• はてなブックマークに追加
  • Yahoo!ブックマークに登録
次世代のハイブリッド変速機開発に本格始動――
アイシン精機が仕掛けるハイブリッド標準装備時代とは
ハイブリッドがクルマのデファクトになる!?――自動車部品大手メーカーのアイシン精機が、ハイブリッドカー開発を目指す自動車メーカー向けに、ハイブリッド変速機をパッケージソリューションとして提供すべく動き出した。その最前線の今をリポート。
(取材・文/井元康一郎 総研スタッフ/宮みゆき 撮影/伊藤ユリ)作成日:11.12.28
ハイブリッド標準装備時代が来る
戸嶋 裕基氏
パワートレインシステム開発部 部長
戸嶋 裕基氏

 97年にトヨタ自動車が初代「プリウス」を発売してから14年が経った今日、エンジンと電気モーターを併用して走るハイブリッドカーは、クルマのエネルギー消費を削減するソリューション技術のメインストリームとなった。そのハイブリッド開発競争に新たに名乗りを上げているのが、クルマ用の変速機づくりを得意とする自動車部品メーカーの世界大手、アイシン精機だ。

「アイシングループにとって、変速機を中心としたドライブトレイン事業は売り上げ全体の約4割を占める重要なビジネスです。しかし、今後は単に性能の良い変速機をつくるというだけでは、アイシングループの存在感を示すことはできなくなる」
 と、ハイブリッドシステムの先行開発の責任者を務める戸嶋裕基氏は語る。

「今日の時点では、ハイブリッドカーはまだまだクルマ全体の中では少数派です。が、ハイブリッドはプリウスのように強力なモーターを積んだストロングハイブリッドだけではありません。インサイトハイブリッドカーのように小さなモーターでエンジンをアシストするマイルドハイブリッド、さらにクルマの減速エネルギーで発電し、その電力でクルマの電装品を動かすマイクロハイブリッドもある。それらをトータルで見ると、今後10年の間にはハイブリッドがデファクトスタンダードになる時代が来てもおかしくないという状況なんです」

 変速機はクルマにとって重要な部品だが、ハイブリッド技術がクルマに組み入れられるのが当たり前という時代が来れば、クルマを動かすパワートレイン全体の中で変速機の重要性は相対的に小さくなる。
「パワートレインに関するモノ、エンジン以外は何でもやるのがアイシン精機のモットーですが、ハイブリッドに関しては正直遅れていました。独自のハイブリッド変速機をつくって世界の自動車メーカーが手軽にハイブリッドカーをつくれるためのソリューションを提供できるようになることは、まさにパワートレインのエキスパートである我々がやるべきこと。それで今、開発を加速させているのです」

 通常ハイブリッドカーといえば、カーメーカーが主導的に開発するケースが多く、仕様もクルマごとの専用設計色が濃い。それに対してアイシン精機は、どのメーカーのクルマでも「これをつけてチューニングすればハイブリッドになる」という戦略なのだ。

次世代ハイブリッドの研究開発がはじまっている

 これまでも、アイシングループ全体で見ればハイブリッドシステムの開発、販売はおこなわれてきた。子会社のアイシンAWは、プリウスのものに近い構造を持つストロングハイブリッドユニットをフォードに、また8速ATにモーターひとつを組み込んだシステムをフォルクスワーゲンに――と、いくつかの実績がある。が、
「ライバル企業のハイブリッド技術もどんどん上がっている中でアイシン精機が勝っていくためには、従来品より良いハイブリッド変速機を開発する必要があると感じています」

 12月に行われた東京モーターショーでアイシン精機は新型のトラック向けハイブリッドトランスミッションを参考出品した。搭載される車種やメーカーは明らかにされなかったが、近々には市場に投入されるとの事だ。これはアイシン精機がオリジナルで企画を立上げ、ハイブリッドモータを代表とする様々なハイブリッド技術を自ら地道に技術を積み上げ、カーメーカーの採用に至ったという。が、これはアイシン精機のハイブリッド戦略の序章にすぎない。現在は、新たな開発を精力的に進めている模様。

 アイシン精機は豊田市北方の山中に、独自のテストコースを保有している。自動車部品が主体で車体メーカーではないため、自分でクルマをつくることはない。が、もともと変速機やサスペンション部品など、クルマの走りに関わる重要部品を良いものに仕上げるためには、実験車による走行テストを通じた膨大なデータ取りが欠かせない。次世代のハイブリッド変速機開発もこのテストコースを最大限活用し、車を自ら走らせ、開発は進めらるとのこと。

「クルマづくりで表に出るのはカーメーカーですが、研究開発の面白みを感じられるのは、むしろ部品メーカーのほうなんじゃないかと思います。新技術を企画し、そして実験車をつくり、走り込む。これは行ける、となったら、今度はカーメーカーにプレゼンです。採用された時の喜びは、部品メーカーならでは。技術革新の主役になれるのですから」

機械、電気、ソフトウェア……多岐に渡る人材ニーズ

 ハイブリッド変速機づくりとひと口に言っても、その仕事の中身は多彩でレベルも高いものだ。従来の自動変速機とモーター付きのハイブリッド変速機では、エンジンと変速機をどう接続すれば効率や操作性が良くなるかが異なる。その最適解は一つではなく、大型か小型か、乗用車か商用車か、また乗用車の中でもエコカーかスポーツカーか…と、用途によって答えはまちまちだ。その特性が分かっていないと、商品企画自体が的はずれになってしまう。

「アセンブリーされる部品も違ってくる。エンジンをアシストする電気モーターや、そのモーターを制御するパワーコントロールユニット(PCU)、強力な電力をやり取りするためのケーブル、各部の情報をECUに伝える車内の有線・無線通信装置など、品目は格段に増えます。しかも、それらの要素技術一つひとつについてイノベーションが要求されるのも、日進月歩の商品であるクルマ関連の特徴なんです。すべての部分について、日々がチャレンジの連続で、ここは放っておいてもいいなんてところはありません」

 例えばモーター。低コスト化、軽量化のため、自動車用モーターは常に小型化、簡素化が求められる。現行のハイブリッドカーもモーターの大きさは極めてコンパクトだが、強力なものでは最高出力100kW超級と、電車を走らせることができるのではないかというパワーだ。

 アイシン精機の生産技術部門は補機用モーターをコンパクトにつくる方法を考案した。
「モーターが大きい原因の一つに、内部の隙間が多いということがあるんです。磁性体を樹脂でつくれたら複雑な形に成型できて無駄スペースを削れると思い立ちました。当時は強力なネオジム磁石を樹脂でつくるというのは非常識だと考えられていましたが、モノは試しといろいろ試しているうちに実物ができてしまったんです。性能自体は低いものの、ダメというわけではないということがわかり、磁石の性能を上げる工夫をして、最終的には実用にこぎつけることができました」
と、アイシン精機の生産技術関係者はこう語る。今後もモーターの構造、製法を進化させる余地は、探せばたくさんあり、将来的にはハイブリッドカー用モーターへの技術転用もありそうだという。

 PCUの設計も競争力向上のために力を入れているジャンルだ。アイシン精機の筆頭株主であるトヨタ自動車は、ハイブリッドカーの性能のカギを握るソフトを構築済みだが、アイシン精機もオリジナルソフトの開発を手がけているという。

「制御は最も大事な部分。例えば回生ブレーキで減速エネルギーを何キロジュール回収できて、その内どれくらいを発進加速のアシストに使うかなどと考えるのですが、一般公道でいろいろな使い方をされるハイブリッドカーはそのパラメーターが実に多い。しかし、そこを頑張ってリファインしていけば本当にいいものになる。また、ハードウェアをどれだけ軽量、コンパクトで熱への耐性も高くつくるかという挑戦もある。次世代材料であるSiC(シリコンカーバイド)がPCUのパワー半導体に使われる時代も意外に早く来るような勢いですし、基板の高密度実装もますます丁寧にやらなければ」

 アイシン精機はハイブリッド変速機を、世界中の自動車メーカーに売れるものに仕立てたいと考えている。競争力の高いハイブリッド変速機をつくるためには、エンジニアは日々、最新の技術情報に接し、トレンドを読みながら仕様を考えていく必要があるのだ。難しいがクリエイティブな仕事である。

技術をとことん極めたくなるエンジニアがハイブリッド開発に向く

 アイシン精機のパワートレインの先行開発部署は、先行開発が終わると次の先行開発に……というのではなく、チームごと量産開発部署に異動させ開発を続けて行うという。「カーメーカーを通じて技術が直接世の中に出て評価される量産までをやらせて、担当したエンジニアに陽の目を見せたい」という戸嶋氏の思いからそうしているのだという。

 そのハイブリッド開発にはどのようなエンジニアが向くのか。戸嶋氏は「クルマに興味がないと辛く感じられるかも」と前置きしながらも、「技術のテーマを見つけて、それをとことん極めるという気持ちがある人だったらいくらでもやれると思う」と言う。
「クルマが好きであることはモチベーションの上では間違いなくプラスなんですが、それでも中途半端に技術論を語るだけという人は、実はあまりこの仕事に向いていません。私の部署にいるエンジニアの中には、クルマに惚れ込んでいるというタイプではないんですが、モーターについての情熱がすごくて、語り始めると一晩止まらないくらい。磁気・電気、コイルなどをトータルで大変優れた設計をしてくれる人もいます」

 もちろんクルマが好きなエンジニアの割合は、自動車部品だけに圧倒的に高い。もともと世界の自動車メーカーと取引があるため、テスト用車両として世界中の車も多数保有しているという。
「制御系の人はクルマ好きが多いですね。クルマをどう走らせるかというのは、極端な話、制御次第。アクチュエーターの動きや電気駆動の制御を全部知ったうえで実車の動きを見ると、技術的にも味付け的にもとても深い考察が出てくる」
 アイシン精機は今、次世代のハイブリッド技術開発に携わる技術陣をさらに増強しようとしている。

「我々はエンジンとバッテリー以外のことは全部自前でやれるようになりたいと思っています。電気から機械まで、すべての部分の要素技術に秀でることに加え、商品をトータルデザインする力でもナンバーワンを目指す。それができれば低コストで押してくる新興国メーカーに負けはしないし、我々は世界のトップランナーの一社としてきちんと生きていける。興味のあるエンジニアの方は、ぜひこの世界を覗いてみてほしい」

 新たなステージに入ったばかりのアイシン精機のハイブリッド戦略。その世界は電気・電子系、機械系などからソフトウェアまで、多くのエンジニアを吸引するだけの魅力にあふれたもののようだ。

パワートレインシステム開発部 部長  戸嶋 裕基氏

1984年入社、オートマチックトランスミッションの開発・設計に携わる。2008年第1開発部部長、2009年HVシステム開発部部長、2011年より現所属へ。

  • はてなブックマークに追加
  • Yahoo!ブックマークに登録

このレポートに関連する企業情報です

自動車関連/走行系(サスペンション、ステアリング等)・駆動系(オートマチックトランスミッション等)・機関系(VVT、オイルポンプ等)・車体系(パワースライドドアシステム、ドアロック、シート等)・情報系(インテリジェントパーキングアシストシステム等)など約1万点  住生活関連/シャワートイレなど  エネ…続きを見る

あなたを求める企業がある!
まずはリクナビNEXTの「スカウト」でチャンスを掴もう!
スカウトに登録する

このレポートの連載バックナンバー

人気企業の採用実態

あの人気企業はいま、どんな採用活動を行っているのか。大量採用?厳選採用?社長の狙い、社員の思いは?Tech総研が独自に取材、気になる実態を徹底レポート。

人気企業の採用実態

このレポートを読んだあなたにオススメします

新材料、新工法、新構造etc.技術開発に拡大するサイマル活動

クルマの技術革新を創るアイシン精機の生産技術とは

人気企業の採用実態研究開発に比べると地味なイメージを持たれがちな生産技術。だが実は、生産技術が世界を変えるイノベーション創出の担い手だったりする…

クルマの技術革新を創るアイシン精機の生産技術とは

燃料電池車、電気自動車、水素ロータリーなど環境技術が目前

東京モーターショー2005★開発エンジニアを生取材!

世界の自動車メーカーが一同に会し、もてる技術やアイデアを存分にアピールするモーターショー。 すぐにでも登場しそうな参考出品車から…

東京モーターショー2005★開発エンジニアを生取材!

週刊 やっぱりR&D 求人トレンド解析室

ハイブリッドカー/人材ニーズが急増中の身近な技術

求人トレンド解析室電気モーターと従来型のエンジンを組み合わせて走る、ハイブリッドカー。通常の乗用車タイプに加えて、最近ではトラックや最高…

ハイブリッドカー/人材ニーズが急増中の身近な技術

“環境技術”と“新興国向け”を加速させよ

2010年予測!日本の自動車・家電は再生するのか?

戦後から一貫して日本経済をリードしてきた家電と自動車が、昨年からの大不況にあえいでいる。エコカー減税やエコポイントに支えられて各…

2010年予測!日本の自動車・家電は再生するのか?

自動車エレクトロニクスの常識を変える〜異業界エンジニアも歓迎

次世代環境対応車を創る!デンソー技術者採用の舞台裏

人気企業の採用実態自動車部品サプライヤー業界における圧倒的なシェアとブランド力を誇るデンソー。環境負荷の少ない次世代の車づくりに向け、パワーエレク…

次世代環境対応車を創る!デンソー技術者採用の舞台裏

こんな時代に人事が欲しがる

年収1000万円超プレイヤーの自己投資術

不景気だから年収が下がるのは当たり前、と思ってはいませんか? 世の中には、こんな時代でも年収が上がり続ける「不況知らず…

年収1000万円超プレイヤーの自己投資術

この記事どうだった?

あなたのメッセージがTech総研に載るかも

あなたの評価は?をクリック!(必須)

あなたのご意見お待ちしております

こちらもお答えください!(必須)

歳(半角数字)
(全角6文字まで)
  • RSS配信
  • twitter Tech総研公式アカウント
  • スカウト登録でオファーを待とう!
スマートグリッド、EV/HV、半導体、太陽電池、環境・エネルギー…電気・電子技術者向け特設サイト

PAGE TOP