発部長
兼技術部専門部長

大里和己氏
地熱発電は次世代クリーンエネルギーの本命技術だ
“世界でエネルギープロジェクトが続々、数十年にわたって成長市場に
 地熱発電は1970年代の石油危機のころから断続的に開発が行われ、フィリピン、アイスランド、ケニアなど、エネルギーの1割以上を地熱でまかなっている国も存在している。だが、今日世界で続々立ち上げられているプロジェクトを見ると、それらの規模をはるかに上回るものが少なくない。

 その筆頭は、現在既に合計出力250万kW以上という世界トップの設備を有しているアメリカ。新興国でも石油輸出国から輸入国へと転ずるなどエネルギー安全保障に悩むインドネシアが、2025年に950万kWにまで地熱を増やすと表明。
 今後も追従する国は多数に上るとみられ、数十年にわたって成長市場となる可能性が高い。

 日本では熱源を豊富にもつ国立公園周辺での開発が、条件付きで許可される見通し。公園の核心部ではなく縁辺部から斜めにボーリングして熱源に到達するという特殊な工法が要求されるうえ、地層がかなり複雑という日本特有の事情があるため、日本企業の強みが発揮されるだろう。
 何しろ日本は地熱資源量で世界3位という「地熱大国」。ただ、現在の発電能力はわずか53万kWで世界8位にとどまっている。秘めたポテンシャルが十分にあるということだ。
多彩な分野のエンジニアが参加可能、自然パワー好きにオススメ
 地熱発電で求められるエンジニアのスキルおよびキャリアは多岐にわたる。今日最も求人が多いのは、発電プラントの開発を行う重電分野だろう。海外での地熱プロジェクトのうち、特に大型のものは日本製プラントの競争力が高く、受注も相次ぐなど、人材ニーズは高まっている。
 また、各国での地熱調査ニーズも今後増えていくことが予想されており、それに伴ってボーリングマシンや地磁気計測装置などの分野でも求人が増える可能性がある。事例研究の地熱技術開発のように、流体、固体シミュレーション分野も穴場的な存在である。

 エンジニアスキルとして求められるのは、プラント開発ではタービンの流体力学、発電・変電のジェネレーターやパワー半導体、電力計測など重工関連が主体。掘削に使われるボーリングマシンはかなり特殊な技術だが、産業用ロボットや建設機械、ガントリークレーンなどの大型可動機の開発経験があれば見込みは十分にある。

 また、資源工学や地質学などを大学である程度習ったエンジニアの場合、地熱発電への進出を狙っている石油会社、海洋開発会社などで、フィールドワークに携われる可能性もある。事例研究で登場したシミュレーション分野では工業用CAEソフトなどの開発経験が役立つだろう。
 地熱発電は開発が減速していた時期があり、中堅・若手の人材が決定的に不足している。ある程度のスキルレベルがあるエンジニアにとっては、今が参入の絶好のチャンスと言える。
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高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ 高橋マサシ(総研スタッフ)からのメッセージ
地熱発電、何か好きなんですよ。大規模で、壮大で、しかし地味なところでしょうか。しかし、地熱発電所の実現がこんなに難しいとは知りませんでした。コストの問題など考えていませんでしたし、何となく「掘ったら出る」と想像していたのです。これらの問題を解決するのはやっぱり技術力。目が離せません。

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