超こだわりの“一筋メーカー”探訪記 この分野なら任せなさい! |
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鰹節一筋313年!
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安定した鰹節をつくりたいと、孤軍奮闘したエンジニア
人間と同じようにして生まれる「世界で最も硬い食品」
本枯節の鰹節、削り節は「かつおぶし フレッシュパック ソフト」のもの
「カビは甘やかすとダメ。例えば、糖分を加えると生育はよくなるのですが、それが鰹節本体につながらない。楽をさせるといい結果は出ない。ですが、条件を厳しくしすぎてもいい鰹節にならない。人間と同じですね(笑)」
ここでいうカビとは「本枯節」(ほんかれぶし)をつくる際に使われる菌だ。鰹節の製造工程を簡単に説明すると、1「生切り」(解凍したカツオを3枚に卸す)、2「籠立て」(煮熟用に煮籠に並べる)、3「煮熟」(湯で煮る)、4「骨抜き」(冷まして骨を抜く)、5「水抜き焙乾」(薪を燃やして燻して乾かす)、6「修繕」(損傷した部分を修繕する)、7「間歇焙乾」(焙乾を繰り返す)。ここで出来上がるのが「荒節」(あらぶし)という鰹節で、8「削り」(表面の燻煙成分と脂肪分を削る)を終えると「裸節」となる。次の9「カビつけ」で使うのが冒頭のカビである。
「裸節にカビ菌をつけて、温度と湿度を調整した室(むろ)に入れます。1番カビが生えたら日で干して(日乾)、カビを少し払い、カビの根っこの部分を残して室に戻す。するとカビは生き残るために水分を吸収して、節が乾燥していくのです。同じ作業で2番カビ、日乾、3番カビ、日乾と続けますが、徐々に室内の温度や湿度を低くして、条件を厳しくしていきます」
2番カビまでつけたものが「枯節」(かれぶし)、4番カビ以上をつけたものが「本枯節」。本枯節は鰹節の最高級品であり、完成までに4〜6カ月がかかるという。また、生のカツオと比べて重さは約6分の1、水分は約15%となり、「世界で最も硬い食品」と言われる。
カビを調査し、同定し、数少ない研究者へと通う毎日
株式会社にんべん |
荻野目氏は大学卒業後の1974年ににんべんに入社、研究開発部に配属された。食品衛生のための細菌検査などを行う中、独自に鰹節用のカビの研究を始める。その後、「カビ菌の研究がしたい」と役員に頼み込んで、1977年から業務としての研究となった。 そこで荻野目氏は関連する論文を読むことから始め、数少ない研究者を探した。一方では菌の特許を調査した。全国各地の節業者を探して、許可を得て、その詳細を顕微鏡で調べるためだ。鰹節のおもな産地は静岡の伊豆や焼津、鹿児島の枕崎なので、これらの地域から100本以上の本枯節を集めたという。 |
念願の特許取得、手探りの大量培養化、魚質へのこだわり
日本酒や醤油を例に大量培養化、職人に聞いて条件を設定
ただ、同じ菌種でも性質は違ってくる。生えるスピードは速くても色がよくない、スピードは遅くても香りがよいなど、さまざまな特性が出てくるという。スピードが速く、色がよく、香りがよく、「ビロード状」に緻密に生える菌株がベストというが、もちろん簡単には見つからない。 |
鰹節優良カビの菌の拡大写真(左上) 鰹節優良カビの元になる菌(斜面培地の中に保存用の菌株がある) |
原材料はカツオ100%、だから「魚質」のぶれをなくしたい
節の日乾工程 カツオと本枯鰹節の差 |
先の9種類の菌は焼津、高知、枕崎など産地が分かれるのだが、各土地で気候が異なるため、それぞれに室の設定を調整した。また、同じ条件にしても夏と冬では生え方が違う、室内の場所により温度や湿度で差が出るなど、苦労は絶えなかったという。 昔のカツオ漁は一本釣りだったが、徐々に巻網漁が増えてきた。魚網で魚群を取り巻く巻網漁では一度に多くが獲れるが、その後の凍結や解凍に時間がかかるため鮮度が落ちやすい。一本釣りではすぐに凍結室に入れるため、魚の細胞が密にしまっているという。荻野目氏や同社の研究開発部は、解凍条件などを大学と共同研究しており、菌の品質維持にも取り組んでいる。 |
鰹節の看板は本枯節、家族のために週末にまとめて削る
やはり鰹節が好き、刃の加減で削り節の厚みを調整できる
鰹節を削った跡
3月1日発売予定の「わが家のだし」「うどんつゆ」「うどんだし」(左から)
荻野目氏は2002年から「鰹節とだし」について講演会を実施している。対象は幼稚園児、小学生から栄養士、社会人までさまざまだが、そんな食育の場で「本当に鰹節が好きなんですね」と子供や栄養士に言われるそうだ。もちろん、その通りである。
「カツオの油は生臭いですが、カビを培地につけると甘い香りになります。裸節にカビをつけてもそうですし、何といっても、鰹節の看板である本枯節を削った香りはたまりませんね」
その鰹節、以前は各家庭で削っていたものだが、現在では窒素ガス置換包装したパックの削り節が主流だ。液体「だし」の市場も拡大しているという。もちろん荻野目氏は、自分で鰹節を削る。
「週末の朝にまとめて削ります。女房と子供が二人いるので、20〜30gですね。香りづけやトッピングによく使います。削るときは刃先を自分に向けて、紙一枚入るくらいに刃を出します。尾の部分を先にして、頭を自分に向けて、こうです。慣れてくると力の入れ方で削り節の厚みを調整できます。刃の出具合が体でわかるようになりますから」
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