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モノづくりエンジニアの魂が、現場を熱くする <前編>

ホンダ、三菱電機、新日本製鉄★
プロジェクトの舞台裏

新興国の台頭、終わらない円高、欧州の経済危機…日本の製造業は今、かつてない逆境の中にある。しかし、その中で、世界に影響を与える「モノづくり」をしているエンジニアたちがいる。そんな6人を前・後編に渡って紹介したい。前編である今回は、本田技術研究所、三菱電機、新日本製鉄の3人だ。

(取材・文 総研スタッフ/高橋正志) 作成日:12.02.22

初代を超えろ!「2代目フィット」「フィットシャトル」の開発者魂
――株式会社本田技術研究所

原点回帰で日本カーオブザイヤー大賞を受賞した「2代目フィット」


四輪R&Dセンター
LPL 主任研究員
人見康平氏


「2代目フィット、LPL頼むわ」。四輪R&DセンターLPL、主任研究員の人見康平氏は、こうして「バトン」を渡された。「フィット」とは2007年6月時点で世界累計出荷台数が200万台となった、ホンダのハイブリッドカー。LPLとはLarge Project Leaderの略で、開発総責任者を意味する。

室内を革命的に広くしたセンター配置の燃料タンク、ミリ単位でムダをそぎ落として実現した驚異的な燃費…人見氏は戸惑いながらもこう感じたという。
「あれだけ完成されたクルマもない…違う土俵で勝負するしかない」

初代を超えるために招集されたメンバーは全員フィット未経験者。「センタータンクをやめてそれ以上のモノをつくろう!」とその意気込みはすさまじかったが、アイディアを出せば出すほど、ウナギのように長く、コストのバカ高いクルマへと向かっていった。
「追い詰められて、初代フィットLPLの松本さんの言葉を思い出しました。『人見。お前、お客さんのためになることだけを言い続けろ。妥協するな』」

この原点回帰から道が開け、2007年10月に発表した「2代目フィット」は、2007-2008日本カーオブザイヤー大賞を受賞する。しかし、人見氏はバトンを持ったままだった。「2代目フィット」と同じ燃費をひとまわり大きなカテゴリーで実現する、「フィットシャトル」の開発を託されたのだ。

「肝の据わったオヤジ」に反発して生まれた「フィットシャトル」

「同じコースに球を投げるぞ。今までが140kmのストレートなら、俺たちは160kmの剛速球を投げよう」
彼は新メンバーにこうハッパをかけたという。そして、エンジニアたちは球を投げ続けた。

「視界を確保するために、ピラーあと5mm削れないか?」「5mmは勘弁してくれ。3mmならなんとかする」。「ドアに40mmの防音材を入れたいんだ」「そうか…なんとか他で削る」。こうして燃費をジリジリと稼ぎ続けて…ある日、パワートレインの責任者である磯貝氏が飛んできた。「出ました?!30km/l!」。
「思わず『31km/lにすればよかったな』と言ったら、『勘弁してください!』って(笑)」

2011年6月に「フィットシャトル」は発表された。そして、ある発表会で伊東孝紳社長は「最高のファミリーができました」と賛辞を送る。人見氏は苦笑しながらこう明かした。
「開発途中で伊東さんが言ったんです。『感動の少ないクルマだな』って。その言葉に開発、営業、生産すべてのメンバーが反発して、僕は『いけるかもしれない』と感じました。Hondaには、なぜかそういう素直じゃない、『肝の据わったオヤジ』が多いんですよ(笑)」



電力不足を救え!わずか5カ月で火力発電所が完成できた理由
――三菱電機株式会社

東日本大震災、数年かかる発電所建設を夏までに完成させよ


電力システム製作所
エネルギープラント部 専任
松本匡史氏


2011年3月11日。電力システム製作所エネルギープラント部専任の松本匡史氏は、兵庫県赤穂にある変圧器工場で、顧客の見学につき添っていた。14時46分すぎ、会社の携帯の安否確認シグナルが鳴った。即座に携帯に連絡が入った。
「東北がすごいことになってます!」

揺れゼロの地にいた松本氏がテレビをつけると、彼ら関西の人が経験した震災を超える惨状が映し出されていた。思わず叫んだという。「なんやこれ!」。発生は金曜。土日で復旧計画を検討し迎えた週明け、1本の連絡が入った。夏の電力が不足するので、間に合わせて発電所をつくらなければならないというのだ。

「最初は何を言っているのかと思いました。通常は数年はかかるところを夏に間に合わせるなんて、いくらなんでも無理だからです。しかし、うちのトップは『使命感』から決断したのです。『よし、やろう!』と僕ら現場も前を向きました」

松本氏は「自分でなければできないこと」をやろうと思ったという。1日数百枚の検討書。しかし、系統のつなぎ先が確定しない中、電力会社からは変更が相次ぎ、その度ごとにすべてがやり直し。夜なべが続いたが、誰ひとり文句を言う者はいなかったという。国、電力、メーカー、全員が必死だということを全員が知っていたからだ。
「家にいると嫁さんと息子が怒るんです。『はよ会社行き!今やれることせんで、どうするの!』ってね。いい家族だと思いました(笑)」

師匠が教えてくれた、「エンジニアならペンを置いてはいけない」

ゼロからの設計では物理的に不可能なため、過去の実績があるモノで適合できるモノを総動員した。そして8月28日、関東の各地に電気を送るために1号機が働き始めた。その原動力となったのは、入社2年目に出会ったずっと年上の先輩、「師匠」からの教えだ。

火力プラントの基本設計は複雑だ。落雷などで発生する事故電流は何アンペアになり、その場合はどう遮断器を置くのか。すべて計算によって解を求めるのだが、計算は間違っていても解は出てしまう。1万アンペアのところを100アンペアと誤れば…即、停電だ。

「これ解らんのですけど…と聞きに行くと『こんなんも知らんのか!』と大声上げつつ、『どれどれ…』」と師匠はペンを取り出すんです。そして一緒に、最後まで計算に付き合ってくれた。どんな複雑な計算であっても、技術にゴールはない。だから自分たちエンジニアは、ペンを置いてはいけない。このことを身をもって教えてくれました」

松本氏は現在、来年夏の電力確保に向けた、新たな発電所づくりに奮闘する毎日を送っている。



謎を解け!亜鉛のみの自動車メーカー向け鋼板の「ストーリー」
――新日本製鉄株式会社

ブラジルの鋼板製造会社に赴任、「ドロス」との戦いが始まった


薄板事業部マネジャー
村山弘樹氏


「ウニガルの立ち上げに行ってこい」。入社10年目の1999年。薄板事業部マネジャーの村山弘樹氏は、そのひと言でブラジルに飛んだ。リオデジャネイロの北、約400キロ。イパチンガという町に新しくつくる溶融亜鉛めっき鋼板製造会社が「ウニガル」だった。そこに技術アドバイザーとして駐在したのだ。

このラインでつくるのは、主に欧州自動車メーカー向けの鋼板なのだが、その要求仕様は日本の自動車メーカーの薄いめっき+塗装によって完全に防錆処理するのではなく、純粋な亜鉛のみの厚いめっき。
「これはうちにとってあまり経験のないプロセス。しかも、現地採用の社員たちは素人ばかり。おまけに、日本のような支援体制なしで孤立無援。おそるおそるラインを動かしてみて…天を仰ぎました」

 出てきた板の表面は「ドロス」と呼ぶツブツブだらけで、とても自動車のボディーに使える代物ではなかった。国内のラインと同じ条件でコントロールしたはずだったが、いくら試してもドロスは「悪魔」のように顔を出す。

村山氏は自分で観察し、試験し、必死になって考えた。孤独な戦いが始まり、自動車メーカーは出荷を迫ったが、一度うまくいっても安定しない。村山氏は思った。
「ストーリーが違っていたのか?枝と考えた因子が、実は幹なのか?」

ストーリーを描け!悪魔の素顔は「時間遅れ」だった



以前、村山氏が亜鉛めっき鋼板の製造プロセス改善を任されたときに、こんなことがあった。試験計画書を出した彼を、腕組みしながら室長がニラんだというのだ。
「何のためにやるんだ?この試験をしたらどうなるか図に描いてみろ」
「それが解らないから試験したいと…」
「バカ野郎!」と室長は怒鳴り、こう続けた。

「ストーリーを描け。俺たちは試験する前に結果が解ってなきゃいかんのだ。こうなったら、こうなるはずだってな」
揺るがない原理・原則を導き出すため、因子に分解、検証してゆく仮説思考。何が幹で何が枝葉か? 村山氏はそのとき、自分は現象だけを見る観察者に過ぎなかったと悟ったという。

そして1年も経ったころ、悪魔の素顔がようやく見えてきた。それは「時間遅れ」だった。溶けた亜鉛にはアルミや鉄など不純物が含まれる。温度条件を変えるとこれらの状態が変わるのだが、それは即座にではなく、数時間後にゆっくりと悪さをし始める。つまり、ある一点の条件だけでは結果が予測できないのだ。

「『見えた!』と思いました。8時間前、4時間前、そして最終的な条件。時間を逆算しながら条件を設定すると、何度くり返しても近い結果が出たのです。まさに『Maravihosa!』(最高だぜ)でした(笑)」
自信こそ自分の成長。そして、それは自分で考え、結果を出した数に比例すると村山氏は確信している。

『モノづくりエンジニアの魂が、現場を熱くする <後編>』
 は3月7日(水)に掲載予定です。お楽しみに!

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